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Ep.5 出会いは春風とともに



『とりあえず、後でハイネに帽子が飛ばされないように留め具をつけてもらおうかしら。』




「ブラウスよし、リボンよし、ブレザーよし、スカートも大丈夫だし、後は……」


「帽子も忘れないようにね、はい。」


「えぇ、ありがとうブラン。」


ブランが頭にベレー帽を乗せてくれたので、その位置を調整してから改めて鏡を見る。

そこには、紛れもなくかつて攻略本で見た悪役(泣)のイラストと同じ“フローラ・ミストラル”が居る。

ただ、ちょっと違う所もあるような……?


「ん?どうしたの、フローラ。」


「あ、うん、なんか顔がね、微妙にゲームに出てたフローラと違うかなって。」


「“違う”?」



ブランの言葉に頷き、じっくりと鏡で自分の姿を確かめていく。

背中の半分くらいまで伸びた、緩いウェーブのかかった金髪。

前髪は目の上で切り揃えられた、いわゆるパッツン髪だ。

そこはゲームと同じなんだけど、目付きが違うように感じるのだ。

かつて見ていたフローラは、凛として冷たい空気で、そのエメラルドの混ざった青色の目は猫みたいなつり目だった。

でも今、私として鏡に写っているフローラの目は、色こそ同じだけどちょっとたれ目気味……。

これだと迫力ある悪役にならない、いや、なりたくないから良いんだけど。


「え、えっと、たれ目のが可愛いよ、花音っぽくて。」


「……ありがとう。」


ブランのフォローに頷きつつ、『あぁやっぱり。』って気持ちが湧いてくる。

そう、かつての私は今のフローラより更にたれ目ちゃんで、パッと見るとかなり気弱そうに見える顔立ちだった。

だから余計に、彼女達に付け入る隙を与えてたんだと思う。


今生は地位があるから表だって何かをされることは無いとは思うけど、今から通う場所の同級生は子供だ。

子供は何をするにも正直だから、傷つける時も直球だし……。


「はぁ……、憂鬱。」


「よしよし、学園には僕もついていくからね。」



明日からの学園行きを嘆く私を、ブランが励ましてくれる。

言葉が通じるっていいなぁ。



「失礼致します姫様、お召し物を……あら?」


「あらハイネ、ごきげんよう。制服ならこの通り、自分で着られましたわ。」



扉をノックして入ってきたハイネが、制服に身を包んだ私を見て驚いている。

これまでは着替えもいつも手伝って貰っていたから、私が一人で着替えていた事に驚いたのね。


まぁいつも手伝って貰っていたのは、単に子供の身体が不慣れだったのと、着るものが全て本物のドレスで着方がわからなかったからなんだけど。


それにしても、イノセント学園の制服は可愛い。

色合いはそれぞれの出身国ごとに分かれているので、私が今着ているのは青色系だ。



真っ白い布で出来た、ボタンを止める部分のサイドにフリルがついたブラウスを着て、青い丸い宝石がついたリボンを付ける。

ちなみに、リボンは青地に白と水色のチェック柄だ。スカートはリボンと同じ柄のプリーツスカート、ただし裾に小さめのフリルつき。

そしてブレザーは、優しい水色に白銀のボタンがついたものだ。


高等科で主人公が着ていたのは炎の国“フェニックス”のカラーで赤とピンクがベースだったけど、青も可愛いよね。

むしろ、“制服”として見るなら青系の方がそれっぽいかも。

元の学校のブレザーは紺色で、嫌がらせでゴミとか着けられると目立っちゃってたなぁ……。



「姫様……、姫様!」


「あっ!ご、ごめんなさい、何かしら?」


いけない、制服と前世に思いを馳せていたらハイネの声が聞こえなくなっていたわ。

ハイネはもう私のそんな様子にも慣れたのか、軽く『学園で他の国の方々に同じような対応をしないように心がけてください』とだけ言ってから、もう一度話していた事を説明してくれた。



明日は入学式と同じなので、お父様とお母様は学園側からご招待を受けている。

その為、明日は一緒に学園の島まで行き入学式に参加。

その後、各国の陛下からご挨拶を賜り解散らしい。

これはあれですね、前世の入学式、卒業式でありがちだった、来賓の有難い(とは名ばかりの長~い)お話と同義ですね。

せめて、うちのお父様にだけはつまらないお話を長々としないように言い含めておいた。



「それから、当然ですが学園には必要最低限の使用人が同伴致します。」


「えぇ、もちろんわかっています。これからもよろしくね、ハイネ。」


「はい、王妃様からもしっかり見張るよう言われておりますので。」





まぁ、お母様ったら人聞きの悪い。

――……でも仕方ないか、今こそ大分慣れて普通にしているけれど、記憶が戻ってからしばらくは色々やらかしたものね。

ライト皇子にケンカを吹っ掛けた件から始まり、それはもう色々……。

だからこの一ヶ月は、“入学準備”よりも私の再教育に使われた期間だったと言える。



学園に入れば、食事だって寮で頂くので、必ず周りに誰かしら居るから。

テーブルマナーに関しては自信が無かったので、みっちり指導し直して頂けて良かったと思ってます。


それにしても、ライト皇子達はともかく、本来なら高等科から入る筈だったフローラ(私)が初等科入学かぁ……。

既にシナリオから大分逸れているようだけど、そう言えばヒロインの“マリン”はどうしてるのかしら?
















―――――――――


入学式当日は、素晴らしい快晴だった。

イノセント学園の白を基調とした美しい校舎が、鮮やかな青空によく映えていて一枚の絵画のようでした。

それでテンションが上がってしまい、入学式が終わってお父様達や使用人達がそれぞれ説明を受けている隙に、校舎をもう一度見ようと外に出た。

――……出たのは、良いんだけれど。




「ここは、どこかしら?」



どうやら、私は迷子になってしまったようだ。

ブランは、『僕が上から位置を確認してくるよ!』って言って飛んでっちゃってから帰ってこないし……。


あぁ……、心細いやら恥ずかしいやら。


「あっ、帽子が……!」


と、そこで不意に吹いた突風で被っていたベレー帽が舞い上がり、木に引っかかってしまった。


「もう、帽子は予備がありませんのに……!」



足元に落ちている枝で一番長いものを使って取ろうとするけど、今の私が小さな子供なのと、枝の長さにも限度があるので到底届かない。

いっそ登って取ろうかしら、運動神経には自信があってよ!


なんて、内心で誰にかわからない自慢をしながら枝に手をかけた……その時。




「あっ……。」


また風が吹き抜けて、今度は逆に帽子が木から地面へと飛ばされた。

ひらひらと風に流されたそれを、誰かの手が受け止める。


振り返ってそちらを見ると、そこにはエメラルドグリーンの髪に青い目をした少年が立っていた。



あれ、どこかで見たことあるような……。


知り合いだったかしら?



~Ep.5 出会いは春風とともに~





『とりあえず、後でハイネに帽子が飛ばされないように留め具をつけてもらおうかしら。』



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