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Ep. 56 小さな騎士(ナイト)とお転婆姫と

「全く……、手間かけさせられたけど、王子達が無事で良かった。さぁ、さっさとフローラと合流して帰らなきゃ!フローラーっ!」


  約束の場所に戻ると、日が暮れかけた街の裏路地はほぼ真っ暗だった。

  多分建物に遮られて日が射さないからなんだろうけど、ちょっと不気味だ。こんなとこに、まだ幼い(中身はそうでもないけど)フローラを置いてきちゃって、大丈夫だったかな……。


  そんな事を考えながら約束の場所に下りると、案の定大丈夫じゃなかったことにすぐに気付いた。……何故ならその場所に、フローラの姿が無かったから。


  仕方ないから近場を飛び回って探してみても、使い魔が持つ直感で彼女の魔力を辿ってみても、やっぱり近くには居ないみたいで。


「もーっ!どこ行っちゃったんだよぉぉぉぉっ!!!」


  思わず叫びながらボクがその場を飛び出した後、フェニックスの城下町のとある裏路地には、謎の叫ぶ猫の噂が真しやかに流れるようになったらしい。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「よかった、鍵はついてないみたいね……。」


  置いてあったたくさんの貨物はひとつひとつがかなりの重さがあって、子供(わたし)が上をうろちょろする位じゃびくともしない。なので、それ等を安心して足場にして、この倉庫の唯一の窓の元まですぐに上ることが出来、更にその窓には鍵なんかは無く、手動で簡単に開けられるタイプだと言うこともわかった。


  こんな高い位置にある窓、普通は誰も使わないもんね。鍵は必要ないんだろうなぁ……。


「さてと、早く出なきゃ!……て、あれ?」


  押せば開くタイプの筈のその窓を両手で押してみても、何故だかびくともしない。

  不思議に思ってよくよく見てみれば、何と窓の留め具が見るのも無惨に()びていた!(さび)で固まって動かないんだ!!


「滅多に使わない上に、長い間海風に当たってきて駄目になっちゃったのかな……。これは、とてもじゃないけど普通に押すだけじゃ開かなそうだし……よし。」


  この倉庫の持ち主には申し訳ないけど仕方ない。魔力でこじ開けてでも出ないと、本当に間に合わなくなる!


  そう思い立った私は、窓から数歩離れてそこに向かい両手を構えた。


「上手くいきますように……!」


  学院に入って以来、実技試験と花壇の水やり以外で魔力を使うのはこれが初めてだけど……訓練だけは毎日欠かさずやってきた。きっと上手くいくはず……!

  そして、私が放った小さな水球は、見事窓のガラスに直撃した。


「やった!……って、あれ?」


  直撃は……したんだけど、その小さな窓より更に小さかった水球はそこを突破出来ず、ガラスに塞き止められてしまっている。


「あらー……。」


  唖然としながら窓に近づけば、水球は段々と小さくなりながらも頑張って窓ガラスを押している。わが(まりょく)ながら、なんて健気な……!


「水球さん、頑張って!!」


  そう思わず応援しつつ、自分の拳くらいの小ささになってしまったそれにそっと触れる。

  すると、心なしか水球は元気に……、って、言うか……!


「ちょっ、待って!頑張ってとは言ったけど!言ったけど……渦潮になれとは言ってないよーっっ!」


  そんな私の叫びは、見る間に勢いを増した渦潮に呑まれてしまったのだった。ちなみに体も呑まれました、このままじゃ溺れる……!









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「全く、こんな遠くまで勝手に移動して……!」


  結局、何とか僅かに残ったフローラの魔力を追って探し回ると、待ち合わせ場所から大分離れた港に辿り着いた。なんだってこんな所まで来たんだろうと思いつつ、大分強く感じるようになった魔力の主を探す。

  フローラ……いや、花音(かのん)と一緒に死んだときにはどうなることかと思ったけど、この体になってからはホントに色々なことが出来るようになって凄く楽しい。

  ……昔のボクに今みたいに力があれば、きっと花音は、今も……。


「きっ、きゃぁぁぁぁっ!」


「ーっ!フローラ!?あっ、危ない!!」


  考え込みながら飛んでいたボクの耳に、不意になにかが壊れる音と、滝みたいに水が流れ落ちる音。そして、探していたご主人様(フローラ)の悲鳴が飛び込んできて。

  同時に、目の前の建物の窓から落下してきたその小さな体(まぁボクから見れば大きいけど)を、慌ててキャッチする。

  衝撃と重さで一瞬ガクンっとなったけど、背中から火が出そうな位に羽を全力で動かして、なんとかゆっくり地面に降りることが出来た。


「ブラン!」


「もーっ、何してんのさ!勝手に待ち合わせ場所から離れ……」


「助かったよ!ありがとう!!」


「……猫の話は最後まで聞きなよ。」


  着地してすぐに文句を言おうとしたら、びしょ濡れの体で抱きつかれて言葉を遮られた。毛が湿って寒いよ、しかも重いし……。それにさぁ……


「一体何があったわけ?」


「あ、実はね……っ!」


「しまった、鐘だ……!とりあえず帰ろ!」


「う、うん!」


  話の途中で、町中に響くひとつの鐘音。

  その軽やかな音色に急かされるように、ボクは小さなご主人の背中を持って夕焼けを切り裂くのだった。



  ~Ep.56 小さな騎士(ナイト)とお転婆姫と~


『ところで……フローラ最近ちょっと重いよ。太ったの?』


『ふっ、太ってないわよ!成長期なだけなんだから!!』



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