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18.似た者同士


 ムーが犯人を取り逃した翌日だった。

 

 リッター・ミレスは、ダッドとムーの二人を連れていた。

 みな表情は険しく、向かった場所は昨夜ムーが見たという男。

 その男がいる談話室へと向かったのだった。 

 


「これはこれは、リッター・ミレスと。お荷物お二人ですか」


「あなた聞きたい事があります、事と次第によっては拘束させて頂くことになります」



 リッター・ミレスの言葉に空気が一気に重くなる。

 ムーが見たという、目の前にいる男もその認識になり何があったのか聞く耳を持つようなった。



「ユース・ムイエヌが、昨夜襲撃犯を追跡した事はご存じですか?」


「あぁー、噂程度ですがね。取り逃がしたんだって?」


「そうさ、お前の顔をした犯人をな」



 今にも飛び付きたい気持ちを抑えたムーが発した言葉に、談話室の空気が一変した。

 何よりもその言葉を向けられた男の顔がより一層、変化していたのだった。



「何を・・・貴様! よりにもよって訳のわからん濡れ衣を!」


「僕は、この目で見たんだあんたを! 濡れ衣を被せてきたのはあんただろが!」


「ローユース如きが!! ふざけたことを!」


「あんたローユース以下だろう、この犯罪者が」


「何だと!!!?」



 ガシャーンッとテーブルに置いてあった食器の類が吹き飛んだ。

 それを合図にするかのように二人は取っ組み合いを始めた。


 男の力も相当の物だろうが、ムーも負けず劣らずに抵抗する。


 談話室が一気に荒事の渦へと変貌した。

 静かに過ごしていた者達は次々と関わらないようにと出ていくも、お構い無く二人は止まることは無く殴り合いに発展した。



「やめなさい二人共!!」


「あんたがリュルを貶める為に、こんなくだらない事をし始めたんだろ!」


「何故私が品性の欠片も無い奴などを! 証拠も無いのに!」


「証拠も無く迫ったのはあんただろうがぁあー!!」



 暴れるムーをダッドが、男は他の取り巻きが止めようとするもすぐに振りほどきお互い言い合いをしながら取っ組み合う。

 リッター・ミレスも二人を止めようと言葉を掛け続けるが、一切耳に入っている様子が見受けられない。


 このままでは、更に大事に発展する。そう思われた時、大きな手を叩く音が鳴り響き、みなの鼓膜を刺激して動きを止めた。



「青春真っただ中で、すまないね。 ただ謳歌するなら場所を弁えてほしいですよ皆さん、ここは談話室、言葉を発するのが目的の場所。拳で語り合うには不相応ではないかしら?」


「が、学院長・・・!!」



 みなの目線が手を叩いた学院長に集まり頭を下げ始める。

 当然取っ組み合っていた二人も、その姿を見てすぐに距離を離し頭を下げていた。



「丁度、ここのコーヒーが飲みたくなって来てみればこの寮は随分と他と違って活気が溢れているようね? レプティ寮長」


「は、ははははは~。そうなんですよー学院長ー。東寮の教訓でしてなぁ~あはははは」



 何処から現れたのか、リッター・ミレスの真横に突然レプティが姿を現した。

 ミレスはそんなレプティを睨む。見ていたなら助けろよ、と。


 そしてみな学院長のコーヒーブレイクを黙って見ていた。誰もが思っていること、それは・・・。



「まずいよ・・・寮の全面停止処分かな?」


「馬鹿、聞こえるだろうが」



 取り巻き達がこそこそと話す。


 全面停止処分。


 単純な話し、抗議も出動も一切の出入りを禁止するという物。リベリィとしての自覚が足りない寮全体の責任として下される重い処罰。

 それは全世界のリベリィ内に留まらず、ほぼ全世界に知れ渡る物。もしそんな事になれば自分がヘリオエールの東寮から来たと言っただけで白い目で見られる事になるのは間違いない。



「ふぅ・・・」



 一息付きながら考え事に耽っている学院長が急に固まっているユース達に目線を送る。

 その中でも、一人の男へ向けて口を開いた。



「たしか、ユース・ムイエヌ。だったかしら?」


「は、はい・・・!」



 学院長の言葉に一歩前に出るムー。

 目線は合わせず下を向いていた。


 ムーは恐れていた、もしかしたら自分の軽率な行動で自分達の立場が揺らいでしまうのではないかと。



「どうして、彼に迫ったのですか?」


「・・・・・・。リュル・・・仲間を・・・僕の仲間に酷い事をしたからです」


「酷い事、ですか。リベリィの違反では無くてですか?」



 学院長の言葉の意味をムーは理解して止まった。

 そう、本来ならリベリィ同士の争いを止める為だと言えばよかった。

 完全にムーは間違えたと自覚した。これは完全な私怨だと。



「そうです! 相手が誰であろうと関係ありませんでした!」


「ほおー・・・」


「待って下さい学院長! 自分も本気でムーを止めませんでした! 自分達の大切な仲間をはめた男を許せませんでした!!」



 ムーを庇うかのようにダッドも前に一歩踏み出し学院長相手に声を大にして言い放つ。


 その行動に学院長は目を瞑り、黙り、再び思考していた。


 誰もが二人の言葉の意味を理解していた、いや正確にはその言葉で受ける罰を理解した。

 ムーに殴られた男も不敵な笑みを浮かべた「終わったな」と。



「いいでしょう。この件は追って寮長であるレプティ先生から通達をするようにします。それまで、リッター・ミレス以外の、ここにいる全員に自室待機を命じます」


「・・・はい」



 

 ちょうどコーヒーを飲み終わった学園長は振り返ること無く、談話室を出て行った。

 お見送りをする為にとレプティも学院長の後を追った。



「彼を引き取ってからという物、中々飽きさせないじゃありませんか。この事をあの子達に報告したどうなるのやら・・・」


「はははは、心中お察しします。でも・・・」



 いつもふざけた笑みを浮かべるレプティが学院長に向けて真面目な声で答えた。



「これもまた、"竜の導き"なのかもしれませんね」


「・・・あまり考えたくはないわね」






―――   ―――   ―――




「だぁああーはははっはははっはは!!!!」



 各々が自室待機を言い渡されてからリッター・ミレスはリュルとプンの部屋へと向かった。



 一応事の発端やその経緯を話された俺は笑いを止めることが出来なかった。



ドンッ!ドンッ!ドンッ!

「うるせー! 笑うな!」


「何だよ~ム~~~~! そんなに俺の事を思ってくれてたのか~~??? 嬉しくて抱き付いてやりたいなぁー! この俺達の関係を隔てる壁が憎いなぁ~~! お前もそう思うだろ!!!?」


ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!

「うるせぇえええええー!!!」



 全く、照れ屋さんな奴め。ムッツリなんとかって奴だな間違いない。

 

 それにしてもそんな事が早朝にあったなんてな。

 やること無いから、寝てたら急にプンに叩き起こされてみたら今に至る。



「それでね、プリエちゃん。申し訳ないんだけど、色々手伝って欲しい事があるんだけどいい?」


「え・・・うん」


「駄目だよ、プンが居なくなったら誰が俺の世話を―――」


「あぁんっっ!!!!? なんか言った!?」


「いってらっしゃいませー・・・」



 俺は完璧な笑顔で二人に手を振り見送った。

 くぅ・・・! これを機に少しでもプンとの言語関係改善を図ろうと思ったが仕方ない。



ドンッ!ドンッ!

「それで? どうなんだ、お前達的に」



 俺は再び壁にもたれ掛かり隣の部屋の二人に話し掛ける。

 自室待機なんだからやめろ? うるせーな。



「正直わかんない」


「自分も、実際見た訳じゃないですけど。冷静になると何とも」



 歯切れが悪いな。

 実際に殴り合ったムーがそう言うか。絶対あいつだ、あいつが犯人だとでも言うと思ったが意外だな。

 

 話しによれば昨夜襲撃に遭った男もあの取り巻き達の一人で、今療養中だとか。


 それを襲ったのが、ムーが見たのはあの俺に言いがかりを付けた奴か。



「まあ、普通に考えれば変だよな」


「うん、わざわざ自分達の仲間を襲うかって」


「え・・・あっ。そうか! じゃあ真犯人は別にいる!」



 ダッドが物凄い閃きをしたの如く頷いていた。

 そうゆう事だ。


 仮に本当にあの男が犯人なら、自分の仲間を立て続けに襲うのはおかしな話だ、それこそ他の奴を標的にした方がいい。


 それこそ・・・。



「派閥・・・か」


「え?」


「いや、なんでも無い。 これからどうするんだ? 俺としてもこれ以上、厄介事は増えて欲しくないと思ってるし、昨夜の件で俺が犯人と思う奴も少なくなったとは思うけど」



 ムーの言葉かオウギフ派の連中か、どっちの言葉を信じるかはわからないけど、どっちかわからない。どっちでも無いのか。

 他の寮のリベリィにはそうやって思ってもらえるなら十分だ。


 はぁ、一体何をやってるんだか。

 俺達の敵はアンダーズだろうに、お互いの足の引っ張り合いが起きるなんて思ってもみなかった。

 いや、そうでもないか。何となく心の何処かでこんな事は起きるような気はしていた。



「とりあえず、リッター・ミレスの報告待ちって所だな」


「そう・・・ですね」


「・・・うん」



 俺達は一先ずは動かないようにしよう。そう決めた。


 そして俺はソファーに座り抗議の教本を片手にボーっと考えていた。

 もしこの一連の事件が、真犯人の計画通りに進んでいるのであれば。


 何が目的だ。


 俺達、仲良し4人組の動きを封じたい人間?

 最近の好成績に嫉妬した奴等・・・それはたくさん居そうだな。


 それ以外・・・俺達を敵視している人間。

 いや、その考えがそもそもの間違いの可能性は無いのか?

 

 俺達は・・・利用・・・されている?



 そうだ。ついつい自分達の力が増していたから勘違いをしている気がする。

 買い被りって奴だ。

 つまりもっと小さい小さい事だ。それがまさかの大事になってしまっているだけ。


 何がきっかけだ。

 それさえ解れば・・・。それさえ。



「あり得るな・・・」



 俺はすぐさまプンに連絡を取った。とある事を教えてもらう為に。



「うん、それなら確か」


「わかった、じゃあ開けさせてもらうからな」



 それだけ伝えて通信を切る。

 後ろでぐちゃぐちゃと雑音が聞こえたけど完全に無視した。


 早速プンの机の引き出しを調べるとすぐに目当ての物が見つかった。



「これか・・・」



 この寮の、部屋割り表だ・・・。





―――   ―――   ―――





「こんな夜遅くに何用だ」



 男が一人、東寮の屋上に姿を現していた。

 一枚の手紙を手に握りしめて。


 オウギフだった。



「貴様からこんな手紙を貰うとは思っても居なかったぞ、リュールジス」


「・・・・・・」



 屋上にオウギフを待ち構えていたのは、リュールジスだった。

 リュールジスは一言も喋らずに、オウギフへと近付き。



「なっ! 貴様!!」



 突然襲い掛かってきた。

 オウギフは咄嗟にリュールジスが持つ小型ナイフのような物を避けると同時にある物に目がいった。


 ブレイカーだ。


 リュールジスはブレイカーを装着し自分に襲いかかってきた事にオウギフは驚愕してきた。

 一度距離を取り対峙する。



「貴様・・・何の真似だ! こんな事許されると思うな!」


「俺達の為に・・・死ね!!」



 ブレイカーの出力を上げる音が響く。

 そしてナイフを両手に持ち急速でオウギフ目掛けて突撃する。


 オウギフもすぐさま、対応しようとするが。ブレイカーを装着していないオウギフは顔を顰める。


 このままじゃ、殺さる・・・そう覚悟した時。



「ぐおっ!!!」


「何っ!?」



 ナイフがオウギフ目掛けて刺さった。そう確信した瞬間リュールジスの目の前からオウギフの姿は消えていた。

 消えたオウギフは、何かに吹き飛ばされ屋上の出入り口の扉に激突していた。


 リュールジスは、オウギフを仕留められなかった。


 そして邪魔をした者のへと視線を向けると驚愕した顔を浮かべた。



「よう、俺も、混ぜてくれよ」



 そこ立っていたのは、リュールジスと同じ顔をした。



 リュルだった・・・。

 

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