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異世界転移して初日に殺されてしまった俺は  作者: いつき旧太郎
第1章 普通っぽい勇者、普通じゃなくなる
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エルフの女の子

 俺は、根城の館の奥、賊の頭が使っていた寝台にダイブした。


 眠るためではない。

 大仕事が終わってリフレッシュしたくなったためだ。

 寝台には現代のようにスプリングなど入っていない。おそらく布に綿か羽を堅く詰め込んだのであろう、沈み込むような感触の寝台だった。


 今夜は大成功と言ってよかった。

 事前の作戦通り山賊の根城を攻め落とし、頭を仕留めた。生き残った賊もひとまずは俺たちに従うようだ。


 驚いたのは、ゴブリンたちが意外と忠実そうだということだ。

 ロゼリの話では、昔からゴブリンたちに簡単な仕事に従事してもらうことがあるという。ゴブリンたちは普段、群れを作って山の中で生活しているが、一部に人間社会の中で働く一団がいるのだという。

 山で材木を切る仕事を手伝ってもらったのがその起源といわれ、言葉が伝わらなくてもやらせられるような、反復の力仕事をやってもらうことが多いのだという。

 ゴブリン達への報酬は、食事だ。


 まずは簡単な料理でも作って与えなければならない、と言うことで俺が作ったのがおなじみの野菜スープだった。

 どうせ作るのなら人間にもあげようと思い、人間6人エルフ1人ゴブリン10体、そこにロゼリの分も加わって30人分だ。ロゼリ1人で13人前。

 30人分の食事を作るのは大変だった。


(計算おかしいだろ、あの大食い姫様。)


 人間の賊たちは、最初、アンデッドが作る食事という、世界十大食べてはいけないものランキングにランクインそうな食事に手を付けるのをためらっていた。

 しかしゴブリンたちがうまそうに食べ、さらにベルモンドが押しつけ合いの末毒味役になったおかげで、最終的にはうまいうまいと言って食うようになった。「よく考えたら、殺すつもりならこんな回りくどいことしねぇもんな!」だそうだ。


 家庭料理スキルと宮廷料理スキルの双方を使って作った俺の『豚肉と根菜のスープ~春を待つ農村のマリアージュ風~』は、我ながらかなり旨くできたと思う。自分では味見すらできないが。


 ロゼリには、頭の寝台で縛られていたエルフの少女の手当をしてもらっていた。


(この世界にもエルフがいるんだなぁ。)


 いるとはロゼリから聞いていたが、実際に目の前に現れると感慨もひとしおだ。

 縛られていたから、どこかから浚われたのかもしれない。

 もしそうなら、元の住処に返してあげるべきだろう。


(感謝されるだろうな。『勇人様、ぜひなにかお礼を』『いやいや、礼にはおよばない。』『いえ、せめて一晩…。』『いやそんなそういうお礼だなんて、俺には姫様というー!』)


 と、妄想に浸っていると、ノックの音がした。


「勇人さん、ちょっといい?」


 ロゼリだ。ドアは俺が蹴破ったままになっているから自由に入れるはずだが、ロゼリはきちんとドアがあったところの外側で待っていた。


(口に出してなくてよかったー!)


 俺は心が落ち着くのを待ってから体を起こした。

 心なしかロゼリの視線が冷たい気がする。おそらく俺の後ろめたさがそう見せているのだろうが。

 ロゼリはすぐ脇にエルフの少女を連れてきていた。


「どうした?」

「この子が話したいそうよ。」


 エルフの少女は俺の骸骨の顔を見て体を硬くしている。

 ロゼリは首さえ縫い付けていれば見た目は生きている人間だが、俺は違う。今は幻影の顔も作っていなかった。集中していないといけないから、気が休まらないのだ。


「なんだ?」


 俺は改めてエルフの少女を観察した。

 まさにエルフのイメージ通り。美しい金髪は癖がなく流れ、銀の瞳は夜の星のよう。そんな完璧すぎて隙のない頭部から、長くとがった耳が左右にぴょんと伸びることで全体の印象を柔らかく崩している。

 完璧なエルフだった。

 少女が、ゆっくりとその場に跪いた。


「私は、ここより北に行ったところにあるエルフの里に住んでおりました、ルルフ=レイ=ヴィートと言う者です。御身にお願いしたい儀があり、お目通りさせていただきました。」

「俺はユウト=アマノと言う。」


 俺はこっちの世界式、つまり個人名(ファーストネーム)が先で姓が後というヨーロッパルールに従って名乗った。


「願いがあるなら言うといい。できる限りかなえよう。」

「はい。実は、我が里に迫るオークの一団を討伐していただきたいのです。」


 予想と大分違う依頼が出てきた。


「ほぅ、オークか。」


 こないだロゼリに聞いたところでは、オークは日本でよくあるイメージの豚頭ではなく、鉄色の肌をした屈強な武闘派種族だ。


「てっきり、元のところに戻りたいという話かと思ったんだが…。」

「私はもうあの里に戻ることはできないのです。」

「なぜなんだ?」

「私は元々、ここにいた方々にオークと戦う援軍をと頼みに来たのです。頭は約束してくださいました。私を差し出せば助けてやる、と。そこで里は私と彼が婚姻したとして里から出しました。エルフの里にほかの種族の血を入れることはできないのが掟ですから、私はもうあの里に戻ることはできないのです。」


 まさかの未亡人。


「え、結婚してたの?」

「彼の方にはそんなつもりはなかったようです。しかし里の方ではそういうことにしないと、私が掟を破ったことになってしまいます。」


 なるほど、大人の事情的なものだ。

 俺はなんとなく理解した。建前で嫁入りしたことにしたというやつだ。


「なるほどね。それで、あいつは約束を守ったのか?」


 頭はそんな顔には見えなかった。

 どちらかといえば、約束なんてものをなんとも思ってなさそうな顔だったと思う。


「いいえ。」


 ルルフの声が震えた。


「5日がたち、彼が全く動こうとしないので、私は(たず)ねたのです。いつ援軍に行くのか、と。彼は……。」


 言葉が詰まる。


「彼は、オークなんぞと戦ってられるか、と。どうせならオークにやられてしまう前に俺たちが里を襲って全員奴隷として売ってしまおうか、と。私は、私は……っ」


 床に涙が落ちるのが見えた。

 許せんなぁ、あの男。殺しといて良かった。今後酷使してやる。

 俺は私憤と義憤といりまじった怒りを覚えた。


 とはいえ、どうしたものだろうか。

 心情的には助けてやりたいが、心情だけで動くわけにもいかない。

 エルフを助けることで俺たちにどんなメリットがあるのか、この先どういったことに巻き込まれることになるのか、見当もつかない。

 こんなとき、ゲームの勇者なら迷わず受けるのだろうが、教会やセーブポイントで復活できる連中とは事情が違うのだ。


「私にはもう、この体と命のほかに捧げられるものはありません。どうか私の死体を、好きにお使いください。」


 ルルフは懐からナイフを取り出し、自分の喉めがけて突き入れようとした。


「止めろ!」


 とっさに俺は叫んだ。

 ルルフによりそっていたロゼリが、ルルフの手首をつかんでナイフを止めた。


「なぜそう簡単に死のうとする?」


 俺は王都に残された無数の死体達のことを思い出していた。


「今お前が死んだところで、里が救われることはない。何も変わらない。なぜ生きて思いを全うしようとしない!? お前のすべきことは、俺に死んで頼むのではなく、首領の喉にそのナイフを突きつけて約束の履行を求めることだったはずだ。1人でも武器を持って戦いに行くことだったはずだ。悲嘆に浸って死ぬことなど、全く無意味だ。」


 ルルフはうつむいている。

 ナイフが床に落ちた。


「死してなお自らの手で為さなければならない。俺に価値がある(つかえる)のは、そんな死だけだ。自ら為そうとして成せず、最後まで諦めずに倒れて見せろ。そうしたら使ってやる。」


 王都の民達の無念の多さ。ロゼリの恨みの深さ。それを見てしまった俺は、憤りを禁じ得なかった。


「分かったら行け。武器くらいは貸してやる。」

「……行きません。」

「話を聞いていなかったのか?」

「いいえ。私が里を救うためには、ここでユウト様に助力いただくほかに方法がないからです。」


 ルルフは拳を握りしめて、涙の後がある目で俺を見上げてきた。


「死が無意味であるなら、私にできることであればなんでもします。私だけが里に戻って戦ったところで、里が救われることはありません。先ほどの言葉を借りれば、同じく無意味です。だから、お願いしています。私にお約束できるのは、私の残りの寿命だけです。それ以上の報酬が望みであれば、頼んでみる以上のことはお約束できません。しかし、どうか、里を助けてください。」


 俺はロゼリに視線を送った。

 念話で確認するまでもなかった。ロゼリは、王都の民を誰1人救うことができなかった、と嘆いていたときと同じ表情をしていた。

 やろう、ということだ。

 俺は迷った自分に後ろめたい思いを感じた。心情だけで動くことはできないなんて、メリットデメリットを考えてしまった自分に。


(分かってるなら、やるしかないよなぁ……。)


 俺はルルフに視線を戻した。


「俺たちはアンデッドだ。アンデッドは、この世に強い未練を残したものがなるらしい。」


 俺は立ち上がって、ゆっくりとルルフに歩み寄った。

 俺はルルフの前に膝をついて、ルルフの手を取った。かすかに震えている。


「その想いに免じて、あなたの願いを叶えよう。」

「あぁ……。」


 ルルフの涙があふれた。


「報酬は、あー、そうだな。」


 目でロゼリに助け船を求めた。


『私たちが未練を晴らす手伝いをしてくれ、でいいんじゃないかしら。』


 わざわざ念話で送ってくれた。


「俺たちにも思い残した未練がある。それを晴らす手伝いをしてくれないか。」

「はい。全身全霊、命を賭けてお手伝いさせていただきます。」


 ルルフが頭を低くした。

 ロゼリがルルフを連れて出て行ったのを見送って、俺は再び寝台に倒れ込んだ。


「大見得を切ってしまった……。」


 思い出すだけで恥ずかしい台詞だ。

 かなり調子に乗ってかっこつけてしまった。


「というかなんで俺が仕切るみたいな流れなのさ!」


 俺は仕切るなら絶対にロゼリの方が適役だと思っている。

 なんといっても姫は姫。

 しかも彼女は『城の奥にこもってウフフオホホしてるのが向いてない方の姫』だろう。


 剣などの武芸は「姫として必要な範囲でたしなむ程度ですわ。」みたいに言っていたが、賊との戦いを見る限り、かなり手慣れていた。姫として必要な範囲の理解がちょっと俺の基準からかけ離れているようだった。

 受け答えも的確で、心を読んでるのかとこちらが思うほどだ。ちょうどさっきとっさの念話で助けてもらったこともそうだが、対応力、判断力もすごい。


 俺が勝っている要素ゼロ。


 それがなぜ俺が仕切るような形になっているかというと、根城を掌握した後ロゼリがさっさとエルフの少女ルルフをケアするとして連れて行って奥に引っ込んでしまったからだ。

 ブレイはあの通りの寡黙さであるし、ロゼリを差し置いてでしゃばることは決してない。


 つまり全部ロゼリのせいだ。

 ロゼリのせいでなければ、ロゼリの策略だ。罠だ。


『勇人さん、今いい?』


 と思っているところに、ロゼリから念話が飛んできた。


『なんだ?』

『今ルルフさんから里の状況を聞いているのだけど、日数的に、少し急がなくてはならない感じなの。さっそく明日出発したいのだけど、どうでしょう?』

『ふむ。俺は構わないよ。俺の方で何か準備しておくものは?』

『お弁当。』

『は?』


 聞き間違いかと思って聞き返した。そんなはずはないのだが。


『私の、お弁当。馬がいたから、馬で急げば明後日にはエルフの里にはつけると思うの。』


 つまり一日分のご飯だ。


『かしこまりました、お姫様。』


 俺は寝台から起き上がった。すっかりシェフが板についてきた気がする。勇者よりシェフやった方がいいんじゃないだろうか。

 俺はさっそく館の台所に向かった。

 残っていた食料でどんな弁当を作るのがいいだろうか。

 宮廷料理のスキルと日本の弁当文化の知識でどこまでできるか、少し楽しみだった。




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