3.リベリィ 下
「アンダーズ二体での同時攻撃、いや挟撃って感じか」
なるほどね、アンダーズには知恵が備わっているそんな所か。
だとしたら敵の作戦勝ち。
初動は陸艦から少し離れた場所に姿を出しリベリィを誘導した。
そしてほぼ戦力を失った陸艦を強襲、そして同時に忌まわしいリベリィ共を根絶やしにする。
「嫌だぁあぁああ!!! 母さん!!!!」
また一人。
リベリィがこの世を後にした。
展開したバリアを貫通し一撃で葬った。
撃ち込まれたビームが強いのか、はたまた。
「おい! 何処に行く気だ」
俺はさっき来た道を急いで戻ろうとする二人を呼び止めた。
詳しくはないが、ブレイカーの魔力供給は終わっていない。終わっているならすぐにでも向かうはずというか俺と同じ場所に立っていないだろう。
「けどこのままじゃ!」
「そうだ! この艦を守るくらいには・・・!」
「守ったら、勝てるのか?」
「「・・・・・・」」
反論が一切無い。
つまりはそうゆう事だ。
もしかしたら援軍が到着するかも知れない。確かに可能性はある。
それまでにこの艦に何人の人間が残っているのか。
この二人は今と同じように立っていられるのだろうか。
「悪い事は言わない、ここは・・・」
「駄目なんですよ!!」
あ?
駄目って何が。ダッドが大声を上げた。
「自分達はリベリィなんです!!! 力を持たない人達、みんなを守らないといけないんです!!」
「・・・っ」
今にも泣き崩れそうに訴えるダッド。
黙り込み自分の手を強く握り締め唇を噛み続けるムー。
二人とも全く違う反応。そう見える。
だが本質的な部分はきっと同じだとわかった。
恐怖。
それはきっと俺にはわからない物だ。
アンダーズと戦う恐怖はもちろん。だが二人にはその先に待ち受けるモノにも恐怖を感じている。
そんな気がした。
「行くよ、ダードー。リュールジスさんは早く非難を・・・お願い」
「リュールジスさん・・・怒鳴ってしまい・・・ごめんなさい」
二人は決意を固めたのか、すぐさま俺に背を向け走り去っていった。
俺はただそれを見送る事しか出来ないでいた。
「・・・まただ」
この感覚。
俺が無知なばっかりに生じる感情。
言葉に表せない気持ち。強いて言うなら。
「また俺は・・・取り残されている」
特製の革手袋を付けている左手を見る。
感じる。
今にも暴れたい。
これは制御云々の話じゃない。
ただ純粋に俺の本心を代弁してくれているかのように猛り狂っている。
眼前の敵全てを砕き散らせたい。
それで全てが解決するなら・・・。
昔から・・・ずっとそう・・・願っているのに。
「そこにいる奴!! さっさと避難しろ! 邪魔だ!!」
軍人が俺を見て退けるように指示を出した。
そうだな。
そう・・・しよう。
「あぁぁ! こんなはずじゃ・・・」
「貴様! 逃げるのか!! 学導院に・・・」
「うあぁああああああああああああああ!!!!!」
また一人。
また、人が死んだ。
「アンダーズ二体がなんだというんだ!!」
共に出撃したリベリィは残す事、リッターのみになった。
リッターは再びストックを掲げる。いつも以上に気合いを入れ詠唱を唱えた。
「純然な光源!!!」
さっきまで虫のように飛びまわっていたエア型が次々とリッターを囲うように集まっている。
まるで餌を今か今かと待ち侘びているように。
「ライトレイシュゥゥウータァアアー!!!!」
リッターの声は・・・ただこだまし、消えていくだけだった。
「何故・・・ライトレイシューター!!ライトレイシューター!!ライトレイシューター!!」
何度唱えてもストックからはあの大きな光弾は姿を現す事は無かった。
「何で!?どうして!! 私は! 私はリッターだぞ!! 出ろ!!出ろ!!出・・・」
リッターは悟った。自らの過ちに。
単純明快は話しだ。
「魔力・・・切れ・・・」
自らの大技である魔術をこれ見よがしに乱発した。当然の結果である。
彼もその為に、予備のブレイカーを用意していたという。
「ぁ・・・ぁあ・・・っ!!?」
まるでリッターの顔を覗き込んでいるかのようにアンダーズが姿を見せつけた。
手を伸ばせば触れてしまうほどの距離。
ついさっきまでスコア稼ぎのエア型と豪語していた。そんな彼の周りには次々とエア型のアンダーズが集まり近付いてくる。
「違・・・私は・・・私は・・・!」
グチャッ・・・。
「あぁあぁああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
リッターの悲鳴が合図になったのか。
次々とエア型のアンダーズが押し寄せる。砂糖に群がる蟻の如く。
グチャグチャと音を立てながら。
リッターの意識の有無は関係無く・・・。
人の姿形が消えさるまで・・・。
リッター率いるリベリィ小隊の全滅。
だがアンダーズの戦いは休む暇も無く、次の標的へ向け動き出した。
「全速前進!! 振り切れ!! 弾薬を惜しむな!!!」
陸艦が最大出力で新しく出現したアンダーズから振り切ろうと大地を駆ける。
プラント型である本体とは同じ速度のようにも感じる。
だがプラント型のアンダーズは、本体だけでは無い。
「エア型に取り付かれました!! 後方8時の方角!!」
「急速回頭!!迎撃用意!!」
「間に合いません!!!」
エア型一体のビームが陸艦に直撃する。
今までに無いほど衝撃が陸艦を襲う。当然それだけに留まらず、距離を詰め切ったエア型は旋回しつつ一撃を与えた同じ箇所に何度もビームを撃ち込んでいる。
「出力減衰! 艦長このままでは!!」
「諦めるな! 速度維持に努めろ! ここで止まったらそれこそ終わりだ!! リベリィ小隊との連絡は!?」
「以前音信不通・・・まさかだと思いますが」
本体は自分達が叩くと伝令したリベリィとの連絡が取れない。
ブリッジにいる者全員はそれを口にしなかった。
それを、口にしてしまったら本当に全てがおしまいだと誰もが思っているか。
「12時方向正面多数!!」
砲撃と銃撃でエア型を撃退している中一体のエア型が陸艦正面のブリッジ目掛けて突撃してきた。
「弾幕・・・抜けられる、艦長!!!」
ブリッジに居た者全員が終わりを覚悟した瞬間だった。
「うおぉぉおぉぉぉぉおぉおお!!!!!!」
一人の大男がブリッジとエア型の間に割って入った。
本の一瞬、間一髪の出来事だった。
「このぉぉおぉぉぉぉお!!!」
雄叫びと共に受け止めたエア型薙ぎ払い撃退したのは。
「ぉぉお!! リベリィ!!!」
ブレイアーを装着し通常よりも大きなストックを手に持つリベリィ。
ブリッジの危機を救ったのはダードーだった。
「間に合っ・・はぁ・・よか・・です!!」
「こちらユース・ムイエヌ。後方に取り付いていたエア型は僕の方で撃退完了、迎撃体勢の整え願います」
「す、すまない。助かった! 我々の希望は死んでおらぬ!! 今一度体勢を立て直せ!」
「「「「りょ、了解!!!!」」」」
ダードーとムイエヌの二人が姿を見せたことで落ちかけた士気が戻る。
今もまだアンダーズは襲いかかってきている。
それでもここにいる者達は希望を捨てていなかった。
「ダッド、何分動ける?」
「5分・・・いや、8分持たせるよムー」
何故か二人はリュールジスが勝手に付けた名前で呼び合っていた。
痩せ我慢にも笑みを浮かべながらも二人はアンダーズに対峙していた。
「絶対に守り通そう」
「ん。絶対に」
二人の想いは一緒だった。
「うおぉぉおおおぉぉお!!!!」
陸艦正面にはエア型の大群が押し寄せていった。メインデッキの先端でダッドは獣の如く雄叫びを上げ魔力と力を込めた。
キィイィンッ!!!キィイィンッ!!!キィイィンッ!!!
ダッドの存在に呼応したのかのように無数のビームが陸艦目掛けて放たれた。
「ぐおぉおぉぉおおお!!!!」
ダッドの持つ大型ストックが光り輝く。
それと同時に陸艦前方全てを覆う程の巨大なバリアが形成された。
エア型からのビームはダッドの力で全て弾き飛ばし、そのまま速度を落とさずに飛び込んでくるエア型を次々と食い止め撃墜していった。
「ぐぅぅ!!! すまん何体か抜けた!!」
「問題ないよ!」
ブリッジ上、陸艦の一番高い場所にムーは位置取りをしていた。
身の丈よりも長いストックをスナイパーライフルのように構える。
「っ!!」
狙いを定めた瞬間魔力を込め光弾を撃ち込む。全滅したリベリィ達が扱う物よりも圧倒的に違う物。
鋭く細く、それでいて硬さを感じられる光弾。大口径の弾丸に似た特性を持つ光弾を撃ち込む狙撃だ。
「次!」
次々と正確にダッドが逃したエア型を撃ち抜いていく。
素早く。
目線は撃った後の敵へ。
冷静に、一寸の狂い無く、ムーは陸艦にエア型を近付けさせなかった。
「ダッド、まだまだ余裕あるよ。こっちに回して温存していいよ」
「何のまだまだ!! こっちだってやれるぅぅううう!!!!」
ダッドは言葉通り展開形成しているバリアを更に広く、更に強固にしていった。
ムーもそれに負けまいと更に遠くのエア型を狙撃し続ける。
一転攻勢。
リベリィ二人とアンダーズ二体の攻防。
不思議とエア型の勢いも徐々に減っていっているようにも感じていた。
リベリィ側が推している。
もしかしたら・・・もしかしたら・・・。
誰もがそう思い始めた。
二体目の出現で絶望しきっていた戦況を二人のリベリィの登場で戦えると知った。
一切見えなかった勝利に、手が届くかもしれないと・・・。
「艦長!! 後方魔力エンジンで異常発生、火災が更に広まっています!」
「何!?」
誰もが希望の糸を手にしようとした瞬間だった。
ダッドとムーが現る前に受けたのが直撃だった。
全速力で移動を行っている陸艦にとっての痛恨の一撃だった。
「速度低下! 止まりません!!」
「手の空いてる乗組員総出で消化作業に当たれ!」
「駄目です!! 魔力エンジンが半暴走状態、このままでは爆発します!!」
火災を止め切ったとしてもエンジンが暴走し爆発してしまっては、アンダーズどころの話しではない。
最悪・・・自滅だ。
「爆発推定時間は?」
「え・・、大よそ3分」
「市民の避難は完了しているな?」
ブリッジの人間全員が艦長が行おうとしている事に感付いた。
誰もが口を開く事を躊躇っていた。
「ユース・ダードー。ユース・ムイエヌ。ユースの身ながらよくここまで耐え抜いてくれた」
「艦長・・・」
「・・・・・・」
二人はまだ戦えるそう投げ掛けたい。
だが二人が誰よりも一番にこの状況を理解していた。
自分達二人だけでは、アンダーズを撃退するまでには至らない事を。
敵の動きが緩まったのはこれが原因か、と。
陸艦はこれから・・・特攻仕掛ける可能性があると。
「これより、本艦は乗員が退艦後・・・正面アンダーズへ目掛け・・・」
艦長が指示出しをしようとした瞬間だった。
「伝達!! 後方エンジンが・・・停止しました」
「なんだとっ!!!?」
「そ、それと・・・」
「今度はなんだ!!?」
次々と起きる問題に怒りを覚えてしまった艦長。
これ以上自分達に不運が付き纏うのかとガンッと台を叩く。
「それが・・・メインデッキのエレベーターが・・・作動しています!!」
ブレイカーの供給ハンガーからメインデッキへと続くエレベーターが再び動き出した。
それは外にいるダッドとムーも確認していた。
一体何が起きているのか。
二人は徐々に動くエレベーターに目線を奪われていた。
極限状態に近い二人には目の離せない事態だった。
そんな事など構う事無く、人影が姿を現した。
その姿にリベリィ二人は驚愕した。
エレベーターの中央で一人腕を組み仁王立ちをしている男。
「待たせたな」
ブレイカーを装着しているリュールジスだった。