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Ep.80 助けてください

 ※前半キャラ視点無しでちょっと暗めです。

  一応飛ばしても大丈夫な話なので、嫌な方は飛ばして次回から続きをお読み頂きますようお願い致します(^-^ゞ



  連休返上で準備し、一体になって望んだ祭りは、それはそれは大層な出来となった。

  レインとフローラが二人がかりで毎日水をやった薔薇は無事に開花し会場を沸かせたし、各国の王族が一同に集うと言うパレードも注目を集めた。


  だが、そんな賑やかな時間を終えて……、レインは一言『体調が悪い』とだけ伝え、こっそりと一人で会場を離れた。


「ふぅ……。」


  公園内にあるとは言え、今日は祭りの影響で人々はステージや噴水のある辺りに集まっている為、森の中は不気味なほどに静かだ。

  そんな中、レインは一本の大木の前で立ち止まり、少し考えてからその立派な幹へと身を預ける。人気がまるでなく、木々のさざめきだけが聞こえる場所。


  だから当然、人の声など聞こえようが無いのだが……、目を閉じたレインの耳には、先程耳にした声が未だに響いていた。



『流石は各国の高貴な方々ね、華があるわ!』


『本当ね。……でも、あの地味な子はどちらのお嬢様なのかしら?』


『噂だけれど、伯爵家の中でも下級のお家の子らしいわよ。嫌ねぇ、身の程を弁えられない子って……。』


  パレード用の馬車から降りてステージに移動する際に耳をついた、心ない言葉。

  耳だけじゃなく心をも抉るようなその声を思いだし、少女は思わずその場に座り込んだ。


「何処に行っても、こんなことばっかりだなぁ……。」












ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  思考を止めたまま座り込んで、どれ位時間が経っただろうか。

  茜色からすみれ色に変わっていく空の色を見て、心と比例するように重い体を奮い立たせ、何とかその場から立ち上がる。


「そろそろ戻らなきゃ……。」


  誰に言うでもなく、自身に言い聞かせるようにそう呟いた少女に、小さな影が忍び寄り……。


「帰っちゃうの?せっかく今なら君と二人でゆっくり話せると思ったのになぁ。」


「……!貴方は……、ゼオンさん!どうしてここに……?」


  振り返ったレインの目に映ったのは、明るく微笑むゼオンの姿だった。


「暗い表情(かお)して森に入ってくの見かけたから、心配で追いかけてきたんだ。」


「……っ!」


  ゼオンからの優しい言葉に、レインの目が大きく見開かれ……


「えっ、ちょっと、どうしたの!?」


  ボロボロと、大粒の涙を溢し出した。

  その様子に驚きつつ、ゼオンはレインに駆け寄りそっとその背中を擦る。





「……落ち着いた?」


「はい、すみません……。」


「じゃあ、はいこれ。」


  何も言わずにレインが泣き止むまで待っていたゼオンは、ようやく顔を上げたレインに小さな紙切れを差し出した。


  反射的にそれを受け取ったものの、相手の意図がわからずにレインは首を傾げる。

  そんなレインを見つめ、ゼオンはふっと目を細めて微笑んだ。


「それ、俺の実家の住所なんだ。」


「住所……ですか?」


「そう。レインちゃん、なんか悩んでるみたいだから話聞いたげたいけど……明日には学園に戻っちゃうんでしょ?」


  ゼオンのその言葉に、手に持つ紙切れを見ながらレインが頷く。

  その姿を見て、ゼオン口角が一瞬上がって戻った。下を見ていたレインの目には、映らなかったけれど。


「だから、住所。手紙は出せるんでしょ?」


  『たまに姉ちゃんが送ってくるし』と続けられ、レインにもようやくゼオンの意図は通じたようで。弾かれるように顔を上げ彼を見る表情には、明らかに戸惑いの色が(にじ)んでいた。


「で、でも、文通なら私なんかよりフローラ……様や、王子様方の方が……。」


「もーっ、俺は君が良いって言ってるの!」


「ゼオンさん……。」


  少し考え込んでから、『ありがとうございます』とその小さな紙切れを大事そうに胸に抱えたレインに、ゼオンも満足そうに微笑む。


「……!……じゃあ、俺はまだちょっとやることがあるから先戻るね。一人で帰れる?」


「はい、大丈夫です。」


「よし、手紙待ってるからね!」


  一瞬何かに気付いたように森の出口側を見た後、ゼオンはそんな何でもない会話をしつつ片手を振ってその場を去っていった。











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「おかしいな、さっきから同じところをぐるぐる回ってるみたい……。」


  森に入って、多分探索用のコースであろう細道をひたすらまっすぐ歩いてみまして。

  派手なステージ衣装を着てるしすぐに見つかるかなと思ってたのに、レインの姿は影も形もない。


  しかも、ついさっきから同じところをぐるぐると繰返し回ってる気がする。いや、まっすぐ前に行ってるんだから本来ならそんな事起こり得ないはずなんだけどね。


「……これは、ひょっとして迷子かなぁ。」


  足を止めつつ呟いてみれば、段々そんな気がしてきた。ひょっとして、レインも同じように迷ってるのかな……?


  さて、一旦引き返すべきか、それとも……。


「……レインも、今頃不安がってるかも知れないよね。」


  やっぱり、見つけずには帰れない!


  こう言う時は確か、年輪の育ち方で南を確かめられるって確かめられるって前世で聞いたことがある。それを思い出して、一番近くの切り株を確かめてみた。


「こっちの方が木が大きく育ってるから、日当たりが良かったって事……でいいんだよね。ってことは、こっちが南で、反対側が北か。私は公園から、森の西口を使って入ったから……。」


  ……駄目だ、混乱してきた。

  あぁ、こんなときにブランが居てくれればなぁ。ブランたら、この街に来てから他の使い魔の子と仲良くなったとかで全然帰ってこないんだもの。今朝もそそくさと出掛けていったし……、昨夜作ってあげた蝶ネクタイ着けて。


「と、文句言ってる場合じゃないよね。とりあえず帰る方向はわかったんだから、もうちょっと先まで……」


「そんなことしたら迷子になっちゃうよ、お嬢さん?」


「えっ!?ゼオン君!!」


  なんでここに!?いや、お祭りの間公園で忙しそうに働いてたのは知ってるけども!


「毎年お祭りで浮き足だってここに探検に入って迷子になる子供達が居たりするから、見回りに来てたんだ。駄目だよ~、いくら好奇心旺盛でも、女の子が一人でこんな森に入っちゃ。」


  私の疑問に気付いたように、笑いながらゼオン君はそう説明してくれた。なるほど、よくわかりました。


  ところで、今の言い方的にゼオン君、私が遊び心でここに入ったと思ってない?いや、確かに興味がなかったわけでは無いけど……。


「ごめんなさい。でも、遊びに入ったんじゃないの。レインが空気を吸いにここに入ったまま戻ってこないから、探しに来たんだ。ゼオン君、見回り中に会わなかった?」


「そうなんだ……、悪いけど見てないなぁ。ごめんね。」


  困ったように笑いながら、『中央までいくとちょっと開けた場所があって、そこから何本か道が別れてるんだ。レインちゃん、そっちから帰ったんじゃないかな?』と説明されて、そうかもしれないと思った。

  入れ違いかぁ、探しに行くのが遅かったかな……。


「とりあえず戻ろうよ。それで向こうに居なかったら、街の人達と探すの手伝うから。」


「う、うん。ありがとう……。」


  案内してくれるゼオン君と並んで、他愛ない話をしながら来た道を戻っていく。

  話題と言えば、ソフィアさんのこと、二人のお家の花屋さんのことと続いて……自然と学園の事になった。 


「そう言えば姉ちゃんから聞いたけど、来年あたりからイノセント学園、一般入試始まるらしいね。」


「そうなの?」


  それは初耳だ、ゲームの時はそんな設定無かったのにな。って言うか、魔法学校の一般入試ってどんな風になるの?


「実技と学科があるんだって。俺も受けちゃおっかな~。」


「えっ!ゼオン君魔力あるの!?」


「まさか!冗談だよ。」


  ビックリして聞き返したら、『フローラは素直だなぁ』なんて笑われた。しかもお腹を抱えるレベルで。


「そんな笑わなくても……。」


「ごめんごめん。ほら、着いたから機嫌直して。」


「ふふっ、わかったよ。案内してくれてありがとう。」


「どういたしまして!じゃあ、またね。」


「……っ!」


  最後に向けられた笑顔に、一瞬背中がゾクッとなる。何だろう、今の……。



「……あ。」


「え?」


  首を捻っていると、ゼオン君が視線を少し上に向けて固まった。何だろうと振り返ると、そこには……。


「ひーめーさーまーー……?」


「ーっ!は、ハイネ……!」


  鬼が仁王立ちで佇んでおられました。


  私がハイネに捕まってる間に、ゼオン君はそそくさとこの場から逃げていく。

  見捨てられた!いや、そもそも無関係なんだから当たり前なんだけども!!でも……!



   ~Ep.80 助けてください~


『助けてくれても良いじゃないですか……!』


『姫様、ちゃんと聞いてるんですか!?今日と言う今日は許しませんよ!!』


『はいっ、ちゃんと聞いてますごめんなさい!!!』



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