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Ep.49 思惑ある者



   望まぬ対面まで、あとわずか……。




  学校がまた長期休みに入って、皆それぞれ故郷に帰ってきてから数日後。私は、お母様がまた張り切って新調したドレスに身を包み、フェニックスの帝都を訪れた。


「フローラはこちらにお邪魔するのは小さいとき以来ね。どう?少しは覚えているかしら?」


「はい、お母様。あのときは色々ありましたから……。」


  馬車から見える流れる景色を見ながら、始めてこの国に来たときのことを思い返す。

  そう言えば、私あのとき主人公(マリンちゃん)のイベント駄目にしちゃったんだよね……。


「フローラ、元気がないな……。大丈夫かい?」


「あっ……、だ、大丈夫です。久し振りに他国の行事にお呼ばれしたので、少々緊張してしまって。」


  慌てて顔を上げて笑って見せれば、そんな私を見てふわりと笑う両親に頭を撫でられる。

  寮暮らしだと会える時間は限られちゃうし、最近は帰っても二人とも弟のクリスに構っていることが多かったので、こういうのはなんだか久しぶりだ。嬉しいけど、ちょっと気恥ずかしいような感じがしてこそばゆい。


「ふふ、大丈夫よフローラ。この行事には、王族や貴族だけでなく、一般層の裕福な家も呼ばれるので、あまり形式ばった場ではないの。肩の力を抜いて、息抜きとして楽しみなさい。」


「はい、お母様。」


  そっか、そんな大きな行事なんだ……。

  あれ?貴族以外も参加するなら、もしかして……マリンちゃんも来てたりして。


「……。」


  ふと頭に浮かんだ予感に『もし会っちゃった場合はどうするのが正解なんだろう』なんて悩んでいる間に、私達の乗る馬車は人々で賑わう会場に着いてしまうのでした。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……で、何で君は一人でブラブラしてるのさ。」


「仕方ないじゃない、お父様達が大人の付き合いに渋々駆り出されちゃったんだから。」


  『だったら側で大人しく待ってれば良かったのにー。』と呟きながら、ブランが右肩にかけたかごバッグからひょっこりと顔を出す。

  私が今歩いている場所はメイン会場からみて裏手に当たる位置なので、人通りもない。ここならブランが姿を見せていても大丈夫だろうと、近くのベンチに腰掛けブランを膝に乗せた。


「宝石、見なくていいの?」


「うーん、興味はあるんだけど、あの空気の中一人で見て回るのはねー。」


  警備の面から、城内には入らずに外で行われる今回の行事は、ぱっと見た感じバザーやフリマ(売ってるものの値段は桁違いだけど)みたいな感じで、始めは『楽しそう!』と思ったんだけど……。実際に店を回ってみて、そんな気分は吹き飛んでしまった。

  もー、宝石を見るお姉様方の目の怖いこと!宝石より彼女達の瞳の方がよっぽど輝いてたよ、ギラギラとね……。


「ふーん。まぁ、少し休んでからまた見に行けば?」


  私の膝の上で、前足を使い顔を洗いながらそう言うブランを撫でながら、『そうだねー』なんてのんびりして。

  丁度木陰で涼しいし、いい風も吹いてるし……。もうしばらくここに居ようかなと思っていたのに、不意にブランが尻尾と耳をピンと張って立ち上がった。


「ど、どうしたの?」


「静かに!……足音がする、誰かこっちに来るよ。」


「えっ、ホントに!?」


  そう言われて耳を済ましてみるが、会場の方から流れてくる音楽や人々の声しか聞こえない。

  とりあえずブランにはバッグに隠れてもらい、この場を駆け足で離れることにした。


「とりあえず、会場に戻……っ、きゃっ!」


  と、角を曲がった瞬間向かい側から来た誰かにぶつかって転んでしまった。やっちゃったー……。


「も、申し訳ございません。よそ見をしていて……。」


「いえ、こちらこそ不注意でした。お怪我は……って、フローラちゃん!」


「あっ、フェザー様!」


  なんと、謝らなきゃと見上げた相手は、ついこの間誕生日会を行ったフェザー皇子その人だった。


  『大丈夫?』と差し出された手をつかんで立ち上がらせてもらってから、わずかにその手が汗ばんでることに気づく。心なしか、息も荒いような……?


「あの、何かあったんですか?」


「え?」


「あ、急にすみません。なんだか焦っていらしたようなので……。」


  私がそう口にすると、フェザー皇子がはっとしたように『そうだった!』とまた走り出そうとする。

  待って待って!今このまま走り出すともれなく(あしでまとい)が着いてきちゃいますよ!手をつないだままだから!!


「ふっ、フェザー様!とりあえず落ち着いてください!」


  繋いだままの手を引っ張るようにして引き留めると、ようやく状況を把握したようにフェザー皇子が慌てて私の手を離した。


「ご、ごめんね。痛かったでしょう。」


「いいえ、大丈夫ですわ。それにしても……、本当に何があったんですか?フェザー様がそんなに慌てられるだなんて、珍しいですね。」


「あはは、うん、まぁ……ね。実はさ……」


  困ったような、それでいて酷く疲れたような声色のフェザー皇子から聞いたその話が、まさか彼女との対面を引き起こすことになろうとは……、このときの私は思いもしないのでした。











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  一方、こちらはフェニックスの城下にあるマーケット通り。

  そこで、まるで誰かから逃げるように駆け足で人混みを抜けていく三人の少年と、そんな少年達を逃がすまいとまるで獲物を見るような目で見つめながら追いかける一人の少女が居た。

  しかしながら、年のわりに足の早い少年達は、上手く通る位置を利用しながら少女をどんどんと引き離し、なんとか撒くことに成功する。


  彼らを見失ったその位置で唖然とした少女は、一人悔しげに歯を食い縛るのだった。


「何で逃げるのよ……。ちっ、まぁいいわ……。街中はあのオッサンの部下に見張らせてるし。皇子達を探す前に、邪魔者をどうにかした方が良さそうね。」


  誰にでもなくそう呟きながら踵を返し、少女は宮殿に向かう道の人混みへと姿を消す。

  しかし、その悪意ある呟きを聞き止めるものは一人として居ないのだった……。



         ~Ep.49  思惑ある者~


       望まぬ対面まで、あとわずか……。



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