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Ep.64.5 新・生徒会長の日常(ライトside)



『ちなみに、大丈夫ーっ!と答えた直後にアイツの姿があからさまに消えた件に関しては気づかなかったふりをした。』




  やたらとトラブルの連発だった春休みを終えて、俺たちは数週間ぶりに学園へと戻ってきた。

  あぁ、いつあのマリンとか言う変なガキ(まぁ俺たちと同い年らしいけど)が押し掛けてくるかわからない実家に比べたら、学園のなんて平和なことか……!


  今日から初等科の最上級生になる俺達は、この一年は平穏を約束されたような物だし。久々に歩く校舎への道でも、足取りは自然と軽くなる。


「……!あれは…………。」


  足取り軽くたどり着いたホールの扉の前に、見慣れた金髪の少女を見かけた。


「そう言えば、今回の在校生挨拶はフローラがやるんだったか……。」


  必死に原稿らしきメモを読み込んでいる姿を見て、そんなことを思い出した。

  一昨年はクォーツで、昨年は俺だった。だから正直今年はフライだろうと思っていただけに、選ばれた当人が大分驚いて挙動不審になっていて、やたらと笑えたことを覚えている。


「あ……。」


  と、こっちがそんなことを思い返してる間に歩き出していたフローラは、ガラス製の扉に盛大にぶつかっていた。

  透明だから気づかなかったのか……?


「……っ、バカな奴……!」


  その一国の姫とは思えない姿に、思いっきり吹き出す。

  当の本人は、丁度柱の陰になる位置にいた俺には気づかなかったのか、辺りを確かめるようにキョロキョロしてから、『誰も居なくてよかった……』なんて再び歩き出し、今度こそホールの中へ……


「ーっ!!きゃーっ!?」


  入ったのは良いものの、今度はその姿がふっと視界から消える。ありゃ、入ってすぐの段差踏み外したな?

  ったく、舞台で同じようなヘマすんじゃねーぞ……。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「くっそーっ、あいつ等、カフェテリアで待ってるとか言ってた癖に……!」


  今朝、大丈夫そうだからとフローラを助けなかったからなのか何なのか。俺はあいつが無事に代表挨拶を勤めたその式の中で生徒会長なんて言う面倒な役に任命されてしまった。

  その上、式が終わるなり会議へ直行!一緒に役員に任命されたフライとクォーツは、引き継ぎがあるからと会議の後更に前生徒会長に捕まった俺を置いてそそくさと逃げやがったし……。


  しかも、『終わるまでカフェテリアで待ってる』と言い残した言葉を信じてきてみれば、ものの見事に誰も居ねーっ!あいつ等、薄情すぎだろ!?









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あー、疲れた……!」


  なんとも言えない心境で寮まで戻り、入ってすぐの共有スペースのソファーに座り込む。

  酷く疲れたせいか甘いものが欲しかったので、いつもなにかしら菓子が入れられているかごへと手が伸びる……。が、いつもそこにあるはずの望みのものは、今日に限ってひとつもなかった。


  もう遅いから、片されちまったのか……。


「もう良いや……、部屋戻って寝よう……。」


  新学期から踏んだり蹴ったりだな、俺……。まぁいいか、たまにはこんな日もあるさ。

  明日に向かってさっさと切り換えだ!


  くよくよするのなんてガラじゃない。

  そう思い直し、さっさと身支度を終わらせて寝ちまおうと勢いよく自室の扉を開く。


「あ、ライトお帰……」


  ーーっ!!?


  聞き覚えしかないその呑気な声が話し終える前に勢いよく扉を閉め、すぐさま部屋の番号を確める。


  ……うん、大丈夫。まぎれもなくここは俺の部屋だ。疲れすぎて間違えた訳じゃない。

  と、言うことは……


「何故お前らがここに居る!?」


  改めて部屋に飛び込めば、そこでは優雅に紅茶なんか飲みながら裏切り者二人がくつろいでいた。


「お前ら……!なんで俺を置いて帰ったんだよ!!」


  他室に迷惑にならないように扉をしっかりと閉めてからそう叫べば、クォーツが頭を掻きながら『いやぁ、ちょっと色々あってさ……』と曖昧な笑みを浮かべる。

  色々ってなんだ色々って!


  そして、フライに至っては部屋の主をガン無視してクッキーなんか食ってんじゃねーぞ!!


  ーー……ん?


「おい、なんだそのクッキー!」


  まるで俺への当て付けであるかのように、二人の手元には一口サイズの切り株みたいなクッキーが!

  カッとなったままそこも問いただしてみれば、フローラが作ったものらしい。


  そう言われてみれば、あいつは実技の成績が低くて生徒会には選ばれなかったんだったなと思い出す。

  で、大方暇だから~なんて理由でせっせと一人で作ってたんだろう。その姿が目に浮かぶ様だ……。


「じゃあ、おやすみ。」


「また明日ー。」


「……っ、あ、あぁ。おやすみ……。」


  目に浮かぶその光景に意識をやってる内に、二人は食うだけ食ってさっさと部屋から出ていった。


  ……いやいやいやいや、『おやすみ』じゃねーよ!!


「俺の分は!!?」


  くっそーっ、今日は本っっ当ついてねーーっっ!!!







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「見て見て、ライト様よ……!」


「今日はお一人なのね。」


「フライ様とクォーツ様とご一緒の姿ももちろん素敵ですけれど、お一人で黄昏ていらっしゃるお姿も素敵ですわ……。」


  そんな災難だらけの日の翌日。

  結局気分が切り換えられずに昼も一人でカフェテリアで過ごす俺を、遠巻きに知らない令嬢達が眺めている。

  ……ちっ、聞こえてんだよ。俺が一人で居ちゃ悪いか!!


  そうは思っても、いずれは上に立つ立場の人間が感情的になってはいけないってことで我慢はする。

  と言うか、いつもならあんな声気にもならないはずなんだが……なんか今日はイライラするんだよな。


  はぁ……、これ以上騒がれる前に帰るか。今日はまだ午前で授業終わりだしな。


「ーー……?」


  と、立ち上がろうとした際に、あれだけ耳障りだった囁き声が一気に減った。


「……フローラ?」


「……っ!ライト!……様、捜しましたわ。」


  その原因は、考える間でもなく朗らかな笑みを浮かべて歩いてきた。

  なるほどな、いくら幼いといっても、この学園に居るのは曲がりなりにも貴族の令嬢ばかり。流石に、圧倒的に目上の同性の前では礼を重んじたって訳か。


  そんな空気に気づいているのかいないのかわからないが、フローラはにこにこしながら俺をカフェテリアから連れ出す。

  どうやら、端から目的はそれだったらしい。







「ライト、今日なんでお昼来なかったの?」


「……一人で食いたい気分だったんだよ。」


  カフェテリアから出ていつもの中庭のテーブルまで来ると、途端にフローラが被っていた猫を剥いでそんなことを聞いてくる。

  明確な理由なんてないから適当に答えれば、呑気な笑みを浮かべて『そうなんだー』なんて信じられて力が抜けた。


  前々から思っちゃいたが、こいつはもう少し人を疑うことを覚えた方が良いと思う。


「……で、わざわざカフェテリアまで探しに来て連れ出しといて、なんの用だよ?」


「用って言うか、これを渡したくて。」


「……?」


  『手、出して!』と言われたので差し出せば、そこに乗せられる何かの袋。

  ご丁寧に赤いリボンの付けられたそれの中身は、昨日フライとクォーツが食べていたクッキーだった。


「これ……。」


「昨日、時間がたくさんあったから焼いたんだ。」


  あぁ、それは知ってる。


  ……知ってるが、ここで話を遮るのも無粋だと思いとりあえず最後まで聞く。


  と、フローラ曰くこれは昨日、いつものメンバー全員分を焼いたもので、本当なら会議で会えなかった俺達三人には明日……つまり今日に渡しに来るつもりだったらしい。が、偶然帰りにカフェテリアで会って一緒に帰ったフライとクォーツには……


「その場で渡したと。」


「うん。ライトの分も二人に預ければよかったんだけど、うっかり忘れちゃって……。」


  『ごめんね』と、単に渡し忘れただけにしては申し訳なさそうにしている姿に首を捻れば、昼を食べていた時に、フライから昨晩俺が不機嫌だったことを聞いたらしい。アイツは余計なことを……!


  一瞬また苛立ちが湧いたが、目の前の奴が無邪気に『ライト甘いの好きだよね』と笑っていて勢いが()がれる。


「ちゃんと管理してたから湿気たりはしてないはずだから!」


「あ、あぁ、ありがとな。」


「じゃあ、私行くね!また明日ー。」


  何でもこれから花壇の手入れがあるんだそうで、手を振りながら小走りに去っていくフローラ。

  その忙しない姿に昨日の朝のアイツの様子が脳裏に甦って、思わず『足元気を付けろよーっ!』と大分離れた背中に叫ぶ。


「ーー……っ!誰か居るのか!?」


  そんなアイツを追うように、一つの影が通りすぎたように感じたんだが……、見たところ辺りには何も居ない。


「気のせいか……、やっぱまだ疲れてんのかな。」


   ~Ep.64.5 新・生徒会長の日常~


『ちなみに、大丈夫ーっ!と答えた直後にアイツの姿があからさまに消えた件に関しては気づかなかったふりをした。』




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