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Ep. 53 優しい人ほど損をする?



『飛び込むと同時に、背中から重い何かが閉められる音を聞いた気がした。』



  誰だろう、この子……。

  目の前でうつ向いている黒いフードを被った女の子が、か細い声で『お尋ねしたいことがあります。』と少しだけ顔を上げた。


  一瞬、明るい黄色をした瞳と目があって頭の中がもやっとする。なんだろう、この嫌な感じ……。


「あの………?」


「あっ、ごめんなさい。それで……(わたくし)に何か?」


  話の途中にぼんやりした私に怒ったりもせず、女の子は『母を探しているんです』と私に言った。


「まぁ、お母様を?でも、それなら(わたくし)はお役には立てないのではないかと思いますわ。この国の民では.ありませんし……。」


「いえ、実は……家の母は病弱で、知り合いの方たちによく気に止めて頂いて居るのですが、その方達から……母が貴方と一緒に歩いている姿を見掛けたとお聞きしたものですから。」


「そう……なんですか?」


  その話に、今度はこちらが首を傾げる。と、僅かに風が吹いて揺れたフードの端から、明るい水色の髪が見えた。

  あぁ、この子もしかして……!


「お名前を伺わなかったので確信はありませんが……、確かに私は貴方のお母様にお会いしたかも知れません。」


  そう答えた私に、少女が『本当ですか!?』と両手を合わせた。あんま顔見えないけど、可愛いなぁこの子。それに……、サラサラの水色髪はさっき会った女性のものによく似てる。やっぱり、さっき公園で別れたあの人の娘さん……だよね?


「とりあえず、私が貴方のお母様と別れた公園まで行ってみましょう。こちらですわ!」


  そう言って走り出すと、少女も後ろからついてくる。前だけ向いて走っていた私は、その子が浮かべる妖しい笑みには気づかなかった……。













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  駆け足で公園まで戻ると、さっきより更に人気(ひとけ)がなくなっていた。花壇にある大きな花時計を見ると、私がここを離れてからもう一時間近く経ってる。

  と、言うことは……


「さっきはこのベンチに腰掛けてお話をさせて頂いたのですが……、いらっしゃいませんね。」


  当然、あの人だっていつまでもここに居るわけはない訳で。

  ベンチの近くには白い(はと)達が砕けたお菓子の様なものを群がってつついているだけで、他には猫の子一匹見当たらなかった。


  そりゃそうだよねぇ……。具合も悪そうだったんだし、もう帰ったか……それじゃなきゃ病院にでも行ったのかも。


  そんな事を思いながら振り返って後ろに立って私を見ていた女の子に頭を下げる。お役に立てなくてごめんなさい。



「いいえ、こちらこそお手数をおかけしまして……。私は一度帰って、家に居ないか見てみます。」


「そうですか……。ホントにごめんなさい。お手伝いしたいのですが、私もさっきの場所でブ……、じゃない。お友だちと待ち合わせがあるものですから。」


  きっとそろそろ会場までライト達が居るかを見に行ったブランが帰ってくる頃だ。流石に私が居なくなってたら心配するだろうし、もう戻らないと……。


「では、私が先程の通りまで早く戻れるようにご案内しますよ!」


「え!?」


  私の言葉に女の子からそんな思わぬ提案が出てきて、目を瞬かせる。


「でも、お家に帰られるのでしょう?申し訳ないですし、自分で戻りますわ。」


  そう言って遠慮したけど、女の子は『元はと言えば私がここまで来させてしまったから』と押し切って、私の背中を押しながら歩き出した。


  人が良いなぁこの子……、お母さん譲り?

  確かに時間もないし、じゃあお言葉に甘えちゃおうかな。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  近道だからと言われて連れていかれた先は、何やら貨物用の馬車がたくさん集まる港近くのエリアだった。


「あの、ここは何なんですか?」


「港に届いた食べ物や貨物を配送する馬車の管理場です。ここにはうちの知り合いが沢山居ますから、乗せて貰えば移動時間が大幅に早まりますよ!」


  忙しなく走り回っている人々を見ながら、女の子が自慢気に胸を張る。

  確かに乗り物があれば移動は早まるだろうけど……


「……ごめんなさい、やっぱり自分の足で戻るわ。」


「え……、何でですか!?」


「きゃっ!」


  丁重にお断りしたつもりだったけど気に触ったのか、いきなり飛びかかるような勢いで両肩を捕まれた。

  私が驚いて仰け反ったらすぐに離してくれたけど、これはちゃんと話した方がいいかな……。


「今の皆さんの様子を見るに、ちょうどお仕事がお忙しい時間帯なのでしょう。いくら貴方のお知り合いだとは言え、お仕事の邪魔をしてまで助けて頂くのはあまりに忍びないですわ。」


「ーー………ちっ、面倒なガキね。」


  俯いてしまった女の子にぺこりと頭を下げて、『お気遣いありがとうございました』と伝えると、彼女が顔を上げないままなにかを呟く。よく聞き取れなかったけど。

  でも、ホントに急がないともう鐘が鳴っちゃうし、急いで戻らなきゃ!


「あ、あの、すみませんが急ぎますので失礼しますね。では……。」


「……わかりました。くれぐれも、お気をつけ下さい。」


「……?はい、ありがとうございます。じゃあ、さようなら!」


  最後に心配して、私の肩をぽんぽんと叩きながらそう言ってくれた彼女にもう一度お辞儀をして、角を曲がるまではゆっくり歩き……曲がり切ると同時に走り出す。


  ちょっとだし大丈夫だろうと思ったけど、予想以上に時間喰っちゃった。ブラン探してるだろうなぁ……!


「きゃああああっ!」


「ーっ!?」


  何層にもフリルが重なって走りにくいスカートに足を縺れさせながらも走り出してすぐのこと。今正に曲がってきた角の向こうから、馬の(いなな)きとたくさんの人々の悲鳴が聞こえてきた。

  それに驚いて足を止め、今来た道を振り返る。


「馬車の馬が暴れだしたぞ!」


「誰か止めろ!!」


「……っ!貴方、危ない!!!」


  えっ、こっちに来るの!?


  どうやら仕事の最中に暴れたしたのであろうその一匹の馬は、何故か大分離れた私に一目散に向かってくる。

  なっ、何で!?私別にニンジンとか持ってないよ!!?


  それにしても、乗馬の授業だなんだで馬に触れる機会は多いとは言え、暴走した馬は恐いよ!蹴られたらひとたまりもない!!!


  そう思って、何とか逃げようととりあえず馬が迫ってくる方と反対方向へと全力で駆け出した。


  ……とは言え、いくら人間(しかも子供)が走った所で馬の速さに敵うわけない。すぐに追い付かれる……!


「こっちだ!倉庫に飛び込め!!」


「……っ!」


  もう大分息が上がってきたタイミングで、不意に横からそんな声がした。

  必死に走りながら声の主を探すと、港に居た人達とは少し違う服装の男性二人が、馬の走る方向から少し逸れた倉庫の前で扉を開けて手招きしている姿が目に入る。


  一瞬躊躇(ためら)ったけど、緊迫した状況で『急いで!!』と叫ばれれば従うしかない。

  最早何を考える間もなく、私はそこに飛び込んだ……。



   ~Ep.53 優しい人ほど損をする?~


  『飛び込むと同時に、背中から重い何かが閉められる音を聞いた気がした。』


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