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24.眼前に無いモノ


「大丈夫なんですかね、説明している時完全にちんぷんかんぷんな表情でしたけど」


「知らん、そんなのあやつの責任だ」



 第3班も最前列から二人の戦いを見守っていた。


 唯一この場でリュルの出した武器に驚かなかった面々。というよりも発案者はダッドだが、暇だからという理由で寄せ集めの物資で適当に作ったのがチシィであった。

 自分の専門外ではあった為に適当に拵えたつもりが楽しくなってしまい使う人間の魔力度外視のモノを作り上げてしまっていた。


 一応彼女の言い分では、開発中の新型換装型ブレイカーキマイラの応用品、簡単に言うと副産物が、今リュルが手にしているストック状の何か。


 パッと見はストックのように長い棒状の武器ではあるが、先端に何も無かった。

 本来のストックには槍のような魔力を打ち出す為の鋒が存在し、その鋒を起点に魔力を撃ち出すのが一般的のはずが。


 今リュルが持っている物の鋒にはそれが無い。あるのは取って付けたかのようなごちゃごちゃしたガラクタのパーツのみ。




「ここまで来て・・・私を愚弄するか!!!」


「ぃぃぃー! 違っ」



 巨大な魔力光弾が撃ち込まれついにリュルとオウギフの戦いが幕を開けた。

 

 同時に観客達の歓声が響き渡った。お互いの応援をするような声なのか罵倒している声なのか、もはや二人には聞こえていなかった。



「え~~~っと、これどうすればいいんだっけか・・・」



 ぶんぶんと自らの武器を振り回す。

 リュルは一応説明を受けたらしいのだが、一切の効力を発揮出来ていない。

 ただの子供が棒切れを振り回しているだけの光景となっている。



「良いからさっさと使わんか!あの馬鹿者め!」


「大丈夫なんですかねリュルさん」


「まあ大丈夫だとは思うけどね、リュルだし」


「うん」



 誰一人リュルの心配をしていなかったのである。


 そんな中でもずっとリュルは武器を見ては振り、魔力を込めようとしては振り回していた。



「訳の解らないことを! 手加減するとでも思ったか!!」



 再び巨大な光弾がリュルに向けて先ほどと同じように放たれるが、今度は一発だけでは無く次々とその量を増やしていく。

 手加減なんてしないという言葉通り、オウギフは自らの全力を常に振り絞りながら光弾を撃ち込んでいる。



「あぶっ! おぇ!? っと!!」



 ギリギリで避けきり射線を切る為に走り出すリュル。


 オウギフもその場からリュルを追うように光弾で追撃を始める。

 高速で逃げるリュル、それをどうにかして一発当てようと攻撃を続けるオウギフ。


 一発もリュルに届く気がしない。オウギフはそう考えだした。だが、敵から反撃が無い今の内に仕掛けるべきかどうか悩んだ矢先。



「っ!!?」


「よいっしょぉー!!」



 逃げ惑っていたリュルが突然オウギフ目掛けて更なる速さで突撃を掛けた。

 反応が遅れた、いや普通の人間なら反応しきれる訳も無くオウギフはリュルに蹴り飛ばされ壁へと激突した。



「卑怯なんて言うなよ? 肉弾戦は駄目なんて」



 オウギフが激突した壁は瓦礫と土煙りを生み視界を悪くしていた。

 確かにそこにいる事だけはリュルにはわかっていたが。



「あぁ・・・言う訳ない、だろ!」


「ん?」



 リュルは地面を見た。

 魔方陣、特殊な術式結界が貼られている事に気が付いた。



 ガキンッと音と共に大量の光る鎖がリュルに巻き付いた。

 これでもかと言う程に巻き付いた鎖はリュルをその場に完全に封じた。



「これで、どうだ!」



 今まで撃っていた光弾よりも強力に、巨大に作られた光弾を形成するオウギフ。


 練り込まれた魔力が凝縮されていきオウギフがストックを振った瞬間、リュルへと向けて前進を始めた。

 動きは遅く、普通なら歩いても避ける事が出来るほどの物。だが今のリュルは動きを完全に封じられている状態。この攻撃を避ける術は無い。




「ふぅううんっ!!!」



 気合いを入れた声と共にリュルは手を使う事無くバリアを作り出した。

 その事に観客は驚きの声を上げていた。が、オウギフの攻撃をその場凌ぎのバリアでは防ぎ切る事は出来ないと誰もが思っていた。



「一番二番開聞!」


「何・・・!?」



 オウギフの攻撃がリュルの作ったバリアに接触し動きを鈍らせた。


 ジリジリとリュルの作ったバリアにヒビが入っている中リュルはタイミングを見計らって―――。



「てぇえええーい!!!」



 掛声と共にブレイカーに取り付けてある固定武装から照射砲が二本撃ち込まれた。


 巨大な光弾に対して太い二本の照射ビーム砲が激突した瞬間演習場に強風が巻き起こり強烈な振動で地面を震わせた。


 この場にいる全員が対ショックに備えていた為負傷者は当然誰一人として出ず、それどころか演習場は更なる歓声を生み出していた。



「それが、噂の新型か」


「まあ・・・なっ!!」



 オウギフが仕掛けた鎖、今の衝撃波で緩んだことでリュルは破壊した。

 軽々しく破壊したその姿を見て、眉間に皺を寄せるオウギフ。


 それを見てリュルは口を開いた。



「まさか、これもダメってか? 一対一ならって理由で。仕方ねぇ奴だな」


「あっ! あいつ!! パージしやがった!!」



 観客席にリュルの行動に怒り狂っているチシィ、それを苦笑いを浮かべながらダッドが治めていた。


 オウギフの言葉に観客は歓声と同時にざわめいていた。あれが噂に聞く新型かと。



「これは俺達の汗水流した努力の結晶なんだよなー、お前がそこ等辺で踏ん反り返ってる間に積み重ねた物の、な?」


「・・・っ」


「でも、まあいいさ。お前なんてこれで十分だ」



 挑発をしながら再び得体の知れない武器を取り出すリュル。

 オウギフはそれが舐められていると感じ取ったのは当然だった。一切攻撃を仕掛けてこないその武器で自分を倒すと。



「ならば、見せてもらおうか。何が十分なのかを」



 オウギフのブレイカーの出力が上がった。

 周囲が光り出し、オウギフの地面には大型の魔方陣が姿を見せた。


 それは観客達が黙り込むほどの物だった。

 取り巻き達は口々にこう言った。


「オウギフ様怒らせた、あいつ死んだんじゃね」


 取り巻き達のみならず他の者達も妙な緊張感をただ寄らせていた。



「孤高せし秘曲業 ワンズ・アクトーブ」



 オウギフが魔術を唱えた瞬間は周囲に蔓延っていた光り輝く魔力達が一斉にオウギフの中へと入って行った。

 一粒の魔力が入り込む度にガクンと体を震わせていた。


 リュルは黙ってその行為を見届けた。内心では何でこんなのを見せられないといけないのか、殴りに行っていいかななんて思いながらもその場で立ち止まっていた。



「さぁ、行くぞ。リュールジス」






―――   ―――   ―――





「おぉ~お~、すげぇなあのユースの坊主。リュールジスにしっかりと食らい付いてやがる~がはははは」


「ちょっとあんた、あんま顔を出すんじゃないよ。他の人に見られたらどうするの」



 演習場の特別ビップ席には学院長含めた二人が、観戦をしていた。


 一人は子供のような眼差しで高速で戦い合う二人の動きを服に汚れが付く瞬間を捉える事が出来るレベルで追っていた。

 楽しそうにしている傍らで学院長はいつものように頭を抱えていた。



「決闘の話なんて、あんたに聞かれるんじゃなかった」


「何言ってんだよキュベレス先生。男ってのはさこうゆうシチュエーションに歓喜するもんなんだよ、今も昔も」


「あんたねぇー・・・」



 全くキュベレス学院長の言葉を聞き入れる事無くガラス越しに見える戦闘に笑顔と共に涎を垂らしていた。


 今にもあそこに混ざりたいという気持ちが全身から出ているのが流石の学院長にもわかっていた。



「なんでこうタイミングが悪いのかねぇ、嫌、あんたにとっては良かったのかねー」


「いや~あいつの服届けるなんて雑務を引き受けた甲斐があったよ。これはこれで土産話になるなー」



 ただただリュールジスの奮闘している姿を嬉々としてその目に焼き付けている。

 誰かに自慢する気満々に、一つ一つの動作を脳内へ叩きこむかのように体も小刻みに動いている。


 学院長はその姿を見て、もう溜息が止まらないでいた。



「それにしても、本当にあれがあのリュールジスか・・・。昔ならボーーンだよボーーンって! 一発一発」


「そうね、私も昔のは一度見ただけだけど。少なくても学導院に来た時にはもうあんな感じだった・・・いや」




 学院長はふと目線を移した。その先には、笑いながらもリュルを応援するユース達。第3班の姿だった。



「最近じゃ更に一皮剥けたんじゃないかしらね。あんた等二人に比べて基本的には素直な子だしね」


「ははははは、相変わらず先生は褒めるのが上手いんだから」



 褒めてない。そう言うことさえ億劫にさせてしまっている。


 学院長は再びリュルへと目線を向けて改めて思った。素直は素直だが・・・と。






「私は一体あんた等、"姉弟"にどれだけ振り回されればいいのかしらね」




 基本以前通信で会話をした基本無口だけどもやること為す事で合理的に見えてただ大胆な長女。

 目の前にいる傍若無人にいつも爆笑しながらも常に結果を残し続ける次女。


 そして今もなお演習場で基本的には素直に振舞っているのにも関わらず暴れ回っている弟。


 

「まあまあ、姉さんも先生には頭が上がらないって言ってたし」


「嬉しくないね、こっちはもう飽き飽きしてんだよ。やっとあんた等の面倒見なくて済むと思ったらほぼ強制的に学導院なんか任されて、挙句の果てには、歳の離れた弟の面倒も見ろなんてさ」



 流石の学院長も呆れ果てた忍ばせていた煙草を口に咥えた瞬間、火を付ける前に煙草に火が灯された。

 睨むように次女を見ると相変わらずにまにました表情だった。



「学導院は前も言ったじゃないですかー恩返し恩返しって、リュールジスに関してはまあ成り行きだったから」


「あんたはそう言っても長女の方がどうだかねぇー」


「ははは、それは流石に否定出来ないですはい」



 リベリィを統括する組織はリベリィが生まれる前から計画されていた物。

 そしてこのヘリオエール学導院の学院長に推薦(ほぼごり押し)したのは言うまでも無くリュルの長女だった。


 当然、当時のキュベレスにはこんな事になるなんて思っても居なかったが。リュールジスが現れた事で完全にしてやられたと最近になって気が付いたのだった。



「まあまあ、アンティオキアさえ上手くいけば少しは落ち着くと思いますからさー」


「アンティオキアねぇ・・・あまり順調じゃないって聞くけど?」


「ぅっ・・・秘密に秘密裏に機密性が高いのでどうしてもねー」



 次女の顔が引き攣ってしまっていた。

 学院長は何言ってるんだかと呆れ返っていた。


 キュベレスは立ち上がり演習場を見降ろす、再び次女へと告げる。



「原因は何であれ、私はこの学導院の学院長。あんた等二人がリュールジス君を気に掛けるように、私もここの全リベリィを気にかけているつもりよ。それだけはしっかりと理解しておきなさいね」



 圧をかけるようにキュベレスは言い放った。ここにいるリベリィだけでは無い、この学導院に身を置く全てのリベリィに向けて目線を送っていた。


 その姿を見て次女もまた表情を変えキュベレスと同じように立ち上がり演習場を見降ろした。



「だから姉さんも私も、あなたにここを任せたんですよ。少しでもあの子の・・・リュールジスの拠り所になってもらう事を願って、ね」






―――   ―――   ―――




 学院長の特等席で自分の姉の一人が観戦しているなんて思いもよらないリュル。

 それどころか未だに渡された武器の取扱いに苦戦していた。



「あ、もうめんどくせえ!! これで殴ってやった方が早いわ!!!」



 おらぁああ!!と勢い付けてオウギフに殴りかかったけど華麗に避けられた。

 さっきからピョンピョン鬱陶しいな。単純な身体強化魔術だろうが、オウギフの攻撃が格段に痛い。

 一番最初のデッカイ光弾は右手でも弾けたけど、流石に今は左手を使って防いでいる現状だ。それでもチクチクと針に刺された気分で気持ち悪い。



「どうした!! まともに攻撃出来ないのなら、貴様等の努力の結晶とやらを使わせてやってもいいぞ!」


「うっせぇえええー!!!」



 鋒の無いストックを振り被った攻撃がオウギフに避けられ地面へと激突した。

 大量の土を飛び散らかせ地響きを起こすほどの衝撃をぶつけた。俺は完全に鈍器としか渡された武器の使い道がわからないでいた。

 とにかくこれであいつの脳天カチ割れば勝てるんだ。きっと二番目の姉ちゃんならそうする。



「っ!! あれ・・・?」



 武器が、動かない。

 あれ・・・抜け・・・。



 ない!!!!?



「ちょっとタンマぁああああ!!!!」


「そんな物が通じるわけないだろう!!!」



 ヤバいって!! まずいって!!!

 オウギフなんか魔力高めて詠唱始めてるし! 流石にヤバいって!


 せっかく俺の為に作ってもらった武器をここに置いておくわけには行かない!!

 一番上の姉さんに人に作ってもらった物は粗末に扱うなって怒られるだろうがぁああ!!




「ぬぉおぉぉぉぉおぉおおぉおぉお!!!!」


「これで・・・終わりだ!!!」




ガキンッ・・・!!!




 会場全体が静寂に身を包んで沈黙した。


 決着が付いた。誰もがそう思った。

 だが、リュルとオウギフ・・・そして次女の三人だけがまだ決着が付いていないことを知っていた。



「なっ・・・何だその、"ストック"・・・?」



 オウギフは最大限に強化した自らのストックを受け止めるリュルのストックのような武器に驚愕していた。


 それを両手で握るリュルも同じように驚愕していた。



「なーに、これ~~。"剣"生えたー」



 リュルの握っていた鋒の無い武器に、刃が鋒として現れたのだった・・・。

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