Ep.43 皆でお買い物(遭遇編)
『で、貴方はどちら様?』
「すごーい!」
「本当、賑やかね。楽しそうだわ。」
バスを降りると、そこは賑やかなマーケット通りみたいな感じだった。
道なりに色とりどりのお店が並んでいて、色々な学年の生徒たちや先生たち、さらにはメイドさんや先生方の姿まで見える。
……と、私が周りに気をとられてぼんやりしている間に、どこかで演奏されてるらしい気持ちが弾む音楽につられて走り出すルビーを、クォーツが慌てて追いかけていった。
「……おい、置いてかれたぞ。」
「まぁ、ルビー様はクォーツ様がついていれば大丈夫でしょう。私たちも、お買い物に参りましょうか。」
「ーー……。」
唖然と不満を呟いたライトにそう答えれば、ライトとフライ皇子が目を見開いて私を見つめた。
「……なんですの?その不躾な視線は。」
表情はあまり崩さないように注意しながらそう言えば、眉間にかなりシワを寄せたライトは私の肩を寄せて焦ったような声色で内緒話をしてきた。
「おいっ、なんだよその(態度の)変わりようは!?」
「何って、これだけ周りに他人が居たら下手に本性晒せないじゃない。」
「にしたって切り替え早すぎねぇ!?」
「そう?とりあえず、注目浴びてるから離してね。」
私の言葉で少々耳につく周りのヒソヒソ話に気づいたのか、すぐにライトの腕の力が弛んだ。かなりしっかり掴まれたのに痕がついてない辺りは流石は紳士(皇子)ってとこなのかな。
まぁ正直この口調すごい神経使うし疲れるんだけど、下手にボロを出すとまた二年生の時みたいな事が起きかねないし……。それを防ぐ為なら、猫くらいは被りましょう!
ーー……あ、ブラン連れてくれば良かったな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
まぁ無駄話はさておいて、一人で見て回りたいと言うフライ皇子とは一旦別行動と言うことになりました。
と、必然的に……
「ライト様……、それは一体なんです?」
「何って、メガネだろう。」
ルビー、クォーツ、フライ皇子と居なくなれば当然私はライトと二人で回ることになるわけで。先ほどから、約三十分、それはそれは色々と斬新なプレゼントをお選び下さる彼を必死に止めているところだったりするのでした。
ひとつめの候補は『大雑把に生きるには』って本。それを却下したら、天井にまで届きそうな高さの日本城(この世界ではアースランド城)の模型で、それを却下したら次はつけ耳(手品で使うやつ?)etc.……
まぁともかくまともな案がひとつも出ないままに、最初にライトに案内されて入った雑貨屋さんで立ち往生を喰らっている訳なのでした。
さて、回想はこの辺までにして現在に戻りましょうか。
「ライト様、失礼ながら申し上げますが、そのメガネ……お鼻とお髭がついております。」
「あぁ、面白いだろ?」
面白くないよ!それひと昔前のパーティーグッズだから!!ジョークアイテムだから実用性皆無だから!!!ってかあんたは学院きっての秀才に何てもの贈ろうとしてるのよ!?
あぁ、猫かぶり中で強く突っ込めないのが辛い……!
メガネを却下されまた次を物色し始めるライトを横目にため息をつく私の脳裏には、先ほど立ち去るフライ皇子が残していった言葉が浮かんでいた。
『じゃあ二人とも、また後で。フローラ様は初めてなので色々大変だとは思いますが……、まぁ、頑張って下さい。』
そう言って微笑むその姿が、今はもう悪魔にしか感じられない。フライ皇子め、こうなるのがわかっててわざと私にライトを押し付けてったな……?
「おい、フローラ。これならどうだ?」
「えっ?これは……本??」
私が一人考え込んでいるうちに、またライトが次の候補を選んできたらしい。
目の前に差し出されたそれは、英国本みたいな赤茶色の地色に金箔装飾が入った表紙の本みたいだった。ただ、受け取ってみて触ると表紙が厚紙や布じゃなく木で出来ているのがわかる。
「デザインは素敵だけど……これは何?」
「オルゴールだよ、開けて曲も聞いてみてくれ。」
おぉっ、ようやくまともなセレクトが来た!
その事に密かに感動を覚えながら、センスの良いその蓋をそっと開く。
……と、次の瞬間。
「きゃーっ!!?」
留め具を外して蓋を持ち上げた瞬間、中から出てきた“何か”が蓋を勢いよく跳ねあげて目の前に飛び出してきた。
不意の出来事で驚いてちょっとよろけた私を見ながら、ライトは口元を押さえつつ肩を震わす。
「ちょっと、驚いたではありませんか!!」
「それはそうだろう、それが目的のものだからな!」
ライトはびっくり箱が成功してご満悦なのか、『俺の目に狂いはなかった……』なんて一人悦に入っている。
あぁ、油断した私が馬鹿だった……!
中から飛び出し、オルゴールの音色に合わせるように揺れるびっくり箱の細工のピエロ。そのピエロにさえ笑われている気がした。
「くくっ、バッカみてぇ……。」
ほら、現に見知らぬ笑い声が……って!?
「ーっ!誰だ!」
その声に気づいたライトが、ほとんど他にお客さんが居ない店内で声を上げる。
その声が店内に響くなり、私の斜め後ろにあったひと一人入れそうな立派な花瓶がガタリと動いた。
「そこか……。ほらっ、大人しく出てこい!」
ライトがおもむろに花瓶に近づき、中に手を突っ込んで引っ張りあげたのは……
「あら……?」
オレンジっぽい髪の毛をツンツンのスポーツ刈りにした、小さな男の子だった。
~Ep.43 皆でお買い物(遭遇編)~
『で、貴方はどちら様?』




