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013

 ジャージは学年ごとに色分けされていて、一年は黒、二年は青、三年は緑といった具合になっている。


 予想するまでもなく、絡まれているのだろう……。


 先輩もあの見てくれに騙されたんだろうな。

 可哀想に。


 目上だろうがなんだろうが白川のことだ、「気安く話しかけないでくれる?耳が腐るから」とか平気で言ってそうだ。


 むしろこの場合、心配なのは先輩の方だ。

 酷いこと言われて泣かされてなきゃ良いけど。


 ―――――白川のこと、気にかけてやってくれないか?


 ふと、先生の言葉を思い出す。

 まぁ、特別棟に戻るついでだし、様子くらい見ていくか……。


 まばらになった人混みを抜け、それとなく近づく。


「ねぇねぇ、連絡先教えてよ」

「………」

「じゃあさ、せめてクラスと名前くらい教えてくれない?」

「………」

「お前らちゃらいよ。怖がってるじゃん。さっきからずっと黙ってるし」

「えー、そんなことないっしょ。ねぇ?」

「………」


 白川は下を向いたまま、何も言わず沈黙していた。


 予想外の彼女の姿に、足が止まる。


 何故。

 何も言わない。

 何も言い返さない。


「え?マジで怖がってるの?ちょっと、顔見せてみ?」


 そう言って、先輩の一人が白川に触れようと、手を伸ばす。


 ―――――多分、俺は浮足立っていたのだろう。


 これから、午後の授業をサボって、平日の昼下がりを満喫するつもりだったから。

 そうでなければ、こんな、らしくない行動をとるわけがない。


 そうとしか考えられない。


 血液とは違う、もっと別の何かが、体中を巡った気がした。


 気付いた時には、俺は先輩と白川の間に割って入っていた。


「あ、すいません。うちの妹が何かしましたかね?」

「は?お前、誰だよ?妹?」


 盛大に、最初の一言を間違えた。


 妹って……。


 咄嗟とっさの言い訳とはいえ、苦しすぎるだろ、これ。

 自分のアドリブの弱さを、これほどまでに悔んだことはない。


 ひとまず、ここは逃げ一択だ。

 男らしく白川を守るんだ!とか、そんな立派な心意気は残念ながら俺にはない。


 適当に言い訳をして、この場を乗り切れればそれでいい。


 そういえば、前にもこんな苦しい言い訳をしたことがあったような……。

 あれ?これ、走馬灯?

 勘弁してくれ。


「いや、その、えっと…、お取り込み中悪いんですけど、こいつ、赤崎先生に呼ばれているので失礼しますね」


 そう言って、白川の手首あたりを掴み、特別棟へ向かおうとしたところで呼び止められる。


「おい、ちょっと待てよ」


 ですよね。


 やはり、慣れないことはするもんじゃない。


 逃げ切れなかった時のことまでは頭が回らなかった。

 相変わらずの詰めの甘さ。

 自分のポンコツさに嫌気がさす。


 半分諦めかけたところで、不意に頭上から声がした。


「おい、灰倉!いつまで待たせるんだ!」


 見上げると、英語準備室の窓から赤崎先生が腕を組んで仁王立ちしているのが見えた。

 それを見た先輩は「ちっ」と舌打ちを吐き捨て、残りの二人を引き連れながら去っていった。


 なんとか助かった……か。


 けど。

 けれども、だ。


 いくらなんでも、タイミング良すぎじゃないか?


 先生は『よくやった』と言わんばかりに、右手でサムズアップ。


 ―――――ここで、ようやく気付く。


 あの不自然な流れ。

 先生の急な頼み事。


 全てに、合点がいく。


 ……まんまと嵌められた。


 見てたんなら最初から助けろっての。


 ジト目で四階にいる先生を睨む。

 この距離ならさすがに見えないだろう。


 腕っ節で劣る分、この溢れる嫌悪感で遠目から一矢報いてやる。


 ……男として情けないのは百も承知である。


「灰倉くん」


 平坦な声が耳に響く。


 不意に呼ばれたその名前が、自分のことを指す言葉であると認識することができず、一瞬戸惑った。


 彼女に名前を呼ばれたのは、初めてかもしれない。


 振り向くと、相変わらずの無表情を貫く、白川の姿があった。

 そして、彼女は目を伏せ、俯き加減で言った。


「いつまで私の腕、掴んでいるの?」 

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