Ep. 35 友達だから
『やっぱり素直に接したいよね。』
「それにしても、クォーツ様達は本当にいつもご一緒なのね。」
「そうですね。学園に入学される前はよくアースランドに来てくださいまして、兄と一緒に学習したり遊ばれたりしていらっしゃいました。」
へぇ、ホントに本物の幼なじみだね。なんて思いつつ、料理が冷める前にスプーンで口に運ぶ。
あー、シーフードドリア美味しい。海鮮がすごく大きくて豪勢だなぁ。
「フローラお姉様も、これからは遊びにいらして下さい。私とお兄様が、誠心誠意のおもてなしをさせて頂きますわ!」
『もちろんレイン様も!』と話すルビーの笑顔は、以前よりずっとあどけなくて年相応で可愛い。
何と言うか、肩の荷が下りたって感じだ。
ただ……
「ーー……。」
「フローラ様?」
「どうかされましたか?」
ちょっと気になる事があってじーっと見ていたら、二人に怪訝そうな顔をされてしまった。
「あ、いいえ。ただ……」
「「ただ?」」
「ちょっと……、堅苦しくありません?」
私の言葉に、レインは『あぁ……』と言う顔をし、ルビーは目をパチパチさせた。
「せっかく仲良くなったのですもの。もう少し気楽に接しません?」
『校則にも、生徒は平等とあることですし。』と笑えば、ルビーの顔がポカーンとなった。
「私は、ルビーともっと親しくなりたいわ。ね?」
「え、えぇと……。」
ルビーは私の顔を見てから、助けを求めるようにレインを見た。そんなルビーの視線を受けるレインは、苦笑しながら私の顔を見る。
そんなレインに頷いて見せると、彼女が小さく吹き出した。
「ふふっ……、ふふふふっ。」
「えっ!?」
「全くもう、始めに事態をややこしくしたのは貴方の外面よフローラ。」
急に空気が砕けたレインに、ルビーの目が『えっ、まだ丸くなるの!?』と言うくらいに見開かれた。鳩が豆鉄砲を喰らった顔って奴ですな。
「だって、あまりおおっぴらに素を見せるとお父様方に怒られちゃうんだもの。」
「それはそうだろうね。王様や王妃様が素のフローラを見たらきっと卒倒しちゃうよ。」
「あら、言うわねレイン。一年生の頃の、呼び捨てにすら躊躇ってアタフタしてた貴方が嘘みたいだわ。」
辺りに私とレインの笑い声が響くなか、ルビーは未だにフリーズしていた。
「ーー……ルビー、ルービー!大丈夫?」
「ハッ!はい、何とか……。」
軽く片手をトントンと叩くと、ようやく再稼働が始まった。
フリーズ状態から解凍されたルビーは、気を落ち着かせる為か少々冷めた紅茶を一気に飲み干して……あ、咳き込んだ。気管に入ったのかな。
「大丈夫?」
背中を擦りつつ顔を覗き込むと、数回咳き込んだ後ルビーがようやく口を開いた。
「あ、あの、フローラお姉様、レイン様。お二人は、普段はこのようなお話の仕方をしておられるのですか?」
「えぇ、その通りよ。」
「嘘言わないの。フローラは今はいつもより大分おしとやかだもの。」
「あら、そんなことない……はずよ。」
反射的に言い返しつつも言葉につまった私に、またレインがクスクスと笑いだした。何よ、レインだっていつもより控えめじゃん。言ってる内容はなかなかキツめだけど!
「ふふっ……。」
「ーっ!」
「もー、レインのせいでルビーに笑われちゃったじゃないの。」
私がそう言いつつルビを見れば、レインは『自業自得でしょ?』と返してくる。
そんな軽口を交わしてから、三人でひとしきり笑った。
「はぁ……、笑いすぎて頬が痛いです。」
「驚かせちゃってごめんなさいね。でも、黙ったままで居るのも良くないかなぁと思ったの。」
「謝らないで下さい、多少驚いただけですから。」
「そう……。大丈夫なら良いのだけれど。」
正直、内心『また嫌われちゃったらどうしよう』とびくびくだったから、ルビーの笑顔を見られてほっとした。
「フローラお姉様は、色々な面をお持ちなのですね。」
「あら、結構底は浅いわよ?」
「……レイン、私何か怒らせるようなことしたっけ?」
何でそんな毒舌なの!?底が浅い人間なのは否定しないけど!!
「フローラ、拗ねないの。ちょっとからかっただけじゃない。」
それはわかってるけど、貴方のその笑顔が気になるわ。なんだかフライ皇子と重なって見えるのは気のせいかしら?
「まあまあ、お二人とも。そろそろ午後の講義が始まってしまいますわ。」
苦笑いのルビーの言葉で、私もレインも一旦止めていた箸を進めだした。いや、私が食べてるのはドリアだから箸じゃなくてスプーンだけどね。
結局、そのあとはランチ休みの時間ギリギリに食事を終えたから他のおしゃべりは出来なかったけど、かわりに明日からも一緒に食べる約束をした。明日からはもっと色んな何気ないことを話せると良いな。
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「ふーん、それは良かったねぇ。」
「もーっ、ブランったら、ちゃんと聞いてよ。」
せっかく向かい合って話してるのに、ブランはさっきから空返事だ。そんなブランの額を軽く小突くと、やれやれと言った感じでため息をつかれる。
「はいはい。でもさ、ルビー王女ってお姫様モードのフローラに憧れてたっぽいじゃない。それなのに……」
「『何でわざわざバラしたの?』って?」
「うん。」
言葉を濁すブランに微笑んで、ココアの入ったカップに口をつける。その優しい甘さにほっと一息ついてから、『そうねぇ……』と口を開いた。
「嘘をつきたくなかったの。純粋に慕ってくれるルビーには、特にね。」
それに、どのみちクォーツにバレてる時点でいずれルビーや他の王子たちにもバレちゃうだろうしね。
「……全く、君ってホントに“昔から”生真面目だよねぇ。」
「あら、ありがとう。」
「言っとくけど誉めた訳じゃないからね!?」
「ふふっ、わかってるわ。さぁ、もう寝ましょうか。」
そう言うと、ブランはちょっと頬を膨らましながらもベッドに入った。それを確かめてから、私もナイトランプを消す。
それにしても、温厚なアースランド兄妹はいいけど、ライトやスプリング兄弟にバレたらどうなるかだけ怖いな……。
~Ep.35 友達だから~
『やっぱり素直に接したいよね。』




