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Ep.51 思わぬ対面・中編



  『さぁ、早く見つけて帰らないとね。』



  月夜の海の様な、深くて澄んだ色の瞳。大気に溶け込んでしまいそうな、細くて綺麗な水色の髪のその女性は、とても儚げで美しい人だった。うん、“儚げな美人”なんて表現がぴったり合いそうなんだけど……。


「だ、大丈夫ですか?顔色が悪いようですが……。」


「だ、大丈夫です。少し体調が良くないだけですから……。」


  いや、どうみても“少し”ってレベルじゃないです!!


「でも、顔色が真っ青ですよ。とりあえず、道ばたじゃ危ないですからこちらへ!」


「ありがとうございます……。」


「ーっ!」


  とりあえず立ってもらおうと思って握ったその人の手が、氷みたいに冷たくて驚いた。今日はこんなに天気が良くて暖かい日なのに……。





  丁度少し歩いた先に小さな公園があったので、そこのベンチに女性を誘導して座らせる。

  それと同時に、それまでフードに隠れてじっとしていたブランが私に小さく耳打ちした。


「ちょっとフローラ、そんな呑気(のんき)なことしてる場合じゃないよ!急いで皆を探さないと……!」


「だからって、このまま置いてなんか行けないよ!」


「……?どうか、されましたか?」


「いっ、いいえ何も!」


  ブランとの会話を誤魔化すように首を振り、私も女性の隣に座る。


  この公園は遊具も、目立った花壇などもなくかなり小さめだし、今が丁度お昼時と言うこともあって人気はない。精々、たまに遠くの方を散歩している人がちらほら居るくらいだ。そんな所に置き去りにして倒れたりしたら、助けてくれる人も居ない。やっぱりほっとけないよ……。


「ゲホッ……、はぁ、はぁ……。」


「ーっ!大丈夫ですか?お茶くらいなら飲めますか?」


  私がちょっと考えてる間にも女性は咳き込んだりして、息も荒くて苦しそうだ。

  その、ずいぶんと小さな背中を擦りながら、バスケットを開けて紅茶の入った水筒を取り出す。

  予備のカップにそっと注いでみれば、ふわっと甘い香りの混ざった湯気が広がった。よかった、まだ冷めてないみたい。


「どうぞ、ダージリンですけど……。」


「いえ、本当に大丈夫ですから……。」


「まぁまぁ、そんなこと言わずに。美味しいですよ!」


  力ない手に半ば強引にカップを渡せば、一瞬目を見開いて固まる女性。

  そして、私の顔を見てから……


「ーー……おいしい。」


  小さな声だったけど、確かにそう呟いた。その言葉に、自然と頬が弛む。


  女性はそんな私をちらっと見てから、その小さなカップに注がれた紅茶を飲み干した。(まぁ、そもそもそんなに量は無かったしね。)


「ごちそうさまでした……。」


「いえいえ。少しは温まりましたか?」


  空になったカップを受けとりつつ顔を見てみれば、先程より幾分かは顔色がましになった気がするけど……でもやっぱり、女性のその美しい顔は苦しげに歪んだままだった。


「ご親切に、ありがとうございました。では……、あっ…!」


「ーっ!?まだ立ってはいけません!また倒れてしまいます!!」


  私の問いを誤魔化すように立ち上がろうとして、その細い体がすぐにバランスを崩す。咄嗟に支えたその体は、子供の私でもしっかり受け止められるくらいに軽くて驚いた。


  何だろう、貧血……いや、栄養失調?でも、ここは四ヵ国の中で一番裕福なフェニックスの帝都だし、女性が身に付けているのはデザインはシンプルだけど良い素材で出来たワンピースだ。ちょっとだけど宝石も身に付けてるみたいだし、身なりだけ見ればむしろ裕福そうに見える。


「……あの、本当に大丈夫ですから……。」


  考えてる間にも、女性はフラフラしながらもこの場を去ろうとしている。うーん、やっぱ放置は出来ない!


「どうしてそんなにお急ぎなのですか?何か用事でも?」


  とは言っても、私もあまりのんびりもしてられない。ライト達を探さなきゃいけないしね。本来なら、この人を自宅まで送り届けられたら一番気が楽なんだけど……。見るからに帰宅する気が無さそうなので、ついそんなことを聞いてしまった。

  私の発言に、ブランが呆れたようにため息をついている。


「あの……ですが、これ以上他国の王族の方にご迷惑をお掛けするわけにも参りません。」


「え!?」


「え…?」


  女性のその言葉に驚いた私に、今度は女性の方が驚いた表情を浮かべる。

  美人はやっぱり驚いてても美人だ……じゃなくて!なんでわかったの!?私、まだ名乗ってないよね?


「ーー……フローラ、上着についたリボンだよ、リボン。」


「リボン……?あっ!」


  呆れたようなニュアンスで囁かれたブランの声に従い、首もとのリボンに視線を落とすと、綺麗にリボン結びされたそれの結び目の位置に、しっかりとミストラルの王家の紋章が刻まれた金色のボタンが着いていた。


  こんなの着いてたんだ!全然気づかなかった……!


「あ、あの……?」


「ーっ!し、失礼しました。どうぞお気になさらず……。」


  女性の不思議そうな視線から逃げるようにうつむき、とりあえずリボンをほどいてボタンが隠れるように結び直す。早めに気づけて良かったぁ。危うく身分を大っぴらに明かしながら街中を徘徊する所だったよ……。


「では、改めましてご挨拶を。(わたくし)、隣国・ミストラルの第一王女、フローラ・ミストラルと申します。以後、お見知りおきを。」


  さっきまで気を緩めまくりで普通に接しちゃってたから今更な気もするけど、改めて顔を上げ、膝を折って挨拶をする。

  そんは私を見て、女性は一瞬目を見開いてから静かに立ち上がった。


「あっ、だからまだ立っては……!」


「……フローラ様。」


「はっ、はい?」


  その体を支えようと近づいたら、華奢な手で肩を押さえられた。心なしか、表情もさっきより固くなった気がする。


「ど、どうか致しましたか?」


  首を傾げつつ顔を見上げる私を真剣な目で見つめながら、女性が『もう私は大丈夫ですから、すぐにお帰り下さい。』と口にした。


「え?でも……」


「本日は、毎年恒例の宝石展が行われているのでしょう?早く戻らないと、終わってしまいますわ。」


「それは、そうなんですけど……」


  まぁ、ここを離れたとしても皆を探さなきゃいけないから会場には帰れないんだけど……。なんだろ、さっきまでの遠慮してる感じじゃなく、まるで一刻も早く私をこの場から離そうとしてるみたい。


「……フローラ、その人の言う通りだよ。早く行こう!」


「……うん、そうね。」


  まぁ、でも確かにこれ以上時間取れないし……。


  結局、『大丈夫ですから』と儚げに微笑む彼女に見送られ、私とブランはその公園から出ることにして。小さく手を振ってくれるその人に頭を下げてから、駆け足でその場を後にしたのでした。


「フローラ、もっと急いで!」


「これでも全速力出してるよーっ!」


  そんな会話を交わしながら走る私たちのすぐ横を、これからの私たちの人生に大きく関わる少女が通りすぎたことにも気づかないまま……。




       ~Ep.51 思わぬ対面・中編~


     『さぁ、早く見つけて帰らないとね。』

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