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Ep.81 ズレだす関係




『結局、逃れる術はなく、みっちり叱られたのでした。』

  色々あった連休が終わって学園に帰って、早一週間。

  なんか休んでばっかだなぁと思わないでもないけれど、もう一週間もしたら夏休み!皆それぞれ、楽しそうに予定を話し合ってる姿をよく見かけます。やっぱりどんな世界でも夏休みは楽しみだよね!


「夏休みかぁ……。」


「ん?フローラ、どうしたの急に。」


「あ、ううん。ただ、もうすぐ夏休みだけど今年は何も予定が無いなぁと思って。」


  何気なく溢した呟きに、向かいで新芽の間引きをしてたクォーツとルビーが顔を上げた。邪魔してごめんなさい。


  現在、私達は日課である花壇の朝のお手入れ中。最近レインがあまり来ないので、私とクォーツとルビーの三人で水やりや草取りなんかをしてるけど、やっぱり何か寂しいんだよね……。

  レインどうしちゃったんだろう、学校にはちゃんと来てるし楽しそうに過ごしてるけど、花壇に来なくなった理由は何度聞いても教えてくれないんだよね。


  たまに部屋の前に行って『一緒に行こうよ』って声かけても、お付きの人に『お嬢様はまだお休みになられておいでです』とかって追い返されちゃうし……。


「レイン……。」


「ーー……あの、フローラお姉様!ご予定がないのであれば、今年の夏は我がアースランドに遊びに来て頂けませんか?」


  と、不意にいやに明るい声でルビーがそう言った。

  作業の手は止めないまま顔を上げれば、ルビーとクォーツは『今年は七夕で、天の川の観賞会があるから』と言って顔を見合わせて笑った。


「七夕……。」


「あ、七夕って言うのはアースランドに古くからある伝承を元にした文化でね、夜空に河のように集まる星が見られたり、笹に願い事を書いた短冊を飾ったりするんだよ。」


  うん、よく知ってるよ。小さいとき、よくお母さんとお買い物に寄ったスーパーにあった笹に短冊をかけたりしたからね。懐かしいなぁ……。


「天の川は、この時期のアースランドからしか見られないんです。是非お姉様にも見て頂きたいですわ!」


「うん、素敵だね。行ってみたいな。」


「決まりですわね!ライトお兄様やフライお兄様、それに、レインお姉様もお誘いしましょう!」


「ーっ!」


  明るい声色で言われたルビーの言葉に、ようやく急にそんな話をし出したのかがわかった。レインが来なくなってからずっと私がぼんやりしてたから、気を使ってくれたんだ……。


「クォーツ、ルビー、ありがとう。」


  二人の温かさを感じて胸がいっぱいで、それだけ言うのが精一杯だった。

  クォーツとルビーは、何も答えずに優しく微笑んだ。穏やかなその笑顔は、春の木漏れ日みたいに暖かった……。


  レイン、来てくれるといいな。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  朝、ルビーとフローラと別れてから、僕は一人でレインのクラスへと向かった。目的はもちろん、レインとフライをうちの国へと誘う為だ。


「やぁ、ごきげんよう。」


「え……、え!!?」


「く、クォーツ様!ご、ごきげんよう……。」


  Dクラスの教室まで行くと、丁度入り口の所で談笑している女の子達が居たので声をかけた。

  長い髪をくるくる巻きにしたなかなか華やかなその子達は、突然現れた僕に驚きつつも『何かご用でしょうか?』と聞いてくれたので、僕は簡潔にフライとレインを呼んで欲しいんだと伝える。


「フライ様はわかりますが、レインも……ですか?」


  一番奥に立ってた女の子が二人を呼びに行ってくれたけど、僕の真正面に居る一番髪の長い女の子がそう聞き返してくる。なんか、嫌な反応だな……。


  とは言え、全く面識のない女の子に厳しく言うのも良くない気がするので、少し眉尻を下げた微笑みだけで済ます。でも彼女は納得できないのか、一歩僕の方に寄って更に口を開こうとする。


「クォーツ、朝からどうかしたのかい?」


「フライ!あぁ……、少々話したいことがあってね。」


  でも、いいタイミングで外用の笑顔を浮かべたフライが来てくれた。

  整いすぎて恐いくらいのフライの微笑みを受けて固まる女の子達に、『悪いけど外して貰えるかな?』と出来るだけ優しく声をかける。


「はい、失礼致します……。」


  まだ何か言いたそうではあったけど、王子二人相手だからかすんなり退いてくれて助かった。


  そのままフライと廊下に出て扉を閉じれば、朝礼間際の周りには人気がない。これなら安心して話が出来そうだ。


「で、どうしたの?急に。」


「いや、夏休みの期間にうちで七夕やるから誘いに来ただけだったんだけど……。って言うかレインは?」


「レイン?声をかけられたのは僕だけだったから見てないよ。」


  フライのその言葉に、思わずちょっと眉を潜める。酷いな、呼んですらくれなかったのか……。


「最近、ちょっと様子おかしいしね、彼女。誘いたいなら、直に呼ぶより家にお伺い立てた方が良いと思うよ。」


「そう……だね、そうするよ。」


  『じゃあ、朝礼始まっちゃうから』と、フライが教室に戻るのを見送って。

  人気の無い長い廊下を、モヤモヤした気持ちのままゆっくりと歩く。


  フローラから聞いては居たけど、確かに最近のレインはどこかおかしいのかもしれない。女の子の交遊の事はよくわからないけど、何だか面倒くさそうだ。

  でも、とりあえず今、僕が向き合うべき問題は別にある。



「とりあえず今の一番の問題は……、どうやって朝礼が始まってる教室に怒られずに入るかだね。」



    ~Ep.81 ズレだす関係~


『結局誤魔化す術はなく、みっちり叱られたのでした。』




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