36.希望ノ力
「ムー!!」
「わかってる!!」
待ってましたと言わんばかりにムーの地面に魔方陣が出現した。
連動しているキメラユニットの砲身が展開され出力を上げつつその時を待つ。
そしてムーが引き金を引いた瞬間、轟音と共に一閃の光がマザーコア向けて撃ち込まれた。
ムーの狙いは完璧だった、マザーコアのド真ん中に吸い込まれるように一直線に向かったが。
「バリア・・嘘!?」
「でも今のでバリアは無くなった!! 私が・・・。っ!!!」
反撃と言わんばかりにマザーコアが回転しながら乱雑にビームを撃ち続けた。
飛び込もうとしたマイスター・アーシャはすぐに防御態勢に入り、全員がすぐさまバリアを展開し攻撃を防ぐ。
最後の悪足掻きって奴だ。さっさと大人しくやられろっての・・・。
「逃げる・・・!」
プンがマザーコアの動きを察知した。
ゆっくりマザーコアが上空へ移動を開始した。当然俺達への攻撃は続けながら、俺達をここへ足止めしながら逃げるつもりかあの野郎!!
「まずい、このまま逃がしたら!!」
「俺が行く!!」
左手にストックを持ち右手を前に出しバリアを展開しながら飛び上がる。
完全にマザーコアは王城よりも高い位置まで上り詰めていた。それでもまだその上昇を止める気配が無い。
それどころか的が追い掛ける俺だけになったからか、雨のように降り続けるビームを防ぐのに俺の上昇速度が上がらない。
今度こそ左腕の力は使う。だが下手に外せない、一撃で仕留める為にももっと接近しなくてはいけない。
もっと高く、もっと速く、もっと力を入れなくてはいけない。
だがそうしたら。
ブレイカー・・・。
『ブレイカーが・・・ブレイカーが完成すれば・・・!』
あの時のアイツの言葉が、頭に過ぎる。
そうだ・・・そうだよな。
もう昔と今とでは違う。
なかった物が今はあるんだ。今ここにあるんだよ、お前ここにいるんだよ!
「お前は希望なんだろ!!?」
特注品のブレイカーだろうとなんだろうと関係ない。
お前は人類の希望、あの時俺に、"俺達"に無い力を与えてくれるんだろ!
「だった見せてみろよ!!!!!!!」
俺のありとあらゆる魔力を全てブレイカーに注ぎ込み、出力を限界にまで高めた・・・。
その瞬間、俺の目の前に魔方陣が展開された。
― イノセンジーナス フルドライブ ―
まるでブレイカーが俺の言葉に答えたようだった。
笑みを浮かべずにはいられなかった。
目の前に展開した魔方陣を潜り抜けた瞬間、ブレイカーの装甲が剥がれ落ち、装甲があった部分がスライド変形し光り輝き始め出力が桁外れに上昇した。
上昇スピードがとてつもない。いや今まで気遣って出せなかった速度だ。
そしてバリヤも、もはや右手を前に出す必要すらない程、速度を出す為のバリアのみで全ての攻撃を弾き防げる。
「やれば・・・できんじゃねーかよ!」
もはや心配なんていらない、むしろ俺の背中を大きく押されたような、高揚感って奴を俺は感じている。
俺の為に作られたブレイカー。
そして俺の為に調整されたストック。
ストックを両手に持ちもう抑える必要のない魔力を注ぎこむ。
物体として形作った鋒は要らない。
「追い付いたぞ? あぁん!!?」
意味も無く笑みを浮かべマザーコアにガン飛ばす。
なんだかマザーコアが俺を見て青ざめているようにも思える。
最後の抵抗と言わんばかりに上昇を止め無駄なビームを何発も何発も撃ち続けるが、一切俺へ届かない。
ストックを上空へ掲げる。
そして一気に魔力を解き放つと、鋒の無いストックに光り輝く"竜の片翼"が巨大な刃のような姿で出現した。
片翼は天空まで止まる事を知らず伸び続け、フリッズ王国を覆っていた黒い雲を吹き飛ばし、青い大空と眩しい光を俺に届けてくれた。
これ以上ない光景だ。
もう・・・終わりにしてやる。
「消えろや!!! ババアァァアアアアアーーッ!!!!」
最後の一振り。
これでアンティオキア作戦は・・・終わりを迎えたのだった。