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異世界転移して初日に殺されてしまった俺は  作者: いつき旧太郎
第1章 普通っぽい勇者、普通じゃなくなる
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戦の前

 

(ここまでは、予想通りね。)


 ロゼリは、内心一息ついた。

 スキル<無窮の鎖(チェイン)>。勇人には使う機会がなくて分からない、と語ったが、嘘である。

 このスキルは常駐し、ロゼリに情報を提供し続けていた。


 現在のスキルはレベル2。

 レベル1では、自分の行なった行為の結果何が起こるか、が分かった。

 レベル2になって、自分がこれから行おうと思う行為について結果何が起こるかが分かるようになった。


 与えられる情報は断片的で、完全に未来を予知できるわけではない。大きな流れが分かる、というくらいのもので、全てが分かるわけでもない。

 たとえば、街道沿いで賊の襲撃を受けることは予知できなかった。しかし、根城を襲えば根城に人間の街からの軍勢が来る、ということは分かった。

 ルルフから助けてくれと頼まれた時には、根城だけでなくエルフの里にも軍勢が派遣されることがわかった。


 ロゼリは知識、情報を得ることで予知の範囲が広くなっていくのだろうと仮説を立てていた。

 人数までは予知できていなかったため、500という人数は予想外だった。しかし、ロゼリにとっては、これに勝たなければいけないわけではないのだ。


 派遣されてくる兵士であれば、賊にいたような食い詰めた農民という、国家がどうなっているか、世界がどうなっているか知識がほとんどない層とは違う。

 完全ではないまでも、周辺国家の状況、社会の情報、支配者の情報、そういった知識を持っている。

 何人かは知識を得るために捕らえる。できれば指揮官がいい。


 それが、ロゼリが今企んでいることだった。


 勝ち負けは二の次である。

 負けたとなるとエルフ達とオーク達には気の毒だが、やむを得ない。何かを行うためには全てを救うことなどできないことを彼女は理解していた。


 もちろん、勝てるなら勝つ。

 最終的には国を相手にしなければならないのだ。策源地と兵力は得ておきたい。


(もう2度と、選択を間違えない。)


 自分がもう少しうまく動けていれば、召喚した勇者をみすみす殺されることはなかったろうし、王都が廃墟になることもなかったはずだった。

 今度こそ、うまくやる。

 ロゼリはあらためて決意を固くして、オークの説得に向かう勇人を見送った。


(さて、こっちはこっちでいろいろと進めないと。)


 いくつか用意が必要だった。

 まずはルルフだ。


「さて、ルルフさん。一つ教えて貰いたいのだけど、いい?」

「はい。なんでしょう。」

「世界樹の若芽はどこ?」

「そ、それは……。」


 ルルフはぱっと答えない。


(世界樹の若芽は、エルフの秘密だものね。)


 なぜ、元人間のロゼリが知っているのか、驚いている。


「教えて。必要なことなの。」

「……なぜ、必要なんですか?」

「私は、<聖別の(メイデンオブ)巫女(ユグドラシル)>よ。世界樹があれば、奇蹟を行うことができるわ。」


 ロゼリが生まれ持っていたスキルである。

 神たる世界樹に祈りを捧げ、奇跡を起こす。

 王都の神殿ではかつてエルフの里から世界樹の若芽から枝をもらって使っていた。王都に残っていた枝は、長年放置されていたためだろう、すでに『死んで』しまっていた。


「ロゼリ様が? あ、いえ、しかし……可能なのですか?」


 その疑問は、アンデッドで、ということだ。


「分からないわ。けれど、試してうまくいけば、大きな力になるはずよ。」


 そう言ったものの、<無窮の鎖>はロゼリにうまくいくと教えてくれていた。


「なるほど。それならロゼリ様が若芽のことを知っているのも、必要というのも、納得しました。」


 エルフの里には近くに世界樹の若芽があることが多い。

 若芽を守っているという説もあるし、エルフが若く長命な理由を若芽に求める説もあるし、たんに若芽の近くが好きなのだ、という説もある。

 エルフが森に執着するのは、実は森ではなく若芽に執着しているのだ。


「それなら、本当は里の外の者に教えてはならないのですが、お教えします。」

「ありがとう。それともう一つお願いがあるのだけど、レイフさんを呼び出して欲しいんです。」

「できるでしょうか?」


 戦士団長という仕事は今最も忙しいはずだ。


「大丈夫よ。お別れの挨拶をと言えばあなたと話す時間をくれると思うわ。そこで、日没までに若芽のところに来て欲しい、って伝えてくれれば来てくれるわ。」

「分かりました。やってみます。」


 ルルフは頷いた。





 一頭の飛龍が、クエル山中腹に着地した。

 飛龍はすぐに主人の姿を見つけて、うれしそうに小さな声で鳴いて主人へと歩み寄った。


「やぁ、レーヴィ。」


 飛龍の主人、セリスフェルは、つい先ほどまで浮かべていた不機嫌そうな顔を和らげ、飛龍がすり寄せてきた頭を軽くなでてやった。

 周囲には誰もいない。

 不機嫌そうにしている魔族に近寄るような命知らずは、アンデッド討伐隊として派遣された100人の兵士の中にはだれもいない。


 セリスフェルが不機嫌なのは、目当てとなるアンデッドがいなくなっていたからだ。

 兵士100人に付き添われ、楽しみに胸を躍らせて山の中までやってきてみたら、意思を持たないつまらないアンデッドしかいなかったのだ。

 侵入者を殺せと命じられていたらしい斧を持ったアンデッドは、彼女の<炎鳳(カイザーフェニックス)>の魔法一発で消滅してしまった。


 肩透かしにもほどがある。

 それが、彼女が不機嫌であった理由である。

 知性あるアンデッドがいないなら、こんな所に用はない。彼女は乗騎である飛龍を呼び、一足先にクレアッドの街に戻ろうと考えていた。

 さっそく飛龍にまたがろうとしたセリスフェルに向けて、1人の男が走ってきた。討伐隊の隊長である。


「閣下!」

「なに。あとは勝手にしてって言ったでしょう?」


 まだ何か用があるのか、と咎める視線に対して、指揮官は急いでその場に跪いた。


「そ、その、お探しのアンデッドについての情報が得られまして。」

「ほんと! ぜひ教えてちょうだい。」


 セリスフェルの機嫌が一転した。


「はい。喋るアンデッド達は、エルフの里の方に向かったとのことです。エルフの里を助けるつもりのようです。」


 指揮官は最小限の言葉で、山賊の生き残りから得た情報を伝えた。


「素晴らしい情報ね。あなた、名前は?」

「ウィルヘルと申します、閣下。」

「覚えといてあげる。」


 セリスフェルは上機嫌で飛龍にまたがった。手綱を取ると、飛龍は翼をはためかせ、空へと舞い上がった。

 まだおもちゃに手が届く。子供のように楽しげに、セリスフェルは飛龍を飛ばした。




 ベロア=ウィスタントは、斥候からの報告を聞き、喝采を上げた。

 斥候がついにエルフの里を見つけたのである。


「見つけたか!」


 兵500。

 歩兵300、騎兵190、魔法兵10が内訳である。

 本当にエルフの里があるのか、というところから疑っていたベロアにとって、実際に里があったという報告はうれしいものだった。

 これだけの兵力を動かしてなにもありませんでした、となれば、やはり上にとって面白くないから、彼の評価に響かないとも限らない。


(よしよし、あとはうまく攻め勝つのみだな。)


「里までの距離は?」

「明日の午後にはたどり着けるかと。」


 そう遠くはない。そろそろ夜が近いから今夜はこのあたりで泊まるとして、勝負は明日になるだろう。


「里の状況はどうか?」

「は。それが、里の門は締め切られており、斥候の兵士がエルフに矢を射かけられたとのことです。」

「そうかそうか! なら奴らはまだそこにいるのだな。オークに襲われている、という情報もあったそうだが、そのあたりはどうだ?」

「戦いがあった跡、それとオークが野営していたと思われる場所はありました。しかし、オークどもは見つけられておりません。」

「撃退できたのだろうな。それで警戒を続けていたところに、斥候が近づいたということだろう。」


 いい状況だ、とベロアは思った。エルフたちは逃げていない。


「よし、兵を全てまとめて休ませよう。明日に備えて英気を養うのだ。」

「は。」


 成果が上げられれば報賞と出世を手に入れることができる。できる限り大勢のエルフを捕らえられるように工夫しなければ。

さー、やっと本格的に戦いが始まります!

戦いだよ。闘争だよ。戦争だよ。わくわくするねぇ。

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