Ep.46 サプライズって難しい 中編
『だっ、大丈夫じゃなぁぁぁぁいっ!!!』
「でっ、出来たぁ……!」
「……うん、完璧な出来ですね。」
完成と同時にテーブルの上で伸ばされた輪飾りを手に取り直し、フライ皇子が満足げに呟く。
ホントにこの長い輪飾り全部、一色の間違いも無しで完成させちゃうとは……フライ皇子、恐るべし。
って言うか、こだわり屋だなぁ……。
「おい、終わったのか?」
「ーっ、ライト!」
と、余った色紙をまとめていたら不意に両肩に誰かの手が置かれた。首だけ回して振り返れば、自分達が作った分らしき輪飾りを(何故か)首にかけたライトが真後ろに立っていた。
「うん、出来たよ。そっちも終わった?」
「あぁ、あのお前の友達の……」
「レイン?」
「あぁ、そうだ。アイツがなかなか仕事が早くてな。」
『効率が良くて助かった』と言いながら、ライトがちらっと私が切った方の紙帯を見る。
「……?な、何?」
「いや、別に。人間向き不向きがあるもんだよなと思って。」
「ーー……はい?」
「まぁ、別に紙の一枚真っ直ぐ切れなくても死にやしねーよ。気にすんな!」
ライトがそう言ってから、『ついでにこっちも片しておいてくれ』と余りの紙帯を置いて離れていくまでの間、たっぷりとフリーズしてから私はその言葉の意味に気づいた。
私が切った七色の紙帯と、レインが切ったらしきビビッドカラーが多い紙帯。
重なったらそれらを見てみると、レインの方は端から端まで真っ直ぐに同じ幅に切り揃えられているのに対し、私の切った方は……わずかながらではあるけど上か下かどちらかが太くなって、切り口が斜めに傾いていた。
「ちっ、違うから!別に不器用なわけじゃないし!!」
「うぉっ!?馬鹿っ、声でけーよ!」
去っていったライトを追いかけて捕まえてそう言えば、内容が伝わる前に声量で拒絶された。
確かに今のは大声過ぎた自覚があったので、一旦深呼吸して気持ちを落ち着ける。
「はぁ……。あのね、言っておくけど、私は別に不器用なわけじゃないのよ?」
「お前わざわざ人追いかけてそれ言いに来たのか!?」
「だって私、昔っから手先(の器用さ)以外にろくな取り柄ないのよ!ここは譲れないわ!!」
「お前……、自分で言ってて悲しくないか?」
『と言うか、この年で昔からもなにもないだろ……』と、ライトが冷めた目で続ける。
それを聞いて今のが失言だったことに気付き、せっかく落ち着いたのにまた挙動不審になってしまった。
「あー……そ、そんなのどうでもいいから!それより、さっきの紙帯が歪んでたのはフライ皇子の威圧感が怖くて手が震えてたからであって、普通に切ってれば……」
「おや……怖がらせてしまいましたか?それはすみません。」
「きゃーっ!」
「……フローラ…様、大丈夫ですか?」
ライトに弁解を始めた所で、まさかのご本人様が真後ろに現れた。
内容を聞かれたことにパニクる私を、これまたいつの間にかそばに来ていたレインが背中をゆっくり叩いて落ち着かせてくれる。
そのお陰でちょっと落ち着いたところで、私は恐る恐るフライ皇子に向き直った。
「あ、あの、フライ様……?」
「なんです?」
あぁ、笑顔が眩しくて泣きそうですフライ様……!
「い、今のは言葉のあやと言いますか、決してフライ様の張り付いたような笑みが腹黒オーラ全開で恐いと言う意味では……」
私がフライ皇子に必死に弁解していた間、皆はと言うと……
「フローラの奴、見事に語るに落ちてるな。」
「フローラお姉様は素直な方ですから嘘が苦手なのでしょう。」
「まぁ素直かは置いといて、わかりやすい奴ではあるわな。」
「うん、それはわかるんだけど……」
「あの、そろそろフローラ…様を助けませんか?」
「いやぁ、面白いからもう少し見てようぜ。」
「フライお兄様とフローラお姉様は性格が真逆でいらっしゃいますから、中々噛み合わないのですね。」
「ねえ、皆…」
「フローラが貴族にしちゃ変な性格してるしな。あれは噛み合わないってかフライがわざととんちんかんな答え返してフローラの反応みてんだろ。」
「……皆、聞いてよーっっ!!」
傍観しながら散々好き勝手言ってたライトとルビーや、今だ弁解を続けていた私の言葉を、不意にクォーツの大声が遮った。
突然のことに皆で驚いた表情をしつつクォーツの方へ振り返ると、クォーツは何故かちょっと涙目だった。
「く、クォーツ、どうしたの?」
「ちょっと久々に自分の影の薄さを実感しただけだから気にしないで……。そんなことよりさ。」
「……?うん、何??」
クォーツはふっと壁に視線を移してから、なんでも無いことのように呟いた。
「あと十分で三時だけど、大丈夫なの?」
~Ep.46 サプライズって難しい 中編~
『だっ、大丈夫じゃなぁぁぁぁいっ!!!』




