Ep.61 仲良きことは……?
『度を越しちゃうと、美しくないかも……。』
結局、私とクォーツとルビーが風車小屋を見学し終わるまでフライはこっちに来なかった。
大満足で最初に小屋から出たルビーが、少し疲れた様子でこちらに歩いてきたフライに気づいて声をかける。
「フライお兄様、何だかお疲れですわね……。どうかされたのですか?」
「いや、なんでもないよ。それより、風車はもういいのかな?」
「はい、とっても素敵でしたわ!!」
フライ……、まさかその疲れは笑い疲れじゃないよね?心なしか声もちょっと掠れてる気がするけど……。
しかし、そんなことには気づかずにうっとりとした様子でフライにそう答えるルビーに、私の隣を歩いていたクォーツが頬を膨らませる。あらー、これは……
「……クォーツ、もしかしてフライに妬いてる?」
「いや、流石にそこまではいかないけど……。なんか最近、ルビーが離れていってる気がして寂しいんだ。クラスの友達も増えたみたいで、休み時間もあまり僕の教室に来なくなったし……。」
しゅんと項垂れるクォーツの頭に、垂れた犬の耳が見える気がする。世間的には、それをヤキモチって言うんじゃないかしら……。
「よしよし、元気出しなよ、お兄ちゃん。」
「……フローラ…、慰めてくれるのはいいんだけど、なんか子供扱いしてない?頭撫でるとか……。」
「そんなことないよ。うちはまだまだ幼いから当分先だろうけど……、やっぱり可愛い兄弟が自立して離れていっちゃうのはきっと寂しいんだろうね。」
「うん、そうだねぇ……。」
下の子の兄、姉離れかぁ……。確かに、考えただけで寂しいな。後でフェザー皇子に相談してみようかな。
「お兄様、フローラお姉様!お城の方にライトお兄様が到着されたので、私達も一旦お城へ戻るそうですわ。」
と、フライと話し終えたらしいルビーがこちらに駆け寄ってきてそう言った。
クォーツはと言うと、可愛い妹が自分の元に戻ってきたのであからさまにご機嫌だ。
うんうん、よかったね。さっきまで垂れてた耳もピンと張って、パタパタしてるように見えるよ……。
さて、この素敵な花畑をもう離れるのはちょっと名残惜しいけど行かなきゃね。
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「お帰りなさいませ、フライ殿下。ライト様は殿下のお部屋にてお待ちでございます。」
「あぁ、ありがとう。じゃあ僕はライトを迎えに行ってくるから、皆はここで待っていてくれるかな?」
お城に戻るなり案内された中庭で、フライはそう言い残して一人で自室へと向かって行った。
「お兄様、フライお兄様にだけ行って頂いてしまって良かったのでしょうか?」
「ん?あぁ、いいんだよ。まだ幼いとは行っても、ルビーやフローラは女性だからね。むやみに男性の私室に足を踏み入れてしまうと、色々言われちゃうかも知れないでしょ?」
フライの背中が見えなくなるのと同じくらいのタイミングで、ルビーが私が思って居たのと同じ疑問を口にして。
それに対して、周りの目があるからかいつもよりぐっと大人びた雰囲気と口調になったクォーツがそんなことを答えていた。うーん、こうしてみるとさっきの犬耳が幻覚だったように感じるなぁ……。って、あれは間違いなく幻覚か。
それにしても……確かに婚約者や許嫁が居るのが当たり前のような王族貴族の男女が、異性の部屋に簡単に入っちゃうのは良くないのかも知れないけど……たかだか小学生の年齢で言われるようなことかな。なんか窮屈な世界だなぁ……。って言っても、確か皆は攻略キャラだから結局婚約者は居ないはずなんだけどね。
だってそうじゃないと、ヒロインが横恋慕キャラになっちゃうし……。まぁ、確か一応彼らと一番身分が対等だったフローラが三人の婚約者“候補”だったらしいけど。
「フローラ。」
でも、確かゲーム内でのライトを筆頭とする登場人物達は皆、精神を病んで誰に対しても攻撃的だった彼女を疎ましく思っていたはずだ。
「フローラー。」
まぁ、自分を上回る能力を持ち、更に攻略キャラ達皆から寵愛を受けてたヒロインを妬んで意地悪をしまくってたんだから仕方ないのかも知れないけど……。フローラ自身がそうなってしまった経緯を知っちゃってると、なんとも言えない切なさがあるよね。
「フローラってば!」
「きゃっ!?なっ、何!!?」
久々に、ゲームとしてのこの世界のことを思い返してたら、不意に誰かに肩を揺すられる。
驚いて顔をあげれば、隣に座っていたクォーツが私の肩に手をかけて顔を覗き込んできていた。
「もー、何度も呼んだのに。」
「ご、ごめんね。ちょっと考え事してて……。あれ、口調戻しちゃって大丈夫なの?」
「うん、皆パーティーの準備があるみたいで下がっちゃったから。」
その言葉に辺りを見回してみれば、なるほど。確かにさっきまでお茶やお菓子を用意してくれていたメイドさん達の姿も消えている。
「色々と忙しいんだねー。で、クォーツの用件は何だったの?ごめんね、気づかなくて。」
「あはは、フローラってよくボーッとしてるもんね。大丈夫、気にしてないよ。内容もそんな大したことじゃないんだけど……、その、ルビーが……」
「フローラお姉様!」
「えっ!?は、はいっ!」
笑って許してくれたクォーツの言葉にほっとしたのも束の間。今度はテーブルを挟んで私の真正面に座っていたルビーが興奮した様子で勢いよく立ち上がった。
そのテンションにこっちが気圧されている間に、ルビーは着ていた赤色のワンピースを靡かせながら私の隣へと素早く移動してくる。そして、その小さな両手で私の手をガッと掴んだ。
「な、何?どうしたの?」
「今、話の流れから婚約者の話になりましたの。」
うん、それは私も聞いてたよ。それで?
「実は、私最近よく公爵家や伯爵家から縁談を頂くのですが気乗りしなくて……。そこで、お姉様の見解を伺いたいのです。」
「縁談!?」
何それ、初耳だよ!!
いくらクォーツと年子だからって、まだ四年生でしょ!?
第一、私は生まれてこのかたそんな色めき立ったお話にはご縁がなかったのでお役に立てるとは思いませんが!?
「ーー…………。」
「……?お姉様、どうされました?」
「え?いや……、後ろが……」
どうしたらいいのかわからずにルビーの数歩後ろに立っていたクォーツにアイコンタクトを取ってみて……すぐに後悔した。
だって目!目が怖すぎる!!
死んだ魚の様に暗いのに、やたら眼力込めて見つめて来てるんだもん!!
ちょっと、その紫色のオーラを放ってる眼差しは何!?私に可愛い妹君の縁談を潰せとでも!!?
私と向かい合って話していたルビーには背中側のクォーツの様子がわからないようで、私の言葉に首を傾げながら『後ろ……?』と振り返った。でもルビーが振り返るなりクォーツがいつも通りの笑顔を浮かべるから、ルビーは結局不思議そうな顔をしてこっちに視線を戻してくる。
「え、えーと……他国の貴族間での事だし、何よりもルビー自身の問題だから私からはやたらなことは言えないけど……。」
そこまで言ったところで、クォーツの目がまたあからさまに恐くなった。シスコンめ!
「まだ初等科の高学年に上がったばかりなんだし、これから色々な方とお会いする機会もあるでしょうから……。ルビー自身が気乗りしないのなら今回はお断りするか、保留にして頂けばいいんじゃないかしら?」
「そう……、そうですわね!ありがとうございます、フローラお姉様!」
とりあえず、話を聞いてみてのあるがままの私の意見を伝えてみたら、ルビーは満足したようで可愛らしく笑ってお礼を言ってくれた。
そんな妹の様子と私が発した『お断り』の言葉に、クォーツの様子も落ち着いていつも通りに戻る。あぁ、よかった……。
「よかったね、ルビー。」
「えぇ!本当にありがとうございます。」
「いえいえ。まぁ、そんなに焦らなくても、きっといずれルビーにとって理想的な人が見つかるよ。」
「……!」
軽い気持ちでそう言ったら、またクォーツの目が死んだ。あーっ、ごめんごめん!!
しかし、ルビーの『それはあり得ませんわ』の一言に二人して彼女を見つめる。
「あり得ないって……なんで?」
「だって、私の最高の理想はお兄様ですもの!」
「ルビー……!」
あらまぁ……。最近は多少落ち着いてきたのかと思ってたけど、アースランド兄妹のシスコン、ブラコンは健在だった……!
結局二人はラブラブ状態になり、私に数々の仲良し話を聞かせ始める。
いや、別に皆の昔話聞けるのは楽しいんだけどさ……、ニ対一はキツイよ~っ!
ライト、フライ、お願いだから早く帰ってきてーっっ!!!
~Ep.61 仲良きことは……?~
『度を越しちゃうと、美しくないかも……。』




