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Ep.78 イタズラだって程々に

  ビックリして後ろによろけたせいで尻餅をついたまま、呆然と頭上のゾンビさんを見つめる。


「ひっ……フローラ様、危険です。お下がりを!」


「ハイネ!!」


  と、そんな私を立ち上がらせ、ハイネが素早く自身の背後に隠した。そして、片手で私の体を庇うようにしながら、もう片方の手で器用にゾンビさんの両腕を絡め取った。


「ーっ!?」


「暴れると余計に痛い目に遭いますよ。見たところまだ子供の様ですが……なんの真似です?」


  その言葉に驚いて改めてじっくり見てみれば、ハイネに両手を封じられたゾンビさんは確かに私達と同じくらいの体格だった。

  そうだよね。いくらハイネに体術の心得があっても、大人同士で女性が相手を片手で制すのは難しいもんね。


  そんな中、駆け寄ってきたライトとルビーに更に下げられた私の耳に、この数日だけで大分聞きなれた声色が飛び込んできた。


「まっ、待って!待って下さい!!」


「ーっ!この声は、ひょっとして……。」


「はっ、ハイネ!離してあげて!!」


  正体を察して慌ててそう言えば、ハイネは不満げにしつつもゾンビさんからそっと手を離した。でも、警戒体制は解かない。

  片や、自由の身になったゾンビさんは、私達の視線を浴びながらその頭に着けた被り物を外す。


  と、そこから現れたのは予想通りの人物だったわけで。


「「「ゼオン(君/さん)!!」」」


「あはは、驚かせてごめんねー……。まさかこんな大事になるとは思わなくて。」


  薄くハイネに掴まれた痕の残る両手をひらひらと振って動きを確かめながら、ゼオン君はこちらに向かって小さく頭を下げた。


  正体がわかったことで警戒心も解けて辺りに漂う空気も軽くなって、周りから集まっていた人々の視線も離れていく。


「ったく、いきなりそんなことされたら驚くじゃないか。」


「だからごめんねって謝ったじゃない。ちょっとしたイタズラ心だったのになーっ。」


  呆れたような表情(かお)をして腕を組んだライトにそう言われても、ゼオン君はいつもと変わらない笑顔のまま。うーん、大物だ……。


「皆様のご友人と言うことであれば今回は多目に見ましょう。しかし……世の中、“出来心”では済まされないことが多数あることを理解しておいて下さいね。」


  綺麗な顔に眉を寄せて威圧感たっぷりにそう言ったハイネを『はーい!』と軽くあしらって、こちらに歩み寄ってくるゼオン君。


「ちょっと用があってブラブラしてたら偶然皆を見かけたからさ。今日は買い物?ついて行ってもいい??」


「え?えっと……。」


  キラキラと何かを放ってそうな笑顔でそう言ったゼオン君に戸惑って、ちらっと皆の様子を確かめる。

  実際のところ、ゼオン君は私とレインが水やりをしてる所に来てばっかだし、交流がちゃんとあるのはレインと私だけなんだよね……。まあ、男の子達は男の子達でたまに話してたみたいだから、ライトは大丈夫といえば大丈夫だとは思う。

  でも…………。


「フローラお姉様……。」


  目があったルビーが、不安そうに私の名前を呼ぶ。

  そう、ルビーはちょっと人見知りなんだよね……。それに、今日はあくまで私用でのお買い物だし。うん、心苦しいけど、お断りした方がいいかな。


「ゼオン君、申し訳無いんだけど……」


「俺ならこの辺りのいい店とか色々案内出来るよ?さぁ、行こ!」


「あっ!ちっ、ちょっと……!」


  こらこらこら、私達まだ返事してないよ!

  肩に手を回して然り気無く連れていこうとしないでーっ!って言うか、相手の答え聞かなきゃ聞いた意味がないじゃん!!


「ゼオン君、待って!」


「……、何?」


「……っ!」


  何とかゼオン君の腕から抜け出して引き留めるために声を張れば、ゼオン君はゆっくりと振り返って私の目を見た。……でも、その淡い紫色の瞳がすごく暗い、冷たい眼差しをしていて……、思わず言葉に詰まる。


「……ゼオン、悪いが今日は遠慮してくれ。他国の貴族に差し上げる物の選択だから、無闇に人数を増やしたくないんだ。」


「ーー……。」


  言葉に詰まった私を見かねたのか、ライトがちょっと距離をあけて立っていた私とゼオン君の間に入ってそう言ってくれる。立ち位置も、丁度ゼオン君から見るとライトの身体で私が見えなくなってるみたいで、すぐに庇ってくれたんだってわかった。


「……そっか、じゃあ仕方ないね!じゃ、お邪魔虫は帰るよ。」


  数秒間黙り込んでそう言ったゼオン君は、至っていつも通りだった。

  『悪いな。』と苦笑を浮かべたライトに明るく『いいよいいよ!』と答えて、大きく手を振りなが去っていく。


「あれ……?」


「ーっ!フローラ様っ、大丈夫ですか!?」


「う、うん、平気……。」


  そんなゼオン君を見送ってから、自分の体が震えてる事に気づいた。

  慌てたハイネが、熱がないかなどを確かめてくれるけど、体調には特に異状はない。


  結局震えはすぐに収まったので『すぐにでも帰りましょう』と言うハイネに無理を言って、お買い物を続行した。今日買っちゃわないと、もう探す時間も無いもんね!


  ゼオン君が現れた後はライトもなんだか真面目に探してくれるようになって、フライが紅茶好きだってことからそれ絡みの物を選んで買うことが出来た。よかった……。


  でも、結局あの震えはなんだったのかなぁ……。











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  帰り道ついでに夕方の水やりを終わらせてから皆で別荘に帰ると、門の辺りで腕を組んだフライが柱に寄り掛かっていた。


「やぁ、お帰り。こんな時間まで、一体何処に行っていたのかな?」


「えっ?」


  そんなフライと私達の様子を、クォーツがちょっとだけ開けた扉の隙間から見守っている……。


「クォーツの奴、さては自白したな……?」


「そう言うこと。まぁ、『三人で買い物に行った』まで聞き出した辺りで逃げられたけど。」


  そう言って、フライはライトの方を見ながら『どんな下らないもの買ってきたわけ?』なんてため息をついた。

  この様子からして、多分自分へのプレゼントがあるとは思ってないんだろうなぁ……。


  フライに疑われて『心外だ!』なんて怒るライトを横目に、手に下げているお洒落な紙袋を見下ろす。……本当は、これにあう焼き菓子でもつけようかなと思ってたんだけど。タイミング的に、今渡した方がいいよね?


「フライ!」


「何?……っ!」


「はい、これ。この間、バイオリンレッスンつけてくれたお礼!」


  『どうぞ!』と差し出すと、フライは驚いたように数回瞬きをしてから、紙袋を静かに受け取った。


「あ、ありがとう……。これは……、ガラス製のティーカップとソーサーだね。」


「セットで色んな珍しい茶葉の詰め合わせも入ってるよ!よかったら飲んでみてね。」


  箱から出した透明なカップを夕日に当てながら、フライが改めて『ありがとう』と笑ってくれた。気に入ってくれたみたいで何よりです。


  ちなみにこのティーカップ、装飾が綺麗なだけじゃなくて、注いだ紅茶の成分に反応してガラスの色がかわるちょっと変わったティーカップなのだ!これなら、長く使ってても飽きないよね。


「何だよ、人のこと疑いやがって……。覚えてろよ?」


  カップを持つフライを囲みながら騒ぐ私達は、ライトのそんな呟きの意味をその晩知ることになるのでした……。


  ~Ep.78 イタズラだって程々に~


おまけ⬇


  その日の晩、ライトは昼間にマーケット通りで買ったあるものを身につけ、こっそりとフライの部屋へと入り込んだ。

  そして……

  

「わーっ!!!!」


「えっ……、~~っっっ!!!」


  驚かされて飛び起きて、寝ぼけた頭でその親友の姿を見たフライは、寝間着姿のまま廊下に飛び出した。

  騒ぎを聞き付けて、そばの部屋で寝ていたフローラ、クォーツもそれぞれ様子を見に出てくる。


  そんな二人が見たのは……


「いきなり何するんだよ!寿命縮まるかと思っただろ!」


「ふっ……、昼間に人を疑った仕返しだ!」


「また子供染みたことを……!て言うか、そんなゾンビの被り物なんてどこで買ったんだ!!」


「さぁ、どこだろうなぁ。持ってみるか?」


「ちょっと、近づけないでよ!!」


  ライトの扮するゾンビから逃げ腰で逃れようとしているフライの姿だった。

  よく見てみれば、フライの瞳にはうっすら涙も浮かんでいるように見える……。

  そこには最早、いつもの余裕な笑みはなかった。


「えっと……、どういう状況?」


「あー、フライはああいうちょっとグロテスクなものが苦手なんだよね。実は。」


「そうなの!?……あれ、クォーツもホラー嫌いじゃなかったっけ?」


「僕は光の入らない不気味な森とか、人のいない廃墟とかが嫌いなだけであぁ言う作り物は平気なんだよね。」


「そ、そう……。で、あれ……ほっといていいの?」


「しばらく好きにさせとけばライトが飽きるから大丈夫だよ。さ、寝よー。」


「う、うん……。フライ、頑張って!」


  結局その晩、フライが寝付けたのは夜中の3時過ぎだったと言う……。



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