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Ep.83 星の小川の畔にて・中編



  『って、小川の割に案外深い!?』




「居たっ……!」


  小川沿いにレインを追いかけて十分ちょっと、小さな橋の先にようやく目当ての姿を見つけた。あっ、向こう岸に行っちゃった!


  助走をつければ飛び越えられそうな小さな小川ではあるけど、人目があるところでそんなことをしたら私だけじゃなくレインも悪目立ちしちゃうよね。仕方ない、私も橋を……


「あらフローラ様、そんなにお急ぎでどうなさいました?」


「……っ!バーバラさん……。」


  何だってこんな時に! 

  橋を塞ぐように立って腕組みをしているバーバラさんの向こうで、レインの姿が遠退いていく。このままじゃ見失っちゃう!


「先程からお見かけしていましたが、今日はお一人ですのね。常にご一緒ですから、そろそろ殿下達にも飽きられてしまったのかしら?」


「……。」


  あー、バーバラさんが下らないことを言ってる間に、とうとうレインは人混みの方に消えていってしまった。


  もう、話ならあとでいくらでも聞くから後にしてよ!


「バーバラさん、申し訳ありませんがそこを退いて下さらない?」


「なっ……!」


  自分より頭ひとつ分は高い位置にあるその顔を見上げながら、いつもより低めのトーンでそう伝える。

  いつもはお互い周りに友達が居るけど、今日は一対一だ。多少は怖いけど、これなら対抗位は出来るわ。


「……っ、ふん。ずいぶんと高圧的ですこと。そんなだから、数少ないご友人も離れていってしまうのではなくて?」


「ーー……!」


「図星の様ですわね。あら?私は向こうに友人を見つけましたので、失礼致しますわ。」


  『それでは、ごきげんよう。』と優雅に笑って去っていくバーバラさん。

  道はもう塞がれてないのに、私の目の前には見えない大きな壁があるように感じた。


「…………。」


  私、考えてみたらレインの今のクラスに行ったことなんてない。ううん、レインだけじゃない。

  ライトのクラスにも、クォーツのクラスにも、ルビーのクラスにも。レインと同じクラスのフライのところにも、尋ねたことなんて一度も無かった。


  きっと今回のことは、ただレインが離れていってるんじゃない。私が身勝手なことしてたから、距離が開いちゃったんだ。


  ……だったら、尚更。


「やっぱり、追いかけなくちゃ……!」














ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「…………退屈ね。」


  今私は、クォーツの故郷であるアースランドの七夕の会に来ています。


  と言っても、クォーツは勿論他の殿下達や、何よりフローラと顔を合わせる可能性があるこんな行事になんて来たくはなかったのですが。わざわざアースランド王室より我が伯爵家にご招待が来たとなれば、断る権利など当然無かったのです。


「はぁ……。」


  会のお開きまではまだしばらくありますが、ここは会場を縦断する小川のかなり下流で、辺りにはほとんど人気もありません。ここなら、誰に邪魔されるでもなく時間を潰せるでしょう。


  そんな事を思いながら、私はポーチに入れていた手紙の束から一枚を取りだし開きました。


  夜なので多少は暗いですが、天に瞬く星の輝きと辺りを飛んでいる蛍の灯りで、読むには十分な明るさはあります。


『レインちゃんへ。

  手紙読みました。クラスで浮いちゃってるんだね、可哀想に。

  フローラちゃん達は気づいてくれないみたいだけど、僕は君の悲しみがよくわかるよ。


  気づかないってことは、それだけ彼女達は君に関心が無いってことだもんね。レインちゃんは、皆に意地悪されることよりそれが悲しいんでしょ?

  …………………………………………………………………………。


  ゼオンさんからのお手紙には、その後もフローラ達を批判し、自分は私の味方だからと強調するような言葉が並んでいます。

  今手に持っているポーチにある手紙の束はすべてゼオンさんからのお手紙ですが、内容は全て似たような物です。


  初めは、私の事をわかってもらえた気がして嬉しくて、つい私の状況に気づいてくれないフローラへの不満を書きなぐって送ってしまったりしたのですが。


  十日もそれが続くと、私を見かける度に寄ってきてくれようとする彼女に合わせる顔が無くなってしまって。今となっては、どんなことを話して、どんな風に笑いあって居たのかすら、わからなくなってしまいました。



「……しまっておこう。」


  広げていたそれを閉じてしまうと、ポーチの重みが嫌に増した気がしました。まるで、私の心に比例しているようです。

  

「あら……?」


  と、不意に辺りが暗くなった気がして空を見上げれば、ちょうど重そうな雲がきらびやかな天の川の輝きを遮った所でした。

  それに加え、辺りを飛んでいた蛍達が散り散りに飛び去っていくのですから、暗くもなるわけです。


  ……こうして辺りが暗くなると、何だかこの世界に一人きりになったような気がします。

  こうして私は、周りの人を失っていくのでしょうか。


「……ーーっ!」


「え……?」


「レインーっ!」


「……っ!」


  

  そんな中、不意に聞こえる私を呼ぶ声。

  振り返らなくても、相手が誰だかわかります。学園に入学してから実に約六年間、ずっと共に居た人の声なのですから……。


「フローラ……、何か用?」











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「フローラ……、何か用?」


  結局人目さえ気にせず川の畔を走り回って、下流の方でようやくレインを見つけた。


  でも、レインは私には気づいてくれたものの、振り返らないまま一言そう呟くのみ。


  その冷たい声色は、怒ってるって言うより……


「レイン……、泣いてるの?」


「え?……っ!」


  私の言葉に、レインは自分の頬に手を当ててから、驚いたように言葉を失った。

  そして……


「別に泣いてなんか無いよ。用事がないなら、私行くね……。」


「ま、待って!」


  『悪いけど今度にして』と言いながら、一切振り返らずに駆け出すレイン。


「きゃっ……!」


「レイン、危ない!!」


  と、そのレインの目の前を、不意に大きな蛍が横切って。その羽根音と光に驚いたレインの足がもつれ、その身体が小川の方へとバランスを崩す。


「ふっ、フローラ!!!」


  咄嗟にその腕を掴んでレインが倒れようとしてたのと反対方向に投げ出した後、世界は水に覆われた……。


   ~Ep.83 星の小川の畔にて・中編~


  『って、小川の割に案外深い!?』




  暗い感じが続いてますが、フローラとレインのすれ違い編は次回で概ね解決予定です。

もう少しお付き合いお願いします^^;



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