Ep.36 子供は風の子元気な子![前編]
『あの子、ホントにあの攻略キャラのライトなの……?』
さて、春、夏、秋と過ぎてイノセント学園にも冬がやって参りました。
え、毎年来てるだろって?そんなことは気にしない。今年の冬は一度きりです。それに、今朝はよりテンションが上がる事がありまして……。
「ブラン、寝てないで見てみなよ!雪で学園中真っ白だよ!!」
「うぅーん、僕は眠いんだよぉ~……。」
せっかくの雪景色を見せようと窓を開きながらブランに声をかけたら、ブランはこたつ代わりに布団の中で丸まってしまった。なんて素っ気ない!
「ブラン、起きてってば!そんな布団で丸まってばっかて、そんなんじゃ猫になっちゃうぞ!!」
「元から猫だよ!」
あぁ、そうでした。もうこっちで暮らすようになって十年とかになるから、ついついブランが普通の猫だったってことも忘れちゃうんだよね。……このまま、元の“私”のことどんどん忘れていっちゃったらどうしよう。
「……そうだ!」
「わっ!なっ、何事!?」
驚くブランはスルーして、私は鍵つきの引き出しからゲーム時代の皆の情報を書き出したノートを取り出し、“日下部花音”と背表紙に書いた。
「これでよし、と。さてと、着替えて外に行ってみようかな!」
「なにしてんのさ……?」
メモみたいなものだし、気にしないで。それより、今は雪だ。初等科の庭に行ったらもっと積もってるかな?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今日は土曜日でお休みなので、真っ白いボアコートとコートとおそろいのポンポン付きブーツに着替えてから外に遊びに出た。
「あっ、フローラーっ!おはよーっ!」
「クォーツ!おはよう。お休みなのに早起きだね。」
中庭に着くなり、コートとニット帽とマフラーでモッコモコになっているクォーツに会った。
歩み寄りながら私がそう言うと、『あはは……。』と乾いた笑いが返ってくる。
「……?」
明確に答えないまま苦笑いのクォーツが視線を少し離れた場所に向けたので、私も釣られるようにそちらを見る。
「ほらっ、お前たちの力はこんなものか!?もっと全力でかかってこい!!!」
「「「はいっ、ライト様!」」」
……そこは、戦場でございました。
「成る程、さてはライトに叩き起こされたのね……?」
「流石フローラ、察しがいいね。」
下級生数人相手に雪玉を投げまくるライトを眺めつつそう予想したら、隣でクォーツがガックリと肩を落とした。御愁傷様です。
「まぁでも、僕も雪遊びはしたかったから……あいたっ!」
「きゃっ!なっ、何!?」
二人で話を続けていたら、不意にクォーツの頭(と言うか顔面?)と私の肩に、不意にぶつかってきた冷たい“何か”。
びっくりして顔を上げれば、何だか自慢気な顔をしたライトが私達の方を向いていた。
片手には雪玉を持ち、野球のボールのように軽く手の上で弄んでいる。
「ーー……ライト、朝っぱらからごあいさつ……きゃっ!」
得意げなその顔が鼻について、一言言ってやろうと積もった雪を踏み締めながらライトに近づく……。と、今度は背後から私の背中に雪玉が命中した。
勢いよく振り向くと、そこには……。
「え、えーと……、投げちゃった♪」
クォーツよ、貴方もか!!!
さっきまで呆れながら見てたのに、結局参加するんかい!ってかライト、貴方さっきまで下級生と楽しそうに(楽しそうなのはライトだけだったけど)雪合戦してたじゃん!!あの子たちはどうした、逃げられたのか!?
「ちょうど四人だし、二対二でやろうぜ。」
いや、私は参加するとは言ってませんが!?
と言うか四人?四人って……、あぁ。フライ皇子も居たんだ。物静かだから気づかなかったよ。
「おはようございます、フライ様。」
「おはようございます。いい朝ですね、フローラ様?」
「えっ?えぇ、そうですね。」
……なんだろう、今日は笑顔が三割増しで黒いような。雪原効果かしら?
「よし、クォーツは俺と組め。じゃあ始めるぞ!」
「おーっ!」
……あぁ、これは逆らっても無駄なパターンだな。
仕方がない、とりあえず雪玉作りますかぁ。
「それにしても、フライ様も雪合戦に参加されるなんて意外……。ふっ、フライ様?」
さっきまで下級生達が使っていたであろう雪の壁に隠れて雪玉を作る。そんな中、普通に何気なく話しかけながら、向かいで雪玉を作っているフライ皇子を見たら……。
「あ、あの、フライ様わかってます?これ、“雪”合戦ですからね、“石”合戦じゃないですからね!?」
だから、雪玉にそんな大きな石入れたら駄目よ!!
「よいしょっと。」
「ちょっとフライ様、私の話聞いてます!?」
止める私をスルーして数個の石入り雪玉(しかもかなり大きめ)をこしらえたフライ皇子は、ライトとクォーツの猛攻が止んだ一瞬の隙をついて……。
「それっ!」
「あぁっ!!」
ピッチャーの投球フォームで、それをライトの顔に向かって投げつけた。
ぶつかった衝撃で雪から飛び出した石は、見事ターゲット(ライト)にクリーンヒットだ。
「あー、えっと……、ストライク!」
「いやデッドボールでしょ!ってかクォーツ、これ野球じゃないから!!」
ライト大丈夫かな。丁度眉間の辺りに石がめり込んでたけど……。
「らっ、ライト、大丈夫!?」
「大丈夫じゃねーよ……。痛いじゃねーかこの野郎!」
「あっ、ちょっと!いきなり動かない方が……、行っちゃった。」
差し伸べた私の手を痛いくらいに強く握って立ち上がったライトは、盤若の如く怒り狂ってフライ皇子の方に突撃していった。
ま、まぁ、走れるくらいなら大丈夫だよ……ね?
「フライは寝起き悪いからねー、今朝叩き起こされたの怒ってたんだよ、多分。」
……なるほど、石雪玉は憂さ晴らしだったわけか。やっぱりフライ皇子は怒らせちゃいけないタイプだな。
クォーツの説明に一人納得している私に、『ちなみに……』と彼から何気なく爆弾が落とされた。
「フローラのことも起こしに行こうとしてたみたいだよ。男子は女子寮侵入禁止なの思い出して断念したみたいだけど。」
「思いとどまってくれてよかった!!!」
薄々もしやとは思ってたけど、聞きたくなかったよそんな事実!
一国の王子様が痴漢や変態に疑われたりしたら洒落にならないからね!!?
「ーー……ライトってさ、何か残念な子なんだよね。出来は良いのに。」
天然ぼんやり君なはずのクォーツのその一言に、私はただ曖昧に笑うしかなかった……。
~Ep.36 子供は風の子元気な子![前編]~
『あの子、ホントにあの攻略キャラのライトなの……?』