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31.無情因果


 絶景。


 放たれた光の渦は、瞬く間に全てアンダーズに覆われていた黒く暗い光景を変化させたのだった。


 全ての人間は歓喜の声を上げ続けた。



「見たか!! これが人類の力だ!」


「やりましたね!! これで我々の勝利は目前です!」


「第二射準備開始! 一気に突撃を掛けるぞ! "コアリンク"の調子はどうかね」


「全て正常に稼働中です!」



 アンティオキア作戦の要の一撃が加えられたのだった。

 後方にて"コアリンク"と呼ばれるシステムを積んだ陸艦が待機し、前線には過去の遺物、そう呼ぶ者が増えるであろうリベリィを配置し前線を形成。敵アンダーズの注意を全てリベリィに向いた瞬間を狙いコアリンクを起動させ射程圏内へと移動を開始。


 そして敵であるアンダーズと似た巨大な照射砲撃を敵の中枢へ向けて放つ。


 これがアンティオキア作戦の本来の全容だった。

 前線の敵、多くのアンダーズを排除する事に大成功した。当然前線で奮闘している"リベリィを含めた"・・・。



「なんだ・・・これは・・・」



 一変した光景にシリヲンの表情は絶望へと変わった。

 目の前に広がった光の渦、それが終わったと思えばそこは地獄絵図と同等の者がシリヲンを刺激した。

 アーシャが補給に戻っている間、そのアーシャのポジションを出来るだけ自分が補おうと戦い続けていたシリヲン。一体一体丁寧にアンダーズを撃墜していたのにも関わらずその砲撃はその行為を笑うかのような物だった。


 そして何よりも・・・さっきまで自分の後ろから援護を続けていたリベリィ達が姿を消した事にシリヲンは言葉を失っていた。


 それだけでは無かった。巨大な砲撃一直線上に居たリベリィ、そしてその周囲に居た逃げ遅れたリベリィ達全てがたった一瞬で死を等しく与えたのだった。



「シリヲン!!」


「アーシャ・・・様」



 あまりの出来事に思考も身動きも止めていたシリヲンにアーシャは駆け寄った。

 正常に事態の把握が出来ないシリヲンに向けてアーシャは撤退の指示を出す。その指揮をシリヲンにやってもらう為に、アーシャは必至にシリヲンを冷静になるように呼びかける。



「誰がそのような許可を出した!!! 撤退など許されるはずがなかろう!!」



 耳に付けているインカムだけでは無く、大音量の声が今もなお戦場にいる者達全員の視線を向けさせた。

 後方で待機していたであろう艦隊が次々とその姿を現したのだった。自分達が知っている陸艦の姿、のはずが一部分だけが全ての艦にまるで象徴的にその存在を主張していた。


 誰もがその存在に驚愕した。誰もが理解したその存在に。



 そして誰もがその存在に、怒りを覚えた・・・!



「貴様等ぁああああ!!!!」


「シリヲン落ち着いて! ダメだ!!!」


「お前等か・・! お前等がぁあああ!!!」



 誰よりも怒りを爆発させたのはシリヲンだった。

 突然背後から現れた巨大な砲撃。その後を追うように姿を見せた陸艦。子供でもわかる図式に連合軍の将官達は隠すつもりも一切ない態度を取っていた。



「勧告は出したはずだが? どうやら敵のジャミング・・・でもされていたのかな? ふふふふ、はははははは!!!!」



 奪還作戦の真っ最中に男はただ笑い続けた。

 その行いにはどのような意味が込められているのか、考えたくも無かった。

 何故こんなことを始めたのか、何故こんな行いをするのか。誰もが思考を停止させたい想いで必死だった。



「さぁ、君達は早く前線ラインを上げたまえよ。敵はどうやらこちらの攻撃に恐怖を感じているようだしねぇ。さあ! 何をしている!! 貴様達は世界にその身を捧げたんだろう!!!?」




 准将の男の怒鳴り散らす言葉が全てのリベリィの心を震わせた。

 その言葉の通りだ、誰もがあんな奴に言われなくてもという思いでいっぱいだ。だが今この状況はなんだ? 疑問に思うのは当然だ。

 世界の為に戦うと決めた。なのにどうして味方である人類に背後から撃たれるなんて事が今まかり通っているんだ。 なんでこんな事になっているのか、みながその答えを求め始める。

 どうにかして気持ちを震え立たせ前を見つめようと立ち上がる者達。その目には自然と涙が垂れる者達が続出した。



『一体今、自分達は何と戦っているのだろう』



 決めた決意とは何なのか、それが揺らぎ始める音がひしひしと響き出していた・・・。



「引き続き戦います!! ですが、私達の作戦行動には口を挟まないで頂きたい! これ以上の介入は、作戦成功までの遅延行為だと改めて貰います!!!」


「ほぉー。補給戦での耐久戦術でしたっけね? 続行できるんですかね?そんな状況で」



 准将の言葉は正論だ。

 狙い澄ましたかのようにリベリィの半数が負傷、1/3が生死不明。こんな状況で作戦の継続なんて出来るはずも無い。誰もが撤退を余儀なくされる状況だと考える。これ以上戦えば当然被害が増える一方だと。



「もうあなた達が戦うには、私達の指揮下に入ってもらうしかない―――」



「三度目はありません。これ以上・・・」




 殺意がアーシャの全身に纏わり付いた。




「余計な真似すんなぁああぁあ!!!!!」




 魔力で増強させたのか、それともアーシャの本来の肉声だったのか定かではない。

 アーシャの言葉、そのドスのきいた声は外にいる者達のみならず艦で座っている者、後方から姿を見せた陸艦の面々含めた全ての人間を震撼させた。地響きでも起きたような錯覚を覚える程に。



 ある者達はその声に涙し、ある者達は恐怖すら覚えた。






 誰もが思った。たった今マイスター・アーシャという人間を怒らせた事を。



「な、な、何を言うかと思えば・・・い、良いでしょう。やれるというなら見せてみろこの魔女め・・・!!」



 一番に恐怖を感じたのはアンダーズバスターなどという最終兵器の引き金を引いた准将の男だった。先ほどのまで悠々とした姿勢が一気に瓦解したのだった。


 だが、そんなくだらない事をしている暇はアーシャには、リベリィには無かった。

 アーシャは小声で、さっきまで動きを止めようと必死だったシリヲンへ向けて言葉を発した。



「指揮を・・・お願い」



 たったそれだけの言葉を残し、アーシャは一人前線へと向かう。


 その言葉を受けたシリヲンは、さっきまで抱いていた怒りが嘘だったかのように悲しい顔を浮かべた。10秒、いや5秒と無い時間にシリヲンは気持ちの整理を付けた。

 動ける者のほとんどを負傷者救援に急がせ、補給に戻っていた部隊を即刻出撃させてアーシャの援護へと向かわせる。そして全てのリベリィへと向けてアーシャと同じように叫んだ。



「これ以上誰も死なせるな!!! いいなぁああ!!!!」


 

 アーシャが最後に聞いた言葉は、シリヲンの力強い言葉だった。


 そこから先、アーシャ自身は己を封じ込めるかのように前進を続けた。



「ぐぅううあ!!!」



 獣の声の如く一撃一撃を重く。必ず撃墜させる一撃を多くのアンダーズへと与えていく。自らの心に滲み出る黒い気持ちを払拭するかのように、アーシャは前へ前へと進む。


 後方から援護に来たリベリィを置いていくようにアーシャは単身で進み続けた。早くこんな戦いを終わらせる為に。いや、それ以上に今の顔を誰にも見せられない、見てほしくない。そんな思いが一番にあったのかもしれない。


 アーシャは鬼神の如く目の前に立ちはだかるアンダーズを全て撃墜していった。自らのダメージを省みる事無く、それよりも早く、もっと早く終わらせる為に。



「リッター・シリヲン! マイスター・アーシャは恐らくブレイン型の破壊に向かったと思われます! フリッズ王国を覆うアンダーズ全てを統括しているコアのような存在です!」


「ブレイン型!? それを一人で・・それを一人でなんて―――」



 女艦長からの報告を受けている最中、再びあの巨大な砲撃が一切の勧告無く発射された。今度は一発だけでは無く複数の陸艦から一斉に照射されていった。

 その一斉掃射で多くのアンダーズを塵へと変えていった。だがさっきアーシャが、これ以上の介入を拒絶したのにも関わらず再度照射を開始したのだ。



「どうだ・・・」


「それが」


「ちっ・・・再充填急がせろ!! 一人孤立している今がチャンスだ。これ以上、神話の聖女のような事を続けられると迷惑なんだよ・・・!」



 彼等は一体何と戦っているのか。もはやそれはわからなくなっていた。

 准将の男は確実に、アーシャを狙うように指示を出して照射させた。このアンダーズバスターがあればマイスター・リベリィなんて不要だと、下手に生き続けられてはここから先のフリッズ王国解放後の障害になると予期しているからだ。


 そんな連合軍の将官の中にも異変が起き始めた。

 当然アーシャという危険人物に恐れを為した者も多くいる中で、これ以上の反乱行為に該当する行動は黙認出来ないと。私利私欲の為に放った一撃で多くのリベリィをこの世から消した者達は、人並みの事を考え始めた。


 だが、今も司令塔として指揮を続ける准将を止めようと思う者は誰一人としていない。当然だった。その手を黒く染めておいて、急に恐怖を感じ保身に走ろうとする人間は、所詮今も保身に走る事しか考えていなかったのだから。



「マイスターは・・・無事です! 数分後にはフリッズ王国の市街へ突入されるされると思われます」


「わかった、引き続きマイスターの動向を追い続けてくれ」



 シリヲンは安堵はしなかった。一度見たあんな砲撃でマイスターがやられることなんて夢にも思わない。

 それでも不安な気持ちを抑えることは出来ない。たった一人で敵の中枢へと向かうなんてそれこそ本当に神話の聖女、それ以上の存在になりえる。


 もはや残された者達はその安否を祈ることしか出来ないでいた。



「全員聞いた通りだ! 我々は眼前の敵に集中するんだ! 今はまだマイスターが敵をかく乱しているが、時期にこちらへと進軍を開始するはずだ。それまでに体勢を立て直す。いいな!!!」



 もはや今は、目の前の事に全力を注ぐしかない。

 あの将官等の攻撃も少なからずアンダーズへ向けて放たれる物、それを利用しない手は無い。少なくても今は憎い気持ちに目を潰れ。同胞達の無念に目を背けろ。

 今はただ、唯一生き残った者達を生還させることだけを考えることしかシリヲンに出来ることはなかった。



 また・・再びアンダーズバスターが稼働する。

 又もやアーシャを密かに狙うように指示が飛ぶ。


 眼前のアンダーズを皆殺しにしながら照射が・・・。



「っ・・・!? なんだ? 標準がずれたのか?」



 シリヲン達リッターも常に砲撃の軌道を念頭に入れて指示を出していた。

 だが今放たれた砲撃の一つが明らかに明後日の方向へと飛んで行った。ただ何も無い陸地を壊した。そんな結果へと終わった一撃だった。



 風向きが豹変した。



 勝利を確信し満身創痍だった将官達の表情が一変していたのだった。



「コアリンクが・・・制御不能に・・・!」


「何だと!?」


「コントロール・・・う、奪われます!!!」



 突如として赤黒い光が将官達の乗る陸艦から発せられた・・・。


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