第〇章 小説を書きたくないが、面白い小説を読みたい
ここだけの話ですが、小説を書かずに小説を書く裏技があります。それは、面白い小説を書く作家さんにあれこれ指図して、あなた好みの小説を書かせることです。でも、脅してむりやり書かせるようなまねをすれば作家さんからブロックされておしまいですし、ほめちぎってさりげなく誘導するにしても、作家さんがあなたの思惑どおりに動いてくれる保証はありません。そこで鏡を見てみましょう。あなたの嗜好を完璧に理解し、手指の一本まで自由自在に操れる作家が、いま、あなたの目の前に一人いるではありませんか!断言しますが、そのまま口を開けて待っていても、「まあまあ好みだけど、なんかちがうな~」といったような、微妙に違和感のある作品が無限に降ってくるだけです。なぜならそれらは、すべて他人が書いた小説だからですよ!死ぬまで微妙な小説を読んで妥協し続けるつもりですか?
無限に降ってくる微妙な小説達は、作家さん達がそれぞれ“自分にとっての最高の物語”を書こうと試みて果たせなかった、夢の残滓です。あなたも、いきなり“最高の物語”を書こうと思わず、“書けそうな物語”を書くところから始めましょう。コツを知らずに書いて何十万字ものゴミの山を築き上げてしまう前に、筆者が築いたゴミの山を踏み台にして下さい。このエッセイには一から十まで書いてあるわけではないので、あまり執筆の参考にならないかもしれませんが、もっと詳しく知りたくなったら、世の中には優れたテキストがいくらでもありますよ。