Ep.79 お祭りは準備期間が一番楽しい
さて、やって来ましたフラワーフェスティバル当日!
お祭りの概要としては、まずマーケット通り側からパレード用の馬車が発進。司会者や街で選んだ歌姫、それに伴奏のミニオーケストラを乗せて、公園中央のステージまで来る。そのあと、馬車に乗ってるメンバーは薔薇の正面にあるステージに移動して、その後はお客さんと一緒に薔薇の開花を見つつ、ステージの方でも歌だったり躍りだったり演劇だったり、色々な出し物があるんだって。
お祭りのラストには来てる人皆で踊るらしいし、本当に楽しそう!ちなみに、歌姫は毎年ソフィアさんがやってるんだって。体育祭でも演劇にメインで出てたし、そう言うの得意なのかな?
「姫様、間もなくお時間ですから、そろそろお召しかえを。」
「はい!あれ、皆は?」
「皆様、お部屋にてお着替え中です。さぁ、お手伝い致しますから姫様も早くお着替え下さい。」
「う、うん、ありがとう。」
そう言ってハイネが出してくれたのは、上が艶のある淡い黄緑で、スカートは艶のあるピンク色のスカートの上に白色のレースが重なってるワンピースだった。背中には透き通った羽根もついてて、妖精さんみたいで可愛い。
借り衣装だから痛めないように気を付けて着替えてハイネに背中のファスナーを上げてもらって、いざ出陣!
「まぁっ、フローラお姉様!とてもお似合いですわ!!」
「ありがとう!ルビーもとても素敵よ、まるで本物の妖精さんみたいだわ。……あれ、レイン、どうしたの?」
「あ、いえ……。こう言うものをあまり着たことがないからちょっと恥ずかしくて。それに……」
「おーい、いつまで着替えてんだ?……って、なんだ。もう全員揃ってんじゃないか。」
レインが何か言いかけた所で、階段の方からライトが顔を出して『早く行こうぜ!』と叫んだ。
その声にかき消されて、レインの言葉が聞こえなかった……。
「レイン、今の……」
「あ、大したことじゃないし気にしないで。ライト様がお待ちみたいだし、私達も早く行こう?」
「う、うん……。」
それを聞き返す前に歩き出してしまったレインを追いかけながら、少し前にある背中をじっと見つめる。
大きな羽根が揺れるその背中は、何だかいつもよりずっと小さく見えた……。
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「皆さん、こっちですよ!」
「ソフィアさん!」
全員で集合場所に行くと、そこには白い薔薇が絡み付くドレスを見にまとったソフィアさんがたくさんのお兄さんに囲まれていた。
よく見ると、周りのモデルみたいにカッコいいお兄さん達は前に運動会の応援演劇に出てた先輩達だ。ソフィアさんがお手伝いを頼んだって言うお友達の人達かな?
「じゃあソフィア、また後でな。」
「僕達は先に会場の方に行っていますから。」
「こう言う行事は受かれて羽目を外す奴等が出るからな、気を付けろよ?」
「えぇ、ありがとう。じゃあまた後でね。」
と、側に居たお兄さん達と別れてソフィアさんが私達の方に来てくれる。
最後にソフィアさんに耳打ちしてたお兄さんは、この間すれ違った青髪の人だった。親しげだったのも納得です。
「皆さん、とても素敵よ。」
「ありがとうございます。ソフィアさんもとっても素敵です!薔薇の精みたいですね。」
私の言葉にちょっと照れたように笑うソフィアさんは、可憐な感じで本当に可愛い。
そんなソフィアさんに説明を受けて、それぞれ指定された位置に移動する。私はフライと、ライトはクォーツと隣同士、そしてレインはルビーと一緒……なんだけど。
「レイン!」
「……何?」
ルビーと一緒に歩いて行こうとしたレインを呼び止めると、レインは穏やかに微笑んで振り返った。
「あ……、ううん、頑張ろうね!」
「そうだね、じゃあまた後で。」
その穏やかすぎる笑顔に何も言えなくなって、結局それしか言えなかった。
もうお祭りが始まっちゃうから話せないだろうし、夜にでも改めて話しに……
「ふぁー……。フローラ、どうかした?」
「え?ううん、別に!」
と、隣であくびを噛み殺していたフライに不意打ちで話しかけられた。
フライは首を横に振りながら答えた私をちらっとだけ見て、また生あくびをひとつ溢す。
「眠そうだね……、大丈夫?」
「今になって心配してくれるんなら、昨夜のあの時に止めに入ってほしかったよ。」
「う……、ご、ごめんね。」
眠そうな顔で恨みがましくそんなことを言われて、罪悪感が込み上げる。
結局、フライはそこで『まぁ、いいけど。』とだけ答えて会話を切って、同じタイミングで私達の乗る馬車が動き出した。
色々考えたいことはたくさんあるけど、今はまずお祭りの成功が最優先だよね!
馬車が向かう先に見えるたくさんのお客さんの姿と、流れ出した軽やかな音楽に、私は気持ちを切り替えた。
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実際始まってみると、まぁ多少は予想してなかったハプニングもあったりしたけど、パレードもステージの進行も概ね無事に終わった。
正直、ここがスプリングだからかフライの注目が一番って感じで、他の面子はほぼサポートや、舞台が終わった人への質問役に回される事が多くて、本来なら見れないような舞台裏が見れたり、役者さんや演奏者さんから色々なお話も聞けてとっても楽しかった!誘って貰えて良かったなぁ……。
「フローラさん、お疲れさま。一週間近くあったのに、頑張ってくれてありがとう。」
「いいえ、皆と協力しながらやったし、本当に楽しかったです!こちらこそありがとうございました。」
あ、ちょっと素の口調のまま言っちゃった。いけない、気を付けなきゃ。
ソフィアさんに気づかれないように小さく咳払いをして気持ちを切り替えて、改めて正面を向く。……と、ソフィアさんはちょっと言いにくそうに、でも何かを言いたげに口を開いた。
「あの……、フローラさん。」
「はい、なんでしょう?」
「ーー……。」
一度口を開いたもののまた黙ってしまったソフィアさんの様子に首を傾げる。何だろう、実は私達のしたことに不備があって、それを注意したいけど言いづらいとか?
もしそうなら大変だ!謝らないと……
「ソフィアさっ……」
「ゼオンの事なんだけど、ご迷惑とかかけてない?」
あら、違ったみたいです。
私が呼ぼうとしたのと同時にそう言ってから、今度はソフィアさんが『今何か言った?』と首を傾げた。間が悪くてごめんなさい。
「いえ、何でもございませんわ。それと、ゼオンく…さんは、いつも気さくに接してくださいますし、準備期間中も色々助けて頂きました。迷惑だなんて、とんでもございませんわ。」
「そ、そう……。まぁもう学園に戻るのだから関わることは無いとは思うけど、もしも何かされたら言ってね。」
「え?」
きょとんとしている間に『わかった?』と念を押されて、慌てて頷く。
それを確認したソフィアさんは安心したように笑って、人と約束があるからと来た道を戻っていく。
そんなソフィアさんが歩いていく先には、今朝の人達とはまた別のお兄さんが居た。ソフィアさん友達多いなぁ……。
あれ?友達と言えば……。
「……やっぱり居ない。」
お祭りが無事終わって解体中のステージの周りを駆け回って確かめてみると、ライト、フライ、クォーツ、ルビーの姿はあるのにレインだけが居ない。
30分位前に、気疲れしちゃったからって一人でぶらっとどこかに行くのは見たけど……。そう言えば、パレードが終わった辺りから顔色悪かったもんなぁ。
「……よし、探しに行こう。」
レインが一人になるために向かったのは、公園内にある小さな森だ。いくら小さくても木々が生い茂る森は日が暮れたら本当に暗い。何かあったら大変だ。
それに……、今朝の様子も気になるし。
ハイネは今皆の私服を取りに行ってくれてて居ないので、一番近くに居たライトの専属執事さんのフリードさんに一応お断りを入れて。私はすでに大分薄暗い森へと足を踏み入れるのでした。
~Ep.79 お祭りは準備期間が一番楽しい~
『はぁ……、遅くなっちゃった。そろそろ戻らないと……。』
『あれ?せっかく今なら君と二人でゆっくり話せると思ったのに、帰っちゃうの?』
『ーっ!貴方は……っ!』




