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異世界転移して初日に殺されてしまった俺は  作者: いつき旧太郎
第1章 普通っぽい勇者、普通じゃなくなる
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思慮の外


 オーク達は、意外にもすんなりと俺に従うことを決めてくれた。オークにとって、一騎打ちというのはとても重要な儀式であるらしい。一騎打ちの結果は神の意志によるものだからこれを違えれば部族全てに災いが及ぶ、というのだ。

 なんて大変なしきたりだろうか。

 思わないではなかったが、そのおかげで俺はオーク達、シグルドの一族の族長になることになった。一つ問題がないわけではないが、それはあとで解決するということにしておいた。


 オークの戦士達は、エルフとの戦いで傷を負った者もおり、万全の状態で戦える者は100名程度だった。俺はその100名に軽傷の者30人とで、援軍に向かうことにした。

 俺は、事前にロゼリと打ち合わせたとおり、オーク達と共に人間達に悟られない距離まで近づいた。


 人間達は斥候を出していなかった。

 エルフの他に敵勢力はいないと思っているのだろう。そのエルフも、昨日の夕方、レイフの指揮で無事騎兵隊を撃退したらしい。

 まさか、先日までエルフの里を襲っていたオークがエルフを助けるなど、誰も想像していないようだ。


 そして今朝、人間達の軍勢は慌ただしく動き、大部分がエルフを追って走って行ったところだ。

 ここまで全て、ロゼリが描いた作戦から一歩も離れていない。

 エルフの里での空城の計、騎兵隊の撃退の作戦、すべてロゼリの発案だ。


『空城の計は、おそらく罠だと考えた上で、対策をして踏み込んでくるでしょう。それだけの戦力差があると認識されているわ。しかし空城の計は、時間稼ぎと挑発のためのものだから、それで構わないの。敵は時間ロスを取り戻そうと、足の速い騎兵だけで追跡してくるはず。これを鮮やかに打ち破れば、次は歩兵も含めた大規模な部隊が出てくる。全軍ではなく、騎兵のけが人がいるから一部は残ると思うわ。』


 孔明か、あいつ。

 エルフたちを追っていったのが、およそ300。

 その場に残った人間達は200人に届かないだろう。その半分程度は騎兵の生き残りのけが人だった。

 さすがにこれだけの人数となると、俺の目算では正確な数は出せない。


 俺は小高い丘の上の樹に登り、残った兵士達を観察した。昨日のうちに総指揮官らしい男の特徴は把握している。

 総指揮官がエルフを追っていったか、ここに残ったかでオーク部隊の動き方が変わる。


「いた。」


 俺は小さく呟いた。残っている方だ。


『ロゼリ、聞こえるか。』

『はい、勇人さん。』

『敵の指揮官はこっち側だ。』


 端的に伝えた。


『分かったわ。それなら、勇人さんはそっちに奇襲をお願いします。エルフ側は、私たちで。』

『大丈夫か?』


 エルフたちはオークとの戦いで矢を使い果たしている。昨日の一戦でそれなりに使っただろうから、もうほとんど手持ちがないのではないかと思っていた。


『大丈夫よ。計略に抜かりはないわ。』

『わかった。信じる。そっちには大体300人だ。』

『想定の範囲内だわ。』


 そう言うのなら、大丈夫だろう。俺は念話を閉じて樹から下りた。

 下ではゼルの姉、シェーラが俺を待っていた。


「シェーラ、用意はいいか?」

「もちろんだとも、族長。」

「その族長ってのはよしてくれ。」


 俺の中でのイメージとしては、オークの族長がゼルの姿になっている。さすがに骸骨とは見た目が違いすぎるし、正式には俺はまだ族長ではない。


「なら我が夫でいいか?」

「それは断固禁止だ。」


 これが一つ残った問題、と言う奴だ。曰く、部族の者でないものに族長をさせることはできないから、部族の一員にならなければいけない。ゆえに、俺はシェーラと結婚しなければならない。

 頭がおかしい。

 しかもシェーラ本人が我が弟を倒すほどの強者(つわもの)とあらば女子の誉れ、とか言って乗り気なのが特におかしい。弟の仇とか考えないのだろうか。


「ならば、上様。これ以上は譲れん。」


 それのどこが譲っているのだろうか。


「……族長でいい。」


 結局それが一番ましだった。


「わかった。それで、すぐいくのか?」

「もう少しだ。さっき出て行った部隊が遠くに行ってからでいい。」

「わかった。楽しみだな。」


 シェーラが弟に似た獰猛な笑みを浮かべた。

 オーク達は根っからの脳筋、戦闘大好きなのだった。





 勇人からの念話を終えて、ロゼリは、眼下の森を眺めた。

 エルフの里周辺が見渡せる山の上である。

 ロゼリはここから全てを視界に収めていた。

 このあとどうなるかもおおよそ分かっている。そうするためにどう動くべきか、もだ。


(指揮官には、できればエルフの方に行って貰いたかったのだけど。)


 そうすれば、残った兵は黙殺してよかった。


 総指揮官が後方に控えたなら、オーク達でこれをたたき、総指揮官を捕らえるか殺すかする。できる限り捕らえたいが、捕らえることに固執して逃げられ体勢を立て直されるくらいなら、殺しておきたい。

 そちらの側は、勇人とオーク達に任せておけば問題ないだろう。


 問題はこちら、だ。オーク抜きで300人と戦わなければならないうえに、今後に向けて押さえておかなければいけないポイントがいろいろとある。


『ブレイ=オスマーン。』


 ロゼリは騎士を呼んだ。

 ブレイはスキルを使い一瞬でロゼリの元に跳んできて、邪魔にならぬ距離で跪いた。


『はい、ロゼリ様。』

『今一度、死んでいただけますか?』

『良いのですか?』


 問い返すブレイの声には自責の念がある。


『わたくしのためにアンデッドとなるほどの男の忠義、疑う余地はありません。』

『ロゼリ様……。我が剣を捧げたときより、この命は貴方様のもの。あのとき、私は牢にとらわれ、ロゼリ様のために命を捨てることができませんでした。今こそ我が命、お使いください。』


 ロゼリはブレイならそう答えることを分かっていた。


『ありがとう。やらなければいけないことは、シンプルです。エルフを追っている300人の人間の軍勢を迎え撃ち、撃滅します。エルフたちはもう戦力としてカウントしません。私たちだけで戦うものと思いなさい。』

『はっ!』


 ブレイの返答に迷いはない。やるべきことをやることしか考えていないのだった。


『では参りましょう。』


 ロゼリとブレイは、馬に乗って移動を始めた。

 この作戦はエルフを守り切れないと負けなのだ。この二人で、しっかり守り切らなければならない。


(そこまでやれば、あとは勇人さん次第。)


 それまで、ロゼリは自分の仕事をきっちりやりきるつもりだった。


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