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30.好戦一転


「行くよ!! みんな!!」


「「「「イエス・マイスター!!!!」」」」



 アーシャの号令と共に一斉に飛び出す。

 先行部隊としてアーシャの部隊が道筋を作る。当然アーシャが先頭を駆け抜ける。

 自らの周囲にビットを即座に展開しこちらの存在に気付いたアンダーズへ向けて一斉照射で迎撃する。

 アーシャ一人の攻撃がこの作戦の一番最初の一打となった。放たれた照射撃は眼前のアンダーズのみならず肉眼では確認できない距離までの遠方のアンダーズ諸共一撃で撃墜させたのだった。


 これが、マイスター・アーシャの力。


 初めてアーシャの力を目の当たりにした者達が口を開けてその光景に感銘を受けた。

 一度はこの人のようになりたいと思った。だがそれは桁違いの強さだと自覚したが。



「遅れるなよ! マイスターが流れを作ってくれるんだ、君達もそれに続け!!」


 シリヲンが全体に向けて発した。それを聞いて我に帰るユース達。

 これに続け。そう、今はそんな桁違いの力を持つマイスターと共に戦っている。マイスター・アーシャが強い事は今の一撃で理解した。ならば自分達はそれに続けばいい、続く事さえ出来れば必ずそれが実を結ぶと想えるから。


 予定地点に到着した部隊は一度足を止め、その場でアンダーズの迎撃に努める。

 作戦は殲滅なんて簡単に上層は告げたがそう簡単なことでは無いのは誰もが思っていることだ。だからこそリベリィは一丸となり一歩ずつ確実な進行を心掛けている。



「右翼! 私が援護するから、そのまま踏み止まって!!」


「は、はい!!!」


「うおぉぉおお!!!」



 誰しもが勇敢なわけではない。それでもリベリィは一人として失ってはいけない。それはリベリィだけでは無い。武器もブレイカーも失っては損失の大きさが必ず大局的に響いてしまう。アンダーズという対話の出来ない人類の敵が現れてから人はおろか物資も絶対的に不足に陥っている。



「幻動せし空色水晶 スフィアレイビット! みんなを守って!!」



 アーシャの魔術が右翼の陣形の援護へ向い次々とアンダーズの攻撃を弾き飛ばす。その光景にリベリィ達の表情も一変した。戦えると。

 どんな過酷な状態でも自分達は今、戦わないといけない。戦えない者達の為に戦うのは当然だが、今は自分の為に、目の前の仲間達の為に。


 ずっと戦い続けているリッターやマイスター達の為に。



「立て直せます! 大丈夫です!」


「わかった! このまま追い返すよ!!!」



 敵の攻撃はとてつもない弾幕だ。瞬きをした時には目の前がビームで掠める程に凶悪の物、少しでも穴が出来たら一気に押しつぶされるのは目に見えてる。進軍は慎重に、それでいて迅速に事を進めなくてはいけない。無尽蔵とも言える敵に対してこちらはブレイカーという時間が決められた戦いをしなくてはならない。その為にも一分一秒と無駄には出来ない。



「ぐぅぅあっ!!!」


「大丈夫か!」


「すみません、ま、まだやれます!!」


「駄目だ、一度後退し後方の支援部隊に治療を受けろ。軽傷ならば同じような者達を連れるんだ」


「わ、わかりました!!」



 まだ戦いが始まって間もないのに負傷者が出てくる。だが幸いにもまだ死者が出ることはなかった。

 これはアーシャが前もってリッターへと呼び掛けていた事だ。少しでも負傷した者が出た場合はすぐさま下がらせると。敵の攻撃が雨のように止まることを知らないのは当然想定されていることだった。その為にはこちらの手数を絶やしてはいけない、猫の手も借りたいくらいとはまさに今のリベリィに当てはまる言葉だ。負傷した者がいるならすぐに治療し、一定の火力を維持しつつ前線を押し上げるほか無い。



「敵の攻撃が弱まりました。マイスター進軍しますか・・!?」


「落ち着いていきます。ブレイカーの魔力を温存しつつ迎撃、魔力が心持たない部隊はすぐに供給に戻って下さい! ここからは予定通り各部隊でローテーションを組みながら戦線を上げていきます! リッター・シリヲン、お願い出来ますね」


「イエス・マイスター! 各部隊長のリッター、状況報告を密に。消耗が激しい部隊は今すぐに名乗り出るんだ!」



 シリヲンが最前線を切り上げ一歩後退し補給戦の指揮を執る。

 まだ行ける部隊と、補給が必要な部隊が次々と割り出されていく。補給が必要な部隊数は限られている、だがその判断をシリヲンはやり遂げる。必要な部隊はすぐさま全員下がらせ、補給が必要か曖昧な部隊には一番手薄の所の援護へ向かわせる。


 想定外。

 シリヲンとしては、今の第一打で損耗がもっと出る物と考えていたが見積もりが甘かった。敵の攻撃が甘いからでは無い、寧ろ想定よりも激しいと自身は感じたのだが、それ以上に味方の強さ、そして士気がシリヲンの想定を上回ったのだった。


 まだ行ける。そう気持ちが先行してしまっているのは危ない兆候ではある。シリヲンはその言葉を告げた部隊をしっかりと見極めた。恐らく後退させた部隊全員が同じ気持ちでいるのは間違いなかった。だからこそシリヲンの判断は精密に行われる。魔力、スタミナ、メンタル、あらゆる判断材料を瞬時に把握し指示を出していく。



「よし! 今指示した部隊はすぐに戻って補給へ戻れ! 時間は限られているからな! 休める時にきちんと休め! リッター各位も引き続きケアを重視で頼んだぞ!」



 同じグレードのシリヲンの言葉に誰一人異論を唱える者は居なかった。開戦前にアーシャが言っていた通りリッター・シリヲンは、マイスター候補の一人である事は他のリッター達も理解していた。今行われている後退指示もリッター全員が出来るようなことでは無い。長年アーシャと三凛華で培ったものだと誰もが納得している結果なのだ。誰もが何故すぐにでもマイスターにならないのか不思議に思えるくらいにシリヲンの評判は悪い物では無かった。



「マイスター・アーシャ。たった今後退指示を終えた処です、ご報告を」


「ありがとうリッター・シリヲン。左翼側が若干押され始めたみたい、お願いできる?」


「お安いご用ですよ」



 自らの部隊には引き続き同じポイントで敵の迎撃を指示し、シリヲンはすぐ様駆け抜けた。

 左翼側の敵の進軍、一番最初に目にしたのは、目に見えないということだった。



「あれが噂の・・・だが、もう!!」



 右手を振るい簡易魔方陣を展開する。

 今シリヲンが相手をしようとしているのは"ハイド型"、つい最近発見されたとされる新種のアンダーズだ。夜間偵察中に現れその場に居合わせたユース達三人によって撃墜されたと報告が上がっていた。

 その際に偵察魔術が得意とされたユースによってそのアンダーズの特異変質の情報が纏め上げられ、その情報を元に簡易魔術が作り上げられた。


 単純な魔術、目に見えないアンダーズを探知する物だ。



「見つけた!」



 シリヲンはすぐさま魔方陣を閉じ軌道予測を行い突撃を掛ける。

 ストックを槍投げのように構える、体を固定させる。目で敵の動きを予測、追い掛ける。

 長年の勘とシリヲンの目利きの才能が為せる技。こればかりは負けるとマイスター・アーシャにからかわれる程の物をシリヲンは持ち合わせている。



「楔印たる炎穿撃 ウェッジピアスッ!」



 見る者全てが目に物止まらぬ速さでシリヲンは手に持つストックを投げ付けた。一秒と無いその瞬間の出来事、シリヲンを横目にその場に居た者達は何が起きているのか把握する事が出来ない状態だった。援護に駆け付けたリッター・シリヲンが明後日の方向にストックを投げ込んだのだから。



「フレアッ・・・」



 シリヲンの呟きと共に大爆発が起きた。その爆発は周囲を巻き込むようにして、アンダーズを一掃した。それだけではない、その爆発の起点はさっきまで他のリベリィが手を焼いていたハイド型からの物だった。


 状況把握が出来ないでいた者達もようやく理解した。


 シリヲンの魔術はただハイド型を仕留めるだけに留まらなかった事を。彼女の狙いは、ハイド型と共に周囲のアンダーズも共に撃墜させることにあった。その為にハイド型を目だけで追い予想しながらほぼ一瞬のタイミングを見計らい魔術を撃ち込んだのだと。


 そして最後にはパシッと自らのストックを受け止める姿に見惚れる者が続出してしまった。男はその姿に美しさを感じ、女はその姿に童話の王子を連想させてしまう程にリッター・シリヲンはまさしく絵になっているというものだった。



「よく頑張ったね、みんな。引き続き頑張れるかい? すぐに補給の順番が回ってくるから、それまで―――」


「「「頑張ります!!!」」」


「うん、みんな素敵な顔をしてるよ、その調子でね」


「「「は、はい!!!」」」



 リッター・アーシャとは違う形でまた彼女も士気を上げる為の大事なファクターであるのは言うまでも無かったのだった・・・。




 徐々に戦線は、目に見えて押し上がっている。

 連合軍が当初計画していたものよりも遥かな戦果に後方でふんずりかえっている連合将官達は目を点にして柄にも無く身を乗り出し戦況に釘付けになっている者達も多く居た。

 少なくてもこれは好機であると踏んだ将官達は、後方支援火力の前線を上げると伝令を出した。

 伝令に倣い陸艦隊が次々と前進を始めた。とは言う物のもちろん前線との距離は圧倒的に離れており、支援とは何かと疑問視するリベリィも多くは居た。


 だが、現状のリベリィ達はそんな後方のお偉い方達に構っている暇なんて誰一人として持ち合わせて無かった。


 今もなお綱渡り状態が続いていると皆が思い耽っている。周囲を見渡しても一向に国と呼べるものが目に入らず、あるのは漆黒の装甲に身を包む軍勢の群れ。本当に終わりがあるのか不安の声が出てもおかしくない状態でも、ユースからマイスター。グレードは関係無く全てのリベリィが常に細心の注意を図りながら敵の掃討に尽力していた。



「ふぅ・・・みんなしっかりと休んで。あまりぐったりとし過ぎないようにね、立て無くなるかもしれないから、水分補給だけでもいいから空腹は避けるようにね」



 マイスター・アーシャにとっての一番最初の補給の後退だった。

 補給戦のローテーションが始まり三回近く回って初めてアーシャが後退した。その事実にブレイカーの供給整備士、衛生兵共々驚きを隠せないでいた。もちろん突っ立っている訳にはいかないと彼女達前線組を少しでも休ませる為、そして何より次出撃する時には最初以上の状態に仕上げようという気持ちが募り後方で支援を続ける者達は意気込んだ。



「マイスター・アーシャ!伝達です。艦長より作戦状況の共有とご報告をとの事でブリッジにお越し頂けないかと」


「わかりました、すぐに行きます。副班長、引き続きみんな事をよろしくお願いします」



 口に水分を補給し終えたと同時に彼女は歩き出す。共に後退してきた者達の中で、いや。本作戦において一番長く、しかも最前線で奮闘していたアーシャが一番この場でピンピンしている現状だった。


 それでもお構いなくアーシャは艦のブリッジにその疲れを見せる事無く歩き続けた。



「申し訳ありません、マイスター・アーシャ。お疲れの所」


「いえ、私の方から赴くつもりでしたのでお気に為さらず。それで状況は」



 淡々と喋るアーシャに優しさのある言葉を掛けた女艦長もすぐに真剣な眼差しへと変わる。

 女艦長もまた陸軍に所属している連合の一員ではあるが、リベリィの運送迎撃艦である為なのか、アーシャ率いる部隊と共に最前線に送り込まれていた。

 女艦長である彼女もまた、アーシャ達リベリィとその立場は違えど同じ想いを抱きながらも共に戦っている。


 そんな女艦長は聞こえるか聞こえないか程度の声でアーシャに語り掛けた。



「こちらをご覧ください」



 アーシャに目線を合わせず一つの端末を手に取った。その仕草にアーシャの目つきが変わった。

 女艦長とは長い付き合いでは無いにしろ、多くの戦場を共に戦ってきた仲でもある。今日まで多くのアンダーズと対等以上に戦えたのも目の前の彼女のおかげでもあるとアーシャは常日頃思っていた。

 そんな彼女がまるで動じないよう、繊細な声付きでアーシャに声を掛けた。わざわざそのような声と動作、すぐにアーシャは何かを掴んだのだと理解した。



「これは・・・。っ! 敵の中枢、"ブレイン型"と命名!?」



 アーシャの脳に衝撃が走った。

 渡された端末の資料には、ブレイン型の詳細が多く記載されていた。誰でもわかるような単純な物だった。


 そのブレイン型を倒せば、作戦は成功する。


 予測地点に存在するとされるブレイン型を破壊することでフリッズ王国を汚染侵略しているアンダーズの機能が停止する予測を立てられている物だった。

 当然そんな情報、連合全体のブリーフィングで聞かされていない。



「いつも通り、入手経路は控えます」



 相変わらずわざと目線を合わせずに答える女艦長。

 だが、アーシャにとってその事は今は問題では無かった。


 この戦いを終わらせることが出来る可能性が出来た。


 だが、一番の気がかりは当然浮かび上がる。



(どうしてこれを隠す必要が・・・?)



 どれだけ自分達がリベリィが憎いと言っても彼等の第一目標は絶対的にフリッズの奪還のはずだ。今も間違いなくそれを望んでいるはずだ。

 なのにこの最重要情報が最前線で戦う自分達に届いていないのはアーシャでも苛立ちを超え疑念を覚える。


 更なる出世の為? 不確定要素が多い為? 知られてはまずい事?


 一つ目の出世なんて物は彼らには必要が無いだろうが、連合軍内での立場。今も多くの民衆の目にはリベリィが良く映っているのには間違いない。それの払拭ならば考えられるが、それはこの作戦を成功させる無くては全く意味の無い事。


 彼等には作戦を確実に成功させる方法がある?


 二つ目の不確定な要素が多い点に関してはわからなくは無いのだが、今アーシャが見ている情報にはそう言った要素を払拭しようと懸命に調査を進めた形跡が多く残っているのが良くわかった。

 目の前の情報、特にブレイン型の情報は確信に迫っていると豪語しても良いレベルの物だ。不自然なくらいに。


 用心深い彼等を納得させる何かがある?


 そして最後の三つ目。こんな情報の隠匿は常にアンダーズと戦い続けたアーシャにとっては日常茶飯事だった。いつぞやの大型アンダーズである"タワー型"とその配下のタンク型のアンダーズ。これも後になって連合の記録を隅々まで探してようやくそう言ったタイプのアンダーズがいる、かも。なんて情報を見つけることが出来たほど。調べれば調べるほど、自分達リベリィに情報を出来るだけ与えたくないという姿勢を感じられている。今回もそれと同じなのか?

 いや、今回に至ってはそれで一大事になる可能性、リスクがあまりにもデカ過ぎるはずだとアーシャは読み解いた。つまりは・・・。


 リベリィに知られてはまずい・・・?






「嘘・・・でしょ!!!」




 アーシャは走った。

 端末を放り投げてしまう程に。作戦が始まって以来初めての動揺、焦りが一気にアーシャを襲った。

 もし自分の考えが間違っていなかった場合の事を想像すると、アーシャは吐き気に襲われる。気を抜いたら全ての汚物が口から出てしまう程に。






 

 だが、その想像は・・・現実となったのだった。










「"アンダーズ"バスター・・・発射ぁっ!!!!」



「全軍バリア展開!!! 退避!!!!」


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