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20.余裕があるから抱けるな


 ストライク王国の隣国には、とある王国がある。


 "フリッズ王国"である。


 現在はアンダーズにより完全に支配され、人間どころか動物すらもいない地へと化している。

 ストライク王国はフリッズ王国を支配しているアンダーズから度重なる襲撃を受けているのは言うまでもなかった。

 

 今もまた、ヘリオエールのリベリィ達はフリッズ王国から流れてくるアンダーズを相手に迎撃、奮闘している。





「ナリヤゼス様、新手のモース型です。数は3、真っ直ぐこちらに近付いてきます」


「第2班のC小隊はD小隊と交代で補給を、1班のB小隊は引き続き私達A小隊と共に迎撃を。右側面から仕掛けます」


「「「「了解です」」」」




 東寮のナリヤゼス部隊。全てが女のリベリィで構成されていると聞いたが、陸艦の陸軍の人間までが女性で固まってるとは恐れ入る。



「流れ弾・・・、マズイッ!」



 後退中のC小隊に大型のビームが飛んでくる。

 連戦の疲れからか、一人が散開に遅れてしまっていたが。


 突如としてビームは分裂するよに逃げ遅れたリベリィの目の前で弾かれた。



「ここは自分が食い止めますので、補給へ急いで下さい」


「あなた達は・・・たしか」


「お留守番が大得意の第3班で~す。はい急いでー」



 俺とダッドの姿に困惑しながらも小隊に合流する為、軽く頭を下げられ陸艦の方角へと駆け抜けた。


 なんだか、あの一件。オウギフ派襲撃事件が起きてから数日、俺達は特別な事があるわけでも無くいつもの日常の如く学院長の要請で戦場に身を置いていた。


 今回の事件がきっかけで東寮の実権が女性陣、ナリヤゼス派に流れている為、アンダーズの迎撃などの要請が以前に増してナリヤゼス派が多く引き受けるようになったらしい。

 そして俺達は、相変わらずその御留守番をしている。



「にしても良くやるな。ナリヤゼス?だっけ、迎撃作戦開始からもう20分は戦ってるぞ」


「あれ、リュルさんは知らないんでしたっけ? ナリヤゼスさんはリッターの資格があるのにそれを蹴ってるみたいですよ? 自分はまだその器じゃないとかなんとかで」



 はぁ~ん。通りで。

 まあマイスター・アーシャやリッター・ミレスに比べたらまだまだではあるけど彼女も中々大した女だ。


 中隊規模の人間全ての状況把握、正確な判断を下しながらしっかりと戦えてる。

 ギリギリのように見えて、余裕のある立ち回りという、何とも見ていて危なっかしい気持ちを抱かせる戦いだ。

 だが、誰一人として負傷者を出していないのは紛れも無い事実。


 あんだけ女共に尊敬と敬意で埋め尽くされているのも頷ける。

 気持ち悪いくらいに悪い噂を聞かない。本当に気持ちが悪い。


 容姿も端麗、礼儀や作法も完璧。出自も大きな貴族の令嬢とかだったか?

 あぁー怖い怖い怖い。



「俺はお前みたいなのが一番だよ、よしよしよし!!」


「・・・?」


「なっ! ちょっとプリエちゃんに何してんの!!!?」



 ふぅー、プンの頭をいっぱい撫でて落ち付けた。妹チャージも馬鹿には出来ないという奴だな。



「では、行って参ります。リッター・ミレス」


「はい、皆さんお気を付けて。何かあればすぐに私達3班が駆けつけますから」


「心強いです!」



 後方からD小隊がC小隊と入れ替わるようにして俺達の横を駆け抜けていった。

 俺達は陸艦と最前線の間、俺達の足である母艦への最終防衛ラインと言えば聞こえがいいが。今までの戦場でアンダーズ本隊が母艦にまで近付いたことはほぼない。


 来るのはさっきのような流れ弾のビームや、エア型とかの小型しかも少数。

 まあそれも俺達の所に来る前に・・・。



「ん~~~ちょっと調整必要だよこれ、とにかく重いから」



 俺達よりも少し前で射撃体勢でいるムー。

 そう、俺達の所に来る前にムーがほぼ撃ち落としている為、実際にはアンダーズはここどころか、母艦を攻撃する事はなかった。



「重いのは当然と説明したろがい、いいから早くぱぱっとデータを取るんだよ! ダッド、お前もさっきみたいに、ちょっとビーム受けてこいそれで」


「いやぁ・・・ぁぁ・・・はい」


「チシィ無茶言わないで、下手に動いたらユース・ナリヤゼスの邪魔になるわ」



 リッター・ミレスの言葉に悶え苦しむ声がインカム越しから聞こえる。


 そう、俺達は今ブレイカーを付けているが、通常のブレイカーよりも二回りほど大きくなっている。

 それはチシィが用意した新開発用データの収集装置とその実験体を付けている。


 先ほどからムーは、遠距離からの狙撃と連動して砲撃をしている。両腰に増設した二門のビームキャノンだ。

 俺が見ている限り、ムーの狙撃は見事にアンダーズを撃墜しているようにも見えるのだが、チシィが用意したその連動式ビームキャノンはムーが扱っている割りに命中精度が悪い。



「プンはどうだ?」


「・・・重い」



 ムーと同じ感想だった。


 ムーも俺達と同じようにブレイカーに増設が施されている。主に索敵範囲拡大が目的だ。

 地底深くまで探る事が出来るか。つまりは以前のような急な増援からの奇襲が無いかの物。だがここ数日そういった襲撃が無い為データが取れない襲撃して来いとチシィは嘆いていた。



「リッター・ミレス。やっぱ自分も行っては駄目でしょうか」


「チシィには悪いけど駄目ね、さっきも言った通りよ。下手に行ってアンダーズの気を引き付けるような事があったらユース・ナリヤゼスの邪魔になるわ。それに3班の生命線であるあなたを単独にはさせれないの」


「そう・・・ですよねぇ」



 がっくりと誰が見ても落ち込んだとわかる程にダッドは溜息を吐いた。

 ダッドに至ってはプンに比べてもっと酷い、目の前にビームがとんでもなく飛び交っているというのにその実験内容である防御シールドがほぼ意味を為していない。

 飛んでくるビームはほぼ威力が減衰しきった流れ物ばかり、先ほど見たいに狙いすまされない限りはこっちに攻撃が飛んでくることは皆無だった。


 こんなんで対アンダーズのデータを取るなんてほぼ不可能だと思うんだよぁ~。



「んんんんーッ!! リュル!! ならお前はそれで適当な所走ってろ!」


「無理言うな~、一応戦闘中なんだからさ~ふわぁ~~」


「ちょっとアンダーズの横を走るだけでいいんだよ!」


「駄目です」



 ぬおぉー! とインカム越しからまたチシィの悲痛な叫びが聞こえる。

 

 リッター・ミレスは常に落ち着いて前線を見守り続けている。

 プンはただ突っ立っていながらもブレイカーを光らせながら索敵をしている。


 ムーは、重い重いと呟きながらもこっちに敵が来ないように前線から抜けた敵を撃墜させている。

 ダッドは逆に落ち着きが無い。というよりもどうしようか、と意識が戦闘以外に向いているのがよくわかった。


 そして俺はソファーの上で寝そべるような格好で横になり、前線を見ながら腹の虫を鳴らしながら欠伸をしている。

 最初の頃はリッター・ミレスから注意を受けていたが、次第に諦め。誰かが来た時以外は注意をしなくなった。



 長々と説明したが、簡単に言うと。



 暇 だ 。




「モース型二体目撃墜、皆さん。最後の一体、油断しないよう行きますよ」


「はい!」


「ナリヤゼス様と共に!」




 おぉーおぉー、ついに迎撃作戦も終わりを迎えようとしている。

 本来なら彼女の言うように油断は禁物なのだが。こちらには最強の索敵魔術のプン様がいるから俺はこうやった寝そべる事が出来る。

 ぶっちゃけ俺の気配を感じる経験則なんかよりもプン様の信用と実績の方が当てになる。



「あ」


「どした?」


「コア見つけた・・・壊れた」



 どうやら戦いは無事に終わったようだった。

 プンが言ってから数秒後、前線の部隊から通信が入った「作戦終了、あんだーズの殲滅に成功」と。


 それから俺達はすぐに撤収準備に掛かった。

 プンは相変わらず索敵を続けているが、今日はもう良いとリッター・ミレスがプンに指示を出しプンも一息付いたのだった・・・。





―――   ―――   ―――




「あぁあああああ~~せっかくのデータがぁ~」



 ヘリオエールに到着し一度解散した俺達は、再度チシィの作業場に集合した。

 これもまたいつもの流れである。

 念の為にと戦闘で手に入ったデータを洗い出し。けどほぼ取れていないに等しい物を吸い上げた所で目ぼしい物は最近はめっきり無い。



「はぁあぁあぁー・・・こんなじゃ何時まで経っても」


「だ、大丈夫ですよチシィさん。あ、明日もありますから」



 机の上にへばり付いて愚痴を溢すチシィを励ますダッド。いや明日も明後日もと毎日来られるのは流石にどうかと思うぞ。



「そう言えば、これあなた宛てに渡してくれって」


「何? ラブレター?」



 リッター・ミレスから一枚の手紙を渡された。

 面倒だからその場で開封し中身を見る。


 すると中には、一枚の写真と一枚の手紙が姿を見せた。

 そして写真を見た瞬間、俺は顔を顰めた。



「何これ」


「彼等、あの事件の後、地方の前線送りの処罰になったのよ。二人一緒にね」



 俺が手にする写真には、あの事件の犯人共。オウギフを襲った男と俺から庇った女が二人映っていた。

 あてつけかのように手を繋ぎ笑い合っている写真。


 おい、処罰を受けている身なんだよなこいつ等。



「今は人手不足だからね。地方送りって事で学院長が処理したみたい」


「だからってなんでこれを俺に渡すんだよぉぉぉおぉおおぉぉ!!!!!」



 渡された物全てを思いっきり破り捨てた。

 ふぜけやっがって!! 今からでも乗り込んで今度こそ息の根を止めてやりたいんだが。



「・・・・・・」


「何、見たかったの?」


「うん」



 けど、駄目です!!!

 何故ならこれは全て俺の怒りの矛先となり得た物だから!!


 プンが何を言おうともう遅いです!!



「お前等!! いいから早くデータの解析を急げよな!! 遊んでいる時間なんて無いのだからな!!」



 チシィがいつも以上にピリピリしている。

 ムーは、やっていると見せかけてサボっている。

 プンは、何故か俺が破り捨てた手紙を集め出している。


 まともにデータ処理をしているのはダッドだけだった。



 はぁ・・・溜息しか出ないよこんなの。

 いつも以上に体が重く感じられる日だった・・・。



 



 データ処理の作業は日が暮れるまで及んだ。

 作業自体はほとんど終わっているのだが、それでも何か無いのかとチシィが難癖付けて来ていつまでも終わら無かったのが実状だった。


 リッター・ミレスは、会議があるとかで早々に退散していた。

 それでも残った俺達3班はチシィの文句に付き合っていた。



「お~~~い、もう良いだろう?流石に」


「ちっ・・・あぁいいよもう、ったく」



 そんな邪険に扱われる覚えはないと思うんだが。まあここでムキになる気力は俺には無かった。それはムーも一緒だった。


 んじゃあまた明日と退散しようとしたが、ダッドだけがまだ残って作業を続けていた。



「ごめん、先に行っていて。自分はもう少ししてから行くから」


「・・・あいよ」



 後で行く・・・か。

 変な気使いは不要ではあるけど、心配な部分が出ないわけじゃない。


 そんな事を考えていると、ムーに袖を引っ張られプンが待つ方へと行く事になったのだった。



 それからダッドが俺達が待つ自室に顔を出したのは夕方過ぎだった。

 飯も食い終え俺の部屋で茶を飲んでいる時、申し訳無さそうに部屋に入ってきた。



「お疲れさん、どうだったよ」


「まあ・・・あまりって感じですかね、ははは」



 疲れている様子は無い。無いが、内面的な気持ちがあまり良くない、そんな感じか。見ていてなんだか痛々しいというかなんと言うか。



「ダッド。もう昔みたいに焦る必要は無いって、僕達そう決めただろ?」



 焦る、か。

 昔と今の違いと言ったら俺だよな多分。東寮での不遇の扱いを思うと否定的になれないのは事実。

 俺だって力が無かったらどうにかしようって気持ちにもなる。というかなった結果がこの左腕なんだけども・・・。



「でも今は、自分の為というよりも・・・その、チシィさんのお手伝いが出来れば。そんな気持ちの方が大きいんですよね」


「ほぉう。あのチビ助のか。何ゆえ?」



 これはまた意外な返答が返ってきた。

 俺もムーもその発言に目を点にしていた。自分の為にではない、あのチシィの為に自分が出来ることをと。ちょっと邪な考えが浮かび上がっていない訳ではないけれど少しむず痒い気持ちに俺はなっていた。



「ムーも自分もローユースのレッテルを貼られてからどうすれば他の人に追いつけるか考えたのが、ブレイカーの性能を上げられないか。これは確か前に話した通りですが」



 あぁー、聞いたような聞いてないような。

 魔力という目でほぼ見えないような物の強さでリベリィの強さというのは決まると言っても過言ではない。二人の魔力はあまり褒められる物ではないのは事実。

 そんな二人が思い付いた物がブレイカーだった。


 ほぼ人の魔力と直結しているブレイカーだが、その性能を出来る限り自分の扱い易いように、出来るだけ限界に近付けたい。努力で魔力が上げられないなら別の事、ブレイカーに頼ろう。そうゆう試みだった。



「いつだったか、チシィさんの所に通い詰めていた時ポロッとチシィさんの"夢"みたいなのを聞いたんですよ。自分はどうしてもその事が頭から離れられなくて」


「それは、聞いてもいい事か?」



 ダッドはあっ、と口を開いたが少し考えて口にした。




「ブレイカーの技術が一般の人達に役立つ、有意義な物にしたい。 それがあの人の夢なんです」





 ダッドは笑みを浮かべて告げた。曇りの無い想いで。


 ここにいる者達、あのプンでさえ表情を読みとれる程に衝撃を受けていた。

 恐らく、ダッドも同じだったんだろうと想像できた。初めてチシィから聞いた時と同じ衝撃を。



「本人は遠い夢だと、笑ってましたがね。ははは」


「そんな事無い」



 まさかのプンがダッドに告げた。

 夢は遠くない。何故ならとそう言いたげに立ち上がり部屋を出る支度を始めた。


 その行動を見てムーもダッドも急いで自分の部屋へ向う為俺の部屋を出て行った。



「何かあったのか?」


「何も無い」



 何かの資料を纏めながらプンは言う。

 表情はいつものように無いに等しいが、動きは不相応だった。相変わらず面白い奴―――。



「私、そうゆうの何も無いから。夢、応援は出来るから」


「・・・・・・そっか」



 応援・・・か。

 それもまた大事な事の一つ。って奴か・・・。

 


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