Ep.50.5 信号機トリオの逃亡事情
マリンから逃げたあとの信号機トリオの小話。ほぼライトとフライが喧嘩してるだけですw
「……撒いたか?」
「うん、大丈夫。ついてきてないよ。」
「はぁ、疲れたぁ……。」
すれ違う人たちには聞き取れないくらいの小声で話しながら、三人揃って歩き続ける。
そんな中、ライトの一言で振り返ったフライがあの子がついてきてないことを確かめてそう答えると、何だかドッと疲れが押し寄せてきた。
それは二人も同じみたいで、自然と人目を避けて裏路地へと移動する。
薄暗くてちょっと怖いけど……、二人に言ったら笑われる気がするから言わない。
「で……、これからどうするよ。」
「どうするって言ったって……、とにかく帰らなきゃ。皆心配してるよ、きっと。」
「いや……特に騒ぎになってる様子はないし、まだ居なくなったことには気づかれてないんじゃないかな?」
なるほど、フライの言う通りかも知れない。会場を飛び出したあの時、僕たちのことをしっかりと見ていたのは妹のルビーだけだったみたいだし。
我が妹ながらあの子は賢いから、むやみやたらに騒いで騒ぎを大きくしたりはしてないだろう。
「まぁ、バレてようがいまいが関係ない。とにかく帰るぞ!ったく、あの女のせいでずいぶんと停車所から離れちまったじゃねーか。」
「まぁ、そもそもは君があの子をさっさと突き放せなかったが為に起こった事態だけどね。」
「なっ……!馬鹿言え、何度も拒絶したし怒ったさ!!と言うか、お前ら俺があんなしつこくされて大人しく黙ってられると思うか!!?」
「「いや、思わない。」」
ライトの自虐的とも取れる叫びに対して、僕とフライの意見が一致した。その事に対してライトはガックリと肩を落とし、そんな友の姿に僕は苦笑して、フライは軽く鼻で笑う。いつからだっただろう、こんな遠慮なく付き合えるようになったのは……。
「ま、まぁわかればいい。ほら、帰ろうぜ……」
「ちょっと待った。」
「痛っ!」
僕が考え込んでる間に、話を切り替えようとライトが歩き出して……フライに足を引っ掛けられて止められる。フライ……、流石に足は危ないよ。そんなことされたら、ライトのファーストキスの相手が大地になっちゃうよ。
「いきなり何すんだよ、危ないじゃないか!」
「君が人の話を聞かないからでしょ。」
「話っていってもさっきからほぼ俺しか喋ってないだろうが!」
「嫌だなぁ、人聞きの悪い。さっきからちゃんと相槌は打ってるじゃないか。」
飄々(ひょうひょう)としたフライの様子に、『お前のは相槌じゃなく言葉の刃だ……』と呟く。うん、それはライトに同意だ。フライの言葉は、時には針のようにチクリと刺し、またあるときは刀のように人をバッサリと切るような物が多い。
そして、主にその被害に合うのはライトなのだ。でもまぁ、何だかんだ二人とも楽しそうだから、周りが止めに入ることは滅多に無いんだけどね。
「俺はちっとも楽しくねーよ!」
「うわぁっ!?」
いつも通り仲良く言い合う二人を眺めていたら、ライトが不意にこっちに振り返ってそう叫んだ。これは、もしや……
「ごめん、声に出てた?」
「あぁ、『何だかんだ……』の辺りからハッキリとな!!」
「僕はまぁまぁ楽しいけど。」
「あぁそうかよ、そりゃそうだろうな。それだけ好き勝手言ってんだから!」
僕の言葉で更にヒートアップしたライトをなだめつつ、話を戻そうとフライに『で、なんでライトを引き留めたの?』と聞く。
すると、フライの顔から笑みが消えて、『あの子、ライトへの付きまとい方からしてかなりしつこいよね』と言う言葉が返ってきた。そうだね、僕らが学園に入った年から、ライトが国に帰ると必ず来るらしいし、もうかれこれ五年位になるのかな?
ライト本人に確認しようと聞いてみたら、あからさまにうんざりした顔をされたのであながち間違いではないだろう。
「いくら撒いたとは言え、すぐに戻ったら停車所や会場で待ち伏せされてるかもしれないじゃないか。ここはしばらく身を隠して、あの子が諦めた頃に戻った方が得策だと思うけど?」
フライのその説明に、さっきまでイライラしてたライトも納得したような表情になった。
「……わかった。じゃ、しばらくここで待機か?」
「まぁ、別にずっとここに居なくたって良いけど……とりあえず帰るのは一旦保留ってことで。」
『動くのめんどいしここでいい。』なんてぼやいて、ライトが近くの壁に寄りかかる。服汚れるよ?
「それにしても、フライは頭が良いよね。」
「え?どうしたの、急に。」
「だってさ、さっきあの子から逃げるときも結果的にはフライの案が正解だったわけだし。」
そう、さっき馬車から降りてすぐ、僕はまず人気の無いところ(まさにこの路地みたいな)に隠れる気で居た。でも、いざ降りてみたらまず隠れられそうな場所がなくて断念。
次にライトが、比較的人通りの少ない方の道を走って逃げようと言ったけど、それもフライに『いくら人が少なくても、長く走れば誰かにぶつかって危ないしすぐに捕まってしまう』と言われて、これも断念。
で、結局フライの案『人を隠すなら人(混み)の中作戦』(作戦名はライトが命名した)を実行して現在に至るわけで。
「まぁ、相手の性格や考え方を見ればこれくらいどうってことないよ。」
「お前、いつもそんなこと考えながら行動してんのか……?」
「まぁね。と言っても、ライトは単純かと思えば突拍子も無いことやらかしてくれるから中々わかりにくいけど。」
「なんだと!?」
あれ、おかしいな。いつの間にかまた二人の喧嘩が始まっちゃった。
フライのさりげない攻撃にライトが怒り、そんな彼の怒りをフライは笑顔でかわす。うん、いつも通りだ。
はぁ、それにしても……、二人が盛り上がっちゃってると僕はなかなか間に入れないし。
「フローラが居ないとなんか暇だなぁ……。」
そんな僕の呟きは、二人の言い合う二人の喧嘩に書き消され、誰にも気づかれないのでした。
~Ep.50.5 信号機トリオの逃亡事情~




