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Ep.60 春風薫る国“スプリング”

  レンガ造りの街並み、そんな街を彩る花壇の花々、そしてたおやかな風を受けて回る風車!

  さて、色々な事件があったフェニックスでの宝石展覧会の日から一週間が経ちました。一度自国に戻った私とお父様、お母様はフェザー様のお誕生祝いの為にスプリングにやって参りました。美しい街並みに心を惹かれつつ、まずはこちらの王室にご挨拶する為にお城へと向かいます。


  スプリングのお城は、これまたレンガ造りの可愛らしいお城だった。なんか、テーマパークの中心やドールハウスである可愛いお城を立派にしたような感じだ。

  そんなことを思いながら、対応に出てきてくれた執事さんに案内され応接室へと通される。


「どうぞ、お入りください。」


  そう言って重そうな扉を開いてくれる執事さんにお父様がお礼を言い、部屋へと足を踏み入れる。

  そこには、深緑のような髪を短く整えた国王様と、若葉の様な色の長い髪を後ろで緩く三つ編みにした王妃様。そして、いつもよりきっちりとした王室の服に身を包んだフェザー皇子とフライが居た。


  互いに挨拶を交わす大人達を横目に、私と目があったフェザー皇子がにっこりと微笑んでくれる。今日は眼鏡をしてないので、いつもとは印象が違った感じだなぁ……。


「フローラ。」


「ーっ!はい、なんでしょうか?お母様。」


  そんなことを思いながらぼーっと突っ立っていたら、ご挨拶を終えたらしいお母様から声をかけられた。

  急になんだろうと首を傾げながら顔を上げれば、いつも以上ににこやかな両親の笑顔。


「今日のパーティーは、夜の天体観測の件もあって始まるのが遅いから、それまでの間にフライ様が街を案内してくださるそうよ。」


「フライ様が!?」


  驚く私にお母様が『よかったわねぇ』と微笑み、フェザー皇子とフライのご両親である国王夫妻が『遠慮しないで』と私の方に行くようにフライの背中を押す。あー、これはもう決定事項だなぁ。なんか懐かしい展開だ……。


「僕は構いませんよ、フローラ様。クォーツ殿下とルビー様もいらっしゃっていますから、一緒にご案内致しましょう。」


  フライはどう反応するのかなと思ったら、久々に感情の読めない完璧な笑顔を浮かべながら私に向かってそう言った。スプリングに来るのは初めてだから街を見てみたいのは確かだし、クォーツとルビーも一緒なら……、お言葉に甘えてもいいかな?


「では、お言葉に甘えて……。よろしくお願いいたします、フライ様。」










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  そんな訳で、私達はそれぞれの両親に見送られながら街散策へと出掛けることになり、まずは皆で合流してスプリング王室の馬車でお城から街へと移動する。


「フライお兄様、フローラお姉様、一週間ぶりですわね。」


「うん、久しぶりだ!いつもは学校で毎日のように顔あわせてるのに、ちょっと変な感じだね。」


  ルビーと私の言葉に四人で『そうだねー』なんて笑い合いつつ、目的地に着くまでの間に適当に雑談をするなか、話題は自然とこの場に居ないライトの事になり……って言うか。


「なんでライトだけ居ないの?確か、前にアースランドでお花見した時には、ライトが遅れてくることは無いみたいなことをクォーツが言ってた覚えがあるんだけど……。」


「あぁ、ライトは国の方で調べものがあるから遅れてくるって手紙が届いたよ。」


「ライトが調べもの?珍しいね……、何かあったのかな?」


  クォーツのその言葉に、フライが『さあね、僕は知らないけど……フローラなら心当たりがあるんじゃない?』と、含みのある笑顔を私に向けた。

  くっ、黒い……!そして、その砕けた口調が敬語で言われるよりも恐さを際立たせている気がする!!


「えっと……、ごめん。知らないや。」


  一瞬素直に話すべきかと思ったけど、他国内の事故の事をペラペラ話すのは良くないかなと思い直して誤魔化した。でも、フライは納得していないのか私をじっと見つめている。

  結局あの日の事故の事はライト以外には話してないからフライは何一つ知らないはずなのに、そのすべてを知っているかのような視線は何!?


「……?よくわからないけど、ライトのことだから夜のパーティーには間に合うように来るよ。」


「……そうだね、彼はああ見えて時間やルールに厳しいから。」


  空気を読んでくれたのかなんなのかクォーツの言葉に話題が上手く逸れて、『一番遅刻魔っぽい性格してるのにね。』なんて言うフライの嫌味にクォーツが『ライトは何事に対しても大胆だからねぇ。』と笑いながら答える。

  二人とも、ライトが聞いてたら絶対またケンカになるよ…。そして、夜中に魔法の自主練習とかやってたりする辺り、ライトは実はかなり堅実な性格だと思うよ……。

  と、思いつつも、ライトと皆には話さないと約束したので何も言わない。


「……今日も平和だねぇ、ルビー。」


「そうですわね、フローラお姉様。」


  そんな平和を象徴するようように、私たちが乗る馬車は街の外れにある花畑へと到着するのでした……。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  先に降りたフライとクォーツが、それぞれ私とルビーをエスコートするように馬車から降りさせてくれる。紳士だなぁ……。

  私の手を取ってくれたのはフライだったのでお礼の言葉を口にすると、さっきとは違い純粋な優しい笑顔が返ってきた。こうしてみると、さっきお会いしたスプリングの王妃様に似てるなぁ。


「フローラお姉様!見てください、すごいですよ!!」


「え?わぁ……っ、素敵!」


  フライの小さいけど頼もしい手が離されたのと同じタイミングで、今度はルビーがはしゃいだ様子で腕に飛び付いてくる。

  それに驚きつつ顔を上げると、そこには……


「まさに一面の花畑ね!」


  言葉を失いそうな位の、綺麗な花畑が広がっていた。

  遠い方が濃い赤色のチューリップなどの花から始まり、こちらに向かうにつれて同系色の花がグラデーションになるように植えられていて……、風が吹くと揺れる花々が波みたいに見える。

  本当に素敵……!遠くには風車も回ってて、まるで……


「オランダみたいだなぁ……、行ったことないけど。」


「“オランダ”ってなんのこと?」


「きゃっ!」


  ひとり言のつもりでそう呟いたら、ちょっと後ろに居たはずのフライにバッチリ聞かれてた。

  フライ自身は何の気なしに聞いたみたいだったけど、挙動不審になった私を見てその綺麗な目がすっと細められる。ま、まずい……!


「聞いたことがない言葉だったけど……、どこかの地名なのかな?」


「え、いや、その……」


  そして鋭い!地名って言うか正確には国名だけど……!

  水を得た魚のように生き生きとした様子のフライは、『気になるなぁ、詳しく教えてよ』なんて、目の前でわざとらしく首を傾げている。


  ど、どうしよう……!いくら頭が良いとは言え、流石に前世だの転生だなんてぶっ飛んだ話をするわけにもいかない!……けど、齢10にしてこの世界のすべてを見透かしてそうな目をした腹黒皇子から逃げられる気もしない!!


  あぁ、そんなキラキラした笑顔を向けないで……!


「あ、その……」


「二人とも、どうしたの?ルビーが風車を近くで見たいって言ってるんだ、一緒に行こうよ!」


「クォーツ……!うん、いいね!すぐ行こう、今行こう!!さぁ、余計なことは気にせずに!!!」


「え?あ、うん……。フローラ、なんか変じゃない?」


  いいタイミングで来てくれたクォーツの提案に全力で乗っかったら不審がられたけど、私は至って冷静よ!何も別段、おかしなことなどちっともございませんわ!!


「ーー…………っ!」


「そして、フライは何笑ってるの?肩まで震わせちゃって……。」


「気にしなくて良いから!ほら、可愛いルビーが待ってるんでしょ。行こうよ!!」


  ルビーの名前を出しながら背中を押せば、クォーツもようやく『そうだね!』と歩き出す。

  こちらに背中を向けて声を出さずに肩を震わせていたフライは放置して大分離れた風車にたどり着いた頃、花畑を吹き抜ける春風に乗って高らかな笑い声が聞こえた気がした……。


   ~Ep.60 春風薫る国“スプリング”~


『……クシュンッ!』


『ライト様、お風邪ですか?』


『いや、寒気はしないから大丈夫だ。(大方、アイツ等がまたなんか好き放題話してんだろ……。)』




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