Ep. 47 サプライズって難しい・後編
『まぁ、友達として認めてはあげるけど……僕は君が思ってる“以上”に優しくないから、覚悟しといてよね。』
会場の飾りつけ、プレゼント、お料理にケーキに……なんかしら抜け落ちてそうだけど、とりあえずまぁ準備はよし!
「おいフローラ、これどう使うんだ!?」
ドタバタと走り回るなか、クラッカーを手にしたライトにそう聞かれて、そういえば渡すだけ渡して扱い方を教えてなかったことに気づく。
とりあえず、『少し離れて祝う人の方にそれを向けて紐を引くのよ』なんて簡単な説明を終えたところで、廊下から聞こえてくる足音に気づいた。
「時刻は15時1分前……、兄様だね。」
「よし、じゃあフェザー兄がドアを開けるのと同時にこの紐を引っ張ればいいんだな!」
ライトのその言葉に釣られ、皆もクラッカーを入り口の豪奢なドアへと向ける。
そして、足音が止まってドアが開いた瞬間……。
「「「「「「「お誕生日おめでとーっ!!」」」」」」」
「って、あれ……?」
「姫様……、一体何の真似です?」
色とりどりの紙テープを浴びてそこに立っていたのは、なんと私の専属メイドの……
「ハっ、ハイネ……!」
おかしいな、室内は暖かいのに冷や汗が止まらないよ?
「み、皆、どうしたの?」
「フェザー兄さん!兄さんこそ、なんでハイネさんと一緒に……?」
ダラダラと冷や汗を流す私を見据えているハイネの後ろから、フェザー皇子がひょっこり顔を出す。
焦りで頭が回らない私と、唖然としている皆の気持ちを代弁するようにクォーツがそう口にすれば、『ハイネさんがフローラちゃんを探してるって言うから一緒に来たんだ』と苦笑するフェザー皇子。
そして、室内へと視線を巡らせ……フライ皇子が直筆で書いた“HAPPY BIRTHDAY”の看板へと目を止めた。
そんなフェザー皇子の視線を追うようにして、ハイネも私達が何をしていたかに気づいたらしい。絡み付いたクラッカーの紙テープを外しながら、『事情はわかりました』とため息をつかれた。
「フライ……、皆も、これって……。」
驚いた表情で中に入ってくるフェザー皇子の姿に、皆で顔を見合わせてからフライ皇子がチラリとハイネを見た。
「ハイネ……、ごめんなさい。後でちゃんと話すから、今は席を外して貰える?」
「はぁ……、わかりました。お説教は、後でみっっちりさせて頂きますのでそのおつもりで。」
「うっ……、わ、わかったわ……。」
いつのまにか手早く身だしなみを整えたハイネは、半ば呆れた様子を見せつつもすんなりと部屋から立ち去った。
あれ?そういえば私に用事があったんじゃ……?
「兄上、なんかグダグダになってしまったけど……、改めまして、お誕生日おめでとうございます。」
「フライ……!」
「皆で色々用意したんですよ~。……サプライズは失敗したけど。」
「ですね、やはりフローラ様の作戦は詰めが甘いようで。」
「私のせい!?」
「ふ、フローラお姉様は素直だから隠し事には不向きなだけですわよね!」
「ルビー様……フォローになってないです。」
た、確かに私は嘘は得意じゃないけど、今回は上手くいくと思ったんだけどなぁ。やっぱハイネの件が誤算だった……!
「まぁ、でもパーティー自体もフローラの提案だし、今回は誤算もあったってことで良いんじゃねー?フェザー兄も喜んでるみたいだし。」
「うん、なんかもう……驚いて言葉が出ないよ。皆、本当にありがとう。」
ライトが然り気無くフォローをしてくれたと思ったら、続いてフェザー皇子がこちらを向いて頭を下げる。
そんなフェザー皇子にフライ皇子が駆け寄り、背中を擦って顔を上げさせふわりと微笑んだ。
「とにかく座ってください。改めて仕切り直しましょう!」
弟のその言葉に、フェザー皇子は一層驚いたように目を見開いてから心底嬉しそうに微笑んだ。
そうして笑い合う二人を見て、ちょっと気持ちが温かくなった。
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パーティーが始まってからは一層賑やかで、特にライトのテンションがぶっちぎりで高かった。
始めにプレゼントを渡したときに、例のビックリ箱が大成功だったので気をよくしたのかも知れない。(フェザー皇子、驚きすぎて椅子から落っこちてたし……。)
でも、準備はあんなにかかったのに楽しい時間はあっという間で……、いつの間にか寮に帰らなきゃいけない時間が迫ってきていた。
「わっ、もうこんな時間だ!フローラ、ケーキは?」
「冷蔵庫の中だよ、取ってくるね!」
「ケーキまであるの?すごく豪勢だね!」
「皆で作ったんですよ!はい、どうぞ!!」
誕生日と言えば定番のそのイチゴショートケーキは、実はフェザー皇子の為にここにいる皆で作ったもの。
形はなかなか大変芸術的な感じになっちゃってるけど……、ここにひとつしかない、唯一無二のケーキだと思う。
「さて、じゃあ蝋燭を刺しましょうか。」
「「「蝋燭!?」」」
私がケーキにフェザー皇子の年齢分の蝋燭を刺そうとしたら、なぜか信号機トリオに慌てて止められた。
「な、なに……?」
「何じゃねーよ!お前は食い物に蝋燭刺す気か!?」
「だって誕生日ケーキだよ?普通に刺すでしょ。」
「い、いや、僕らは初耳だよフローラ……。」
「フローラ様は、兄上に蝋燭を食べさせるおつもりで?」
「え!?ち、違いますフライ様!ライトもクォーツもちゃんと聞いてね、これは……」
皆の抗議に答えようと顔を上げたら、いつものごとく黒い笑顔を浮かべたフライ皇子と目が合ってしまった。
とはいえ、今更逸らすのも失礼だし、ここはちゃんと話すべきかなと、この蝋燭を刺す意味を簡単に皆に話す。
私のざっくりな説明でも一応理解はしてくれたのかクォーツとライトの手から私が開放された頃……、事の成り行きを見守っていたフェザー皇子がボソッと何かを呟いた。
「……?兄上、どうされました?」
「あ、ううん、大したことじゃないから……。」
「あの、不快でしたら蝋燭は止めときますか?やらなくちゃいけないと言う訳ではないですし……。」
私が蝋燭をしまおうとすると、『そうじゃないんだ』と苦笑される。
では一体どうしたんだろうと皆でフェザー皇子に注目すれば、観念したように静かに口を開いた。
「ただ……フライとフローラちゃんだけは未だに敬語なんだなと思って。付き合いは何だかんだ長いよね?」
「あぁ、そう言やそうだな。」
「確かに、フローラお姉様とフライお兄様は何だかよそよそしいですね。」
「名前も未だに様付けだし……。」
「確かに、フローラ様はフライ様とはあまりお話されてませんね。」
ライト達はおろか、今まで皆を静観していたレインにまでそんなことを言われてしまい、皆の視線があっという間にフェザー皇子から私とフライ皇子に移ってしまった。
「え、えぇと……」
「言われてみると気になっちゃうよね、何でなの?」
なんて答えたら良いかわからずに言い淀む私に、クォーツの無垢な瞳が追い討ちをかける。
それでも尚なにも言わない私に業を煮やしたのか、ライトがフライ皇子の方に向き直り……
「これさ、お前が腹黒で恐いからフローラが距離おいてんじゃねえのか?」
爆弾を投下して下さった。
あぁ、衝撃のあまり真っ白になる私を見て呑気に『なんか違ったか?』とか言ってるライトの肩をつかんで思いっきり揺さぶりたい!
『違ってないから困ってるのよ!』って思いっきり突っ込みたい!
……なんて言ってる場合じゃなくて!
「け、決して怖いだなんてことは……。ただ、やはりフライ様のご意志もあるわけですし、私の一存では……。」
やんわり言い逃れようとする私に、未だに皆の視線が刺さっている。
って言うかフライ皇子、貴方はなぜせっせとケーキに蝋燭を刺してるのかしら?
一応貴方も主要人物の筈ですけど!?
「まぁ、この話は今は良いじゃない。それよりライト、火をつけてよ。時間無くなるよ?」
「え?あ、あぁ、そうだな。よし、皆下がれー!」
ライトが魔力で指先に炎を出し、フライ皇子が刺した蝋燭に火をつける。
皆にとって、蝋燭を刺されたケーキと言うのはずいぶん新鮮だったみたいで……。あっという間に全員の関心はそちらに移った。
よかった、逃げ切った……!
ちなみに、皆で作ったケーキはちゃんと美味しく出来てて、二重の意味でほっとしたのでした。
そしてその後、主役であるフェザー皇子を見送り、部屋や使ったものの片付けをすることになって……。
「ーー……。」
「……。」
皆の謎の計らいにより、私はフライ皇子とふたりで調理室で食器を洗うことになった。
き、気まずい……!
「……ねぇ。」
「はっ、はい!って、あっ!!」
「ーっ!?」
と、緊張しながら皿洗いをしていたら不意にかけられた声に驚いて、丁度掴んでいたお皿を落として割ってしまった。
「あーあ……、大丈夫?」
「は、はい、大丈夫です……!……あれ?」
「……何?」
「あ、いえ、言葉遣いが……」
焦ってて気づかなかったけど、タメ口になってる……?
私がその疑問を口に出す前に、フライ皇子が『あぁ……。』と納得したように呟いた。
「今、丁度その話をしようと思ってたんだよ。」
「……?そうなんですか。」
話……、話って何??
はてなを浮かべまくる私を見て、フライ皇子が『……君って鈍いよね』と苦笑する。
でも、その表情は今まで見たことのない、穏やかなものだった。
そして、その表情のまま、フライ皇子がこう言った。
「良いよ、僕のことも普通に呼んで。」
「え……?」
「だから、僕にもライトやクォーツみたいに接してくれて良いよって言ってるの。」
「え、でも、いいんですか?」
いきなりのことに狼狽えながらそう聞き返せば、『敬語じゃなくて良いってば』と言われてしまう。
ほ、ホントにいいのかな……?なんで急に??フェザー皇子に言われたから?
「言っておくけど、兄様に言われたからじゃないからね。」
「ーっ!」
心読まれた!!
「ただ、君には何だかんだ色々してもらってるし、皆の言う通り付き合いも長い。」
そこで言葉を切り、フライ皇子の澄んだ瞳が私を捉えた。
「それに……、今日のことも感謝してるから。あんな嬉しそうな兄様、久しぶりに見たし。」
「フライ様……。」
「だから様付け……っ、まぁいいや。その内に慣れるだろうし。」
私の頭の処理が追い付く前に話が終わってしまい、フライ皇子……じゃない。フライが『ほら、さっさと片すよ』と私が割ったお皿を片付けてくれた。
そうだ、とりあえず今は門限までに片付けて帰らないと……!
いきなりのことでびっくりはしたけど、とりあえずフライともようやくちょっと仲良くなれた……のかな。
何にせよ、お誕生会は成功だったってことで!
~Ep.47 サプライズって難しい・後編~
『まぁ、友達として認めてはあげるけど……僕は君が思ってる“以上”に優しくないから、覚悟しといてよね。』




