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Ep. 44 皆でお買い物(台風少年編)

   



   『にしても、台風みたいな子だったなぁ……。』

「さて、なんの真似か説明して貰おうか。」


「ーー……。」


  向かい側で怯えた様子で縮こまっている男の子と、そんな彼を見据えながら腕組みをして威圧するライト。

  あぁ、なんだか懐かしい光景だわと思いつつ、私は自分の前に置かれたミルクティーを(すす)る。


「目を逸らしても無駄だぞ、この座り位置は……、えぇと……」


「対決のポジショニングでしょ?」


「そう、それだ!で、お前は何者だ?何のために俺達の後をつけてたんだ。」


  ライトの“対決”宣言に少年が一度ビクッと震えてうつ向いてしまう。まぁ、言ったのは私だけども。

  にしてもライトったらこの言い回し好きだね。前世にテレビで私も見たよ、生き物が向かい合うのは本来戦う時の態勢だって。だから本当は仲のいい人と座るときは向かいじゃなく隣が良いらしいけど……まぁ向かい合わせのが話しやすいよね。

  ……なんて、馬鹿な話は置いといて。


「まぁまぁ、落ち着きなよライト。またそんな威圧的な態度取って……、見てみなよ、その子の怯えた表情(かお)。」


「あぁ!?別に威圧はしてねーよ!」


「そうそう。ライトは考えなしだから声量の調節が出来てないだけさ。」


「なんだとフライ!クォーツも頷いてんな!!」


  見かねて止めに入るクォーツに、火に油を注ぐフライ皇子。私はそんなライト達を眺めながら、昼休みや放課後の視線もこの子だったのかなぁなんて思った。


「ふっ、フローラっ、フローラ!」


「へっ?あら、失礼致しました。どうかなさいまして?」


  いけない、ぼんやりしてるときに呼ばれたから一瞬素が出ちゃった。すぐに取り繕ってクォーツに向き合えば、小声で『フローラが対応したげて!女の子のが怖くないだろうから!!』なんて助けを求められる。え~、私にもこの状況を打破する能力はないよ!?


「え、えーと……とりあえず、お名前を教えて頂けません?」


  とりあえず名前すらまだ聞いてなかったので、立派なソファーに一人で縮こまっている少年の隣に移動して、顔を覗き込みながそう聞いてみる。


  と、次の瞬間……


「おっ、俺に触るな!!」


「きゃっ!?」


  思い切り振り払われてしまった。顔は上げてくれたけど、私を見るその瞳には明らかな敵意がギラギラと光っている。し、初対面なのに、なんで?


「おい、お前今のは無礼……」


「ライト様、(わたくし)は構いません。それより、何かお気に触ることでも?」


「……ふんっ。」


「……ちょっと君、ホントにその態度は良くないよ?」


「申し訳ありません、クォーツ殿下、ライト殿下。」


  ……あー、これは私だけ本気で嫌われてるなぁ。完全に存在スルーだもん。


  あからさまなその態度にクォーツとルビーは心配そうな顔をし、フライ皇子は愉快そうに笑い、ライトは怪訝そうな表情(かお)で『お前、このガキと知り合いなのか?』なんて聞いてくる。


  とりあえず、知り合いではないよの意味を込めて首を横に振ると、『じゃあ何でこんな嫌われてんだよ……』なんてため息をつかれた。それは私が聞きたいよ!


「……まぁいい、お前はこっち戻れ。」


「あ、はい。」


  このままこの子の隣に座ってるのは気まずいなと思ってた所にライトがそう言ってくれたので、とりあえず素直にライトの隣に戻る。

  私が改めて腰を落ち着けた所で、今度はクォーツが少年に名前を聞く。


「君、赤の制服だからフェニックス出身の子だよね。どこのお宅のご子息なのか、教えて頂けないかな?」


「ーー……、エドガー。……エドガー・シュヴァルツです。」


「“シュヴァルツ”……、ってことは公爵家か?」


「ーー……はい。」


  公爵家!かなり高い身分だね。なるほど、これなら言動が偉そうなのも頷ける……け、ど。


「“エドガー”……?」


「馴れ馴れしく呼ぶな!」


「あ、ごめんなさい。」


  何となく聞き覚えを感じて呟けば、また鋭い目で睨まれた。そんなエドガーを見てクォーツとルビーは困ったように顔を見合せ、ライトは不愉快そうに眉を潜め、フライ皇子はいつも以上に愉快そうに黒い微笑みを浮かべている。……このなかなか修羅場な事態が楽しいですか、強者ですねフライ様。


「……まぁ何にせよもう夕方だ、いつまでもここで長居をするわけにもいかないし、今日はこんなことをした目的や理由を聞いて解放してあげようよ。」


「そうですわね、お聞かせ頂ける?」


「……お前には言わない。」


「あらあら……。」


  仕方ないなぁ……。


「わかりました、私は一旦席を外しますわ。ライト様たちになら話して頂けるようですか……、ライト様?」


「わざわざ立ち去ること無いだろ。おい、エドガー。」


「は、はい。」


「フローラは隣国であり友好関係にあるミストラルの王女だ、それは知っているか?」


  立ち上がった私の手をつかんで引き留めたままライトがエドガーにそう問いかければ、渋々ながら一応頷く。


「ならば、いくら自身の身分が高いとは言え今の己の彼女への態度が無礼なことくらいはわかるだろう。」


「そっ、それは……!」


「『それは』の続きはなんだ?幸い今回は直接的な被害はないから、今きちんと話すならこちらも見逃すつもりで居るが。」


  じっくりと、それでいて畳み掛けるように紡がれたライトの言葉に一度うつむいたエドガーは、小さく息を吐くとバッと顔を上げ立ち上がった。


「殿下たちはその女に騙されているんですよ!!!」


「「「……はぁ?」」」


  店中に響き渡りそうな大声で放たれたその言葉に、皇子三人が唖然と間抜けな声をあげた。ライトとクォーツだけならともかく、フライ皇子に『はぁ?』なんて声を上げさせるとかある意味すごい気がする。


「い、意味がわからない……。」


「同感だ、こいつは何なんだ一体……。」


「……エドガー君、その言葉の意味を聞かせてくれるかな?」


  上から順にクォーツ、ライトが呆れた声を漏らし、まだ落ち着いているフライ皇子がエドガーに真意を訊ねる。

  と、座り直すこともせずにエドガーは勢いよくテーブルに何かをばらまいた。


  一番端に居た私の前にまで流れてきた一枚を拾い上げてみれば、それは……


「写真……?」


「うわっ、何これ!」


「俺らが写ってるな……。一体なんの真似だ?」


「写っているのは僕、クォーツ、ライト、それに……」


(わたくし)ですわね。どうやら、どれもこっそり撮られたもののようですわ。」


  所謂(いわゆる)隠し撮りってやつですな。


  私の一言に、ライトとクォーツが写真をまとめて持ってパラパラと内容を確認する。


「これは……昼食食べてる時のだな。」


「こっちは前に皆でやった雪遊びの日のだね。なるほど、よく撮れてる……。」


「お兄様、今はそんな事を言っている場合ではございませんわ。」


「お前は相変わらずボケてんな……。さてこれは……おい、更衣室じゃねーか!?」


  一枚一枚見る毎に、二人の表情がどんどん歪んでいく。って言うか今“更衣室”って言ってたけど……それは流石に男子更衣室の写真よね?まさか女子更衣室のはないよね??


「……なんか、僕らを撮った写真とフローラを撮った写真の内容がちょっと違うね。」


「えっ?」


「あぁ、言われてみりゃそうだな……。」


「どれ、僕達にも見せてもらえる?」


  フライ皇子が二人からまとめて写真を受け取り、確認しているところを私も覗き込む。


「確かに、違ってますわね……。」


  枚数が多く重ねるとなかなかの厚さになるそれは、私たちが学院に入学した頃……と言うか、二年生に上がった頃からのたくさんの隠し撮り写真だった。

  そして、ライト達の写真はイベント事で活躍している姿等が多いのに対して、私が写された写真は……あっ!


「……これは、なかなか面白く撮れているね。」


「フライ様っ、笑ってないでその写真は私に渡してください!」


  フライ皇子が丁度今見ていたのは、私が二年生の頃、水やり中に魔力が暴発してライトに水をひっかけてしまった際の写真。他の私が写された写真も、そう言った失敗姿やちょっと(つまづ)いた時の姿、ちょっと木陰でブランを膝に乗せてうたた寝してしまった時のものなど、明らかに悪い面を狙ったようなものばかりだった。


  皇子三人がそれを確認したのを見て、エドガーはと言うと……


「いかがです!?これがこいつの本性ですよ!淑やかさや気品なんてあったもんじゃない!!まるで町娘じゃないですか!!こんな女、殿下方のお側に置くわけにはいきません!!!」


  勝ち誇ったような笑顔でそんな事を語っていた。まぁ“町娘”は間違ってないかな、中身は庶民の小娘ですよ。まぁ転生した時の年齢が高校生だったから今の人生の生きた年数を足すと成人を超え……いや、考えないようにしよう。


「俺……いや、私は幼い頃から出来があまりよくなく、皆より先に立ち輝く殿下方に憧れておりました!この学院に通えるようになったら、殿下達の生活を陰ながらお支え出来ればと動いていた所存……。ところがどうです!?いざ見ていれば殿下方のお側には大抵それが付きまとっているではありませんか!!」


  ……とうとう“その女”や“お前”を通り越して“それ”にまでランクダウンしたなぁ。別にどうでもいいけど。

  と言うか、何だかんだ仲よくはしてるけど私別にそんな皆と一緒には居ないよ?精々朝の花壇でクォーツに会うのと、お昼に皆で集合するくらいなもんだ。

  日常ではだいたいレインと居るか、移動なんかは一人だもん。クラスで私を慕ってくれる女の子達がたまに一緒に来てくれるけどね。


「そこで殿下達がそれに騙されていることを見抜いた私は、本性を殿下方にお見せせねばとその証拠写真を集めて居たのです!いかがですか殿下、それがこの猫かぶりの本性ですよ!!!」


「……知ってるけど?」


「ーー……え?」


  ライトのその答えに、すごく自慢げだったエドガーの表情が固まった。


「そ、それは、一体どういう……」


「言った通りの意味だ。俺達はずっと前……それこそ初対面の頃からこいつの素を知ってるぞ。上っ面のが見たことないくらいだ。」


「そ、そんな……!う、嘘ですよね!殿下はお優しいから、そいつを庇って……」


「庇ってない庇ってない、真面目な話だよ。僕も断言出来るよ、僕達は普段からお互いに“自分”を見せて過ごしてるし、騙されてなんかいない。大事な友達だよ。ねぇ、ルビー。」


「はい!さっきから黙って聞いていれば、あなたは結局なんなんですの!?勝手な思い込みで隠し撮りをしたり、お姉さまに暴言を吐いて……!非常に不愉快ですわ!!」


「そっ、そんなはずは……!そうだっ、フライ様は……!」


  三人の反論にたじろいで、黙って皆を見ていたフライ皇子にすがり付くエドガー。フライ皇子はそんかエドガーの肩にぽんと手をおいて……


「ライトもなかなか突っ走る方だけど、君は比べ物にならないくらいの馬鹿だね。」


  キラキラした笑顔でそう囁いた。

  こっ、恐っ……!


「そんな……!くっ……!!」


  えっ、それでなんで私を睨むの!?


「覚えていろ、フローラ・ミストラル!いずれ必ずやこのエドガーが殿下方をお前の魔の手から救い出して見せるからな!」


「は、はぁ……。」


「あっ、こら待ちやがれ!!」


  ライトの制止も虚しく、エドガーは某悪役風の台詞を吐いて走り去っていった。

  一人人数が減った店内は、途端にずいぶんと静かになる。


「なんか、どっと疲れたね……。」


「そう?僕はそうでもないけど……時間はなくなってしまったね。」


「そうですわね……、どうしましょうか?」


「また明日買いに来るしかねーな……。もう疲れたし、今日はもう帰ろうぜ。」


「だね、なんかどうやら私が原因だったみたいで……、ごめんね、皆。」


「フローラが気にすることないよ!」


「だな、あからさまな勘違いだ。」


「ライトも猪突猛進(ちょとつもうしん)だからね、フェニックスの特徴なんじゃない?」


  私をフォローしてくれるクォーツとライトに対し、ライトをいじり出すフライ皇子。本当あなたいいキャラしてるよ……。


「誰が猪突猛進だ!あと、うちの国柄を勝手に決めるな!!とは言え、確かにあいつはなかなか危なそうだからな……。気を付けろよ、フローラ。」


「うん、ありがとう。」


  じゃ、帰りますか~……。結局あんまり遊べなかったなぁ、残念。

  フェザー皇子のプレゼントどうしよう?

まぁ、また考えればいっか。


    ~Ep.44 皆でお買い物(台風少年編)~


  『にしても、台風みたいな子だったなぁ……。』

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