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Ep.39 お見舞いってイベントの代表格だよね




  『にしても、なんで私の周りはこうハプニングだらけなの!?』

  ……これじゃあ、子供は“風の子”じゃなくて“風邪の子”だなぁ。


「ゲホッ……。あ~、声かれてるなぁ……。」



  寮の自室のベッドよりも柔らかめなふっかふかのベッドで一人ため息混じりに呟く。

  一昨日皆で雪遊びをした時に雪解け水を頭から被ってしまった私は、どうやら風邪を引いたらしく高熱を出して寝込んだ……らしい。

  なんで“らしい”と付けてるかと言うと、私自身は昨日の熱を出してた間の事をほとんど覚えてないからなんだよね。付きっきりで看てくれてたハイネ曰く、結構な高熱で大変だったらしい。流石に随分と心配をかけてしまったようで、今朝熱が下がって目を覚ますなりすごい剣幕で怒られた。

  正直、記憶にない寝込んでた間の事より、ハイネのお説教の方が辛かったです。


  いやぁ、美人が怒ると迫力あるわ……。


「……フローラ、大丈夫?」


「うん、大丈夫よ。ありがとう、ブラン。」


  窓の外側から声をかけてくれるブランは、中には入ってこられない。と、言うのもここが個人の私室じゃなくて初等科寮の医務室だからなんだけどね。

  ちなみに、位置的には男子寮と女子寮の丁度間。男女共用スペースの範囲だ。三階だから、窓の外から見れる景色もあんまり宜しくないわけで……。


「……暇だなぁ。」


  ブランもたまに様子を見に来てくれるだけでずっとは居られないし、ハイネや他のメイド達もお医者様も今は居ない。

  いつもなら一人でも全然平気な質なんだけど、今日は体調が悪いせいか嫌に心細い。


「そろそろ薬の時間の筈なんだけど、ハイネまだかな……。」


  まだ安静にしてなさいと言われてるけど、こっそりベッドから起き上がってドアの方に向かう。 


「誰か居ないかな……、って、あら?」


  ーー……ちょっと装飾の入った銀のドアノブに手をかけて回してみるけど、ガチャガチャ鳴るばかりで開かない。


「ハイネったら鍵かけたわね……?」


  私がこっそり抜け出すとでも思ったのかしら、信用ないなぁ……。

  仕方がないので、厚みのある木のドアににぴったりと耳をつけてみる。


「あ……。」


  すると、微かにだけど廊下で誰かが話してる声が聞こえた。

  聞こえたけど……、ドアの素材が立派で厚いせいでなかなか内容が聞き取れない。……仕方がないので、かなり強めにドアに耳を押し当ててみると、ようやく会話の内容がわかるくらいには聞こえるようになった。


『いや、だからやっぱり顔見て謝りたいんだけど!』


『申し訳ございませんが、他国の王家の跡取り様に感染でもしようものなら大事(おおごと)です。ですから、お通しすることは出来ません。』


  途切れ途切れに聞こえてくるその会話は、何やら言い争いのようだった。片方はちょっと苛立っているような男の子の声、もう片方は冷静に諭すように話すハイネの声だ。

  私が聞き耳を立てている間にも男の子はハイネに反論を続けていて、どうやら収拾がつかない事態になっているように感じられる。


「……仕方ないわね。ハイネ、何かトラブルでもありまして?」


  ドアから頬を離し、小さく深呼吸をしてからそう声を張る。……と、向こうで言い争う声がピタリと止んだ。


  そして、ガチャリと鍵の開く音がしたと思ったら……


「姫様っ、扉からお離れ下さい!」


「え?……って、きゃーっ!!!」


  とてつもない熱にあてられて、ドアとその周りの壁が消し炭と化した。

  カーテンすら揺れないくらいの弱~い風が吹くと、サラサラサラー……と砂漠の砂のように燃えた残骸が散っていく。


  そしてそんな哀愁を感じる景色を唖然と眺めていた私は、熱気にあてられてまた熱が上がったのかその場で意識を手放した。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「姫様……、姫様!大丈夫ですか!?」


「んっ……?あら、私……。」


「お気づきになられましたか?」


  目を覚ますと、珍しくちょっと焦った顔をしたハイネが私の顔を覗きこんでいた。それをまだぼんやりしている頭で確認して、ベッドから体を起こす。

  汗でちょっと寝間着が冷たい所を見ると、どうやら私はまた熱を出していたらしい。


「姫様、お加減はいかがですか?」


「えぇ、大分良いわ。でも流石に着替えたいのだけど、何か替えはあるかしら?」


  そう言うと、長年の付き合いのおかげか察しのいいハイネは、着替えのネグリジェを私に手渡してから、汗をかいた私の体を拭いてくれる。

  今さら恥ずかしがるような仲でも無いので、ここは素直に甘え……


「あっ!フローラ起きたんだね、良かった……よ?」


「えっ、クォーツ!?」


  シャツだけはだけさせて背中を拭いてもらっていたら、突然目の前のドアが勢いよく開きクォーツが中に飛び込んできた。


「なんでクォーツがここに……?」


「あっ、いや、ルビーから具合が良くないって聞いたからお見舞いに……。って言うか、ごっ、ごめんね!決してわざとじゃ無いから!」


「ーー……?」


  心配してくれるのは良いけど、正直今は私より貴方の方が顔真っ赤なんですが。どうしちゃったのクォーツ……。


「ひっ、姫様!とにかくまずはお着替えをお済ませ下さい!」


「えっ、着替え……?」


  目の前で真っ赤な顔を両手で隠して居るクォーツを横目に、ハイネが差し出した簡素な私服用ワンピースを手に取る。

  ……って、そうだ、私今着替え中だったじゃん!


「なっ、何で着替え中に入ってくるのよーーっっっ!!!」


「ごっ、ごめんなさーいっ!!」


  その後、クォーツは治療室を叩き出され、着替えを終えた私と一部始終を見ていたハイネに女性の部屋(まぁ今回は私の部屋じゃなかったけどさ)に入る際のマナーについてみっちり叱られたのでした。

  わざわざお見舞い来てくれたのに悪いかなとは思ったけど、まぁ今後のためにも……必要なことだよね?


  ~Ep.39 お見舞いってイベントの代表格だよね~


『にしても、なんで私の周りはこうハプニングだらけなの!?』


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