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Ep. 52 思わぬ対面・後編




  『互いの素顔を知らぬまま、二人の道が交差する……。』




  フローラが立ち去った後、女性は深いため息をつき再びベンチへと腰を下ろした。


「あら、これは……?」


  と、その指先に不意に小さな袋が触れた。それを手に取ると、中には可愛らしい色合いのマカロンが入っていることがわかる。


「姫様のお忘れものかしら……。」


「…ちょっと、何してるのよこんな所で。」


「ーーっ!!!」


  その可愛らしい袋をしげしげと眺めて居たところに、不意に正面からかけられる声。

  まだあどけなさを残す可愛らしい声色に似合わず威圧感を醸し出しているその言葉に、女性の華奢な肩がビクリと跳ね上がる。


「……なによその反応。アンタ一応私の母親でしょ?」


  そんな女性の姿に眉を潜める、水色の髪を緩く巻いてきらびやかなドレスを身に纏った少女。その少女のつり上がった瞳が、ふと女性の手に収まっているマカロンの袋を捉えた。


「…何それ。」


「あ、いえ、これは……。そんなことより…マリン、貴方は今日は宮殿前で行われている展覧会に行ったと旦那様から聞いていたけど……。」


  小さな袋を自らの背中に隠しながら、『どうしたの?』と首を傾げる。そんな母の姿に不信感を覚え、マリンと呼ばれた少女は母の細い手から小さな袋を奪い取った。


「あっ……!」


「何よ、ただのマカロンじゃない。なんでこんなもの……っ!!」


  期待が外れたような顔で奪った袋を突き返そうとしたその時、それの口をしっかり結んでいる水色と銀色のボーダーデザインのリボンが少女の目に止まった。その直後、荒い手つきでリボンをほどいて少女がそれをまじまじと見つめる。その上質なリボンには、光の加減で見えるように然り気無く、水の国“ミストラル”の王家の紋章が刻まれていた。

  リボンを外されて放り出された袋の方は芝生に投げ捨てられ、中身のカラフルなマカロンは無惨に散らばった。


「あっ……!」


「ちょっと、これどういうことよ!!」


「きゃっ…!」


  それを追いかけるようにしゃがみこんだ女性を、マリンが両手で勢いよく突き飛ばした。

  子どもの力で倒れ込んだ母は、怒るでもなくただ困ったように目を伏せる。


  その姿に苛立つマリンの脳裏に、先ほど公園の入り口ですれ違った金髪の少女の事が浮かんだ。

  気が立っていて周りをあまり見ておらず、顔までは見ていなかったが……。


「もしかして、さっきのが…!丁度いいわ。」


「まっ、待って!…痛っ!」


  何かに納得したように笑みを浮かべて走り出す娘を追いかけようとするも、女性は足を痛めたらしく立ち上がることが出来ず。

  そんな母のことなど気にも止めずに、マリンはその場を後にするのだった……。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「うーん、居ないなぁ……。」


  もう何ヵ所目になるかわからない裏路地を覗き込んでは、探し人が居なかったことに落胆する。

  さっきまで居た公園を出てから、もうどれくらい歩き回っただろうか。


「ひょっとして、もう自分達で会場に帰ったのかな?」


「かもねー。フローラが呑気にふらふらしてるからだよ。」


「失礼ねぇ、公園出てからはずっと探しながら歩いてきたじゃない。」


  『いや、だから探し出すまでに時間掛けすぎたんだって……。』なんて呆れた声を上げるブランが、フードから抜け出して小さく伸びをした。ずっと狭いとこに隠れてたから、体がこってしまったらしい。


「でも困ったわね……。皆が宮殿に戻ったのか確かめようにも、連絡の取りようが無いし。直に確かめに行って居なかった場合、改めて探しに出るだけの時間はもう無いし……。」


  『せめてスマホとかみたいな通信機の類いがあればなぁ。』なんて頭を捻る私の視界に、小さな羽をパタパタさせながら飛んでいる(浮いている?)ブランの姿が入る。


「ーー…………………。」


「ちょっ、ちょっと。なんだよ、そのじっとりとした視線は……。」


  数歩進んで、間近でじっと見つめる私に、ブランがたじろぎつつ離れようとする。失礼ねぇ、取って食べたりはしないわよ?


「ねえブラン、お願いがあるんだけ……」


「嫌だよ!」


「まだ最後まで言ってないのに!!」


  叫ぶ私を拒絶するように、ブランがプイッとそっぽを向く。


「ブラン…、貴方今日は私に冷たくない?せめて何を頼もうとしたのか位聞いてくれても……。」


「ふーんだ!聞かなくたってわかるもんね!僕に会場まで戻って、王子達が居るか見てきてって言うんでしょ?」


「わかってるなら何で……」


  未だ私に背を向けているブランの尻尾(しっぽ)がプロペラのようにグルグルと回る。猫が尻尾を激しく動かすのは、機嫌が悪い証拠だ。

  でも、今朝はいつも通りだったし原因がわからずに首を傾げる。


「ブラン……?」


「ーー……僕、アイツ等嫌い!!」


「アイツ等って……、ライト達のこと?どうしてよ、貴方まだちゃんと会ったことないじゃない。」


  拗ねたような様子を見せるブランに『理由を話してくれなきゃ』と、出来るだけ優しく問い掛ける。


「ブランったら。」


「うーっ……!だって、アイツ等と仲良くなってからフローラ全然構ってくれないし!!」


「……はい?」


  ブランのその言葉に一瞬思考が止まって……、それから、口元が緩んだ。


「ひょっとして、ヤキモチ?」


「そうだよ!学校に居る間は忙しくて話せるのは夜だけ。国に帰ってきたかと思えばお出掛けばっか!!今日だって、結局話す内容はアイツ等のことばっかじゃないか!!!」


「……ふふっ。」


「何笑ってるのさ、僕は怒ってるんだよ!」


  その吐き出すような言葉を受けてつい笑いだした私に、ようやくブランが振り返った。

  真っ白い頬をぷっくり膨らましたブランが可愛くて、正面からぎゅっと抱き締めた。


「ちっ、ちょっとフローラ!!」


「もーっ、可愛いなぁ!寂しいならそう言えば良いのに~。」


「ちょっ、苦しいじゃないか!!」


「あっ、ごめんなさい。」


  しまった、つい力入れすぎちゃった。

  私の腕から解放されたブランが、小さな舌で乱れた毛並みを整える。


  そして、毛繕いを終えるとブランは私に向き直り……


「仕方ないなぁ……、見てきてあげるよ。」


「あら、いいの?」


「……よく言うよ。まぁ、もう時間も無いしね。じゃあ、パパっと見てきてあげるから、戻るまでここで大人しくしててよ!」


「うん、わかったわ。この辺りの人達に手がかりでも聞いてるわ。お願いね!」


  小さな羽を使って高く飛び上がりながら、『ちゃんとここに居るんだよー!』と叫ぶブランの姿があっという間に見えなくなった。


  それを見送ってから、服装を整えてフードを被る。聞き込みするのは良いけど、顔はあまりさらさない方が良いもんね。


  さぁ、聞き込みに行きますか!










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  フードを目深に被った少女が、道行く人々に何かを聞いて回っている。

  その姿を隠れ見ながら、青髪の少女…マリンが口元を妖しく歪める。


「ホントに街中にお姫様が居るとはね……。あの人も、たまには役に立つじゃない。」


  そう呟きながら、マリンは自らも羽織っている上着のフードを被った。

  

  彼女は身体こそ幼くはあるが、頭には多少なりとも年齢以上の知識がある。流石に、今から自分の行おうとする事が、危険を伴うことである位はわかったようだ。


  悪事を働く時には、顔を隠しておくものだ。


  まぁ少女は前世も現世も、自らが“悪”であると言う自覚はないのだが……。


  そして、目元まで正面からは見えないほどにフードを被り直したマリンは、うつ向き加減で聞き込みをしている少女に近づき……、か細い声で呼び止めた。


「あの……すみません。」


「……?はい、私ですか?」


  マリンの言葉をしっかり聞き取り、丁度他の人から聞き込みを終えた少女が振り返った。


  マリンほど深くはフードを被っていないその少女の澄んだ蒼い瞳に、さも加護欲を誘いそうな弱々しさを装ったマリンの姿が映る。


  互いに顔を隠していて、片方は目が見えないにも関わらず……、向き合った互いの脳裏に嫌な“何か”が過る。

  そんな中……、マリンが静かな声色で口を開いた。


「お願いします……、助けてください。フローラ様!」




     ~Ep.52 思わぬ対面・後編~


『互いの素顔を知らぬまま、二人の道が交差する……。』



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