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Ep. 58 星降る夜に・中編

  淡い色彩の木で造られたベンチが、夜風に当たる体に優しい温もりを与えてくれているのを感じながら、ライトと並んでぼんやりと夜空を眺める。

  どれくらいそうしてたかわからないけど、夜空に主役の様に輝くその満月が、流れてきた雲に遮られたそのタイミングで、先にこの奇妙な沈黙を破ったのはライトだった。


「今日は悪かったな、色々。」


「へ?な、何が?」


「ルビーから聞いたんだよ、お前が俺らを探す為に会場から出たんだって。」


  少し高い位置から首を傾いで私の方を見る彼のその言葉に、『あぁそのことか』と頷いてから苦笑を浮かべる。


「そのことなら、寧ろ私が謝らなきゃ。探しに行く所か却って迷惑かけちゃってごめんなさい。」


  互いにベンチに腰は下ろしたまま、体を斜めにして顔が向かい合うようにしながら頭を下げる。

  頭を下げてるので表情はわからないけど、しんとした夜の中庭に一瞬妙な空気が流れて、なんとなくだけどライトが驚いたであろうことがわかった。


「まぁ、確かにこっちもお前が帰ってないって聞いたときは焦ったけど、別に謝らなくていいから。……てか、まず顔あげろよ。」


  微妙になってしまった空気に、下げた頭を上げられないままでいれば、わずかな間の後でため息混じりのそんな声が降ってくる。その言葉にお礼を言いながら顔を上げると、なんとも困った様子の色を見せるライトの瞳と私の瞳がかち合った。


「あー……、なんか、こんだけ静かだと話しづらいな。」


「そうだね、なんと言うか……昼間とは別の世界に居るみたい。」


「ははっ、馬鹿言え!そんな世界あるもんか。たまに変なこと言うよな、お前。」


「あはは……、うん、そうだね。」


  どこかツボにハマったのかひとしきり笑ってから、『まぁ言おうとしたことはわかるけど』とライトが会話に一呼吸入れる。

  私はと言うと、何も言えないまま笑みを浮かべるだけだったけど、気づかなかったのか気にしなかったのか、再び何事も無かったように話が再開された。


「話が逸れたけどさ、お前結局街の方で何してたんだ?あんなびしょ濡れになって。」


「あぁ、実は街に出てすぐに、具合が悪そうな女の人と会ったんだけど……」


  苦笑いを浮かべつつそう聞いてきたライトに、今日起きた様々な出来事を順を追って説明していく。ライトは、最初から最後まで口を挟まずに、かなりぶっ飛んだ内容であろう私の話をきちんと聞いてくれている。


「……で、最終的に街の人達が馬に追われてた私を近くの倉庫に逃げ込ませてくれたんだけど、私がその中で気絶しちゃって……目が覚めたら外に誰も居ないみたいだし、ドアも歪んで開かなくなってたんだよね。」


「なるほどな、それで水圧で窓だかドアだかをぶち破ろうとして、自分自身までずぶ濡れにしてしまったと。」


  『いつか俺に頭からぶっかけたみたいに』と続けられて、二年生の頃に渡り廊下で彼を魔力のコントロールミスで頭から爪先までびっしょりにしてしまった時の事が脳裏に甦ってくる。いや、あれはもう本当に私の不注意で……。


「ごめんなさい……。今更だけど、体調とか崩さなかった?」


「本当に今更だな!ってか冗談だっての、そんな心狭くねーよ。」


「…………。」


「おい、何だよその目は!」


  単に思いの外あっけらかんとしたライトのその言葉に驚いてその顔を見上げたまま固まれば、馬鹿にされたとでも思ったのか少し頬を赤くしながら彼はプイッとそっぽを向いた。

  考えは結構大人びてるのに、何気ない仕草は年相応なんだよなぁ……。


「……ふふっ。」


「笑うな!!お前……、俺のこと馬鹿にしてるだろ。」


  その横顔が可愛くてちょっと吹き出せば、まだ頬を赤くしたまま拗ねたような表情で睨まれる。

  そんな彼に『そんなことないよ?』と笑いながら答えれば、ライトはやれ信用ならないだのと一言二言の文句を口にしてから、『まぁ、今日だけは許してやろう』とため息混じりに肩を落とした。なんか前々から感じてはいたけど、ライトって実はかなり寛大だよね。



「しかし、馬の暴走か……。ちゃんと原因を調査させた方が良さそうだな。」


「調査!?」


  拗ね顔のライトを眺めつつ、この話はこれで終わりだろうと一息をついた瞬間に、私の耳にそんな呟きが届いて、思わずライトの右腕を両手で掴んだ。


「ちっ、ちょっと待って!そんな大袈裟な……」


「大袈裟じゃない。貨物馬車の馬は力があってただでさえ危険なのに暴走だなんて……、下手したらお前だって死んでたかも知れないだろうが。」


「いや、でも結果無傷な訳だし、助けて貰ったって言ったじゃない?」


「でも、結局その後倉庫に閉じ込められたんだろ?」


  ライトの小学生とは思えない論理的な反論に一瞬黙りこむけど、やっぱり国から直々の調査はやりすぎなんじゃないかな……。経費もかかるし……。


「私が倉庫に閉じ込められちゃったのは、単に私があの辺りの子じゃなくて居るか居ないかがわからなかっただけじゃないかな。あぁ言う忙しい場なら、思わぬトラブルだって起こることがあると思うよ?」


「とは言え、放置していい案件じゃないんだよ。うちの国で…しかも他国の王族を巻き込んでの事だし。まぁ大っぴらには知られてないけど。」


「う、うん。でも……あいたっ!」


  そう言われても尚悩む私の頭を、ライトに不意打ちで真上からチョップされる。


「痛い……!脳天は響くよ!!」


「我ながら見事に入ったな、まぁ気にするな。」


「気にするよ!何で急に叩いたの!?」


「はぁ……、お前がいつまでもごねるからだろうが。」


  まだヒリヒリする頭を押さえながら首を傾げると、ため息混じりのライトが再び左手を振り上げた。

  咄嗟に掴んでいたライトの腕を離して、自分両手で頭を守る。二発目は勘弁して!!


「ま……別に今回の件に調査を入れるのは、お前のせいじゃなく言わば国の義務だ。だから、本当に気にすんな。」


「え……?」


  『気にすんな』ってそっちのこと!?


  自らのただでさえ中がスカスカの頭がこれ以上スカスカにならないよう衝撃に構えていれば、頭に受けた衝撃は脳天に響くような強いものじゃなく、リズムよく感じる優しい物だった。


  その感じが離れていった後で、ようやく自分が撫でられていたことを理解する。


  ライトはと言うと、さっきまでの可愛い拗ね顔など微塵の名残も残さずに、大人びた微笑みを浮かべていた。

  こ、子供扱いされている……!


「わかったな?」


「……はい。」


  そう思いつつも、月明かりに照らされたライトの笑顔と、宥めるような優しい声色に反論の気を削がれてしまい……、私は素直に頷くしかないのだった。



      ~Ep. 58 星降る夜に・中編~



『にしても、お前はよく馬に蹴られそうになるな……。他人の恋路でも邪魔してんのか?』


『しっ、してないよ!(確かにある意味生まれながらの横恋慕キャラだけど……!!)』


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