Ep.48 縮まる距離と、とまどいと
望まぬ対面まで、あと十日。
「それで、お誕生日会は楽しかったですか?」
「は、はい……。」
「人と話すときは目を合わせてください。あと、返事はもっと大きな声で!」
「は~い……。」
『伸ばさない!』と言うハイネの言葉に、(前世の)お母さんにも小さい頃同じようなこと言われたなぁなんて懐かしい気持ちになる。“人と話すときは目をちゃんと見なさい”に関しては、特に厳しく言われたっけ……。
「まぁ、今回の件はちょっとした行き違いによる事故でしたし、しようとしていた内容は決して悪いことではありませんが……。それでも、人様に向かってあんな妙なものを撃ったことは誉められたことではありません。かかったのが私でしたから良かったようなものの……、万が一、他国のご子息様やお嬢様方、もしくはその方々に仕える使用人に同じことをしようものなら大事でしたよ。」
「はい、ごめんなさい……。」
今度は正面に立つハイネの目を見つめ、ハッキリと謝罪の言葉を口にする。
うん、クラッカーの誤発射は失敗だった。せめて相手の顔を確かめてから撃つべきだったよ……。
あれ、そう言えば……
「ハイネ!」
「何です?」
「貴方、あのときに私に用があるって言ってなかった?」
そうだ、お誕生日会のこととフライと仲よく(?)なったことで頭から抜け落ちてたけど、確かあのときハイネがあの場に来たのは私を探してたからだったはず。
わざわざ探しに来たくらいだから大事な用だったのかもとそう聞いてみれば、ハイネは『そうでした。』と思い出したように一枚の手紙を取り出した。
「うち(ミストラル)の紋章……、お父様からね。」
「はい、今日の昼過ぎに速達として届きましたゆえ、姫様にお渡ししようと探しておりました。」
「なるほど……。でも速達なんてなんだろ?もうすぐまた長期休みだから帰るのにね。」
『主人の手紙を勝手に読むわけには参りませんし、私にはわかりかねます』と淡々と答えつつココアを淹れてくれるハイネ。どうやらお怒りは収まったようだ。ココア美味しいです。
そして、手紙の内容はと言うと……?
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翌日の昼休みは、酷い雨なのでいつもの外の席は流石に使えなかった。こう言う日は、ランチルームでバラバラにランチを摂るのが皆で決めたルールだ。
まぁ、中の座席もテーブルも十分に数はあるんだけど、混雑している昼時のランチルームであまり大人数で固まって席取っちゃうと周りに迷惑になっちゃうし。なにより、『この顔ぶれで固まっちゃってると悪目立ちしちゃうでしょ?』と言うフライの意見に、皆が同意したから。
前に私がやられたみたいに、皆にも何か起こったら嫌だしね。まぁ、もう大分学年も上がったしそんな馬鹿なことをする人は居ないと思いたいけど……、前世の体験を思うと安心は出来ないからなぁ……。
「っと、いけない。危うく通りすぎちゃうところだったわ。」
考えながら歩いていたら、危うく目的地だった図書室を通りすぎそうになってしまった。歩くときはちゃんと目的地を見なきゃ駄目だね、まぁドアに激突しなかっただけよかったけど。
「さて、宝石の本は……っと。」
この学園の図書室は、勉学に必要な類いだけじゃなくフェニックス、ミストラル、アースランド、スプリングの四ヵ国から贈呈された様々な蔵書がある。
そんなずらっと棚一杯に並んだ中から目当ての物を探すのは、ちょっと一苦労だ。
まぁ、それでも棚毎に何の本棚か札がちゃんとついてるから多少は探しやすいけどね。
「あっ、あった!」
と、棚の札を見ながら図書室の一番奥にあるアースランドからの贈呈本の棚にたどり着いた。
目当ての宝石の本は一番上だったので、近くにあった踏み台に乗ってそれを取ろうと手を伸ばす。
「……あらー。」
なんと、踏み台に乗って背伸びをして尚微妙に届かないと言う悲劇!!
仕方ない、先生に頼もうかな……。
「あれ……?フローラ、どうしたの?」
「調べものか?」
「え?」
と、不意にかけられて振り返ると、そこには何冊かの本を持ったクォーツとライトが立っていた。
どうして二人がここに?と一瞬思いつつ、踏み台から下りて二人の方に向く。
「まさか図書室で会うとは思わなかったな。で、どうした?」
「宝石についてちょっと調べに来たんだ。」
「宝石?あっ、もしかして、フローラも招待されたの?」
クォーツの問いに頷きつつ、昨晩読んだお父様からの手紙の内容を思い出す。
何でも、次の長期休みの期間にフェニックスで宝石の即売会(?)みたいなイベントがあるそうで、うちもご招待を受けたらしい。
年齢的に宝石の類いは持ってなかった私に、今回のイベントで良い物を買い与えようとお父様もお母様も大張り切りなようで。
せっかくだからほしい宝石を考えておきなさいとのことだったから、図鑑でも見ようかなと思ってここに来たわけなのです。……届かなかったけど。
「……っ、お前っ、台使っても届かなかったのかよ。情けねーっ!」
「し、仕方ないじゃん。棚が高いんだもん。」
話を聞いて吹き出すライトと、『本が多いからどうしても棚を高くするしか無いんだろうね~』なんてフォローをしてくれるクォーツ。
本当に正反対な二人だ。フライも含め、性格は全然違うのに相性はいいんだよね。あれ、そう言えばフライは?
「おーい、ライト、クォーツ、遅いよ……ん?」
「あ、フライも居たんだ。ごきげんよう。」
「フローラ……。なるほど、話し込んでたからなかなか戻ってこなかったんだね。」
「二人を待ってたんだ、ごめんね邪魔しちゃって。」
『別に構わないよ、まだ時間もあるし。』なんて答えながらこちらに歩いてくるフライを他所に、どこかからバサッとなにかが落ちるような音がした。
「ふ、二人ともどうしたの?急に本落として。」
その音がした方を見れば、クォーツとライトが唖然とした表情で持っていた本を落として固まっていた。
とりあえず床に散らばったそれらを拾おうと屈んだところで、腕を掴まれて引っ張りあげられた。
「ライト!な、なに?」
「何じゃねぇ!何!?昨日一日で一体何があった!!?」
「何が……って?」
がっしり私の両肩を掴んで揺さぶるライトと、未だちょっと驚いた表情のままこちらを見ているクォーツ。
ちょっと掴まれた肩が痛くなってきたので、見てないで止めてほしいんですが。
「もう、とりあえず落ち着いてよ。で、結局どうしたの?」
「いや、どうしたって……。お前、昨日までフライとは敬語で話してたろ?」
あぁ、そのことか!そりゃ確かに驚くよねー……。って言っても、別に何があったわけでもないからどう話したらいいやら……。
「はぁ……、ライト、とりあえず手を離したら?話し方と呼び方は、僕が皆と同じで良いって言ったんだよ。」
「「フライが!?」」
私が悩んでいたらフライがそう説明をしてくれて、その瞬間ライトとクォーツが勢いよくフライの方に振り返った。
な、なんなの?
「……マジで?」
「口が悪いよ、ライト。こんなことで嘘つくわけ無いでしょ?って言うか、別に僕らがため口になろうが二人がどうこう言うことじゃないでしょ。」
「まぁ、それはそうなんだけど……。でも珍しいね、フライが、その……。」
言葉を濁すクォーツを見て『なにか文句でも?』と微笑むフライ。
本当になんなのよ……?
「あー……、フローラ。」
「な、なに?」
「お前が借りたかった本はどれなんだ?」
「あ、一番上の、ちょっと大きめの宝石図鑑だけど……。」
聞かれるがままに答えたら、ライトが手早くその本を取り出し『お前はそれ持って一旦行け』と差し出してきた。
「え?あ、うん。本ありがとう。」
なんだかよくわからないままだけど、どうやらお邪魔なようなので素直に本を受け取ってその場を離れる。
軽く三人に手を振ってから背中を向けて歩きだしてから、そう言えばクォーツとフライも即売会来るのかなぁなんて思った。
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一方、こちらはフェニックスのとある少女の家。
年端のいかない少女が使うにはずいぶんと豪奢なドレッサーの前で自慢の愛らしい顔にメイクを施しながら、その少女はちらりと台上に乗った一枚の紙を見る。
金の飾りで縁取られたその厚紙は、数日後にフェニックスの宮殿で開かれる宝石販売のイベントの招待券であった。
メイクを終えた少女はその券を手に、僅かに口角を上げる。
「お城に正式に入れる良い機会だわ……。ライトだけじゃなく、他の攻略キャラも来るらしいし……。楽しみね。」
そんな事を呟きながら、少女は窓からフェニックスの宮殿を見上げるのだった……、
~Ep.48 縮まる距離と、とまどいと~
望まぬ対面まで、あと十日。




