Ep.71.5 一方その頃……(クォーツside)
「はぁぁ………………。」
「おい……、何か辛気くせーぞ。」
「クォーツ……、少しはシャキッとしたら?」
この学校にもっと行事を増やしたいと言うライトの提案で、まずは手始めに来月音楽祭をすることになって。
ただでさえ最近忙しくて週に一度くらいしかルビーに会えてなかったのに、その運営の為にその一回すら会えなくなってしまった。
あぁ……、愛が……、愛が…………
「愛が足りなぁぁぁぁぁいっ!!!」
「「……気色悪っ。」」
「ちょっと、同時に言わないでよ!」
堪らず叫んだ僕をしらけた目で見て、ライトとフライは話し合いを続行する。
うん、まぁ、いつものことだし、仕方ないことなのは僕だってわかってるんだけどさ。
「はぁ……、外はもうすっかり春めいてるのに……。」
僕の心は、未だに真冬並の寒さだよ……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あっ、クォーツーっ!」
「ーっ!フローラ!」
「おはよう!今朝も早いね。」
翌朝、日課で花壇を見に来た僕の元にフローラが駆け寄ってきた。
低めの位置で片側に緩くまとめた髪に、そこに結ばれたリボンが揺れている。今日の髪型はちょっと大人っぽいね。
「おはよう。フローラはちょっと遅めだね、いつもは誰より早いのに。」
「うん、昨日ちょっと色々あってさ……。」
僕の言葉にあははと苦笑いを浮かべてから、フローラは『そんなことより、今日はクォーツに良いお知らせがあるんだ!』と笑った。彼女はコロコロ表現が変わるので、見てるだけでも面白い。
本当、いつも元気だなぁ。お陰で僕も少し元気が出てきたよ。でも……
「良いお知らせ?」
「うん、あのね……」
「お兄様っ!!!」
「えっ!!?」
と、その内容を聞こうとしたそのタイミングで腰の辺りに感じる衝撃。
て言うか、この天使のように可愛い声は……!
「ルビー!な、なんで!!?」
「うふふ……、驚きましたか?」
「う、うん……。」
僕の腰に両手を回して笑うルビーの可愛さに癒されつつも、驚いて正面に立っているフローラと腰元のルビーを交互に見つめる。
と、戸惑ってる僕にルビーが『フローラお姉様とレイン様に昨日お誘い頂きましたの!』と言った。
「な、なるほど。フローラの言ってた良いお知らせってこれかぁ。」
「ふふっ、そう言うこと!」
と、自慢げに笑ったフローラが僕らの後ろを見て『あっ』と声を上げた。振り返ると、そこには……
「あれ、皆もう来てたのね。ごめんね、遅くなって。」
「レイン!大丈夫だよ、皆さっき来た所だし。」
レインが花壇の整備に使う道具を持ってこっちに来た所だった。
「よし、じゃあ全員揃ったことだし始めようか。私とレインが花時計の方見るから、ルビーとクォーツは普通の花壇をお願いします!レイン、行こ!」
「うん。じゃあ、二人とも頑張ってね。」
「はい!頑張りましょう、お兄様!」
「うん、そうだね。」
まさか、昨日の地獄から一転して朝から至近距離で可愛いルビーの笑顔を見れるなんて……!二人には感謝してもしきれないよ。
しかも、花壇を整備してるときにルビーから聞いた話だと、ルビーはこれからも少なくても週に一度は必ずお手伝いに来る約束をフローラとしたらしい。
つまり、今後は少なくても週に一度はルビーとゆっくり出来るんだ!
「あの、お兄様……?どうなさいました?」
「あっ、ううん何でもない!それより、二人には何かお礼をしないとね。」
「それは良いですわね!」
幸いなことに、ずっとスケジュールを詰めてたお陰で今週末は土日が休めそうだ。ルビーと一緒に、こっそり二人への贈り物を買いに行こうかな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そんなわけで迎えた土曜日。僕とルビーは二人で学園内商店エリアへと足を運んだ。
「うーん、何が良いかなぁ……。」
「そうですね……、お二人の性格上、何を差し上げても喜んで受け取って下さりそうな気は致しますが……。」
ルビーのお薦めで女の子が好きそうな物が色々売ってるお店に来ては見たものの、色々な物がありすぎてどうしたら良いかわからないや。
お花のたくさんついた可愛らしいカチューシャや、ステンドグラス製の小物入れ、きらびやかな馬がテントの下でくるくると回るタイプのオルゴール……。どれもとても可愛い。
「可愛いけど……、こう言うのって好みがあるんだよね?」
「そうですね……。アクセサリーの類いは特に難しいと思います。」
だよねぇ……。
ルビーの言う通りフローラもレインも優しいから、喜んではくれるだろうけど。
でもやっぱり、心から喜んでくれるものをあげたいよね。お礼だし……。
結局、お店のお姉さんにルビーが相談して『相手の趣味などに役立つ物が良いですよ』との答えを貰ってきたので、小説を書くのが好きらしいレインには書いた文字を消して書き直せる特殊な万年筆と、書いた物語が映像となって流れ出す魔法のかかったノートを。フローラには、入れた食べ物を最適な温度や湿度で管理して長持ちさせてくれるバスケットを買った。
万年筆は白いペン軸に金で模様が入って、更に飾りとして小さめの宝石もついている。バスケットの方はかごにレースのリボンが編み込まれてるし、中には綺麗な布も敷かれててどっちもすごく可愛い。……と、思う。
自分のセンスに自信がないからちょっと不安だけど、ルビーと選んだし大丈夫だよね!
「ねぇお兄様、何か美味しいものを食べて帰りましょう?」
「うん、そうだね。ルビーの行きたいところに行こうか。……っ!!」
「あら?お兄様、どうされました?」
お店を出てすぐ、ルビーからの可愛いお誘いに微笑みながら顔を上げたとき……、人混みの向こうに見慣れた緑色の髪と金髪を見かけた。
「あ、いや、今……」
「お、お兄様、目が恐いですわ。本当にどうなさいました?」
「う、ううん、なんでもないよ。さっ、何食べる?」
今の……、確かにフローラとフライだったよね。あの二人が一緒に出掛けるなんて、珍しいな。
って言うか、遠くてよく見えないから目を細めてただけだからね。
可愛い妹から恐いって言われるなんて、心外だなぁ……。その言葉に傷ついて、お兄ちゃん何だか胸が痛いよ?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その日の夜、僕とルビーは寮の共有スペースでフローラとレインに買ってきた贈り物を渡した。
「わぁ、ありがとう!……ございます。早速使わせて頂きますわ。」
「私にまでお気遣いいただきまして……。とても嬉しいです、ありがとうございます。」
二人とも、中身を確認して嬉しそうに笑ってくれた。よかった……。
レインは早速ノートになにかを書き始めていて、ルビーは楽しそうにそれを覗き込んでいる。
「あのさ、フローラ……。」
「はい、なんでしょう?」
そんな二人を微笑ましく見ているフローラにそっと近づいて、小声で話しかける。周りに多少人目があるけど、ここにはクラシックがいつも流れてるし、皆それぞれお喋りに夢中だから誰かに聞かれる心配はないはずだ。
「今日さ……、フライと二人で買い物とか行った?」
「え?あぁ、ちょっと楽器を見に行ったの。ほら、今フライにバイオリンの練習見て貰ってるから……。」
僕の質問に、フローラもあくまで小声でそう答えた。そうか、この間そんな約束をしてたね……。
「なんだ……、そう言うことかぁ。」
「ちょっ、クォーツ…様、大丈夫ですか?」
彼女のその答えを聞いて、何だか肩の力が抜けて柱にもたれ掛かる。
と、そんな僕を心配してくれるフローラの様子にルビーとレインもすぐに気づいて、僕はあっという間に自室に戻るよう強制送還されてしまった。
女の子三人に逆らう度胸は僕にはないし、あくまで優しさからの行動なのはわかるから素直に従っておこう。
それにしても……
「僕……、なんであんなに肩に力入ってたんだろ?やっぱ疲れてるのかな……。」
~Ep.71.5 一方その頃……(クォーツsaid)~
『クォーツ、なんかちょっと元気なかったね。』
『今日、お買い物が終わった辺りからずっとあんな感じでしたわ。ため息も多かったですし……』
『きっとお疲れなんだよ……、新生徒会はすごくアクティブだものね。せめて休めるときには休まないと。』
『そうですわね……。明日は、私がお兄様をたくさん労うことにいたします!』




