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異世界転移して初日に殺されてしまった俺は  作者: いつき旧太郎
第2章 街に勇者がやってくる
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デッド・オア・アライブ

 

 俺とロゼリは、ベロアに勧められた宿に部屋を取ると、荷物を置いて、街の中を見て回りに出た。


 クレアッドの街は、人口5万人ほどの都市だという。

 100万単位の人口に慣れた俺には少ないように思えるが、そうでもないらしい。国境が近いこともあり、交易でそれなりに栄えている部類の街であるという話だ。

 市場では、近くの農村から持ってこられたらしい野菜や果物、動物が売られていた。


「勇人さん、あれ食べたいわ。」


 ロゼリに指定されるまま、桃っぽい果物を買った。一つ銅貨3枚。市場の品物の代金を見ていると、おおよその品物の価値が分かってきた。

 取引は基本的に銅貨でなされている。動物以外の食料品はほとんどの物が銅貨数枚という価格だ。銅ではあまりに枚数が多くなる場合には、銀貨も使われている。銀貨は枚数ではなく重さで計算されるようだった。


 正直ちょっとややこしい。

 銀貨を出すと『もう5グラムないか?』と聞かれたりするのである。ちょうどいい重さのものがなければ銅貨を足す。銀1グラムで銅貨2枚に相当するようだった。


「最近小競り合いがあったらしいね。」


 俺は桃っぽい果物を受け取りながら雑談を仕掛ける。商人は頷いた。品物を買ってくれた人間から話しかけられればむげに無視することはできない。


「なんでも、500人も出して賊を討伐しに行って負けたらしいじゃないか。なさけないねえ。」


 商人はやれやれ、といった調子だ。困っていると言うよりは、あきれているような雰囲気だ。


「賊っていうのはどこにいるんだい?」

「東の森の中だそうだよ。街道から離れたところなもんだから、発見が遅れたらしい。いまや賊の砦と化しているらしいぞ。」

「こわいもんだね。」

「ま、大丈夫さ。この街にはセリスフェル閣下がいらっしゃるからな。」


 商人が楽観視している理由がこれである。

 ほかの商人達にも聞いてみても、最後はこの台詞に行き着く。


「そんなにすごいのかい。」

「おうさ。なにしろドラゴン族だぞ。ずっと前に攻め寄せてきた1万の兵を1人で撃退しちまったらしい。」

「へぇ。それはすごいな。」

「だろ。そのわりに気さくな方でな。今朝もこのへんを散歩されてたぜ。」


 これだ。

 今朝だったり昨日だったりと多少の違いはあるが、セリスフェルを見た、という者が多くいるのだ。

 セリスなら今ごろ、ベロアに世話されて気ままにペットをやっているはずだ。今の状態では人型を取れない、ということも本人から聞いている。


 おそらく偽物なのだろう。

 しかし、そのおかげで街の住人達は安心して生活しているようだった。


「旅人さんは、どこまで行くんだい?」

「ん、ああちょっと北の方に行こうと思ってる。何か知らないか?」

「北の方は寒くて、作物があまり取れなかったらしい。ここで米とかたんまり買い込んで行った方がいいぜ。」


 おしゃべりで親切な店主だった。


「ありがとう。ところで、どこか薬草を買い取ってくれそうなところ知らないか?」

「薬草?」

「あぁ、実は俺の父親が薬師でね。そのおかげで、街道周りで珍しい薬草類を集めて旅費の足しにしてるのさ。」

「なるほどねぇ、それなら、西通りのシダーイさんとこかな。買い取ってくれるかは分からないが、いつも薬が足らなそうだから、可能性はあると思うよ。」

「シダーイさん?」


 たしかベロアリストにも名前があった。


「医療魔法師だよ。高い金取るけど腕はいいって評判だ。」

「なるほど。いいこと聞けたよ。ありがとう、もう一つ貰っていいかな?」

「もちろん。毎度あり!」


 俺はもう一個桃っぽい果物を買って店から離れた。

 いろいろと見て回ったおかげでだいぶ日が傾いてきている。俺たちは次の情報収集のあて、酒場を目指した。

 俺のイメージでは情報収集と言えば酒場だ、といってもいいくらいの位置づけにある。

 ゲームとか小説の見過ぎだろう。元の世界(にほん)で居酒屋に行って何かすごい情報が得られた、という経験はないのだから。


 しかしここは異世界。

 期待してもいいよね。軍師(ロゼリ)も反対しないし。


 この世界では、ファンタジー異世界によくある宿屋と酒場が一緒になった形式ではないようだった。酒場は酒場、宿屋は宿屋で分かれている。

 宿屋では飯が出ない。


 酒場に行くにあたって、俺だけ何も飲み食いしないのは不自然だから、魔法と革袋を組み合わせて飲み食いしているフリができるようには準備していた。


 記念すべき初異世界飯は羊肉の煮込みだ。味付けは見た感じ塩だろう。ビールに合いそうな見た目をしている。

 飲み食いできるフリはできても味までは分からない。

 一度真剣に味覚について魔法でどうにかできないか考える価値がありそうだ。

 目の前でおいしそうに飲み食いをしているロゼリを見ると本当にそう思う。


 俺はロゼリと明日の相談などをしながら周囲の会話を盗み聞きしていたが、めぼしいネタはないようだった。

 聞こえてくるのは、好きな子をどう口説くかとか、上司に対する愚痴とか、いい仕事したなお疲れ様とか、日本でも繰り広げられていたような話題ばかりだ。


 なんとなくわかっていたさ。

 そううまくはいかないってことくらい。


 ロゼリが満腹になったところで、俺たちは宿に戻ることにした。まだ日は完全に落ちておらず、薄暮といったくらいだ。慣れない街で夜闇の中を歩くのはよしておいたほうがいい。

 酒場はまだ栄えているし、酒場のある辺りでは人通りも多い。開いている酒場はどこも道沿いにランプを掲げていて、それなりの明るさが確保されていた。


 警備しているらしい武装した兵士の姿もある。鎧までは着けていないが、剣を下げ、槍のように長い棒を持っている。2人組だ。


「あれ?」


 俺は最初『見』間違えかと思った。ちらっと見ただけだったからだ。


「どうしたの?」


 二度見して確認する。やはりそうだった。


『あの兵士、生きてるよな?』


 ロゼリと念話をつなげた。


『そう見えるわよ。生きてるって感じするわ。アンデッドの雰囲気ではないわね。』


 ロゼリは、生死の気配に鋭い。

 生きている者、死にかけている者、すでに死んだ者、そういったことを感覚的に感じ取れているらしい。


『<不死王の凱歌(ノーライフウィナー)>がクエスト受注可能って言ってるんだ。』


 生きている者からクエストが受注できた試しはない。

 そもそも『死んでやり残した想い』を代わりに達成するものであるクエストが、生きている者から受けられるはずがなかった。


『それは、妙ね。2人とも?』

『そうだよ。』


 俺が答えると、ロゼリはすたすたとその兵士に近づいていった。俺も慌てて後を追う。


「飲んでたら宿の場所が分からなくなってしまったの。おしえてくれない?」

「いいよ。なんて宿だい?」


 兵士は言葉を返してきた。


「南鳩屋と言うの。」

「あぁ、聞いたことあるな。」


 知っている店らしく、兵士はロゼリに道を教えてくれた。


「ありがとう。」

「助かったよ。」


 俺は感謝を示しつつ兵士の肩をぽんと軽く叩いた。


『武勲を上げて出世したかったな。』


 頭の中で兵士と同じ声がした。


『クエスト「武勲を立てて出世する」を受注しました。』


 どうやら本当にクエストが受注できてしまった。何かの間違いではないようだ。


『やはり生きている相手って感じるわ。』

『こっちは、実際に受注できたよ。どういうことだろう?』

『不思議ね。すこし考えてみましょう。これは今夜は寝れないわよ。』



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