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Ep.42 皆でお買い物(お出かけ編)

 




     『……あっ、私現金持ってない!!!』


   

  その日の放課後、私はルビーと一緒に寮の共有スペースで王子トリオを待っていた。

  でも、彼らのクラスはまだちょっと終わるまでに時間がかかりそうだと言うことなので、先日焼いたスノーボールクッキーをお茶請けにティータイム中な私たちである。


  あ、スノーボールクッキーは、丸っこくて軽い口当たりのクッキーだよ。丸い形と表面にまぶされた粉砂糖で雪玉みたいに見えるから、“スノーボール”って名前になったみたい。ちなみに発祥はフランスで、フランス語の名前は“ブール・ド・ネージュ”。ここは中世ヨーロッパ風の世界だから、こっちの名前の方があってるかな?


「んー……、どっちでもいっか。」


「……?フローラお姉さま、どうかなさいまして?」


「あら、ごめんなさい。なんでもないのよ。」


  カップを片手に考え込んでいたら、正面に座っていたルビーに心配されてしまった。自らの口に運ぼうと摘まんでいたであろうクッキーをお皿に戻し、『何かお悩みでも?』と聞いてくれる。ちょっと細められた瞳は、色こそ違えどクォーツによく似ていた……なんて考えてる場合じゃなくて!


「本当になんでもないのよ。ただ、ちょっとこれ(クッキー)多く焼きすぎちゃったかなぁと思って。」


「そんなことはございません。口当たりが軽くて優しい甘さで、これならいくらでも食べられそうですもの。このクッキーのレシピも、是非今度教えて頂きたいです。」


「……!」


  かっ、可愛いっ……!なんて嬉しいことを言ってくれるのこの子は!!

  私の拙い指導で良ければいくらでも教えるよーっ!……なんて浮き足立つ内心を隠して、『では、また次のお休みにでも一緒に作りましょうか』なんて言いながらルビーに向かって微笑んだ。


「あっ、ルビー、フローラ、お待たせ!」


「ちゃんと待ってたみたいだな、感心感心。」


「ティータイム中と言うことは、ずいぶんとお待たせしてしまったようですね。申し訳ありません。」


  と、そんなタイミングで王子トリオがこっちにやって来た。わかるとは思うけど、一応上から順にクォーツ、ライト、フライ皇子の第一声だよ。


「いいえ、然程待ってはおりませんわ。それに、ルビー様と楽しく過ごさせて頂いておりましたから、あっという間でしたわ。」


立ち上がって三人に向き合いながらそう言えば、クォーツが嬉しそうに笑って『何話してたの?』なんてルビーの頭を優しく撫でだす。いいなぁ兄妹。私も弟に会いたいよ……。


  そんな事を思いつつ仲良しなクォーツとルビーを眺めていたら……


「ーっ!?誰っ!?」


  共有スペースに華やかさを演出している豪華な花瓶の陰で、フラッシュのようなものが光ったことに気がついた。急いでかけよってその場所を覗いたけど、花瓶の周りには花や調度品があるばかりで誰も居ない。


「おい、どうしたフローラ。」


「びっくりしたぁ……。いきなり大声出してどうかしたの?」


「どなたもいらっしゃらないようですが……。お姉さま、大丈夫ですか?」


  花瓶の側で唖然と立っていた私に、皆も順に声をかけてくれる。ただ、クォーツとルビーはお互いを見てたし、ライトも立ち位置的に花瓶側に背中を向けてたからあのフラッシュには気づかなかったみたいだ。更に、他の生徒も居る場所ではしたなく大声を上げてしまった私に、ライト達だけじゃなく他の生徒達からも注目が集まってしまった。

  同学年であろう一番近いテーブルでお茶をしていた女子生徒達がこちらを見ながら、囁くような声で何かを話し始めると、そのヒソヒソ声はあっという間にスペースの生徒全体に広がってしまった。あぁ、なんか前世を思い出すな。内容は聞き取れなくても悪口だってことはわかっちゃうんだよなぁ……。



「ふむ……。」


「……?フライ、何かそこにあるのか?」


  と、いつの間にか注目を浴びる私の横をすり抜け、フライ皇子も花瓶の周りを調べ始めた。そんな友人の姿に、ライトが更に不思議そうな顔をして首を傾げる。

  フライ皇子はそんなライトには顔を向けないまま花瓶の周りを一通り調べ、ほんの少しだけ眉を潜めながら片手を顎に添えた。


「……確かに今は異常ないけど、僕も確かにさっきこの辺りで何かが光るのを見たよ。」


「光……?」


  フライ皇子のその言葉に、ライトも私をチラリと見てから花瓶の裏を覗き込んだ。

  そして、裏に誰も居ないことを確認してから花瓶その物に手を当てて、『異常な魔力の気配もないがな』と首を傾げた。


「うーん、僕とルビーはその時花瓶の方を見てなかったから何とも言えないけど、五人中二人が見てるなら見間違いってこともないよね。何だろう……?」


「なんでしょうねぇ……。」


  その後、私とフライ皇子が見たことを三人が信じてくれた為に、豪華な花瓶を囲んで各国の王族達が首を傾げていると言うおかしな構図が出来上がってしまった。

  そして、結局全員でその場に妙な仕掛けや人の気配が無いのを確かめた後……


「……わからないものは仕方ないよ。時間無くなっちゃうし、とりあえず買い物に行こう!」


  クォーツのその一言で操作は打ち切りになって、当初の目的だったフェザー皇子の誕生日プレゼント探しに向かうことになったのでした。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ーー……。」


  買い物が出来ると言う商店街のようなエリアまでは魔動力で動くバスのような乗り物で移動出来るそうで皆でそこに乗り込んで、一番後ろの五人がけの椅子に座ったは良いものの……、やっぱり落ち着けない。


  さっきのフラッシュは何だったんだろう。もしかして、昼休みに感じた視線とも関係あったりして……?そう言えばあのときも、気配に気付いてすぐに周りを確かめたのに誰も居なかったし……。

  

  そんなことを考え出したら余計不安になって、他に乗客が居ないバスの中に居ても誰かに見張られているような気すらしてきた。


「……おい。」


「きゃっ!!?」


「驚き過ぎだろ、すげーアホ面だな。」


  そんな風に考え込んで俯いていた私の頭に、不意に感じるポンっと言う軽い衝撃と温もり。

  “それ”が隣に腰かけているライトの手だと把握する前に、ライトから顔についての指摘が入った。


「……。」


「事実を指摘されたくらいでそんなにむくれるなよ。」


  “アホ面”が引っ掛かってちょっと不機嫌になる私にため息をつきつつ、ライトの片手は未だ私の頭に乗ったまま。そして、その手が慰めるように私の頭を撫で始めた。


「ど、どうしたの……?」


「……いや、別に。」


「ーー……?」


  何なの、急に。でも、特に不快な訳じゃ無いのでしばらくされるがままにしておく。ちょっとくすぐったいけどね。


「……あんま気に病むことないと思うぞ。」


「えっ?……あっ、さっきの変な光のこと?」


  あまりに唐突な語り出しにそう問い返したら、『他に何があるんだ』と舌打ちされた。こら、舌打ちは流石にガラ悪いぞライト皇子!


  心の中でそんな下らないツッコミを入れてる間にも、ライトは半ば呆れたような顔をしながら話を続けた。


「ここには各国の王族貴族の子息や令嬢が集まっているから、極稀(ごくまれ)に妙な輩に狙われることもあるかもしれないが……まぁ心配は要らないだろうよ。」


「……??」


  結構物騒な事を言いながらも大丈夫だと断言したライトに、私は何故そんなにはっきり言い切れるのかと首を傾げた。


「まず、ここは離島な上に島全体に浸入避けの結界が張られてるし、各寮や校舎の門や扉には必ず警備の騎士団の者達が見張りに立っている。後、生徒には知らされていないが島の周りの海には普段は水使いの力で渦潮も巻いてるしな。」


「そうなの!?って言うかライトは何でそんなこと知ってるの!!?」


「前にこっそり脱走して海で遊ぼうとしたときに見たんだ。ちなみにクォーツとフライも一緒だったぞ。」


「何その衝撃の事実!」


  思わず声を上げた私に気付いて、クォーツがこちらを見て乾いた笑いを浮かべる。あぁ、その笑顔だけでどういう経緯でそんなことになったのかが目に浮かぶよ。でも……


「……。」


「何だよ?」


  改めて隣に座るライトの横顔を見上げると、もう話は終わりだと言わんばかりに視線を逸らされた。いつも以上の素っ気なさと、ちょっと赤くなった耳からして……


「……ライト。」


「な、なんだよ……。」


「ありがとう、ちょっと安心出来たよ。」


  名前を呼んでもこっちを向いてくれないので少し体を傾けて耳元にそう言ってみた。

  そしたら、ライトがバッと振り向いて……


「痛っっ!!」


「……勘違いすんな、一緒に行動するやつが辛気くさいのが面倒だっただけだ。」


「はぁ……。」


  左様でございますか。

  素直じゃないなぁと思いながら、デコピンされた額の様子を確める為に窓ガラスに視線を移せば、うっす写る自分達の姿越しに外に何やら賑やかな場所が見えていた。


  どうやら、お買い物エリアは目前みたいね。


    ~Ep.42 皆でお買い物(お出かけ編)~


    『……あっ、私現金持ってない!!!』


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