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16.親しめる日常のはずが


「ダッド君! 遅いよ! 敵の動きだけじゃなくてフォワードの動きもしっかりと把握して!」


「イ、イエス・リッター!!」


「ムー君は攻撃までの動作を短縮に努めて! 致命傷も大事だけど、敵を誘導する事も忘れないで!」


「イエス・リッター」


「で、あなたは!!! 前に無駄に行き過ぎなの!! こっちの事も少しは考えないさいよ!!」


「あ、俺!?」



 プンとの夜間任務を終えて数日。

 何やらリッター・ミレスは、俺達の訓練の指導役として付き添うようになったらしい。

 公に名前などはユースの為称賛等はされないけれど、あれから俺達は事あるごとに出動要請を受けては、アンダーズを撃墜していった。

 さっきも言った通り公な称賛はされないが、噂が蔓延るようになった。


 ユースにとんでもない奴等が居る。ずっと燻っていたのか。ヘリオエールの秘密兵器。リベリィの切り札か。


 そんな確証の無い噂が学導院内のみならず、近隣の街や外れにある小さな町や村にも広がっているようだ。



 【期待の新人等現る!! 又もや大手柄!!】



 最初はそんな見出しの新聞を見せられて自分達じゃない誰かが現れたのかと無関心だったが、次第にそれが俺達なんじゃないかと妙な危機感を感じるようになってきた。



「はーい、みんな集合。お疲れ様ー」



 そしてリッター・ミレスが俺達の教育係として名を上げたらしく、こうしてほぼ毎日、ヘリオエールの訓練草原エリアでずっとブレイカーを付けて魔力やスタミナが切れるまで永遠と走らされている。



「はぁぁぁあー・・・辛い、もう立てない!! 甘い物食いたぁあーい」



 芝生の上で仰向けになって空を見上げる。

 ダッドもムーも流石に、地べたに座り込み肩を上下させながら息を荒げていた。

 リッター・ミレスの教育方針は、とにかく俺達に足りないのは味方との状況判断能力だと説いた。個々の力はユースの中でも頭三つ抜けている。アンダーズの動きや予測に長けても、それでは何の意味も無い。


 一人だけでアンダーズを倒すのはグレードがマイスターにでもならないと出来ないといつもマイスター・アーシャを引きあいに出して口にしている。


 その為にも基礎体力と基礎魔力を付けながら、冷静な状況判断能力を養おうと全員が全力で広い草原を隊列を崩さずに何週も何週もすることになった。

 ほぼ、アンダーズの襲撃が無い日は午前の抗議が終わり次第ずっと俺達はやらされている。


 当然、ヘトヘトになるまで。

 一人を除いて。



「お姉・・・リッター・ミレス、これ」



 そう、プンだ。

 あれからという物、俺達と一緒に行動するようになった。本人曰く、俺が「ルームメイトだから」や「レプティ寮長に頼まれたから」だそうだ。

 頼まれたってあれだろ、同じルームメイトだからよろしくね。くらいの物だろうに。


 それでも、プンは何も言わず、おはようからアンダーズ迎撃して。みんなで飯食べて、訓練して、おやすみを繰り返した。


 いつしか普通に俺達の輪に溶け込んでいた。


 今も汗は掻いているものの、いつものように平然とした表情を浮かべている。こいつの基礎能力はどうなってるんだ。



「ふむふむ、プリエちゃんありがとう!! じゃあ、これは後でみんな集合した時に会議しようね! 汗掻いたでしょ? 一緒にシャワー浴びてこよー」


「でも」


「自分達は、少し休憩してから行きますんで」


「御先どうぞ~」


「わかった」



 なんだかんだ、ダッドとムーは良い奴等だからプンの事を頼りにしているし、プンも俺達の事を信頼している。


 逆にそれが原因でリッター・ミレスが血眼になって俺達の教育を言い出したんじゃないのかと思ったり思わなかったり。

 


「仲睦まじいって奴か」


「女の人って、妙に距離感近いように見えますよね」


「今までじゃあ考えられなかった組み合わせ、写真撮っておこう」



 後で売る為にってか。

 最近聞いた話では、ムーが最初の頃言っていたリッター・ミレスの変に有名というのはマイスター・アーシャの側近の一人という事もあったが、それ以上にありとあらゆる事で男を刺激するからだとか何とか。


 デカイ二つの山やプロポーションはもちろんの事ながら、それ以上に女性に対してのみ出る変な空気が物議を醸し出しているとか何とか。

 そうゆうのが好きな奴等にとっては眼福の極みだとか何とか。



 そして何故か俺は、姉妹であることを口止めされている。

 されているんだけど・・・。



(自分は隠す無いだろう絶対・・・)



 回りが自分の事をどう思っているのかわかっての行動なのか、はたまた妹のプンに対しての気持ちが抑えられないのか。


 俺達の上司は、いろんな意味でわかりません。



「あれだ・・・そう」


「ふんっ・・」



 あれから・・・丁度、夜間任務を終えた頃だ。

 プンが仲間になったこと以外にも、変わった事があった。



「今日も変なのがいるね」


「うちの上司のファンの方々だろうどうせ」


「だと、いいんですけど」



 そう、東寮の男達の一番のボスだったオウギフだ。


 今でも思い出す、あの時の奴を。

 スコア稼ぎかどうか知らないけど、俺とプンの二人に居合わせたオウギフは、帰還後どうやら様子が変になっとかなんとか。


 まあ今の所俺達には関係の無い話だから無視しておくのが安定だ。



「ほら男子ー。次ここ私達が使うんですけどー??」


「へーいへい」



 暗黙了解のような感じで訓練エリアは回されている。

 こればかりは本当にその場の空気のようだ、俺達にはリッターが居るから比較的楽に使わせてもらえるみたいだけど。

 それ以前は、二人曰くほぼ隅っこが使えるか使えないかくらいの物だったらしい。



「ふふふ、好調のようで何よりですわね」


「ん?」



 立ち上がってその場を去ろうとしたら、一人の女に声を掛けられた。

 気品がある、けれど柔軟性を兼ね備えてます感のある明るめの茶色い長い髪の女。

 まるでオウギフの女バージョンみたいな、整っている方! みたいな人だ。俺の好みじゃないけど。


 というか、誰だっけかな・・・。



「ナリヤゼスさんだよ」


「あぁー、ナリ・・ゼス・・・えーっと」



 小声でムーからフォロー貰ったのに言えない。

 不味いな・・・。本人はふふふと笑っているが、その取り巻き達が血相変えて襲いかかってきそうだ。



「構いませんよ、あまり話す機会もありませんでしたからね。それよりもよろしくて? リッター・ミレスがお待ちになってるのでは無くて?」


「あーそうだった。申し訳ない!」



 これ幸いと、俺達は一応お辞儀だけしてその場を去って行った。






「ナリヤゼス様になんて無礼な。これだから男というのは・・・!」


「良いのよ、彼もまだここへ来て間もないのだから。あなたも、そうだったでしょう?」



 リュルに苦言を言った自分の取り巻きの頬を指先だけで撫でる。

 顔を赤くし始めた取り巻きを見て、ナリヤゼスはほほ笑みすぐに手を離した。



「リュールジス・・・彼が、あの噂の・・・」






―――   ―――   ―――





「女子派閥ねぇ~、寮生活も大変だよな」


「それに関しては何処の寮も同じよー。まっ! 私達西寮の秩序は我等がマイスター・アーシャのおかげで保たれ、常に好成績を維持しているヘリオエールナンバー1を―――」



 あぁーあ、また始まったリッター・ミレスの病気が。

 いつもいつもそれはお前じゃないだろって言いたいけど面倒だから無視している。


 なるほどね、あのナリヤゼスって奴は東寮の女子トップってことか。

 今さらながら寮の派閥構成をようやく理解してきた。


 男子のトップのオウギフ派。それに対しての女子トップはナリヤゼス派。



「男女関係はどうしても溝が出来てしまうって寮長達も頭を抱えてましたよ」


「ふ~ん。店主ー! スープお代わりー!!」


「あいよー!!」



 話しによれば、訓練エリアをオウギフとナリヤゼスがよく取り合いの喧嘩が起きていたとかなんとか。

 で、今はその相手であるオウギフが何故かダウン中と。


 今日も東寮は女子が顔を効かせてるという事か。



「あいお待ちー! それとこれサービスね!」


「おほぉー! 小さいパフェ! サンキュー!!」



 何にせよ、そうゆうモノには触れないのが吉って相場は決まっている。



「あなた達って本当にはぶれ者って感じよね」


「でも、ここの飯は美味いだろ」


「ぐっ、そうだけども・・・」



 俺達は夕飯を外で過ごしていた。特別な事が無い限りは外食は許可されている。しっかりと報告さえすれば自由にしていいらしい。


 俺達はどうしても時間が無い時以外はこうして外で飯を食う事にしている。

 というのもその派閥連中と出来るだけ関わりたくないってのが主な理由だけど。



「そういえば、後で会議が何とかって言ってませんでした?」


「あーうん、食事の後にしようと思ったけど・・・」



 リッター・ミレスは周りを見渡す。

 街の日蔭というのか、あまり賑わっていない店内。内装も正直綺麗とは言えないお店。

 以前二人に教えて貰った店。リッター・ミレスもせっかくだからと初めて来た場所である。



「あーー、じゃあ上に行ってますから。ごゆっくりと」



 察しのいい店主はそのまま笑顔で店と繋がっている二階の自分の家へと昇って行った。

 立ち上がって気になさらずと返そうとするもその言葉をそのまま返されたリッター・ミレス。

 溜息を吐きながらも、目の色を変えて真面目なスイッチが入った。



「チシィからの報告よ。以前から考案されていたブレイカーの拡張パーツの試作品が出来たんだって」


「それって確か、チシィさんが考えたっていう固定型武装の事ですか!?」



 急に声を上げて興奮するダッド。

 まあ落ち着け座れと背中を叩く。



「そう、基本設計も全部彼女一人でやっていた物だったんだけど。生憎データが不足していたからずっとお蔵入りしていた物よ。どうやらあなた達のデータがかなり役に立ったようでね。明日その運用試験を行いたいんだって」



 あー。

 これあれだ、あいつ、俺達を実験台にするつもりだ。

 ちょくちょく俺だけじゃなくて他のダッド、ムー、プンと全員のブレイカーを事細かくデータを取ってた理由はそれか。


 ブレイカーの固定型武装か。


 全然想像できないな。

 まあ一応戦力増強には違い無いから、そこまで邪険に扱うことも無いか。

 なんだか最近は、チシィも俺達のブレイカーの専門顧問みたいになってる訳だし。


 俺達に下手な事はしないだろう・・・。















「あぁああ!!ああ!!あああああ!!あああああああああ!!!ああああああ!!!!!」





BOOOOOOOOOOOOON!!!!





「ふむ、拡張ブースターはやっぱりまだ見込みが甘かったようだな」



 抗議休日の朝一番。

 俺はブレイカーにわけわからん物を付けられ発射され爆発していた。



「よし、次。ムーお前じゃ」


「えっ!!!?」


「お前にはこの腰部装着型バスターキャノンをお願いしたい」











BOOOOOOOOOOOOON!!!!





「う・・・が・・・」



 俺が全力で放つ照射砲と同格かそれ以上の砲撃が空高くに撃ち込まれた瞬間ムーがそのまま爆発した。

 チシィはそれを遠くから見てふむふむと言いながら端末に記録データを保存していた。



「次」


「ひぃ! が、頑張ります!!」



 ケーブル接続型シールド発生器。

 何処から用意したのか不明の巨大な岩をダッドへ向けて高速で転がし、超濃度の魔力シールドを正面に展開させ、巨大な岩を受け止め粉々に吹き飛ばし。





BOOOOOOOOOOOOON!!!!





 ダッドは一緒に爆発した。




「ぁぁ・・・死ぬ・・・」


「おぉー戻ったなリュル、次はこれだ」



 また同じようなブースター型の拡張試作機。

 俺に四の五の言わせる前に勝手に装着され勝手に発射され。


 俺はまた爆発した。


 そんなチシィの実験は昼まで、試作機が完全にデータが取れないほどの使い物にならないまで続いたのだった・・・。



「よーーし、お前等休憩していいぞー」



「「「が・・・ぇ・・・ぁ」」」



 放心状態の俺達はみな川の字に大の字に寝ていた。


 プンが一人一人に飲み物を投げつけて渡してくる間、チシィとリッター・ミレスはデータの見直しをしていた。



「やっぱり間に合いそうにないかな?」


「んーー、こいつ等のおかげでかなりデータは取れてはおるが。形は作れても量産となるとギリギリと言ったところかのぉ」




 お話し合いが続いているようで何よりです。

 俺達が命を掛けてデータ、是非とも有効に活用して頂きたい。


 出来ることなら、もうこんな思いはしたくないのだけれど・・・。



「おい、お前リュールジスだな」


「あん?」



 痛くてたまらん体を起き上がらせる。

 すると、俺を呼んだのは意外にもオウギフの取り巻きだった。



「何か用か?」


「とぼけるな!! 貴様がやっているというのはわかっているのだ!!」


「どうしたんですか突然」



 難癖付けられ出した。

 前は二人だったが、今度は俺個人を名指しで来るとは。流石の事態に奥で作業をしていたリッター・ミレスが出張ってきた。

 それを見て急に態度を改め出した取り巻き達、睨む目線は俺にずっと向けているが。



「リッター・ミレス。この者は我等が同志を、姑息にも夜な夜な汚い手で襲撃したのであります!」


「はぁああああ!?!!??」



 取り巻きが言う事に俺はつい口から声が漏れてしまったのだった・・・。




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