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17.君は一体誰だ


「貴様がオウギフ様のみならず、我々にも危害を加えているのはわかっている!!」


「ちょっと、待て待て待て待て待て」



 何を言い出すんだこいつは。

 俺がお前等の誰かを手に掛けた? しかもトップのオウギフを俺が危害を加えただって?


 あまりの衝撃に俺は言葉が出ないよ。



「とぼけるなと何度言わせる! 貴様は査問議会へと行ってもらうぞ!!」


「はぁあああああ!!!?」


「証拠も無いのにそんな横暴!」



 査問議会って確かこのヘリオエール内のみならずリベリィ全体の問題児を調べるとか何とかって奴だろ?

 噂かどうか知らないけど、非合法な尋問をしても許されるとかなんとか。


 え、そんな事になってるの?



「同胞のリベリィに危害を加える事の重大さ。リッター・ミレスならばおわかり頂けますよね!」


「それはそうです。リベリィ同士の戦いは刑罰に値する、世界の挙げた一番最初の取り決めですから」



 えぇーそうなの?

 当たり前過ぎて誰も教えなかった奴だこれー・・・。



「つまり、あなた方が彼に詰問しているのは、その覚悟あっての事。ということで理解していいのですか?」


「そ、それは・・・!」



 うわぁ、一気に押し返されてやんのダッセー。

 リッター・ミレスの言う通りだよな。査問議会なんて言葉を出したからには自分達も査問議会に顔を出す覚悟、自分が裁かれる覚悟があって初めて他人を罰する権利がある。


 その覚悟は、こいつ等には無いっていうことだ。



「ですが、リッター・ミレス! 間違い無く我々の同志はそこの者の名前を口にしたのです! リュールジス、リュールジスにやられたと!」



 なんだ、これ。

 すっげぇ嫌な空気が醸し出されてる。

 取り巻きの言葉にリッター・ミレスも言葉を選んでいる。


 俺がやった。ここにいる全員に俺のアリバイを聞くことは簡単だ。ここ数日は俺がそんな事をする暇なんて無かった事。

 だが、それで取り巻き共が納得なんてする訳がないのだ。



「わかりました。リッター・リベリィの名において、私がその件をお調べしましょう」



 取り巻きの方へ歩き出すリッター・ミレス。

 何なんだこれ。


 俺は本当にこの状況が理解できないでいた。一体何が起きているのかと。



「今日はみんな解散です。ユース・プリエ、念の為彼の監視をお願いします」


「イエス・リッター」


「リュールジス君、そうゆう事だから。君には寮の自室での待機を命じます」


「わーったよ」



 それじゃあと、リッター・ミレスに続くように取り巻き達がゾロゾロとその場から去って行った。


 取り残された俺達は、ただその場で溜息を吐くしか出来なかった。



「こりゃ、コヤツの完成はまだまだ掛かりそうだな」



 せっかく出来たデータを見ながらチシィも大きなため息を吐くのだった・・・。





―――   ―――   ―――





「変なのに目付けられたね」


「全く迷惑でしかないな」



 出る杭は何とやら。

 俺達は解散を言い渡されてから、俺の自室に集合して飯を食っている。


 全員飯という気分になれず、あまり食が進んでなかったが。



「食べた方いい」


「・・・そうだな」



 プンは相変わらずというのか何と言うかいつも通りを貫いてる。

 プンに言われる通り、俺達は進まない手を動かし飯を口にしていく。


 変にしんみりしてしまっているが。ここにいる奴等はさっきの事で一切俺を疑ってないんだなというのが良くわかる。

 それ以上に心配してくれている。


 なんだかなぁ。

 こんないい奴等に迷惑をかけてる自分が情けなくなる。

 でも今回に関しては言い掛かりも甚だしい。


 何かをしてしまった・・・ということなのだろう。



「やっほ~。みんな元気してるか~い」


「レプティ寮長」



 なんだか、久しぶりに会った気がした。

 というか、学院長へ案内されてから一度も会ってないな。


 まさか・・・そろそろタイムリミットか。



「あぁー大丈夫大丈夫、学院長の返事はまだまだ大丈夫だから」


「と、なると。例の件ですか?」


「そゆ事~。気になってると思ってねー」



 そう言ってレプティ寮長は何の躊躇も無く開いているソファーに座る。

 食べながらでも言いと告げ、早速話し始めた。



「どうやら最近、オウギフ君の部下。君達風に言うとオウギフ一派の子達が次々と不可解に襲われているんだ」



 襲われている。

 つまりそれは、今回初めてというわけじゃないのか。本格的にキナ臭くなってきたな。



「最初は私達教員側も軽く見てしまっていたのだが、次第にその件が続いてしまってね。最近では入院者を出す程に大事になってしまってね」



 何やってんだよ教員達は。

 ユースの管理もまともに出来ないなら、今後は自分の身は自分で守らないと駄目そうだな。今まで以上に仲間以外は信用しない方がいいなと俺は心に決めた。



「そんな事が・・・」


「外部の者の犯行の線は?」


「まあー、考えられなくもないけど。ねぇー?」



 俺達は普通の一般人と違い、魔力がある。当然個人の差はあるが、それでも魔力を持たない一般人からしたらアンダーズと何も変わらない一種の脅威だ。


 そんな化け物達に喧嘩を売るなんてのは普通じゃあ考えられないわな。



「一応ユースの子達にはわからないように、秘密裏に事件の真相を解明しようと動いてはいたんだけど・・・あむっ、このから揚げ美味しいね」


「全く足が掴めずに・・・さっきの出来事があった。ということか」



 寮長達の言う秘密裏に動いていたのがわからないが、ヘリオエール内のそれなりの者が調査に当たったはずなのに、一切手掛かりが掴めないとなると。


 うわぁー面倒くせー。

 唯一の手掛かりは、俺って事になって。俺が重要参考人って奴になるわけか。

 爆発されるのも本当に嫌だけど、これはそれ以上に嫌だな。



「当然、僕と学院長"は"、君の事を信じているから。これは一応釘を刺しに来たって思ってくれればいいから」



 随分と強調されたが、言いたいことはわかる。

 下手に動くな、何もするな。ここで変な事が起きたら、ここに住まわせて貰ってる学院長の顔に泥を塗る事になるぞ、って奴だ。


 どうゆう事になってるのか未だに疑問だった、ヘリオエールでの俺の扱いが若干見えてきたようにも思える。


 特別中の特別、学院長のお墨付き。

 今の所成果を出しているからいいけど、問題を起こすようなら。



「そうゆう事~、集団組織生活ってのは一人旅に比べて窮屈なのは重々承知だけどさ、ね?」


「わかってますよ、子供で居たい気持ちもあるけど、ここは大人しくしてますって」


「う~ん、んじゃあーよろしくに~~・・・あむっ」



 最後の最後に俺のから揚げ食って行きやがって。

 でもまあこれではっきりしたな。


 詳しい状況はわからないが、俺の名前か体を使って悪事を働いてる奴がいるってことか。



「あぁー・・・」


「ご飯は?」


「お腹一杯、俺ちょっと寝るわ~~、片づけよろしく。おやすみ~」




 それだけを伝え俺は自分のベッドに入り布団を被ったのだった・・・。



 なんだか、今日は・・・嫌な夢を見そう。そんな気がしてならなかった・・・。





―――   ―――   ―――




「納得できません!! あんな"化け物"と一緒なんて!!!」



 新しく来た新兵が、上官に詰め寄っていた。

 これは何度も見る光景だった。


 通りすがりに見たそれを俺は横目で見てすぐに立ち去った。



「化け物・・・」



 自分の左手を見て呟いた。

 化け物なんて、自分が一番よく知っている。どうしてこんな事になったのか。それは俺が望んでやったことだから。悔いなんて一切ない。


 ない・・・けど。



「おぉ~~リュールジスじゃん。まだ起きてたのかー?」


「いや・・・別に」



 慣れ慣れしく俺の肩に手を回す男。

 ある意味で長い付き合いの男、この部隊が出来た当初から居る奴だ。


 こいつも最初は、遠目で俺を見ていた人間だったが。最近は願っても無いのに無駄に絡んでくる。正直迷惑な奴だ。



「なんだかんだ、お前も年頃だからな。よし!そうと決まれば俺の秘蔵の酒とつまみを食わせてやるよ~~!」


「いや・・・いい」


「遠慮すんなって!!」



 半ば強引に部屋に連れてかれて酒飲みに付き合わされる。俺はまだ未成年で飲めないのをわかっていてコイツは事ある毎に俺を朝まで付き合わせる。



「それでなー! 俺言ってやったんだよ! お前意外にも俺の女はいっぱいいるんだ! それでもいいのか!! ってな!!」


「ふーん」



 いつもいつも女の話で一人で盛り上がっていた。

 どれだけ俺が興味が無い事もわかっていても、コイツは永遠と付きる事の無い話題の引き出しを開け俺に聞かせてきた。


 自分が最初に惚れた女。初めて告白した女。告白された女。抱いた初体験・・・。


 ことあるごとに俺は一体何を聞かされているのかと疑問に思うことが多くあった。

 それでもコイツは、俺を何度も何度も部屋に連れ込み同じように盛り上がる。



「がぁあ~むにゃむにゃ・・・俺の女はなぁー!」



 そしていつも、決まって先にダウンして眠りに付いていた。


 それを俺はいつものように毛布を掛けて、自分の部屋に帰るのが―――







「リュール・・・ジス」


「っ・・・!!?」



 毛布を掛けようとした時、彼の顔が血みどろへと変わり果てた。

 右目は抉れ血が吹き続けている。


 なんで・・・こんな・・・。



 また・・・夢・・・夢を見させられてるんだ。



「お前・・・は、生き・・・」


「ぁ・・・ん、なっ・・・!」



 呼吸が出来ない。

 言葉が出ない。


 ただ涙を流す事しか出来ない。

 その場で彼を、彼の言葉に耳を傾けることしか。



「俺・・・分・・まで」


「あぁぁ・・・ああぁあ・・・!!!」







 また、一人。

 俺に声を掛けてくれる者が・・・死んだんだ。













「うあぁあああ!!!! はぁ、はぁ、はぁ・・・!!」



 また夢だ。

 ベッドの上で俺は汗だくになっていた。


 息が治まらない。喉が痛い。汗が止まらない。


 すぐさま風呂場へと向かいシャワーを付ける。



「んっ・・・! おぇえ・・・!!!」



 俺はすぐに吐いた。

 頭から水を浴びながら吐き続けた。

 そして治まらない荒い息の中、口にした。



「アードラン、アードラン、アードランアードランアードランアードラン・・・」


 許しを乞うように何度も何度も。


 夢で見た、彼の名前を口にした。





「・・・大丈夫?」


「っ! ぁ・・・プ・・・プン」



 振り向いた場所には、今のルームメイトの姿があった。

 いつも無表情な彼女、今もいつものような表情を浮かべているが、目は違っているのが良くわかった。



「ごめん、ちょっと・・・急に気持ち悪くなってさ。変な飯食ったかな? ははは」


「・・・・・・。ならいいけど服」


「え、あ・・・ごめん」



 服を着たままびしょ濡れだ。

 こりゃあ参ったな。こんな時に出動要請なんて来たら困るな。



「悪い、すぐに出るよ。んじゃ」



 風呂場の戸を閉めて。

 改めてシャワーをお湯に変えて落ち着きを取り戻す。


 久しぶりの悪夢。

 ヤバいな、ここに来てから治まったと思ったらこれだ。何とかしないといけないなこりゃ。


 一度学院長に相談? レプティ寮長の方がいいか?


 どちらにせよ、それと無く伝えておいた方がいいな・・・こりゃ・・・。












「・・・・・・」



 リュルの変えの洋服をプンは風呂場の入口に置き、再びベッドへと向かった。


 リュルが起きた時、そして風呂場で口ずさんでいた言葉。


 プンはこの事を忘れないようにしようと、目を閉じ再び眠り付いた。







―――   ―――   ―――





 それは、リュルが悪夢から目覚めていた時と同時刻だった。



「流石にまずいんじゃ、ないかなムー?」


「そうだけど、リュルの潔白証明は大事だろう」



 二人は寮の外へ出て暗闇に包まれている学導院を巡回していた。

 学導院には一応灯りは灯されているが、あまりにも心持たない。


 それでも二人は足を止めずに居た。

 何故なら、それは全て。恩人の為の行動だったから。

 今日ここで真犯人さえ見つけることさえ出来れば・・・。







「うわぁあぁああああああああああー!!!!」





 静まり返る空気を一瞬で壊した。

 

 二人はすぐさま、声のした方角へすぐに向かう。

 あれから訓練に訓練を重ねた二人は、ブレイカー無しでも微力ながら魔力を使う事が出来る。

 それは一般人からすると十二分の物。

 魔力で身体強化した二人は高速で移動していく。



「ムー! あれ!」


「うん!」



 何かが倒れている人影を見つけ、そしてその場から二人の気配を察したのか、その場を立ち去ろうとする人影も一緒に目にした。



「ダッド、彼をお願い」


「ムー!!」



 倒れている人間をダッドに任せ、ムーは一人逃げた人影を追う。

 予想以上に距離が詰まっていた。話しにあった魔力変化で自らの力を増している事を実感するムー。


 このままなら追いつける。



「っ・・・」



 ムーの速度に観念したのか、人影は東寮の屋上で動きを止めた。

 その怪しげな動きに警戒しながらムーは距離を置いたままジリジリと近付く。



「お前が・・・真犯人なのか!」



 ムーの呼びかけには当然のように返す事はなかった。

 だが、ムーの目的は、違う。


 あと少し、あと少しでその姿を見る事が出来る。


 あと一歩。



 地を踏み締めた靴の音がこだました時。



「は・・・なんで、お前が」



 ムー犯人の姿を肉眼で捉えた。だが脳がそれの事実に困惑を余儀なくされた。

 男がまた襲われた、そこに間違いはない。問題はその犯人。


 それは・・・。



「お前・・・昼の取り巻き・・・!?」



 ムーがそう口にした瞬間、目の前の犯人はスモークグレネードを投げつけ視界を消した。

 その行動に反応しきれずスモークを吸ってしまい咳き込むムー。


 魔力で一振りさせ煙を散らすも、もうその場には誰も居なかった・・・。



「何が・・・どうなってるんだよ」



 こうしてまた、一人被害者が出てしまった・・・。


 犯人は、リュルでは当然無かった。

 だが、それでもこの一件は一筋縄ではいかない、そう感じるムーだった・・・。

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