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第2話「賑やかなクラスメイト」

「こらそこの2人。バスの中で騒がない、寝ている人もいるんだからね」

「あ、すいませんデス。彼方ノ原さん」


 そんな彼女たちを静かな声で嗜めたのは、やたらと筋肉質の身体をした"女子"だった。

 大人顔負けの太い腕に、ずんぐりとした厳つい人相の女子は彼方ノ原あっちのはらきなこ。彼女は我らが2年4組のクラス委員長を務めており、その地位と相貌に違わない人望と腕力を持ち合わせていた。

 彼女に逆らった人間は、問答無用でそのバールもへし折りそうな腕で首根っこ引き抜かれるともっぱらの噂だが、今のところ真偽は不明である。


「そっちにいるのは……朱酒と寧々か?」

「ああ、2人とも気持ち良さそうに眠っているよ」


 隼人がそっと彼方ノ原の隣を覗いてみると、そこには2人の少女がスヤスヤと眠っていた。

 口元によだれを垂らし、幸せそうな表情で眠るショートカットの少女は水三田井(みずみたい)朱酒(しゅしゅ)。普段はやかましいくらい騒がしい彼女だが、今日という日は随分と大人しく、バスの座席で心地良くくつろいでいた。

 そしてもう1人の少女が寝猫ねねこ寧々(ねね)。銀髪のツインテールに高校生にしては非常に小柄な体躯、一見して小学生に間違われてもおかしくないくらい幼い容姿だ。

 そんな彼女は今、分厚い本をまるでぬいぐるみのように抱きかかえていた。内容は分からないがどうやら外国の本に見える。おそらく今の愛書はその抱いている本なのだろう。

 元々本好きな寧々は、通常の学校生活でも寝ているか本を読んでいるかのどちらかで過ごしており、彼女が活動的に過ごしている姿をクラスの誰も見たことがなかった。


「しかし、寧々はともかく朱酒まで眠っているなんて珍しいな」

「うむ、いつもはクラスの半分くらいの騒音を発しているような奴なのに、今日に限って不気味なくらい静かだ。悪い予兆かもしれんな……」

「いや、水三田井は今日のことが楽しみで昨晩から一睡もしなかったそうよ」

「それでバスに乗るや否や爆睡したというわけデスか」

「……ま、水三田井が眠っていたとしても、うちのクラスには他に騒がしい奴らが大勢いるけどな」


 彼方ノ原はちらりと、バスの後部座席の方に視線を向けた。そこにもやはりクラスメイトが何人か居て、皆修学旅行に胸躍らせながら楽しく過ごしているようだ。


「いや〜楽しみだねぇ〜修学旅行! 向こうにはどんな可愛い動物たちがいるんだろう、今からドキドキが止まらないよっ!」


 制服のブレザーや学校指定用カバンにたくさんの動物バッチを付けているこの少女は大獅子おおじし最愛もあ。根っからの"動物愛好家"である彼女は、旅のしおりを熟読しながら今後の動物ふれあいコースを独自に形成していた。


「う〜〜んっ、今日はイマイチ髪型が決まらないなぁ。バスが到着する前にセットを整えたいところなんだけど……」


 そして、先ほどからずっと手鏡を片手に前髪を弄り続けているのが弁天寺べんてんじ影踏かげふみ。自称・美男子、自称・リア充。一般的な男性としては整った顔立ちと長身のスタイル、オシャレにも気を使い髪のセットは朝早くから起きて2時間かけて行っているそうだが、何故か全くモテない男。

 とある女子陣たちからの情報によれば『言動がウザい』『動き方がキモい』『そもそもその髪型がダサい』などの意見が出ているという。

 若干ナルシズムが入っている部分もあり、それがモテない理由の一つにもなっているのだが、本人は全く自覚していなかったりする。


「んんっ、影踏くんはいつもと変わらないような気がするんだなぁ。あ〜ご飯まだかなぁ……」


 彼は大袋おおぶくろ福富ふくとみ。世界の51%の福袋を製造している大袋財閥の一人息子で、一人っ子としてかなり甘やかされて生きてきた彼は、体型は肥えまくったように太っている。とはいえ鼻持ちならない性格ではなく、悪い奴ではないので特に嫌悪されることはない。食べることを何よりの幸せと考えており、彼の頭の中は常に美食のことで満ち溢れていた。

 一方で、その一つ前の座席では1人の生徒が口元を押さえて苦しんでいた。


「あ、高村くん。調子はどう?」

「うぅ〜……。くそっ、なんで俺は後部座席に乗っちまったんだ…………うっぷ!」

「バスが揺れているのにゲームなんかするから酔うんだよ。ほら、これ酔い止めの薬」

「ゲームなんかとはなんだ百之助、ゲームこそが俺の存在理由なんだぞ…………ウォエッ!」


 バスの後ろから2番目の席には、2人の男子生徒が隣り合わせで座っていた。

 バス酔いしている方が高村たかむら銀河ぎんが

 そんな彼に薬を差し出している方が鬼石田おにいしだ百之助もものすけである。

 旅行中のバスの中でも構わずゲーム三昧に明け暮れいていた銀河は、不規則なバスの揺れに酔い潰れてしまい先ほどからずっと唸っていた。百之助はそれを介抱しており、容体の優れない銀河を付きっ切りで看病している。

 そんな彼らの様子を眺めて、隼人はそっと自分のあごに手を当てた。


「なんか銀河、調子悪そうだな」

「ふっ、いつも所構わず電子遊戯に没頭している奴だが、流石にこの『死出の旅デス・ロード』の苦行には耐え切れなかったようだな」

「ゲームばっかりやってるから、画面酔いもするデスよ」

「そうだなぁ……、ちょっと様子を見に行った方が良さそうだな。水を飲ませたら少しは良くなるかな?」

「水ってバス酔いに効果あったっけ?」

「それに詳しそうな奴に聞いてみよう。おーい誠十郎」


 隼人が前の座席の方へ呼びかけると、落ち着いた雰囲気の男性が通路側に顔を出してきた。

 彼の名は一斉野いっせいの誠十郎せいじゅうろう。切れ長の細目にスッとした顎とサラサラの髪。所謂『イケメン』に分類されるだろうその青年は、クラスの中でも人一倍大人びており、また博識で見聞に長けていることで有名だった。


「まずは高村くんのゲームを取り上げた後、前の座席に移動してリラックスさせることが大切ですね。それからアイマスクなどで目を閉じさせ、各部を氷で冷やしあげれば幾分かスッキリさせられるでしょう」

「さすが誠十郎! 何一つの説明も無しに、まるで聞いていたかのような的確な対処法を教えてくれたぜ!」

「まあ、普通に聞こえてただけなんですけどね」

「ふふっ、隼人くんたち賑やかだから」


 誠十郎の隣の座席でコロコロと微笑んでいるのは花華戯げげげ香織かおり。名前の通り花のように可憐な少女でふわっとしたウェーブのかかった髪質は花びらのようにしっとり柔らかく、きめ細かく白い肌はぷるんとみずみずしく潤っている。

 学年、いや、学内でも一二を争う美貌を持つ彼女は、学園のアイドル的存在として多くの生徒・教師たちを魅了し、その地位を揺るぎないものにしていた。


「ありがとな誠十郎。じゃあ銀河を前の席に移動して……、」

「あ、僕も手伝うよ」

「おいおいなんだなんだ?」


 銀河は両肩を隼人と百之助に担がれ、強引に前の座席へと移動させた。

 銀河を降ろし、ふうと一息ついて銀河の様子を伺う。なるほど、確かに銀河は調子が悪そうだ。顔色は悪く、額に大量の汗をかいて苦しそうだ。なのにゲームだけは手放していないのがいかにも彼らしい。


「移動させたらアイマスクなどで目を閉じさせる。……誰かアイマスク持ってないか?」

「麻袋なら持っているデスけど」

「なら代わりにそれを被せよう。銀河、目を閉じてくれ」

「ちょっと待て! なんで麻袋なんて持ってアブシュッ!?」


 銀河が何か言ったような気がするが、隼人は構わずデス子に渡された麻袋を銀河に被せ、彼の視界を奪った。ついでに麻袋をロープで固く縛り、簡単に取り外せないように強く結んだ。


「おい、なんでロープで縛るんだよ!」

「だって、銀河は麻袋取ったらまたゲーム始めるだろう? これはこれ以上お前をバス酔いさせないために必要な措置だ」

「なんでバス酔い如きで麻袋なんぞ被らされなきゃならんのだ! うげっ、首……強く、締め過ぎだッッ!?」


 銀河はロープの紐で首を絞められ呼吸困難に陥っている。麻袋を被っているせいで顔色は伺えないが、彼のもがくような激しい動きとかすれたような喋り方から鑑みるに、かなり辛そうであることは容易に想像できた。

 まあ死にはしないだろうと、絞殺されそうな銀河を放っておいて瀬奈は隼人が戻ってくるまで"デッキ"の整理でもしていることにした。

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