Ep.63 六年生になりまして
『早くも新たな出会いです。』
「ねぇブラン、リボンとか曲がってない?」
「どれどれ……、うん、大丈夫みたい。」
春休み明け最初の登校日の朝。久しぶりに制服に袖を通すとちょっと気持ちが締まる感じがするよね。
「今日から六年生かぁ……、子供の成長は早いね。」
「ふふっ、ブランったら、お父さんみたいよ。じゃあ、行ってきます。」
「始業式で新入生にあいさつするんだっけ?がんばれー。」
ベットに丸まりながら応援の言葉をくれるブランに見送られ、小さく深呼吸をして部屋を出た。
在校生代表のあいさつかぁ……、失敗しないように頑張ろう……。
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《次は、在校生代表フローラ・ミストラル様よりご挨拶を賜ります。》
その放送に合わせて壇上に上がり、マイクの前までゆっくりと歩く。
うーっ、人が多いよーっ!こう言うの正直苦手だし、これだけの人の前で失敗したら多分あっという間に噂広がっちゃうだろうし。内心の私はもう逃走体制だ。
……とは言え、曲がりなりにも推薦で選ばれた身なので無責任に逃げるわけにもいかない。ので、心の中の弱気な自分に首輪をつけて木に繋いだ。
大丈夫、大丈夫……。台本もさっき確認したし、動きは焦らず、優雅にすれば……。
「在校生、ならびに新入生の皆様、おはようございます。日差しも大分温かくなり、花々も咲き始める季節となってまいりました。今日のこの晴れやかな日に、新入生の皆様をこの由緒ある学園にお迎え出来ることを心から嬉しく思います……。」
しーんとしたホールに、私の声だけが淡々と流れる。一応先生方に見て貰ってしっかり考えたあいさつだけど、まぁこういう会のお話なんか聞き流すよね~……。こっちはボロが出やしないかと戦々恐々なのに!
「皆様の学園生活が、健全で楽しいものになりますよう心より祈っております。以上で、私からのご挨拶とさせていただきます。」
と、そんな事を考えながらも何とかあいさつを終えて。優雅に(見えるように)一例をしてから、ゆっくりと歩いて舞台袖へと引っ込んだ。
あぁ疲れた……!人の視線浴びるのって、なんであんなに恐いんだろう……?
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無事に始業式が終わり教室での新学期のお知らせを聞いて。
今日は皆が忙しくて会えなくて、じゃあ一人じゃ暇だし、久しぶりにお菓子でも作ろうかなと思って調理室に籠って約一時間。
「ーー……よし、出来た!」
人気の無い校舎に、バターとお砂糖の甘い香りが漂った。今日はサクサクしたものが食べたかったので、周りに粒が大きめのグラニュー糖をまぶした切り株の形のクッキーにしてみたけど……うん。上手く出来たみたい。
さて、これからどうしよう……?
今日は午前で解散だからお昼は各自だから皆で集まることも無いし、レインはクラスの方でお茶会があるそうで一緒に帰れないって言ってたし。
それに、ライト、フライ、クォーツの三人はなんと!さっきの始業式で生徒会役員に任命されたから今は初の集まりの真っ最中みたいだし。
「差し入れのつもりで焼いたけど、考えてみたら部外者が用もないのに押し掛けるのは邪魔だよね……。」
仕方ない、クッキーなら一日くらい経っても大丈夫だし、明日渡そうかな。
「ラッピングだけして帰ろっと。」
誰に言うでもなくそう呟いて、持参したラッピング用品の中から小さめのビニール袋(無地)と、何種類かのリボンを取り出し、袋の方にクッキーを同じ数だけ詰めていく。詰め終わったら、あとはリボンね!
このクッキーはまぶすグラニュー糖の量で多少甘さが変えられるので、そこで皆の好みに合わせて多少味を調節してあるから渡す相手を間違えないようにしなきゃね。
ちなみに、甘いものが好きなライト用のクッキーは艶のある赤いリボン。逆に甘いものがあまり好きじゃないフライのクッキーには、レース地の黄緑色のリボン、甘いものは嫌いじゃないけど大好きってほどでもないクォーツ、ルビー、レインの分はそれぞれ、淡い黄色、茜色、水色のリボンで袋を閉じた。
おまけで、余った分もまとめて、白いリボンで袋を閉じて……と。これは自分の分でいいかな。
「うわ、全然人気ないや……!皆さっさと帰っちゃったのかな?」
ラッピングし終えたクッキーをカゴに詰めて廊下に出てみると、ネズミ一匹も居ないくらいに静かだった。いや、ホントに校内にネズミが居たら大問題だけどさ……。
でも、見る分には可愛いよね、ネズミ。
なんて、下らないことを考えつつ、人目がない静かな廊下を気楽に一人で歩く。
今二時過ぎくらいだから……返ったらブランと一緒にお茶にでもしようかな。学校始まっちゃうと、どうしても一緒に居られる時間減って拗ねちゃうしね。
「……っ、ぐすっ……!」
「え……?」
と、下に降りるため階段に一歩踏み出そうとしたその足が止まる。
「なんか今、子供の泣き声がしたような……?」
改めてその場で足を止めて耳を澄ましてみれば、微かだけど確かにすすり泣くような声が上から聞こえてくる。
はて、この学校には七不思議なんてなかったはずだと首を傾げつつ、恐いもの見たさと僅かな声の主への心配を感じて、自然と足は上へと向いて。
足音を立てないようにそっと階段を登って踊り場を覗き込むと、そこに居たのは……
「あら……?」
茜色の髪にポンポン付きのシュシュをつけた、小さな小さな天使さんでした。
~Ep.63 六年生になりまして~
『早くも新たな出会いです。』




