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23.知らない事を知ってると思うなよ


「どうしてこうなるのか・・・」


 頭を抱えながら、俺は飯を食っていた。


 つい先ほどレプティ寮長からオウギフとの決闘申請があったことを俺に聞いてきた。一応の事実確認だった。俺の面倒臭そうな表情から寮長も色々察した。察したからと言って何かしてくれるわけではなかったが。


 今もまだ頭が痛いというか、気が重過ぎる。そんな俺を余所に他の連中は食事を楽しんでる。

 当然のように、プン以外の第3班の面々も一緒に狭いテーブルを囲って食事を楽しんでる。



「対リベリィのデータなぞいらんぞ? お前やる気が空回りしとらんか?」


「なわけないだろう!! 俺が事の発端みたいな事を言うな!」


「いや、聞いてる限りじゃあなたが事の発端な気がするんだけど」


「調子に乗って街一つ解放なんてするから」


「自業自得」



 ぬおぉぉおぉおお!!! こいつ等俺の味方じゃないのかよ!!

 お前等の食ってる飯は俺が作った物だということをこいつ等忘れてやがる!



「ていうか、リッター・ミレスはいつまでここで飯食ってるんだよぉー!!」


「はぁー??? マイスター・アーシャが居ない西寮食堂なんて何の価値も無い事もわからないのあなた???」



 何で逆切れしてんのこの人。

 そういや、なんか遠くへの迎撃作戦とかで出張中なんだけっかマイスター・アーシャ。

 早く帰ってきてこのうちの班長を引き取ってくれ頼む。



「そうだリュルさん。明日のその模擬戦に使って貰いたい物があるんですが」


「おい、ダッド。まさかあれをコヤツに使わせる気か?」



 ダッドの言葉にチシィが食べる手を止めた。

 あれって何だよ。


 ていうか、最近ダッドは本当に技術師として面構えが板に付いてきたな。

 お前そのままチシィに弟子入りして婿入りしちまえよ。あ、あのオヤジ相手にするのは流石に同情するな。



「明日の抗議の後に少しだけ時間あればリュルさん用に調整できると思いますし」


「俺用? 壊してもいい奴なのかそれ~」


「まあ、ある意味では大丈夫っちゃ大丈夫だな。見方を変えればお前専用、お前みたいな無尽蔵の魔力が無くちゃ成立しない物だがな」



 あれ~、冗談ぽく言ったつもりが予想以上の返答にちょっと困惑。


 というかこいつ等、新型ブレイカーの開発以外にも何をやってるんだが一体。

 一段落出来たから次の奴なんてそんなおつまみ感覚で作れるものなのかブレイカーって。



「あ、ブレイカーじゃないですから」



 ダッドのその言葉で更にわからなくなった。

 こいつ等一体俺に何をさせる気だよ。ブレイカーじゃない何かを作ったってもはやなんでも作れるのかコイツ等は。



「・・・愛の力って凄いな」


「は? お前何言ってるんだ??」


「そ、そうですよ・・・変な事言わないで下さいリュルさん」



 ほぉ~ん。


 ほぉ~~~~~~~~~~~ん。



 ほぉおおぉぉぉぉおぉぉ~~~~~~ん!!!!!







―――   ―――   ―――






 夜中、一人自分のブレイカーを調整をしているオウギフ。

 全神経を彼は明日の模擬戦に向けている。



「模擬戦の申請は通ったらしいですわね」


「ナリヤゼスか、こんな夜遅くに一人で出歩くものではないと思うがな」


「あら、あなたが心配してくれるなんて思いもしませんでしたわ」



 ナリヤゼスが現れてもオウギフは黙々と作業をしていた。

 今までも常にアンダーズと全力を費やしてきたつもりのオウギフ。それが今改めてブレイカーを調整しても意味がない、そう自身も考えている。


 だが、明日の敵はアンダーズでは無い。オウギフにとってはアンダーズ以上の脅威と今は考えている。



「貴様の目的は知らんが、迷いの霧を晴らしてくれた事だけは感謝している。しかし・・・」



 ブレイカーを起動させるオウギフ。問題無い動作に満足したがまだまだと、オウギフは再びブレイカーに向き合う。



「奴を仕留めた次は貴様だ、ナリヤゼス。それだけは覚えておけ」


「・・・えぇ、あなたが彼に勝ったら。覚えておくことにしましょう」



 ナリヤゼスもまたオウギフのその姿を目の当たりにして満足したのか、月を見上げながら東寮へと戻ろうとする。




 そんな夜空を見上げるナリヤゼスの表情は・・・険しかった。




「必要ないのですよ・・・月も・・・太陽も」





―――   ―――   ―――





 午前の抗議が終わり、早速チシィの作業場へと向かおうとした。



「聞いたかよ、これからオウギフ様とあの新人が決闘するんだってよ」


「模擬演習だろ! 変な言い方すると査問されるって」


「東寮男子最強決定戦なんて言われてるらしいぞ」


「勝った方がナリヤゼス様とお付き合いするって本当ですの!?」


「なんでもこれは東寮の講和の為の戦いだとか!」


「きゃぁああー素敵ですわー!!!」


「殿方同士の熱い戦い、わたくしドキドキが止まりませんわ~」


「そこから生まれる友情以上の想い、ナリヤゼス様を愛して止まない想い以上にお互いがお互いを意識し始めてしまう禁断の愛が生まれてしまうのですわね!!」


「「「「「「えっ?」」」」」」


「え・・・?」






 どいつもこいつも好き勝手言いやがって!!

 学導院ってこんな頭お花畑の連中しか居なかったのかよ、ビックリだよ!



「好きなっちゃうの?」


「なわけねぇええーだろうが!!!」


「リュルはそうかもだけど、相手はどうなるかね~」



 気持ち悪い事を言うなムー!!

 こいつもまた噂を楽しんでる連中と同じように楽しみやがって。


 本当の事ぶちまけてやろうか。



「見てナリヤゼス様ですわ!」



 あん?

 俺達の行く先に、ナリヤゼスが悠々と歩きながら俺達の目の前に姿を見せる。

 なんだ? 激励の言葉でもしてくれるってか?生憎俺はコイツの言葉を聞き入れるつもりは一切ない。



「・・・・・・」


「何だよ」




 立ち止ったと思ったらすぐにその場を立ち去った。


 誰もがその行動に歓喜し喜びに満ちていた。

 だが俺は、知っている。あいつ今、完全に俺を見て無かった。どちらかと言うと・・・。



「早く行こうよ、リュル。またチシィにどやされるよ」


「そうだな・・・そうですね」



 俺達はすぐに作業場へと向かった。

 予定されている模擬戦まで約2時間後、学導院の大型の演習場で行われる。

 

 なんでわざわざそんなデカイ所でやるのか疑問しか無い。

 レプティ寮長が了承したって事は、つまりは学院長にも話しがいってると思っていいだろう。


 その学院長がそれを用意したと思うと・・・。


 駄目だ、何をどうしてほしいのかさっぱりわからん。大々的に負ければいいのか俺。



「ったく遅いぞお前等! さっさと調整するぞ急げ」



 考えが全く纏まらない内に作業場に到着してしまった。


 駄目だぁー、学院長様ー! 俺は一体どうすればいいんですか!?教えてくれてもいいじゃないですか!



「それとこれ。お前宛の小包、差し出し人は不明のな」



 まさか!

 これは、俺宛に向けられた学院長からの・・・!



「何これ・・・制服?」


「そろそろ着ろってことでしょ、リュルずっとワイシャツ姿だし」



 そこには、衣服。ヘリオエールのジャケットが入っていた。見た感じ寸法なども俺に合った物だった。


 これが学院長の答えってことなんですかね。


 そろそろ着ろお前、こっちも色々大変なんだからなあなあにしているのも限界なんだ。そう言っているようにしか俺には見えなかった。



「うわぁ・・・」


「えっと、う、うん」


「だっさ!お前・・・え!? 似合わないにもほどがあるだろう!?」



 ムーもダッドも空気を呼んであまり口にしなかったのにチシィは爆笑しながら言いたいことをただただ浴びせてきた。


 わかってるんだよ!! うるせーな! 俺だってこんな結果になることくらいわかってたんだよ!


 両手で顔を隠して泣きたくなる気持ちを抑える。



「・・・これ」


「ん? 何んですかプンさん。あなたも似合わないって思ってるんですか」


「うん」



 ぐぅぉおぉおおおあぁああー!!!


 もう駄目だ、プンにまでそう言われたらもうおしまいだ。


 そうだ出よう。うん旅にまた出ようそれが―――。



「そうじゃなくて、これ」



 プンが指差す物。それはジャケットが入っていた小包。

 しゃがみ込んで覗きこんでるプンの隣に同じようしゃがんで見る。


 そこにはもう一着服があった。


 それはヘリオエールの制服とは違う物、インナー・・・にしては大きめの奴だった。


 俺はただそれを眺めているとプンが俺が今来ているジャケットを脱ぐように促した。

 これがどういう物なのか理解したようだったのでこうなったらもう言われるがままに俺はジャケットを脱ぎ、それを着る。


 そしてその上から制服のジャケット羽織った。



「おぉ~~・・・異様な形になってるけどまぁ」


「その異様さがリュルさんらしいと言えばらしいですね」


「うん、似合ってる」



 ジャケットを上まで閉めずにチャック全開の不良スタイルではあるが。その下に来ている身頃が異様に長い。ジャケットから当然はみ出している。

 膝まで伸びている身頃に目線が行くからか俺の似合わないジャケットが不思議と相殺している気がしてきた。いやそう思う事にした。



「ん~~~・・・なるほど。ちょっとお前さブレイカー付けてみろ」


「え、これで?」



 ただただ邪魔にならないかこれ?


 そんな事を思いながら普通に付けようとすると、チシィに怒られた。



「上からじゃないっての、多分これは・・・こう!」



 まるで子供の身支度をするオカンだ。

 もう俺はただされるがままに突っ立っているだけにした。何故か両手を広げ全身で十字を描いていた。



「ん? なんだこれ」



 無駄に長い身頃がブレイカーに垂れ下がっていた。

 というよりも身頃がブレイカーを隠すかのようにしている覆いかぶさっていた。



「恐らくこの送り主は、お前のブレイカーを送った人間と同じだろうな。秘匿趣味があるようで、普通にしていたら綺麗にブレイカーが見えないようになってるし、お前のその糞ダサセンスの理解もある」


「ははは、ありがたい限りで何よりだ」




 送り主。ってことは学院長じゃない? いやジャケットが入ってた事を考えると合作か。


 なんだが昔を思い出した。事あるごとに俺に色々作ってくれたっけか手作りで。

 元気にしてるようで何よりだ、一度くらい俺の方から顔を出した方がいい気がしてきたななんか。今度それとなく学院長に聞いてみるか。



「それよりも! こっち!」



 チシィは勢いよく指差した。


 全員がその方向を見る。そう俺も初めて見るモノそれが今の本当の目的の代物。

 とりあえず持てと手渡された。

 パッと見は、俺達の知っている物だったが、ご対面したそれをダッド以外のムーとプン、そして俺が凝視した。




 何だこれ、と。






―――   ―――   ―――




「やっと来たか・・・今日は制服を・・・着ているんだな」



 狙い通りの反応ありがとう、ダサいって思った瞬間ブレイカー関係なくぶっ飛ばしてやるところだった。


 というか、周囲を見渡した。


 演習場。という名のコロシアムだろこれ。

 観客席に囲まれ、上から大勢のリベリィが俺とオウギフの戦いを今か今かと待ち望んでいる輩共が歓声を上げていた。



「どうなってんのこれ」


「さぁーな。だが関係はない、ある意味では相応しい舞台かもしれんがな」



 なんでコイツ無駄にやる気になってんだよ。

 やっぱこいつって結構ただのバカな気がしてきた。



「さぁー、始めるぞ! 貴様か私か、最後に立っていられるのはどっちか。勝負だ!」



 意気込んだと同時にオウギフはストックを展開した術式から取り出した。

 見ただけでわかった。昨日俺が粉々にした物なんかよりも数倍も魔力鉱石が使われている物だと、オウギフが本気なのがよくわかった。


 良くわかるからこそ・・・なんか申し訳なくなってくるな。



「どうした! 貴様も早く武器を取り出せ!!」



 見渡す限りのリベリィ。明らかに楽しんでやがるなこの輩共。


 仕方ない、どんな反応するのか逆に楽しんでやるか、と俺は右手を前に出し術式を展開する。

 術式に手を突っ込み、"それ"を取り出した。


 そしてストックを構えるオウギフに向けて、俺の"それ"。武器を見せた。




「・・・な、なんだそれは」



 オウギフが言葉を詰まらせた。当然他の連中、観客席から見降ろしている連中全てが目を点にして開いた口を塞ごうとしなかった。



「貴様の武器・・・"鋒"が無いぞ」


「・・・うん」



 俺はオウギフの言葉にただ頷くことしか出来なかった・・・。


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