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異世界転移して初日に殺されてしまった俺は  作者: いつき旧太郎
第1章 普通っぽい勇者、普通じゃなくなる
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根城への道

 俺たちは森の中を歩いて、山賊の根城に向かっている。

 足下はある程度頻繁に行き来があるのだろう、幅1メートルほどの道になっていて、土がむき出しになっていた。


 先頭を行くのは幸運にも生け捕りにされた山賊の男、ベルモンド君だ。

 生殺与奪は俺たちが握っている、ということを率直に受け止めたのか、非常に協力的な態度を示してくれていた。時折、だから殺さないで、と付け加えるあたり、あわれですらある。


 根城の構造、頭と中心人物の人相など、彼から聞き出せそうな情報はおおよそ聞き出してあった。

 ベルモンドはたいまつを持たされている。

 俺たち3人のアンデッドには月明かりだけで十分森の中が見えるが、彼はただの人間。多少夜目が利くようだが、明かりもなしに森の中は歩けないとのことだった。


『ところでブレイ。一つ聞きたいんだが』

『どうぞ。』


 ブレイの返答は短い。


『さっき、一瞬で移動したように見えたんだが、あれって何かのスキルなのか?』

『スキル<万里光行>。私から見えている近い場所であれば、一瞬で移動することができます。』


 瞬間移動だ。

 見えている場所、というのは、かなり便利なのではないだろうか。


『すごいな。』

『私は不忠者です。この身を盾にしてでも守らなければならない方を守ることができなかった。おそばに行くことができなかった。勇人様が与えてくださったこのスキル、無駄にはいたしません。』

『ん?俺が与えた?』


 そんなことをした覚えはない。


『このスキルは、黄泉がえった際に特殊スキルとして賜ったものです。』

『そうだったのか。』


 なるほど、それなら俺が与えたというのは間違いではない。


『今度こそこの身を盾に。』


 真面目な男だ。


『頼りにしていますよ。』


 ロゼリが念話に割り込んできた。


『は。』


 ブレイの態度は明確だ。俺には丁寧に。ロゼリには絶対の従属を。決してこの態度を崩さない。


『ところでロゼリも黄泉がえるときに何かスキルを?』

『もちろん。<無窮の鎖(チェイン)>というそうよ。生まれつきのものと合わせて、二つ持っていることになるわ。』

『へぇ、どんなスキルなんだ?』

『生まれつきのものの方は、神に祈ることで奇跡を起こすことができるの。スキル授与もその一つ。黄泉がえって得た<無窮の鎖(チェイン)>の方は、まだよく分からないのよね、使える機会もなくて。』

『そうなのか。分かったら教えてくれよ。』


 誰が何をできるのか、は重要だ。

 どんなゲームでも、そのキャラクターになにができるのか、が行動を決める出発点になるからだ。

 ロゼリの特殊スキルの効果が分かれば、行動の選択肢を増やすことができるだろう。


『ええ。』


 遠くにたき火の明かりが見えてきた。


「あのたき火か?」


 俺はベルモンドに尋ねた。


「はいです。狩りに出た俺たち待ってくれているんで。」

「そうか。それならそろそろかな。」


 俺の言葉にベルモンドがびくりと体を震わせた。

 絶対に勘違いした。


「いや、そうじゃない。おまえはもう用済みだー、とかそういうやつじゃない。俺は約束を守る男だ。ほかの二人もそうだ。いいな?」

「は、はい。ありがとうご、ごぜいます。」


 ベルモンドは俺の言葉を信じるしかない。


「わかったら止まってくれ。ここからは俺たちだけで行くから。」


 ここまで歩いてくる間に念話で簡単に作戦会議は終えていた。

 作戦名『囲まれなければどうということはない』だ。

 作戦を立てたロゼリいわく「戦力が上回っている側に複雑な作戦なんて必要ありません。」とのことだ。


 こちらの最高戦力はブレイだ。

 ブレイの家はもともと騎士団の家系で、幼少の頃からあらゆる戦闘技術を仕込まれた。

 魔法戦闘は苦手だったため、白兵戦の技術を中心的に鍛え上げ、その実力は王国軍でも屈指のものだったという。


 ベルモンドの話によれば、山賊団にたいした腕前の者はいない。

 ほとんど全員ベルモンドと同じか少し強いくらい。頭を除けば圧倒的、というほどの腕前の者はいないということだ。

 疲れ知らずのアンデッド、というところまで積み上げれば、不覚を取らない限りブレイ一人でも問題なさそうだ、とはロゼリの言葉だ。


「はい、お気を付けて、旦那……。」

「ここにいろよ。逃げるな、来るな。知らせるな。おまえがそうしても俺たちは大して困らないが、おまえは不幸にならずにすむ。」


 ベルモンドに言い残して、俺たちは山賊の根城に向かっていった。

 拘束もせず見張りもつけないのには理由がある。


 俺たちに足りないのは人手だ。

 アンデッド三人、偽装を突破できるだけの感知や看破系のスキルを持つ者が見ればアンデッドだとばれてしまう。

 ベルモンドを人手として使えるようになれば、いろいろと役に立つはずだ。

 これで彼が言いつけを守るようであれば、少しずつ何かを任せることを考えてもよくなる。


 一方、拘束しないことのリスクはと言うと、山賊団が警戒する、というだけだ。

 待ち構えているところに攻め込むのは危険度が上がるのは間違いないが、そのときはそのときで別の戦い方をすればいい。最悪、引き返せばいい。

 そうロゼリと話し合った結果決まったのである。


 俺たちは、少し傾斜のついた道を上っていく。


 山賊の根城は小さな山の中腹にあった。

 大きく3層に分かれている。土を盛って平らな場所を作り、木の柵で防御を固めている。

 一番下が出入り口である。たき火がたかれているのがここだ。今日のように夜間に人が出ているときは、たき火をして不寝番を出している。

 2つ目の層が最も大きい。生活の本拠がおかれ、ほとんどの者はここで生活している。奪った物や捕まえた獲物も大部分がここにある。

 3つ目の層が、頭と頭に近い連中が住む本丸だ。貴金属などの高価な品物や金銭がここに保管されている。

 それぞれの層の間は細い道で繋がれているだけだ。


 この根城を、一層目から堂々と奇襲して落とす。


 ある程度距離が近くなったところで、ロゼリが飛行の魔術で上空にあがり、根城の様子を偵察した。


『見た限り、情報通りのようね。』

『なら作戦に変更なしだな。』

『えぇ。行きましょう。』


 ロゼリが地上に降りた。





「ふあぁあ。」

 ケントは、暗闇を見つめながらあくびをした。

 不寝番というのは、あまり気が進まない仕事だ。出て行った連中が戻ってくるまで、門の外を見張り続けていないといけない。


 不作で食い詰めて山賊団に入ったが、これまで武器を持ったことのない人間は一番下っ端として、つまらない仕事をやらされることになる。

 一番の下っ端は、たき火に当たることすらできない。


「なー、ケント。今日はどんくらいの獲物かなぁ。」


 横で同じように退屈にしていた男、ボッグが暇つぶしに話しかけてきた。

 どこで生まれたのか知らないが、境遇はほとんどケントと同じだ。


「食える物たんまり持ってる商人、がいいな。」


 ケントは予想ではなく希望で答えた。


「あー、そしたら腹一杯食えるもんな。俺も商人ってところには同感。おこぼれが多い奴がいい。」


 不寝番には唯一いいことがある。

 金や宝飾品がたくさん取れると、不寝番にすこし多めに分配があるのだ。


「そうだな。お、戻ってきたみたいだぞ。」


 がさがさと歩いてくる音が耳に届いた。


「……明かり、なくしたのかな?」


 出て行った連中が持っているはずのランプの明かりが見えない。


「そうかもな。おうい!」


 ケントは門の外に向かって声を投げた。返事がない。


「変だな。」


 しかし物音は少しずつ近くなってくる。


「なぁ、ちょっと明かり持ってきてくれよ。」


 ボッグがたき火の周りにいる連中に声をかけた。たき火に当てっていた男の一人がめんどくさげにランプを持って立ち上がった。


 ようやく人影が見えた。3人だ。

 でていったのは10人のはずだけど、明かりをなくしてはぐれたのだろうか、とケントは思った。


「ほらよ。」


 明かりが来た。門の外が照らされる。


「ひ!!」


 ケントは見た。先頭を歩いている男の顔。人間ではない。いや、人間だったものの顔だ。

 骸骨が歩いている。

 二人目も骸骨だ。

 ケントも、ボッグも、明かりを持ってきた男も、本能的な恐怖を感じて思わず後ずさった。


 たき火の周りにいた残りの2人がようやく異変に気づいた。

 なにがあった、と動き始めた。


 骸骨たちが門を通って入ってくる。

 骸骨の一人は全身を覆う金属鎧。もう一人の骸骨はそれより軽装の、急所だけを金属で守った軽装鎧。

 三人目は最悪だ。


 首がない。

 体つきは女だ。

 華奢にすら見える。


 ケントはアンデッドというものに遭遇したことがない。村でも、ここでも、アンデッド化しないよう死体は必ずしかるべき手順で埋葬していた。


 しかし首なしで彷徨うアンデッドの話は誰でも知っている。


 そいつは死を求めて彷徨う。

 夜ごとに彷徨い、村を見つけては村ひとつまるまる皆殺しにしてしまうのだ。

 いい子にしないと首なしが来るよ、とは彼の村では誰もが言われたことのある脅し文句だった。

 それが、来た。来てしまった。


 ケントは心の底から震え上がった。

 侵入者だとか、戦うとかいった思考はすべて跡形もなく吹っ飛んでしまった。

 身がすくむ。ガチガチと震える歯が打ち合う音が聞こえた。自分の顎だろうか、ほかの誰かだろうか、それすら思考する余地がなくなっていた。


「こんばんは。」


 女の声だった。

 生ある者への憎しみを感じさせるぞっとする声だ。

 首なしがゆっくりと右手を前に突き出す。


「死ね。」


 女が命じた。


 骸骨が抜き身の剣を振るい、斬りかかってきた。

 ケントは動くことができない。動くことなどできようはずがない。死ねと命じられたのだから、命令に従って死ぬしかない。


 刃が振るわれ、ケントの首に迫る。


(あぁ、そうか。これは山賊になんてなった罰なんだ。おとなしく村で畑を耕していればよかったんだ。)


 ケントの脳裏に、両親の顔、隣に住んでいたかわいい女の子の顔が浮かんだ。

 ケントの頭が宙をとんだ。



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