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1.アンダーズ

【連合陸軍 陸艦ハンガー】


 軍人や商人、更に民間人が入り乱れるステーション。

 連合軍が管理し定時通りに移動陸艦が運行されている。


 人々は軍の者達の指示通り列を作り、次々と艦の中へと乗艦していく。


 そんな中に連合軍人ではない者もいる。 


「あれー・・・どうしたんだろうなぁ」


 気弱そうな大男が一人辺りを見渡し人を探していた。

 その背後には大男と同じ制服を着ている男達が居た。困り果てている大男とは正反対に腕を組み今にも怒り狂いそうな表情でいた。


「もう待てん!! "ユース"ダードー!!」


「は、はい!! "リッター"」


「私達はもう待てん乗艦する、貴様は責任を持って客人を探し乗艦させろ!」


「え、そ・・・それは」


「何だその返答は!? 貴様のグレードはいくつだ!? "ユース"」


 リッター。

 そう呼んだ男から睨まれたダードーと呼ばれる大男は返す言葉が思い付かなかった。


「イエス・・・リッター」


「ふん、それでいい。見つからなかった場合は"学導院"に報告されることを忘れるなよ」


 ダードーに捨て台詞を吐き陸艦の中へと取り巻き達と共に姿を消していった。

 肩を落とし溜息を吐くダードーの横から小さい物影が一つ、タイミングを見計らったかのようにして現れる。


「何がグレードだ、自分は親の権力でリッターになっただけの癖に」


「ムイエヌ、居たのなら助けてくれてもよかったらだろうに」


「あんな品性の欠片も無い人間と交わす口は持ち合わせて無いし、口が腐っちゃうよ」


 ムイエヌという少年のような男は先ほどのリッターが居たであろう方向に唾を飛ばした。居ないことを良い事に。

 その光景を見てダードーは更に溜息を吐き大きな体格が猫背になっていく。


「で、ダードー。お目当てかどうか知らないけど」


 下を向くダードーの顔を上げさせるかのようにムイエヌはハンガーステーションの入口を指差した。

 そこは異様な雰囲気だった。ステーションの中は見渡す限り人で埋め尽くされているのだが、ムイエヌが指差した先には人だかりが出来ていた。


 芸者の披露物か、どちらかというと騒ぎに近い華やかさのない空気だった。


 ダードーとムイエヌはお互いの顔を見合って頷き、その騒ぎの中心へと向かうのだった。



 



「お客さん、大丈夫ですか?? お客さん??」


「ぁぁあぁ・・・大丈夫か大丈夫じゃないかで言ったら達成感って奴ですよ、ここまで俺はやったんだっていう、やってやったんだ見たかこの野郎って気持ち」


「大丈夫ならさっさとそこを退けなさい! 他の人達に迷惑だから!」



 なんだよもう、余韻に浸るくらいいいじゃないか。

 さっきまで灼熱の荒野を渡り歩いてきたんだうつ伏せになってこの加工された床の冷たさを堪能したっていいじゃないか。あぁー超冷てぇー気持ちぃい。


 気配で感じるに俺の格好があまりに小汚い改め大汚いからかステーションの人間達誰しもが触れようとしない。

 それもそうだ、一体いつから身体を洗っていないと思っている。

 臭いは流石に自滅に繋がるから魔力で何とか押し込んでいるが俺の服、髪、皮膚。どこを触ってもその触れた手とかを汚いと必ず口ずさませる自信があるぞ。


 さぁ、俺を退かす事が出来る勇者はいるかな!?


「うわぁ・・・残念だけど当たり臭いし、臭い」


「ムイエヌ、流石にその言い方は」


「ん?」


 なんだ? 見かねた勇者の登場か? まだ床の冷たさを堪能しきっていないというのに思ったよりも早いな。

 床に付けた頬っぺたを上げ声がする方向へと顔を上げる。


 そこにはまさに凸コンビと言える男が二人いた。

 一人は俺よりも一回り大きい男、もう一人は俺よりも二回り近く小さいガキ? 一応性別は男っぽい。


 そして気持ち悪くペアルックなのか似たような青い服を着てる。

 いやまああれか、軍服見たいな奴か。流石にそっちのコンビなんて考えるのは無粋過ぎるな。


「あの・・・リュールジスさん、でしょうか」


「む、いかにも」


 思わず変な言葉遣いで返してしまった。

 以前相対した濃い奴等の真似をしてしまったか。


「よかった、見つかって本当によかったー・・・」


 大男が溜息混じりにとても安堵した様子が見てわかった。


 もしかしてこの二人を俺を・・・探してくれていたのか・・・?


 俺を・・・。


「なら迎えに来てくれてもよかったじゃないがぁぁああああ!!!!」


「え?・・・あ、えぇー・・・」


「情緒不安定、いやただの馬鹿か」


 

 俺はただぶつける事の出来ないやるせない気持ちを叫びに変え、こうして何とか何とか俺は目的へとたどり着いた。






―――   ―――   ―――




 運搬陸艦にギリギリ乗艦出来て数分。

 大男のダードーとチビのムイエヌと軽く自己紹介受け、俺は早々に風呂場に打ち込まれた。


 本来ならこの艦を任されている艦長とやらに挨拶に行く段取りだったらしいが俺の身形が予想を遥かに超えていた為最初は今いる風呂場、というわけだ。


 お湯で体を洗い流すのは一体何時振りだろうか。


 ダードーは関係者に状況報告ということで案内された部屋を後にしたが、ムイエヌは俺の監視ということで風呂場の入口前で待機している。

 暇だったから色々話し相手になってもらってたが、突然柄にも無くチビのムイエヌが声を上げた。


「リベリィを知らない!!!??」


「何だ!? 文句あんのか!!?」


「一々出てくんな!!!」


 バタンと扉を閉められた。

 なんだ、冷え切った都会育ち坊ちゃまってわけじゃないじゃないか。


「んー・・・本当に知らないんですか?」


「あぁ!知らない事の多さでは世界一を自称してもいいくらいだ」


 うわ、扉越しでもわかる。ドン引き顔してる絶対。

 だってしょうがねぇじゃねーか誰も教えてくれねーんだもん。

 知らないもんはわからないに決まってる。うんうん。


「ムイエヌとやら、お前もめんどくさい顔をしているだろう」


「誰しもがこの顔をすると思われますが」


 ようやく体にこびり付いた汚れを臭いも取れただろうからそろそろ風呂から上がるか。

 って、あれ?。


 俺の服・・・。


「あのさ、俺の服は・・・」


「最初に燃やして外に放り投げておきました」


「なんて・・・事を・・・!?」


 当然ですと言いたげな表情。扉から顔だけを出した俺に向けた。

 このガキ絞めてやろうか。

 どう苦しめて泣き事ガタガタ言わせてやろうか考えていると入口前に置かれた物に目が行った。


 服だ。


 そして恐らくこれは、こいつが着ている物と同じ奴・・・。


「え、何? 芸者トリオにでもなりたいの?」


「素晴らしい発想力で僕は感服ですリュールジスさん」


 えぇ~・・・着るのこれ?

 正直俺のセンスというか、好みじゃないというか。

 何か・・・カッコよくないというか。


「まあ、言いたい気持ちはわかります」


「わかってくれる?」


 意外なところで親近感が湧いた。

 一応用意された制服? を手に取って確認していく。

 ズボンは黒で少しちょっと目立たないところに青いラインが入ってるからまだ10歩譲って良い。

 インナーは今俺は持ち合わせてから仕方ないとして。


 ワイシャツ・・・はまあ普通だ、というか恐らくこれは単純に購買で撃っているような物だろう。


 問題はこのジャケットだ。


 何だろう、この優等生ぽさを演出しつつも幼さが垣間見えるみたいな感じのデザイン。

 これ着るくらいなら盗賊上がりのバンデットみたいに上裸の「シャオラー!スッゾオラー!オボエテヤガレー!」スタイルの方が個人的に好みなんだが。



コンッ! コンッ! コンッ!



 突如としてそれはやってきた。

 部屋の扉にノックの音、そして。



「リュールジスさんのお部屋はこちらでいいかね? 私はこの運送艦を任されている陸軍少佐の艦長の者だが」


「「えっ?」」


 ついついムイエヌと同じ言葉が口から出てきてしまった。

 え、ちょっと・・・は!?


 待て待て待て、何でお偉いさんが俺に用があるんだよ。

 ってか、俺の方から挨拶に行くんじゃなかったのかよ。


「いいから早く着て下さい!!」


「いやじゃぁー!! こうなったらこの髪の毛もバンデット流行スタイルのモヒカンにするまでだぁあー!!」


「四の五の言わずに早く!!」


 俺が立てこもっている風呂場の入口を強引に入ろうとするムイエヌ。

 それを体全身を使って阻止する俺。



「俺は絶対に着ないぃぃぃいい!!!!!!」





―――   ―――   ―――





「ハハハハ、そんなに畏まらないでくださいよ」


「あはは・・・恐縮です」


 結局俺はワイシャツにズボンというとんでもなく普通のスタイルで妥協する事にした。

 あの後騒ぎを聞き付けてもう片方のダードーが体系通りの力持ち過ぎて流石に負けそうだった。

 いや別に負けてないし。大人の対応しただけだし。


「改めてお伺いしたいのですが、あなたがリュールジスさんでお間違いなかったですか?」


「え、あ、まあ、そうとも言えるし、そうなのかなーって思えなくもなかったり~・・・あはは」


「間違い無い・・・と思われます少佐殿」


「何度も確認は取ってます」


 部屋の客間でテーブル越しに対面してる。

 そして男二人は壁際から手を後ろに組んで立ちながら俺に野次を飛ばす。


「ん~・・・そう、ですか。いやはやこれは失礼しました、以前お見かけした時に比べて・・・そのぉ」


 なんでこの艦で一番偉い人が逆に気を使っているんだ。

 その反応に俺は苦笑いしか浮かべられないっての。


「ん、以前って・・・」


「あぁ、とは言ってもかなり昔の・・・確かあれは」


 顎に手を当てて思い出そうとしている。どちらかと言うと年数を計算でもしているのだろうが。






 そんな一時。





 突然それは鳴り響いた。




「っ!?」




 カンッ!!カンッ!!カンッ!!カンッ!!カンッ!!―――




 危険を知らせる鐘が艦内に響き渡った。




「これは・・・!」


「艦長!」


「あぁ、すまないが挨拶はまた後ほど」



 この部屋に居た俺以外の人間が一気に顔色を変えた。

 艦長はすぐさま部屋を飛び出した。


 そしてそれは、ほぼ同時に起きた。


「うわぁっ!!!?」


 陸艦が大きく揺れた。

 機動を急速に変えた訳じゃない、外からの衝撃。


 外敵要因。



「ユース共! いつまでここにいる!!」



 なんだ今度は、二人と同じ様な青い制服を着た顔長でポニーテールの如何にもウザそうな男がノックもせずに部屋に入ってきた。



「それでもリベリィか!」


「申し訳ありませんリッター! やはりこれは!」


「当たり前だろう!」



 この騒動の正体。

 陸艦に乗る全ての人間が顔色を一瞬で変えてします存在。

 さっきまでの日常を簡単に壊す物。



「アンダーズだ!」




 人類の・・・敵。

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