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Ep.70 ブランの災難?・前編



  『“猫を被る”って、何から出来た言葉だったっけ?』




  帰り道、テルおじいさんがケースに入れてくれたバイオリンを持って馬車に揺られる。隣に座るフライは、その私の手元をじっと見つめながら静かに口を開いた。



「……ねぇ、なんでそれを選んだの?」


「えっ?」


  何でって聞かれても……。


「なんか……、温かかったの、この楽器。」


「『温かい』?」


  首を傾げるフライに向き直るように体を少し傾けてから、バイオリンのケースをそっと胸に抱いて微笑むと、フライはよくわからないよと言いたげに眉を寄せた。

  

「上手くは言えないんだけどね……、これを持った瞬間に、ふわって温かいものが流れ込んできた気がしたんだ。」


「……?それはただの楽器だから、魔力は込められていないはずだけど?」


  あら、なんか違う解釈されちゃってるや。うーん、どうしたら伝わるのかな……。


「魔力とかの話じゃ無くてね……」


「……!」


  私の乏しい語彙力(ごいりょく)では尚更、言葉じゃ伝わらなそうだからと、フライの手を取ってバイオリンケースに乗せさせる。


「……なんの真似?」


「だって、言葉じゃ上手く言えないんだもん。」


  『それに……こう言うのは、考えるんじゃなく感じるものだから』と言えば、フライは一瞬だけ真顔になる。……と、小さく吹き出した…ように見えた。


「……っ!まぁ何か感じるにせよ、ケース越しじゃわからないんじゃない?」


  ……おっしゃる通りで。


「と、とにかく!このバイオリンには……、長年大切に弾き続けて来た、テルおじいさんの思いがこもってるんだわ。」


「……ふーん。」


  段々ばつが悪くなってきて、畳み掛けるようにそれだけ言って窓の外へと視線を移した。


  あぁ、今日もいいお天気で空の青が眩しいなー。流れていく景色を見てると、背中に感じるフライの視線なんて全く気にならないなー。


「まぁ……、これで楽器も決まったことだし、今まで以上にペース上げて練習しないとね。」













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  その日の夜、フライの毒舌レッスンを終えた私は、自室でも今日やった部分を復習する。と言っても、いくら防音設備が整ってて壁が厚かろうがここは寮だから、音量はかなり抑えてるけどね。


「あれ?なんか、昨日までとちょっと音が違うね。」


「ーっ!うん、楽器変えたんだ。」


  と、弾きはじめて数分でブランがそんなことを言った。いつもは、私が練習を始めるとうるさいって布団に潜り込んじゃうのに……。


「ふーん、それだけでこんな変わるものなんだねぇ。」


  なんて言いながら、ブランはふんふんとバイオリンのにおいを嗅いでいる。


「……なんか、ケースからフライ皇子のにおいがする。」 


「えっ!?」


  好きにさせとけばいいかと練習を再開しようとした所でまさかの爆弾投下!!

  よくわかったね!フライがそれに触ったのなんて私が楽器選んだ理由のあのくだりの中での一回のみなのに!!


「ちょっとフローラ、どう言うこと?」


「え、えーと……」


  しまった……!ブランがまたヤキモチ妬きそうだから、バイオリンの先生がフライだって事は話さないようにしてたのになぁ。


  結局、私はブランの勢いに気圧されて取調室の犯人が如く洗いざらい全てを暴露してしまった。


  もちろん、明日の日曜日練習にブランがついてくることになったのは言うまでもない……。

  明日……、ちゃんと練習出来るかなぁ。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  そんなわけで翌朝、やってきました第五音楽室!……って言うか、初等科に五つも音楽室があるなんて知らなかったよ。

  そんな知名度の低い(私が知らなかっただけかも知れないけど)第五音楽室は、私がいつも使っている調理室の二つ上の階の端っこにひっそりと存在している。


  本来なら初等科生徒の休日の校舎使用は原則禁止なんだけど、今日はフライが生徒副会長権限でなんとかしてくれたらしい。お

手数おかけします。


「失礼します。」


「……失礼します。」


  私の肩に乗ってるブランも挨拶はするけど、尻尾が激しく左右に揺れてる。あー、ご機嫌ナナメだなぁ。


  どうか平穏に練習が出来ますようにと祈りながら、重い扉をそっと開く。


「おっ、来たな!」


「え!?」


「あっ!」


  と、同時に耳に馴染みのある声が飛び込んできた。

  ビックリして部屋の奥を覗き込めば、ピアノの前には……


「ライト!どうしたの?」


「いや、今日は久々に暇だからさ。することもないし、どうしたもんかと思ってたらお前等がここで練習するって聞いたからさ。」


  そう言いながら楽譜を捲っているライトをちらりと見てから、フライがこちらに向き直って『いつの間にかついてきたんだ』と笑う。フライさん……、目が、笑ってませんよ?


「なんだよ、俺が居ちゃいけないのか?」


「……はぁ。別にそんなことは言ってないけど、練習の邪魔はしないでよね。」


「はいはい、わかったよ。」


  笑顔なのに鋭い空気を含んだフライの言葉に、ライトが両手を小さくばんざいするように上げながら答える。

  なんか、こう言うやり取り見るのも久しぶりだなぁ……。



「こんにちわー、ボクも居るから無視しないでー!」


「ん?」


「あぁ、フローラの使い魔の……ブランだったな。お前も来たのか?」


  と、しばらく様子見をしていたブランがタイミングを見て顔を出した。

  その姿を目にしたライトが立ち上がって、ふよふよ飛んでいたブランを両手でひょいっと捕まえる。片や捕まったブランは、ちょっと尻尾を振って不機嫌な感じだった。

  ……けど、それをライト達にぶつけるような真似はしない。


  ブラン本人曰く『いくらボク自身が気に入らない相手でも、フローラの大事な友達なら少しは我慢するさ』だそうで。私のために猫を被ってくれているのです、元から猫だけど。


「あのー、ライト……さん。離してくれない?」


「ライトで良いぜ?それより丁度良かった。フローラに渡そうと思ってたんだが……」


「え?」


  あれ、考え込んでた内にライトがご機嫌に鞄から何かを出し始めた。

  なんだろう……?


   ~Ep.70 ブランの災難?・前編~



  『“猫を被る”って、何から出来た言葉だったっけ?』



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