Ep.37 子供は風の子、元気な子![後編]
『心なしか濡れた髪が凍ってきてる気がする……。』
一触即発のライトとフライ皇子をクォーツと二人がかりで引き剥がしていたら、いつの間に来たのかルビーとレインが中庭に来ていた。
「あれっ、おはよう二人とも。いつの間に来たの?」
「ついさっきです。雪を見に出てきたら騒ぎが聞こえたので来てみたのですが……、大変そうですね。」
「私はお兄様を探しに来たら、偶然レイン様にお会いしまして。……何かあったのですか?」
とばっちりを恐れて他の生徒が全く居なくなってしまった中庭を見回しながら聞いてくるルビーに、私とクォーツは曖昧に笑って、ライトとフライ皇子はイライラした感じでそっぽを向いた。
もーっ、せっかくなんだから楽しく遊ぼうよ……。
「……あ、そうだ。雪で雪像とか作らない!?ほら、夏にミストラルでやったサンドアートみたいにさ!」
「それ良いわね!そうしましょう、ねっ。」
クォーツがした提案に私が飛び乗り、そんな私たちを見たレインとルビーが賛成してくれた。
ライトとフライ皇子はどうかな……?
「ーー……僕は別に構わないけど。」
おそるおそる二人の顔を見ると、フライ皇子は小さくため息をついてから同意した。よし、ライトは……
「……ふん、そんなチマチマしたものやってられるか!」
「あっ、ちょっと!」
もともと細かい作業が好きじゃ無さそうなライトは、こっちに振り向きすらしないで何処かに行こうとした。
私が一番近くに立ってたから咄嗟にその手を掴んで引き留めると、今にも振り払おうとライトの手に力が入る。
「……っ!離せよ!」
「嫌よ、離したらライトどっか行っちゃうでしょ?」
ふふん、この年頃なら(大分ギリギリではあるけど)女子の方が男子より力が強いもんね。振りほどけないでしょ?
「あーもう!俺はアートなんか興味無いんだよ!そう言うチマチマしたものは……っ」
「チマチマしてなければいいんでしょ?だったら、皆がびっくりするくらいの大きな物を作れば良いじゃない。」
「何だと……?」
苦し紛れにした提案に、ライトの眉がピクリと動いた。よし、もう一押しかな。後、ライトが食い付きそうな事は……。
「そうだ、丁度男女が三人ずつだし、二組に分かれてどっちが良いものを作れるか勝負してみる?」
「ーっ!」
男女で分かれてのチーム分けなら必然的にライトとフライ皇子が一緒に作業することになるし、作るのに没頭させれば自然と仲直りも出来るでしょ……多分。私の前世の記憶にある男の子のケンカって、案外そんな感じでいつの間にか治まってるイメージだし。
「……いいだろう、勝負事なら受けてやる。」
「よし、決まりね。じゃあ、作るもののテーマは……」
「私、お城が良いと思いますわ。」
「よし、城だな。フライ、クォーツ、俺達はあっちで作るぞ!」
ルビーがテーマを提案するや否や、すっかり機嫌が治ったライトは呆れ顔のフライ皇子と苦笑いしてるクォーツの手を引っ張って連絡通路の反対側の庭に走っていった。
男の子ってホント勝負事好きだなぁ……。
「あの、フローラお姉様。私達も作りましょう!」
「あ、えぇ、そうね。よし、じゃあまずデザインを決めましょうか。」
「そうだねー、どんなお城にしようか。」
成り行きで巻き添えにしちゃったけど、レインとルビーも乗り気だ。良かった。
さーて、どんなお城にしようかな。
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一時間ちょっとして、私達女子チームの雪のお城は完成した。
「出来たーっ!……け、ど、これは……?」
「私達……、お城を作ってたんだよね?」
「えぇ、その筈なんですが……。」
目の前に出来上がった“お城”を見て、三人して目を点にする。
「えっと、ルビー様、この屋根は何ですか?」
「何って、瓦屋根ですが。お城といえばこうでしょう?」
「あはは、まぁ間違っては無いけどね……。」
ミストラルやフェニックスのお城みたいな中世ヨーロッパ風の塔を基盤に、上には瓦屋根、門はすごくメルヘンなバラのアーチが出来上がった目の前の作品を見ながら、『どうしてこうなった……』と三人で顔を見合わせる。
「「「……ふふっ。」」」
そして、誰からともなく皆で吹き出した。
「部位で担当分けて作ったのが良くなかったのかな?」
「ですね……。すみません、私のイメージしてたお城が、フローラお姉様とレイン様の考えるお城と違っていたようで……。」
「ルビー様のせいじゃないですよ。それにしても、こんなんになってるのに作ってる途中皆気づかなかったね。」
レインの言葉に、もう一度三人で笑いあった。
あーっ、笑いすぎてお腹痛い……。あ、ライト達の方はどうなったかな?
「まぁ、何にせよ完成したんだし、男の子達の方見に行ってみない?」
「そうですね、向こうはどうなったでしょうか?」
「ライトが張り切ってたからねー。ひょっとしたら、自分達が入れるくらいに大きなお城作ってたりして。」
「まさかそこまでは無理でしょう。いくら王子様達が優秀とは言え……。」
レインのその突っ込みに私も頷いたけど、何故かルビーは困ったように笑っていた。
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「ーっ!お前たち、良いところに来た!!見てみろ!」
「きゃっ、ち、ちょっと!」
三人で連絡通路を抜けて反対側の庭まで行くと、駆け寄ってきたライトに腕を掴まれて引っ張られた。ちょっと、何事!?
「……っ!」
「す、凄い……!」
「あぁ、やっぱり……。」
ライトに連れていかれた先にあったのは、冗談抜きに人が入れるサイズの雪のお城だった。
太陽の光を浴びてキラキラと輝くそれを見て呆気に取られる私とレインを他所に、ルビーだけは妙に納得した様子でため息をつく。
そんな中、その雪のお城からクォーツとフライ皇子が出てきた。
……ドアまで開くんですか、凄すぎるんですが!?
「あっ、皆来てたんだ。そっちも完成した?」
「えぇ、まぁ……。」
いやぁ、こんな立派なお城見せられちゃったらあんなのとても見せられないよ……。
目の前にあるお城は、学校の校舎の二階くらいまでの高さがあるホントに正真正銘のお城で。男の子達が作ったものだからあんまり飾り気は無いけど、デザインも洗練された西洋風で素敵だ。ーー……って、言うか……。
「ど、どうやって作ったの……?」
ましてや一時間かそこらでって、本当にどうやったんだろう。
「雪を先に高く積み上げて、皆の魔法で細かく削ったんだ。中も……」
「中も勿論完璧だぞ!見てみろ!!」
……ライト、他人の言葉遮っちゃ駄目だよ。
「えっと……、せっかくですから見せて頂きましょうか。お兄様、ご案内お願い致します。」
「あっ、うん。じゃあこっちへ。」
ルビーが上手く話を振って、ライトにセリフを取られて唖然としてたクォーツが私達をお城の中に案内してくれる流れになった。
クォーツの先導に着いていく私達の後を、談笑しているライトとフライ皇子も着いてくる。仲直りは出来たみたいね、良かったよかった。
さて、それで城内なんだけど……。
「わぁ……!」
「素敵ですね!」
「本当、とてもご立派ですわね。素敵ですわ。」
とっても豪勢だった。シャンデリアにテーブルにソファー、更には立派な暖炉まである。よく出来てるなぁ、煙突までちゃんとあるよ……。
「どうだ?驚いたろ!」
驚きながら城内を見回す私達を見ながら、ライトが腕を組んで自慢げにそう胸を張った。
そんな彼の姿に私達は顔を見合わせてから、肩をすくめつつ頷く。
「えぇ、お見逸れ致しました。」
「そうだろ!これで、俺達の勝ちだな!!」
「えっ?えぇ、そうね。」
あぁ、そう言えば勝負だったね……。
私がついライト達の勝ちを肯定する返事をしちゃったら、もうあれよあれよとライトがどんな所を特に凝って作ったか等を語り始めた。
うん、うん。凄いねと相槌は打ちながら聞くけど、流石に何分も続くとちょっとリアクションに困ってきた。
……て言うか他の皆はどこいった!?
「……っ!」
あぁ、いつの間にか二階に上がって皆で談笑してる!さては、私にライトを押し付けて逃げたわね……?
「おいっ、ちゃんと聞いてるのか!?」
「あ、うん!ちゃんと聞いてるって!」
「じゃあ、早速試すから見てろよ!」
ーー……はい?試す?何を??
呆気に取られる私を押し退け、ライトは雪と氷で出来た暖炉に近づいた。そして、何処から出したのか薪をせっせとそこに入れだした。
って、ちょっと、まさか……!
「ライト!ちょっと待っ……!!」
「アトミックフレイム!!!」
薪を入れた暖炉に手をかざしたライトの姿に、何をする気か気づいて止めようとしたけど遅かった。
私の制止が届く前に、ライトのその手から大きな炎が放たれ、そして……
「ーっ!?ちょっ、ふたりとも何してるの!?」
「まさか、火の魔力を使ったのですか!?」
「……ホンットに馬鹿なんだから。」
「皆さん、城が崩れます!すぐに出ましょう!!」
上から順番に、クォーツ、ルビー、フライ皇子、レインの言葉。そして、二階に居た四人は外に積もる雪の上に向かって飛び降りた。
ちなみに、暖炉の前に居た私とライトは……
「うわっ!?」
「~っ!つっ、冷たぁ……!」
まぁ、当然逃げられる訳もなく、ライトが暖炉に灯した炎で溶けた水を諸に被ってしまった。
「……何故急に崩れたんだ。」
「何故って、あんたねぇ……!」
ずぶ濡れのまま心底不思議そうに隣で首を傾げるライトに、思わず肩を掴んで揺さぶりたくなるのを必死で堪える。
でも、せめて言葉では言わせて貰うわよ!
「あのね、氷で出来た建物の中で火の魔力なんか使ったら溶けちゃうに決まってるでしょ!?……くしゅんっ!もうっ、馬鹿なんだから!」
「なっ、馬鹿だと!?それを言うなら、お前だって同罪だろうが!俺はちゃんと『暖炉が空なのは虚しいから火付けるか?』って聞いたろ!」
「ーっ!」
あー、あの私が他の皆に気をとられてたときか……!あれ?でも確か、あの時は……
「でっでも、その点に関しては私は同意はしてないもん!」
そうだ、確か『ちゃんと聞いてるか?』って聞かれて『聞いてるよ』とは答えたけど、それ以外は何も言ってない。
私がそう言い返せば、部が悪くなったライトは一瞬たじろいでから私を睨みつけた。
ふん、もう睨まれるのも慣れちゃったし、そんなに怖くないんだから!
辺り一面の雪景色の中、ずぶ濡れのまま口論する私達を遠巻きに見ながら、他の皆は温かい飲み物を飲んでこちらを傍観してたらしい。
「……見てたんなら止めろよ!」
「いや、なんか面白くてさ。」
……ライトに向けてるその黒い笑顔が眩しいです、フライ様。
そして皆、その温かい飲み物を私たちにも下さい。とっても寒いです。
~Ep.37 子供は風の子、元気な子![後編]~
『心なしか濡れた髪が凍ってきてる気がする……。』




