Ep.74 大きな薔薇は……
『私が咲かせて見せましょう!!』
「あっ!フローラさん、こっちよ。」
「おっ……、遅くなって…っ、すみ……ません………!」
幸い宿泊先の別邸からは公園が近かったので、全力疾走でなんとか待ち合わせの時間丁度にソフィアさんに会うことが出来た。ハイネの制止を無視して走ってきちゃったから、帰ってからが恐いけど……。
「着いて早々お呼び立てしてごめんなさいね、お茶でも飲みます?」
「あ、ありがとうございます……。」
まだちょっと切れている息を整えつつ、ソフィアさんが差し出してくれた冷たい紅茶を頂く。はぁ、冷たくて美味しい……。
「ありがとうございます、美味しかったです。」
「お口に合ってよかったです。では、落ち着いた所で本題に参りましょうか。」
「はい。」
笑顔のソフィアさんに案内されて、二人で公園の中心へと移動。
この公園も、花壇がいっぱいあって、空気に甘い香りも混ざっててとても素敵だ。後でレインを誘ってお散歩に来てみようかな。こんな場所をお日様を浴びながらのんびり歩いたら、きっと緊張もほぐれる気がするし。
「さて、着いたわ。どうぞご覧下さい。」
「お、大きい……!」
と、考えてる間にすぐ目的地に着いたみたい。
ソフィアさんの声に促されて顔を上げた私の目には……
「これは……、薔薇ですか?」
実に大人が一人すっぽり入ってしまいそうな、大きな薔薇の蕾が飛び込んできた。
驚いてる私に反して、ソフィアさんは『ちょっとしたものでしょう?』と可愛らしく笑った。
いやいや、ソフィアさん、これは“ちょっと”の域を超えてますよ!?
「大輪だとは聞いていましたが、こんなに大きいなんて……。」
今更ながら、ちょっと不安になってきた……。
「そんなに心配しないで?フローラさんは、いつも学校の花壇でしているみたいに普通にこの子にお水をあげてくれれば良いから。」
「は、はい、頑張りますわ!」
そう……今回私は、お祭りの目玉であるこのお花の水やり係兼、お祭りのステージで皆と司会を務める為にこの街にお呼ばれしたのだ。
実はこのお花、開花にすごく大量の水……それも、ただの水じゃなく魔力を帯びた水が必要で、これまでは毎年専門の方が水やりや管理をしてたらしいんだけど……その方は昨年定年で退職されたそうで。それで今年はどうしたものかと頭を悩ませた町長さんが、この街の出世頭であるソフィアさんになんとかならないかと相談したんだって。
そして、相談を受けたソフィアさんは高等科の友達にお手伝いを頼んで大体の問題は解決したんだけど、水やりの件だけはどうしても適任者が見つからなかったらしい。それで頭を悩ませていた時、前に花壇に魔力で水やりをしてた私のことを思い出したんだそうな。
司会まで任されたのは、ライト曰く『他国の王族をただの水やりのためだけに呼び立てるのは無礼だと思われるから他の仕事も考えたんだろ』とのことです。私は別に構わないのに……上流階級って大変だ。
「さて、じゃあこれ、要点をまとめたノートね。」
「ありがとうございます。」
差し出された小さめのノートを受けとると、ソフィアさんは『私はまだちょっとお仕事があるんだけど……、フローラさんはどうする?』と聞いてくれた。
時計を見てみればまだ時間も早いし、ここは別荘からもそんなに遠くない。そして何より……
「折角なので、向こうのマーケット通りを見て帰りますわ。」
「一人で大丈夫?」
「はい、大丈夫です!どうぞお気遣いなく。」
こう見えても中身は大人だからね。ちょっとブラブラするくらい大丈夫大丈夫!
その意を込めてにっこり笑って、ソフィアさんにご挨拶をして。『気を付けてね』とちょっと心配そうに笑った彼女に見送られ、来た道と反対の方に歩き出す。
「ソフィアーっ!」
そんな私と入れ違うように、なんだか身なりの良い青髪のお兄さんがソフィアさんの方に駆け寄っていく姿を見かけた。
お祭りのお手伝いに来てるって言う学園の人かな?
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そんな話はさておき、マーケット通りにやって参りました!
実は、ここにはただ遊びに来たわけじゃなくて……
「フライはどんな物をあげたら喜ぶかな……。」
そう、この間のバイオリン個人指導のお礼に、何か良いものがないかとプレゼントを探しに来たのだ!
学園のお買い物エリアだと、あげたのと同じものを相手が持ってるリスクも上がっちゃうしね。
「……駄目だ、ピンと来ない。」
と、張り切って来てみたものの………、考えてみたら私はフライの好みや趣味をまるで知らない事に気づいた。これじゃ選べないよ!
「あー……、ライトやクォーツに付き合ってもらえばよかったなぁ……。」
きっとあの二人なら、フライの好きなものとかもわかるはずだ。あぁ、早く気づけばよかった!私って間抜け……。
仕方ない、今日は帰ってまた出直そう。そろそろ帰らないとハイネ達も心配するだろうし。
「あっ、ねえ君!」
「え?私??」
と、通りを抜けた所で不意に声をかけられた。声の主は、私と同い年か少し上に見える、可愛い感じの男の子だ。
彼は、肩の辺りで綺麗に切り揃えられたピンクブラウンの髪を揺らしながらこちらに駆け寄ってきた。服装から見て、地元の子かな……?
「いきなりごめんね。ちょっとお聞きしたいんだけど、この通りか公園でぽややんとアホ面したピンク髪の姉ちゃん見かけなかった?」
人懐っこそうな笑みを浮かべたその子は、どうやら人を探してるらしい。
ピンク髪のお姉さん……。ソフィアさんの髪は綺麗なピンク色だけど、アホ面ではないし、今マーケット通りは一通り見てきたけど、他にそんな目立つ髪をした人は見ていない。
「うーん……、ごめんなさい。知らないわ。」
「そっか……、わかった。いきなりごめんね!」
男の子はそう言うと、再び『すみませーん!』と叫びながら他の人に同じことを聞きに走っていった。
お姉ちゃんでも探してるのかな?お役に立てなくて申し訳ない……、早く見つかるといいね。
「……さあ、私も帰ろうっと。」
明日からは本格的にお祭り準備が始まるんだ、頑張るぞ!
~Ep.74 大きな薔薇は……~
『私が咲かせて見せましょう!!』




