Ep.41 皆でお買い物(計画編)
『それにしても、この学園どれだけ広いのかしら……。』
あの皆でお昼を食べた日以来、なんだかんだでその翌日からも皆でランチをするようになった。たまにクラスや委員会の仕事なんかで顔を出せない子もいたりするけど、大体は皆で和気あいあい(たまに王子トリオがケンカと言う名のコントしだすけど)とランチをしている。
で、そんな概ね平和な日々が続いた、そんなある日の事。
「買い物??」
「うん、もうすぐフェザー兄さんの誕生日だから、贈り物を買いにね。」
いつも通り皆でのランチ中に、向かいに座っていたクォーツがそんなことを言い出した。隣のフライ皇子を見ると、珍しく邪気のない優しい笑顔が帰ってきた。ホントに仲が良いなぁ……。
「本来なら王族及び貴族の誕生日にはパーティーを開くのが慣例だが、フェザー兄さんの生まれ日はまだ休暇に入る前だからな。パーティーは休みに入るまで出来ないから、せめてプレゼントは毎年当日に渡すようにしているんだ。」
「そうなんだ。あれ?でも、お買い物って……」
「ーー……?どうかしたのか?」
デザートのサクラのクッキーをつまんだ手を止めた私を見て、斜め前に座って話していたライトが首を傾げる。
他の皆からも向けられる視線を感じながら、私は感じた疑問をそのまま口にした。
「お買い物って、お店がないと出来ないよね?」
「「「「「ーー……。」」」」」
急に静まり返った皆の眼差しが私に向かって固まった。
「なっ、何……?」
私、何か変なこと言った?だってここ、離島な上に学校だよ?現に、校舎内にも寮内にも売店の一つすらないし。しかも春休みまではまだ日があるから、本島には帰れないんだし。
訳のわからないまま向けられる皆の視線が居たたまれなくてうつむいた私に、左隣に座ってうレインが苦笑いしながら『フローラ、知らなかったんだね。』と呟いた。
そのレインの一言を皮切りに、皆が次々と口を開く。
「小・中等科と高等科の間の範囲に、色々なお店が集まったエリアがあるんだよ。学業に必要な物や日用品はもちろん、食材から衣類から、なんでも揃うんだ。」
「えっ、そんな場所あったの!?あいたっ!」
クォーツの説明に驚く私の頭を、ライトが丸めたノートで一発叩いてくる。ちょっ、意外と痛かったよ今の!
「本当に知らなかったのかよ。じゃあ、普段メイドや執事達が部屋で調理してる食材は何処で用意してると思ってたんだ?」
……それぞれの実家とかから送られてきてる物だと思ってましたよ。
「……アホだな、お前。」
「うっ……!」
「そっ、そんなことないよフローラ。ねっ、フライ!」
「えぇ。フローラ様はあまり女性の輪に入っておられないようですから、人より耳に入る情報が少ないだけでしょう。」
フォローと思いきやトドメか、この腹黒め!
いいじゃない、浅く広くなんて付き合いかたが出来るほど器用じゃないのよ!なぜなら考えがすぐ顔に出るから!
一人紅茶をすすりながらむくれる私を見ながら、ライトは呆れた様子でため息をつき、クォーツはオロオロしながら視線を泳がし、フライ皇子はさも可笑しそうに笑みを深めた。リアクションにも性格出るなぁ……。
「まぁ、興味がおありならフローラ様も行ってみますか?」
「ーっ!!」
フライ皇子の思わぬ提案に驚いて目を見開く私に、ルビーが『それは良いですね!』と瞳を輝かせながら言ってきた。
「実は、私もまだそのエリアには行ったことが無いんです。一緒に行きましょう、フローラお姉様!」
「うっ、うん、私も行きたいけど……。」
「ならいいじゃない、行こうよフローラ!プレゼントさえ決まっちゃえば、僕らが案内もするよ?」
もちろん興味はあるし、誘ってもらえるのも嬉しいけど、やっぱりちょっとお邪魔になりそうで……。かといって純粋な好意で『行こうよ!』と言ってくれるクォーツとルビーを見てると、お断りも出来ない。あぁ、でも現世初の自由なお買い物!い、行きたい……!!
「……なぁ、お前確かフェザーに恩があったろ?」
「えっ?あっ、うん。あるけど……。」
「だったら、誕生祝いくらいするのが礼儀なんじゃ無いのか?」
「う、うん。そう……だね。」
「だったら今日ついてこい、フェザーの好みなら俺達がわかるから教えてやる。」
ライトのその言葉(と言うか、有無を言わせない物言い)に、考える前に頷く。
「よし、決まりだな。じゃあ、放課後に寮の共有エリアに集合だ。いいよな、フライ。」
「あぁ、構わないよ。」
「僕も大丈夫だよ。ルビーとフローラとレインは……」
「私は今日は別の用事がありますので、ご遠慮させて頂きますわ。」
「そっか、レイン来ないんだ……残念。じゃあ、私とルビーは放課後共有エリアで待ってればいいかな?」
「そうですわね。では、そろそろお昼休みも終わりますし一度解散としましょう。」
ルビーの言葉とほぼ同時に昼休み終わりの予鈴が鳴って、皆慌ててそれぞれの教室に戻っていく。私とレインだけは次の授業がすぐそこの図書室な分ちょっとだけ皆より余裕があるので、使ったテーブルを簡単に掃除してから戻ることにした。
「ねぇ、レイン本当に来ないの?」
「うん、今日は家からの指示でやらなきゃいけないことがあって。ごめんね。」
「そっか、それじゃ仕方ないね……。」
テーブルを拭きながらしょんぼりする私に苦笑したレインが、小さな声で『それに、私はお買い物行ったことあるもの』と呟いた。……本当に、知らなかったのは私だけだったみたいだ。ちょっと危機感感じてき……
「ーー……あら?」
「ん?どうかしたの??」
「いや、なんか今視線を感じた気がして……。」
私の返事を聞いたレインが辺りをキョロキョロ見回してから『誰も居ないと思うよ?』と首を傾げた。確かに自分で辺りを見てみても、周りには人の気配はない。
「……ごめん、やっぱ気のせいかな。掃除も終わったし、図書室行こ!」
「あっ、フローラ!筆箱忘れてるよ!!」
荷物を忘れて駆け出した私を笑いながら、レインが小走りで追いかけて来てくれる。……忘れっぽくてごめんね。気を付けるからそんなため息つかないで!
~Ep.41 皆でお買い物(計画編)~
『それにしても、この学園どれだけ広いのかしら……。』




